千恋*万花〜約束   作:メアリィ

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第三輪 ただいま

──俺には幼馴染がいる。

 

 

 

 

名は常陸(ひたち)茉子(まこ)という。彼女の家柄は忍者の末裔(まつえい)で、常陸家屈指の才覚を発揮し、名を穂織に知らしめた少女である。

 

俺と同い年でありながら数多もの忍術を習得し、常陸家に恥じぬように朝武家の護衛として幼少期から任についていた。

 

かく言う俺も実は、穂織の忍者の末裔であったりもする。

萩原と言えば、この地で昔から有名な忍者で、常陸家と並んで朝武家を護衛してきた一族である。

しかし、物心着いた頃には自分には忍者としての才能がない、と気付き内心彼女へ後ろめたさを感じていた。

 

田心屋から歩いて十数分。

たどり着いた一軒家を前に昔を思い出す。よく彼女と一緒に朝武家を支えていこうだとか、かっこいい忍者になるんだとか。そんな事を2人で言いながらそれぞれの親の背中を見て、憧れていた。

 

そして、差が開いていると気づくまでに時間はそうかからなかった。同じ時期同じ場所で、同じ忍術を教えて貰ってから会得までの時間と、そこから効かせる応用技術の差を見せる彼女がそれらを物語っていた。

 

どこで間違えたんだろう。どこがいけなかったのだろう。

考えたところで、彼女との差は埋まらない。俺が1つの技を全体の4割できた時には、彼女は二手三手先に進んでいる。だから俺は別の方法で追いつこうとした。玄十郎から剣道を教わり、剣の道を歩んでいこうと。それで少しでも茉子に近づきたかった。剣の道は悪くなかった。少なくとも忍術と違い才能はあるらしく、努力次第できっと茉子と並べると信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

母さんと父さんが、そんな俺を疎むようになった。忍者として才能が無く、挙句の果てには逃げて剣の道を歩むようになった俺はもはや末裔として出来損ないだ、と。

 

 

親から見向きもされず、幼馴染に置いてかれる意味の無い人生。

 

 

いつもそうだった。

 

俺という人間を認めてくれない両親が厭わしかった。

 

 

俺を置いていく彼女が厭わしかった。

 

 

 

その隣で、呆然と眺めて何も出来ない自分が嫌いだった。俺は、どう頑張ってもあそこ(茉子の隣)には追いつかない。いや、追うことすら許されないんだと。

 

…そう気付かされた。

 

 

だから、俺は逃げた。

あの10年前の穂織の乱で。

 

 

 

 

 

彼女、常陸茉子は。

俺にとって

 

 

 

 

 

 

──よき理解者でもあると同時に、不倶戴天(ふぐたいてん)の憎悪を持たせた幼馴染(・・・)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────第三輪 おかえり ────

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

──俺の名前は萩原(はぎわら)佳正(よしまさ)

 

 

この春都会を捨て、穂織に引っ越してきた高校生2年生。

今人生2番目のピンチを迎えている。

 

 

手汗の多さがそれを教えてくれる。

 

 

「どうしよう」

 

 

目の前の木材と鉄骨で作られていそうな一軒家。どこにでもある普通の二階建て。屋根は赤色壁は白色。だけどそれなりに年月が経っているから多少汚れている。そして家の前のポストにはくっきりと『 ひ た ち 』というこの家の持ち主の苗字が刻まれ、どこにも引っ越したりしていないことを明らかにしていた。

 

 

安心4割緊張6割。

 

 

「助けて……」

 

 

ここで復習

穂織に戻ってきた理由は2つある。

1つ目は"叢雨丸"の所有者に戻り、ムラサメと共に穂織を"祟り神"の呪いから解き放つ。こちらがメインの目的ではあったが、穂織初日の数時間で呆気なく不達成となった。

では2つ目。こちらは幼馴染──詰まるところ、常陸茉子に再会し、10年前の約束(・・)を果たすこと。

 

とはいえこの2つの目的は繋がっているため、1つ目の目的が不達成となるとこちらも達成できるかどうか怪しい現状。

 

とりあえず、再会するために彼女の家を訪れたわけだが……

 

 

「帰りたい」

 

 

