朝の教室はまだ熱を持っていなかったが、どこか空気が重かった。
窓際の席で、朝倉涼子が不安そうに視線を泳がせている。
朝倉「ねえ、なんか涼宮さん、体調悪そうなの」
その一言で、胸の奥に警鐘が鳴る。
この世界でそれは偶然では済まない。
キョン(イズモ)「……そうか」
朝倉は小さく微笑みながら、しかしその目は妙に真剣だった。
朝倉「お願いね」
何を、とは言わない。
だが意味はわかる。
キョン(イズモ)「う、うん」
その後、ハルヒは机に突っ伏し、珍しく覇気がなかった。
キョン(イズモ)「大丈夫か?」
ハルヒ「暑い、疲れた。衣替えいつからなのよ。早く夏服にならないかしら」
ハルヒ「なんかさ、パーっと事件でも起きないかな」
その言葉が、冗談に聞こえない。
キョン(イズモ)「起きたら起きたで大惨事だぞ」
放課後。
机の中に差し込まれた白い封筒。
人気のない教室に来いという短い文。
キョン(イズモ)「……ついに来たか」
覚悟を決め、指定された教室へ向かう。
部室ではハルヒが珍しく早々に帰ると言い出した。
ハルヒ「今日は帰る」
キョン(イズモ)「オセロ、する?」
ミクル「はい」
だが長くは続かない。
小泉が顔を出し、意味ありげに微笑む。
イツキ「今日はバイトなので。早退します」
虚数空間だな、と察する。
ミクル「私、着替えるので先に帰っててください」
廊下に出た瞬間、世界の輪郭が歪んだ。
キョン(イズモ)「カエデ、戦闘モード起動」
カエデ「ついに来ましたね」
教室の扉を開けると、そこにいたのは朝倉だった。
笑顔は変わらない。
だが空気が、完全に違う。
朝倉「入ったら聞きたいことがあるの。涼宮さんのこと」
キョン(イズモ)「……何を思ってるか?」
朝倉「そう。人間ってね、やらなくて後悔するより、やって後悔する方がいいって言うよね」
朝倉「現状維持でじり貧の時、最善がわからないなら、あなたはどうする?」
キョン(イズモ)「自分なりの最善を考えて、行動する」
朝倉は静かに頷き、ナイフを取り出した。
朝倉「じゃあ私は、あなたを殺して、涼宮ハルヒの反応を見る」
刃が振るわれる。
だが俺の周囲に展開したATフィールドがそれを弾いた。
キョン(イズモ)「俺を殺せると思うか?」
キョン(イズモ)「カエデ、いいぞ」
銃火器が唸りを上げる。
だがすべて、不可視の壁に阻まれる。
朝倉「無駄よ。この空間は私の情報制御下」
キョン(イズモ)「なら、楽しませてもらう」
ロケットランチャー、レールガン、パルスキャノン。
ありとあらゆる手段が否定される。
キョン(イズモ)「AAT弾は?」
撃ち込むが、結果は同じ。
朝倉が机を蹴り飛ばし、間合いを詰める。
俺は拘束され、身体が動かない。
朝倉「最初からこうすればよかった」
キョン(イズモ)「……あとは任せた」
カエデ「はい」
その瞬間、空間が揺れた。
長門有希が現れる。
キョン(イズモ)「長門、体内通信できるか?」
ユキ「ええ」
キョン(イズモ)体内通信「俺が囮になる。バリアを壊してくれ」
ユキ体内通信「了解」
キョン(イズモ)「お前が死ねえええええ!」
AAT弾を乱射し、注意を引く。
その隙に、長門が高速詠唱を終える。
朝倉「……痛っ」
壁が砕けた。
キョン(イズモ)はデザートイーグルを構える。
キョン(イズモ)「チェックメイトだ」
引き金を引く。
次の瞬間、朝倉の姿は霧散した。
キョン(イズモ)「……やったか」
ユキ「ええ」
キョン(イズモ)「情報操作、頼む」
ユキ「了解」
翌日。
教師は淡々と告げた。
朝倉涼子は、急な家庭の事情で転校したと。
ハルヒ「ねえキョン、これは事件よ」
キョン(イズモ)「ただの転勤だろ」
ハルヒ「そんなわけないわ」
下駄箱に、また手紙。
差出人は、朝比奈ミクル。
部室で待っていると、時間が歪んだ。
未来ミクル「キョンくん……いいえ、イズモ。久しぶり」
キョン(イズモ)「俺がいて、時間は大丈夫か?」
未来ミクル「問題はあります。でもお願いがあるの」
未来ミクル「白雪姫作戦を実行して」
キョン(イズモ)「……わかった」
彼女は消え、すぐに長門が現れた。
キョン(イズモ)「昨日は助かった」
教室でハルヒが興奮気味に話す。
ハルヒ「朝倉の転校、今朝まで誰も知らなかったの」
ハルヒ「引っ越し先はカナダ。でも連絡先は不明」
ハルヒ「絶対に何かあるわ」
キョン(イズモ)「宇宙人にでも攫われたって言うか?」
ハルヒ「可能性はゼロじゃないわね」
ハルヒ「だから行くわ。引っ越し前の住所」
嵐は、まだ終わっていなかった。