部室のドアが勢いよく開き、ハルヒが腕を組んだまま宣言した。
その表情は、すでに結果まで見えている人間の顔だった。
ハルヒ「草野球大会に出るわよ」
キョン(イズモ)「……何で?」
ハルヒ「人数が足りないからよ。あと四人必要ね」
即答だった。
理由は常に後付けで、やると決めたことが先にある。
それが涼宮ハルヒだ。
キョン(イズモ)「一人なら確保できるけどな」
脳裏に浮かんだのは、外見も運動性能も人間を超えた存在だった。
だがそれを口に出すつもりはない。
キョン(イズモ)「で、いつまでだ」
ハルヒ「今週の日曜」
キョン(イズモ)「……うん」
時間がない。
可視光迷彩付きのパワードスーツを準備する余裕はほぼゼロだ。
ハルヒ「チーム名はそのままSOS団で登録しておいたわ」
キョン(イズモ)「残り三人か」
ミクル「私のお友達なら……」
キョン(イズモ)「OK」
未来人なら調整は効く。
少なくとも一般人よりは。
キョン(イズモ)「あと二人」
イツキ「私の知り合いではどうでしょう」
キョン(イズモ)「OK」
超能力者なら、なおさら都合がいい。
キョン(イズモ)「残り一人は俺が何とかする」
ハルヒ「決まりね。じゃあ特訓よ」
キョン(イズモ)「グラウンドか?」
キョン(イズモ)「近くのドーム、今空いてるみたいだけど」
ハルヒ「いいじゃない。貸し切りでいきましょ」
その行動力だけは、何度見ても感心する。
ドームに入ると、ハルヒはバットを肩に担いだ。
ハルヒ「最初は千本ノック」
準備する暇はない。
俺は素で対応するしかなかった。
飛んでくるボールを、すべて紙一重でかわす。
キョン(イズモ)「野球苦手すぎだろ、これ」
ハルヒ「ドッジボールじゃないのよ」
次に指名されたミクルは、見るからに不安そうだった。
ハルヒ「次、ミクルちゃん」
ボールが放たれた瞬間、不可視の壁が弾いた。
ATフィールドだ。
露骨すぎる。
キョン(イズモ)「タイム」
キョン(イズモ)「今日はここまでにしよう」
ミクル「はい……」
キョン(イズモ)「次はイツキに交代」
ハルヒ「わかったわ」
イツキは自然体のまま、すべてを捕球した。
人間離れしているが、まだ誤魔化せる範囲だ。
ハルヒ「まあ、こんなもんね」
次はユキだった。
彼女は来るボールをすべて回避し、当たる軌道だけを正確に捕る。
キョン(イズモ)「反射神経、良すぎないか」
ハルヒ「今日はここまで」
試合当日。
俺はパワードスーツをオフにしたまま、グラウンドに立った。
キョン(イズモ)「中学の同級生だ。最上カエデ」
カエデ「よろしくお願いします」
キョン(イズモ)「こっちは茨波アヤネ」
アヤネ「よろしくお願いします」
ミクル「こちらは鶴谷さんです」
鶴谷「よろしくね」
イツキ「知り合いのアイカさんです」
アイカ「よろしくお願いします」
打順と守備は阿弥陀くじだった。
結果は滅茶苦茶だ。
試合が始まると、ハルヒはいきなりホームランを放った。
会場がどよめく。
その後は三振の山だった。
速すぎる球。
完全に素人レベルを超えている。
守備に回ると、ハルヒはストレートだけで三振を奪っていく。
だが、すぐに相手も気づいた。
ファール。
そして連続ホームラン。
点差は開く。
そのとき、空気が歪んだ。
キョン(イズモ)「……来たな」
虚数空間の兆候だ。
ミクル「長門さん……」
キョン(イズモ)「ああ」
キョン(イズモ)「守備はATフィールド。攻撃は全力だ」
ユキが放った打球は、完璧なホームランだった。
続けて俺も打つ。
一気に流れが変わる。
全員がホームランを重ね、逆転する。
すぐにパワードスーツを解除し、わざと打たれる。
これ以上は不自然すぎる。
ゲームセット。
キョン(イズモ)「イツキに急用ができた。俺も限界だ」
ハルヒ「あんたがいいならいいわ」
ハルヒ「じゃあお昼ご飯ね」
翌日。
ハルヒはまた、退屈そうに腕を組んでいた。
ハルヒ「次はどっちがいい? サッカー? アメフト?」
キョン(イズモ)「間を取ってアルティメットでどうだ」
ハルヒの目が、楽しそうに光った。