俺は今、非常に緊張している。

幼馴染とはいえ10年も音信不通だったのだから彼女の方が覚えてなかったり、他人行儀みたいなことされたらたまったもんじゃない。きっと俺らの関係は冷えきっていない、こんな簡単に終わらないと信じたい。

 

 

だけど、

 

「それでも不安なんだよなぁ。ちくしょ」

 

 

 

小さく愚痴る。

俺は逃げられない。もう散々逃げてきたんだから、これからは真っ当に生きようよ。そう自分に言い聞かせ、常陸家のインターホンを鳴らそうと──

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

ふと、家の中からドタドタと忙しない足音が聞こえる。続いて聞こえるのはあの懐かしげな声。それがどんどん近づいてくる気がする。

 

そして、急に開かれる玄関の扉が俺の顔面に。

 

 

 

 

「ふぎゃっ!!!」

「えぇ!?な、なに?」

 

 

 

 

ゴインッと痛快な音は、俺と扉がちゅっちゅした効果音だった。

接触した勢いに飲まれて俺は尻もちをつく。

 

 

 

「大丈夫ですか?!」

 

 

 

ドアを開けた張本人が駆け寄ってきて手を差し伸べる。

おでこが若干ジンジンする程度でそんな慌てることでもない。とはいえ、ゆっくり開けなかった恨みも込めて、

 

 

 

「いってて……相変わらず慌ただしいな君は」

 

 

10年振りで、相手が覚えてるかすら怪しいけれど、俺なりの気遣い込で冗談交じりにぼやく。

 

「久しぶり、茉子でしょ?」

「え……?」

 

 

最初のリアクションは「誰こいつ」みたいなリアクション。

当然といえば当然のリアクションだから、あまり残念がらず立ち上がりながら尻についた汚れを払う。

 

「昔、一緒に山奥に川釣り行って帰れなくなってさ。"祟り神"に襲われかけたあの日が懐かしいよ」

「……はぇ?え?」

 

 

徐々に顔は驚きに満ち溢れ、指を俺に差し向けながらようやく口にする。

その表情を見ただけでも、ここに来た意味はあったと思う。

 

 

「……よし、まさ?」

「おう、佳正だ。ただいま、茉子」

「えぇぇぇぇっ!?なんで、ここに?!」

 

多分玄十郎から何も聞かされてなかったのだろう。

 

 

 

 

「茉子に謝りたくて戻ってきた」

「謝るってなにを?」

「10年前の事を」

 

 

それを聞いてようやく思い当たる節があるように「あー」と反応を見せる。

 

 

──10年振りの幼馴染を前に平静でいるように見えるが内心心臓バクバクである。

 

たかが10年されど10年。

昔は、言ってしまえば年相応の少女であったが、背が伸び体全体的に丸みを帯びていて女性の雰囲気をしっかり醸し出している。髪も昔と変わらずショートで揃えていて、黄色いヘアバンドが茉子のトレンドマークになっている。

胸も昔と天と地の差。今は……何カップだろうか。

 

 

「別にいいよ。あれは玄十郎さんが決めたことなんだから」

「そうだけど。ヘタレって思ったんじゃない?」

「あはー?もしかして、ワタシに情けない男って思われるの嫌だった?」

「むっぐぅ。相変わらず痛いところ突くなよ」

 

 

この笑みも昔から何も変わってなくて、おかげで緊張が和らいだ。

 

「あーっ!ちょっと時間!!」

「なんか、急ぎの用事?」

「そう!今から買い出し行って芳乃(よしの)様と安晴さんの夕飯準備しないと!」

 

 

懐かしい名を聞いて少しばかり胸がぎゅっとしまる。

芳乃と聞けば、かの朝武家の長女しか思い浮かばない。昔と変わらず、茉子は芳乃にぴったりついてお世話しているようだ。

 

 

「じゃあ、落ち着いたらゆっくり話そうか」

「え?一緒に行かないの?」

 

忙しそうだし、こっちに引っ越してきた以上いつでも話はできる。

そう思い邪魔にならないように退散しようとした矢先に、茉子はさも当然のようにそう投げかける。

 

「行ってもいいけど、邪魔にならん?俺何も出来──」

 

