放課後の北高旧館、薄暗い廊下の突き当たりにある文芸部室。
扉が乱暴に開き、強い足音とともに少女が踏み込んでくる。
ハルヒ「来たわよ転校生」
教室の空気が一段階跳ね上がる。
このタイミング、この言葉、この表情。
三度目の世界であっても、涼宮ハルヒという存在が持つ重力は変わらない。
キョン(イズモ)「こんなに都合よく揃うことあるか?」
ハルヒは満足そうに頷いた。
ハルヒ「そうなのよ。最近やけに運がいいの」
運がいいのではない。
世界が、彼女に合わせて歪んでいるだけだ。
キョン(イズモ)「さあな」
ほどなくして、部室の扉が控えめに開く。
久しぶりに見るその姿に、胸の奥がわずかに緩む。
キョン(イズモ)「よく来たね」
ミクル「……気になるんです」
キョン(イズモ)「何が?」
ミクルは言葉を探すように視線を泳がせ、小さく首を振った。
ミクル「なんでもないです」
キョン(イズモ)「というか、敬語じゃなくてもいいよ」
ミクル「……はい」
空気を変えるように、俺は机の上のオセロ盤を指した。
キョン(イズモ)「長門、オセロやる?」
ユキ「うん」
白と黒が静かに裏返る音だけが部室に落ちる。
その静寂を破るように、数分後、再び扉が開いた。
ハルヒ「お待たせ。今日、九組に転校生が来たの」
その背後から現れたのは、柔らかな笑みを浮かべた男子生徒だった。
イツキ「小泉イツキです。よろしくお願いします」
ハルヒは腕を組み、誇らしげに部室を見渡す。
ハルヒ「ここがSOS団」
ハルヒ「ここにいるのが団員一、二、三。ちなみにあなたが四番目」
イツキ「入るのは構いませんが、ここは何をする部活なんですか?」
ハルヒは一拍置き、満面の笑みで宣言した。
ハルヒ「宇宙人、未来人、超能力者、異世界人を探して、一緒に遊ぶのよ」
キョン(イズモ)「ほう」
イツキ「なるほど。さすが涼宮さんですね」
この反応。
確信に近い。
キョン(イズモ)「まあ、よろしく」
イツキ「小泉です。至らぬ点もありますが、ご教示願います」
ハルヒは指を折りながら紹介する。
ハルヒ「こっちの可愛いのがミクル。こっちがキョン。あっちの眼鏡がユキ」
ハルヒ「これで五人。クラブとしての体裁は整ったわね」
ハルヒ「いえーい! SOS団、本格始動よ!」
もうとっくにベールは剥がれている気がした。
翌日の放課後。
部室の前で足を止める。
カエデウェアラブルモード「入室を待ってください」
しばらくして。
カエデウェアラブルモード「どうぞ」
扉を開けると、そこにはメイド服姿のミクルが立っていた。
キョン(イズモ)「……なんだその格好」
ハルヒ「萌えといえばメイドでしょ」
キョン(イズモ)「ミクルは着せ替え人形じゃない」
ハルヒ「いいじゃない。記念に写真撮りましょ」
キョン(イズモ)「何の記念だよ」
睨まれる。
圧が強い。
キョン(イズモ)「……わかった。撮るだけだぞ」
そこへ小泉が現れた。
イツキ「これは……」
ハルヒ「ミクルちゃん――」
キョン(イズモ)「やめろ。本気でアウトだ」
キョン(イズモ)「これ以上は法的に危険だ」
ハルヒは不満そうに鼻を鳴らした。
ハルヒ「まあいいわ。写真も撮れたし」
ハルヒ「では、これよりSOS団ミーティングを開始します」
今までのは何だったんだ。
ハルヒ「知名度は上々。でも、不思議な相談はゼロ」
ハルヒ「待つより探すわ。この世の不思議を」
翌日、休日。
市内観光と称した探索が始まった。
集合場所に一番乗りする。
ほどなく全員が揃った。
班分けは二組。
俺とミクル。
ハルヒ、小泉、ユキ。
ハルヒ「デートじゃないからね」
キョン(イズモ)「西側か」
公園を歩く。
ミクルは落ち着かない様子だった。
ミクル「男の人と、こんなふうに歩くの初めてなんです」
キョン(イズモ)「そうなんですね」
ミクル「……話したいことがあります」
ミクル「私は、この時代の人間じゃありません」
キョン(イズモ)「うん。知ってた」
ミクル「どうして……」
キョン(イズモ)「時間平面とか言ってたし」
俺も打ち明ける。
キョン(イズモ)「俺はキョンじゃない。イズモだ。この世界の人間でもない」
創造能力、転生、AIの存在。
すべて話した。
カエデ「よろしくお願いします」
ミクルは静かに頷いた。
ミクル「私は、涼宮さんとあなたの監視役です」
ミクル「あなたが、地球を守る存在だから」
キョン(イズモ)「信じるよ」
昼に合流。
成果はゼロ。
月曜日。
校庭で小泉と向き合う。
キョン(イズモ)「俺はキョンじゃない」
一通り説明する。
イツキ「超能力者です」
キョン(イズモ)「了解。虚数空間では頼む」
部室へ戻る。
カエデウェアラブルモード「入室待機」
しばらくして許可。
ハルヒは現れなかった。
静かな部室に、嵐の予感だけが残っていた。