放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
窓から差し込む夕方の光が、廊下の床を鈍く照らしている。
教室で体操服のまま腕を組んでいるハルヒを見て、俺は思わず口を開いた。
キョン(イズモ)「何で着替えないの?」
ハルヒ「このあと掃除があるでしょ。この方が動きやすいのよ」
そう言い切る表情には迷いがなく、彼女がどんな状況でも自分の合理を優先する人間だと改めて思い知らされる。
ハルヒは窓の外を見て、退屈そうに小さく息を吐いた。
ハルヒ「退屈」
その一言に、この世界の危うさが凝縮されている気がした。
刺激を求める彼女の感情が、どれほど現実を歪めてきたかを、俺は知っている。
部室に戻ると、いつも通りの机と椅子、埃の匂いが迎えてきた。
普通だ。
あまりにも普通で、平和だ。
俺は椅子に腰を下ろし、天井を見上げる。
この日常が続くなら、それでいい。
暇でも、退屈でも、戦闘がないならそれでいい。
そのまま家に帰り、夕食を済ませ、ベッドに倒れ込む。
意識が沈む直前、どこか胸の奥がざわついていた。
ハルヒの声「キョン、キョン、起きなさいよ」
次に目を開けた瞬間、世界は変わっていた。
空は歪み、地平線は存在せず、無音の圧力が全身を包み込む。
キョン(イズモ)「ヤバいな」
ハルヒ「どこだかわかる?」
キョン(イズモ)「虚数空間だ」
ハルヒ「虚数空間?」
キョン(イズモ)「現実と切り離された閉鎖世界だ。説明してる場合じゃない」
視界の端で、空間が脈打つように揺れている。
この先に何が出てくるか、嫌というほどわかっていた。
キョン(イズモ)「ハルヒ、学校に戻れ。これから神人が出る。生徒を避難させろ」
ハルヒ「あんたはどうするのよ」
答える代わりに、俺は意識を切り替えた。
戦闘モード起動。
空中戦用の推進制御が展開され、背中に金属質の感覚が広がる。
キョン(イズモ)「俺が止める」
まだ敵影はない。
俺はハルヒの腕を掴み、部室へ向かった。
部室に着くと、ハルヒはすぐに動き出した。
ハルヒ「学校内、探検してくる」
止める間もなく、彼女は扉の向こうへ消えた。
直後、空間が赤く滲み、人の形を取る。
イツキ「やあ」
キョン(イズモ)「あんたなら脱出方法を知ってるだろ」
イツキ「異常事態です。私たちの能力が急速に失われています」
赤い輪郭が揺らぎ、存在が薄くなっていくのがわかる。
イツキ「このままでは新しい世界が生成される」
キョン(イズモ)「やはり白雪姫作戦か」
イツキ「それしかありません。この虚数空間は特殊過ぎる。涼宮さん本人が戻ると決意しない限り、干渉は不可能です」
彼は苦笑した。
イツキ「そろそろ限界です。もし失敗したら、その世界で作られた私をよろしく」
キョン(イズモ)「成功させる」
その瞬間、空が裂け、巨大な影が降りてきた。
キョン(イズモ)「来たか」
透明な神人。
剣を振るい、何度も斬り裂くが、再生は止まらない。
ハルヒ「なんか出た。蜃気楼じゃないわよね」
キョン(イズモ)「神人だ。ハルヒ、こっち来い」
ハルヒ「あれ、襲ってくると思う?」
キョン(イズモ)「もう敵として認識されてる」
キョン(イズモ)「カエデ、援護を」
カエデ「了解しました」
ハルヒ「誰よその子」
カエデ「キョン(イズモ)様に仕えるアンドロイド、カエデです」
ハルヒ「へえ」
神人が迫る。
空間が悲鳴を上げる。
ハルヒ「この世界も、あの巨人も、何なのよ」
キョン(イズモ)「戻る方法は一つだ。お前が戻りたいと願うこと。そうしなければ、ここが永遠になる」
キョン(イズモ)「俺は戻りたい。この世界は、いろんな世界を見てきた中で一番平和で楽しかった」
キョン(イズモ)「神人と戦う世界なんて御免だ」
ハルヒは唇を噛み、揺れていた。
カエデ「持ちません」
キョン(イズモ)「時間がない」
俺は最後の手段を選んだ。
キョン(イズモ)「俺はポニーテール萌えだ。似合ってたぞ」
ハルヒ「バカじゃないの」
その瞬間、彼女の感情が爆発した。
俺は彼女を引き寄せ、口づける。
世界が歪み、崩れ、光に包まれた。
気づくと、自分の部屋だった。
キョン(イズモ)「戻ったか」
翌朝。
校門前に立つハルヒは、ポニーテールだった。
キョン(イズモ)「似合ってるぞ」