言いかけて、やめる。

虚しさが途端に胸いっぱいに広がる。

 

「久しぶりに芳乃様に挨拶したら?芳乃様も心配してたよ?」

 

何を言おうとしたのか察した茉子は、ちょっぴり呆れ顔で、だけど何故か嬉しそうに(・・・・・)誘う。

 

「なんでそんな嬉しそうなの?」

「んー?さぁて、なんででしょうね」

 

それでもやっぱり嬉しそうに微笑む。

昔から彼女の笑う顔が好きで、それが何も変わってなくて俺自身も嬉しくなる。大人びても、茉子は茉子だ。それだけでここに来た価値はあったのかもしれない。

 

「まぁいいや。飯くらいなら作れるぞ」

「え?じゃあ手伝ってもらおっかなー」

 

茉子の浮かれた足取りに、俺もついて行く。

今にもスキップし出しそうな軽やかさは、俺が来たことへの歓喜の表れなのだろうか?それとも?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

「……おい」

「なにか?」

 

 

 

 

買い物を終え、健実神社に戻る途中。

俺の前を軽やかにスキップしながら歩く茉子に恨みの言葉をなげかける。

 

 

「俺さ、まだ暮らす家の整理とか終わってないの。てか、まだ向かってすらいないのよ」

「それがどうかしたー?」

「これから引越し時並に筋肉使うわけ!!」

 

 

俺がここに来るにあたって手荷物で持参したものはショルダーバッグのみ。

それ以外は引越しの業者に全て頼んである。

これからどうせ荷物広げたり棚とか移動したりでくそ疲れる事するというのに、目の前のくノ一はというと。

 

 

 

「だから!!!こんな両手いっぱいの袋を俺だけに持たせるって!!なにこれ新手のいじめ!?」

「佳正は男性ですからねー、これくらいは持てると思いましてー」

「茉子は仮にも忍者だろうが!!もしかすると俺より筋肉あるんじゃ──」

 

 

 

 

瞬間、茉子の表情に闇が広がる。

 

 

 

「なにか言いました?」

 

 

 

パッと見、満面の笑み。

曇りひとつない完璧で可愛い可愛い茉子の笑顔がそこにある。だけど、オーラは黒そのものを漂わせ、これ以上口を開いたらクナイとか手裏剣とか、はたまた撒菱(まきびし)とか飛んできそうな気がするから怖い。

 

 

 

「あ、はい。いえ……なんでもござりません」

「あはー。ワタシか弱い女の子だから、がっしりした佳正がいてくれてほんと助かるわー」

「……はい、そうっすね」

 

 

 

昔から変わってないのは性格もだった。

まぁ、正直なところこのやり取りが久々だというのもあって、嫌じゃないと感じてるのもまた事実。決してマゾではないが、今だけはそう思う。

 

「芳乃様は、元気?」

「そりゃもちろん元気元気!まぁ、巫女姫を引き継いでからは毎日舞の練習や奉納したりして忙しそうにはしてるんだけど、体調崩したことは1度もないよ」

 

 

やはりか、と。

朝武家の女性は代々穂織の巫女姫として伝承してきて、芳乃の前の巫女姫──つまりは母上である秋穂(あきほ)が亡くなった時点で芳乃が巫女姫になる事は明確だった。

 

彼女は生真面目で責任感が強い事から、逃げずに間違いなく役目を全うするだろうも思ってはいたが。

 

 

「まぁ、宿命だからな」

「あ、今日の御夕飯は芳乃様希望でお魚だよ」

「ほーん」

 

 

 

いきなり夕飯の話を振られても俺には関係ないので適当に流す。

健実神社まであと数分といったところか。果たして俺の筋力体力保つだろうか?なんてことを考えてると、茉子がこちらに振り向いてきて───また意地悪な笑みをニタリと浮かべる。

 

 

 

 

瞬間、俺は察した。

 

 

 

 

 

 

「佳正も今日は一緒にご飯食べよ?」

「断る」

「よ・し・ま・さ・く・ん?」

「……」

 

 

 

目が全く笑ってくれず、視線ばかり逸らす。

昔から茉子の尻に敷かれていた感は否めないが、歳を重ね、茉子はより磨きをかけたようだ。

 

 

「……」

「なんでしょうか」

「ま、茉子は──」

 

 

 

──茉子は、気にしていないのだろうか。

 

 

そう言いかけて、また言い留まる。

聞きたいことが沢山ある。伝えなきゃいけないことが沢山ある。なのに聞いて、茉子の気持ちを知るのが怖すぎて何も出来ない。

 

 

「……」

「……」

 

 

何かを言いかけた俺を見て、なにか考え込むように眉をしかめ、あご下に手を当てる。

 

 

「あのさ」

「な、なんだよ」

「ワタシはね、もう気にしてない(・・・・・・・・)んだよ」

 

 

 

 

 

俺はその言葉を聞いた時、どんな顔をしていただろうか。

茉子は、そう簡単に受け入れることができるのだろうか。

気にしていない。それはつまり俺が10年前に逃げ出したことを許す、という意味になる。それはたとえ、俺の身の安全のことを考えて玄十郎が逃がしてくれたとはいえ、茉子同様残る選択肢もあったのだ。

 

 

「ワタシはね、怖いことがあるんだ」

「な、なんだよ急に。高いところに登ることだろ?」

「に゛ゃぁっ!?違うって!!いや違くないけどそうじゃないけど!!」

 

 

 

 

一瞬どこか地平線の彼方の、なんとかプロダクションってところのアイドルの叫び声が聞こえた気がしたけど多分知らないコンテンツだと思うし、気のせいだろう。

 

 

 

「ワタシが怖いのは、まぁ確かに高いところもそうなんだけど。そんなことじゃなくて。ワタシにとっていちばん怖いのは二度と佳正と話が出来なくなること(・・・・・・・・・・・・・・)なんだよ」

「二度と……」

 

 

 

それはつまり、死を意味している。

彼女は遠回しにそう言っている。

 

 

 

「生きていればね、離れ離れになったとしてもどこかできっと再会できるから。生きていれば佳正を思う事でとても幸せな気持ちになれるし、次会うことが楽しみになるし、学校でどんなふうに過ごしてるのかなーって考えることも出来る。ワタシは佳正のお姉ちゃんだからね、お姉ちゃんは見えないところでの弟の学生生活がひじょーに!心配だったのです 」

 

 

 

佳正の姉、という点については些か疑問はあるものの、きっとそれが俺に対しての気遣いなのだろう。

茉子は人の気持ちを理解して、支えることが出来る優しい女の子だ。一見誰にでもやろうと思えばできそうな事だけど、実はそう容易くない。

 

多分きっと、俺がどんな気持ちで茉子の前に立っているのか彼女自身察しているんだと思う。だからこそ、彼女のユーモア溢れる気遣いが嬉しい。

 

 

 

 

「だからね。こうして佳正が戻ってきたのは嬉しいよ」

「……逃げ出して、怒ってないのか?」

 

 

 

するとまた茉子はニタリと意地悪な笑みを浮かべて、

 

 

 

「そうだねぇ。こんなか弱い女の子を放ったらかしにして自分だけ逃げ出したこと腰抜けな佳正にはきつーいおしおきが必要かなーと」

「うっぐぅ。刺さる……事実だから否定できねぇしそれが尚更深く心に刺さる」

「だからね。とりあえずおしおきは後回しにして……はい」

 

 

 

 

そう言うと茉子は、手持ち無沙汰の両手を前に広げる。

それが何を意味しているのかわからない。荷物持つよーの意味だと勘違いした俺は、少し軽めの肉とか卵の入っているエコバッグを差し出す。

 

 

「違うそうじゃないよ」

「え?なにさ」

「だから……ん」

 

 

 

 

 

 

荷物を拒否した茉子はもう一度両手を広げて───まるで、抱きしめてあげるからここに来なさい、と言わんばかりの顔をしていた。

 

 

 

 

 

「……え?いや、マジ?」

「大真面目。昔沢山してあげたでしょ?」

「いやだからと言って、そんなこと」

「あはー。恥ずかしいの?」

「な゛ぁっ!?は、恥ずかしくねぇわ!いいだろう受けて立つわこんにゃろ!!」

 

 

受けて立つ、と言った割に女の子に抱きしめられると思うだけで悶え苦しみそうな予感。確かに幼少期はたくさん抱きしめられてもらっていたが、この歳になると流石に羞恥心で抵抗してしまうに決まってる。

 

なんて考えながら足は確かに前へ進み、気がつけば両手にバッグを持ちながら、茉子に抱きしめられていた。

 

 

 

 

「よしよし、今まで辛かったね。頑張った頑張った」

「辛くなんか、ねぇよ。俺は頑張ってない」

「ううん。沢山辛い思いしてきたんだよ。ワタシには佳正の気持ち、わかるよ」

「……」

 

 

 

 

俺の気持ちがわかるなんて、そんなわけない。

俺は茉子を憎んでるなんて、絶対わからない。

 

 

 

でも、それでもこうして抱きしめられる感覚は好きで、本当は茉子の事を恨んでないんじゃないかと思ってしまう。

 

「自分には忍者としての才能がないってわかってから、私を避けてるの気づいてるんだ。それでも私の事心配してくれて、ちゃんと約束を果たす為にこうして戻ってきてくれた。佳正は立派な男の子になった。嬉しいよ」

 

 

 

俺は茉子を抱きしめ返すことが出来ない。両手がふさがっているというのもあるけれど、今ここで茉子を抱きしめる権利は俺にはない。

茉子を抱きしめるその日はきっと───

 

 

 

「なぁ茉子」

「なにか?」

「俺さ、またやり直せるか?」

「まず決めるそしてやり通す。それが何かを成す時の唯一の方法だって、昔の偉人は言ってた」

「……?」

「佳正は、ここに戻ってきた。それはつまり決めた事があるんでしょ?」

「あぁ、もちろん」

「なら大丈夫。佳正はちゃんとできるよ」

 

 

 

 

ぎゅっと抱きしめてた両手を少し離し、俺の目を見据えてそう告げる。

佳正はできる、と確信を持ってそう言う彼女の力強さに後押しされた気がした。

 

 

 

──あぁ。俺はまだ、ここにいていいんだ

 

 

 

どこで落ち着かせたらいいのかわからない俺の感情。

 

何でもできて、優しくて、人の気持ちを理解できる自慢の幼馴染、常陸茉子。彼女に向ける感情は人として幼馴染としての愛情(・・)

 

忍者として才覚を発揮し、俺の先々を進み越えていく煩わしい幼馴染、常陸茉子。彼女に向ける感情は人として幼馴染としての憎悪(・・)

 

 

 

 

 

「なぁ茉子」

「なにか?」

 

 

 

 

きっと俺は、今度こそ正しい答えが見つけられるんじゃないかと思う。

俺には出来ないことだらけで、可能性の"叢雨丸"を所持できず手ぶらなままだけど。無力には無力なりの穂織と、茉子を守れる力がきっとあるんじゃないか。

根拠はないけど、そう思えた。

 

だから、

 

 

 

 

 

「ただいま、茉子」

 

 

 

 

俺は茉子に対して、憎悪の感情を持ちたくない。

何も後ろめたい気持ちも持たずに、彼女の隣を歩んでいきたい。

そう願って俺は、ここでの最初の1歩をようやく踏み込むことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり!佳正」

 

 

 

 

 

 

 

 

約束───2人で並んで、穂織の星空を見ること。

 

 

 

 

 

 

それを叶えるために、俺は、俺自身のやり方で戦っていきたい。

 

 

 

 

 

そう強く願って……

 

 

 

 




─別視点─




「……あいつら、こんな昼間っから何してんだ」

黒い甚平を羽織う茶髪の少年は、黒髪アホ毛少女と暗い緑髪の新住人が抱き合っている──正確には、女の子が一方的に抱きしめている光景を遠くから冷たい眼差しで眺めていた。

「なーんだ。結局は女気あるじゃねぇかよ。ちえー、俺の先を行きやがって」


とはいえ、茶髪の少年の方が女性経験豊富なのは言うまでもない。


「こりゃ学校で噂になるなぁ。俺が広めてやろう。あ、そこの綺麗なおねーさーん!!」




こうして平穏な一日が過ぎていく。

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