千恋*万花〜約束   作:メアリィ

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第四輪 羊羹を返して

健実神社に到着した御一行

 

 

 

 

「ごめんくださーい!」

 

 

第一声茉子の声に少々どきりと心臓が鳴る。

その声に反応して、奥からのそのそと現れたのは背丈の高い細めの男性。

健実神社の神主、朝武安晴(やすはる)とは彼のことだ。

 

 

「随分早かったね茉子ちゃん」

「いえいえ。芳乃様は?」

「芳乃は今舞の練習してるはずだよ 」

 

安晴は芳乃の実父で、今は亡き秋穂の夫である。元々秋穂とは幼馴染の関係だったらしく、長い年月をかけて交際に至り、よく昔は秋穂との惚気話を聞かされていたものだ。

 

「おや?君は……」

「ご無沙汰しております、安晴さん」

「お、おぉーっ!もしかして佳正くんかい!?いやー懐かしいねぇ!」

 

一件のほほんとしていてマイペースそうな見た目をしているが、陽気という言葉が良く似合う男性で、そこにアルコールが入るとさらに陽気になる。まさに陽気という言葉は彼のためにあるようなものだ。

 

嬉しそうな声のトーンをしているが、目が細いのでよくわからない。俺が誰だかわかった安晴は、その目の細さのまま握手を求めてきた。買った食材を片方茉子に渡し、その握手に応える。

 

「何年も顔を出さずにいてしまい、大変申し訳ございませんでした」

「いいんだよそんなことは。君が元気に過ごしていて何よりだよ」

 

 

玄十郎や茉子の時もそうだったが、どうして俺が元気に過ごしていることをそんなにも喜んでくれるのだろうか。それもやはり茉子が言ってた次に会うことが楽しみ云々とかに繋がるのだろうか?

 

 

「それではお2人にも積もる話があるかもしれませんし、ワタシは台所お借りしますね、安晴さん」

「どうぞ好きに使って。いつもすまないね」

「いいんですよ。ワタシも好きでやってますから」

 

茉子は、俺からもう片方の袋を受け取ると、慣れた所作で靴を揃えて家にあがる。

 

 

「あぁ待てよ茉子。手伝ってってさっき言っててだろ」

「いいよいいよ、手伝いはまたいつかで。今日は来たばかりなんだし、ゆっくりしたら?」

「だけど」

「まぁここでワタシの言うセリフじゃないんだけどね」

 

 

 

そう言う茉子に置いていかれた2人はしばし沈黙が続き、気まずくなった安晴が先に口を開く。

 

「とりあえず、中に上がって。お茶でも淹れようか」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 

安晴の勧めから、俺は靴を茉子の隣に置き、「お邪魔します」と一声かけて中に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────第四輪 羊羹を返して ────

 

 

 

 

 

居間でテーブルを挟んで男ふたりは黙りを決め込む。

なんだろう、この妙な緊張感は。安晴には陽気でいてもらいたいのだが、彼が無口だとこれまたしんどい。

テーブルの上には安晴が淹れてくれた緑茶が置いてあり、そこには俺の顔が映っている。どこにでもいるごく普通の容姿をしてると思う。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

キッチンからはリズミカルに何かを切る音と、火にかけられた鍋がグツグツと煮込まれている音が聞こえる。

他にも壁にかけられた鳩時計がチクタクと時を刻んでいるかと思えば、急に鳩が鳴き出す。今は17時30分のようだ。

 

穂織に到着したのが大体1時半を過ぎてたから、まぁそれなりに時間が経っているようだ。とはいえ2時間近くも気絶していたもんだから、正直時間が経っている感覚がまるでない。

 

 

 

 

 

「ど」

 

 

先に静寂を打ち破ったのは安晴。

 

「どうだい?向こうの暮らしは」

「まぁぼちぼちですかね。都会だったらまた違ったかもしれませんけど、ここ(穂織)と変わらないですかね」

「そうなんだ」

「温泉があるかないか、外国人がいるかいないくらいの差です」

 

 

 

他にもいろいろ違う点、というか面白い点はある。

例えば、小学生の時には学校の授業で田植えを習い、秋になると収穫して自分達で食すという一連の流れがあった。

 

例えば、地元で親しまれている製氷アイスの"もも〇郎アイス"というものがあるが、名前にももが使われているのに桃味ではなく、りんご果汁のイチゴ味という摩訶不思議なアイスがあった。彼らは何も疑問に思わず当たり前のように頬張っているのだから面白い。

 

天候も穂織と違い、冬の季節には雷雨が起こり、天候が荒れるという事態にもなる。日本海側だからだろうか。

 

 

などなど挙げればきりがない奇想天外な面を持った地域に俺は住んでいた。

 

 

 

 

「茉子にも聞いたんですけど、芳乃様はあれからどうですか?」

「芳乃?あぁ、今は元気に過ごしてるよ。お母さんが亡くなってすぐは塞ぎ込んで泣いてた時期もあったんだけどね。次第に落ち着きを取り戻してからは、毎日巫女として頑張ってると思う」

「なら、いいんですけど……こんなことを言うのも変なんですけど、向こうで過ごして間も気にしてて」

「その気持ちだけでも十分だよ。佳正くんも佳正くんで、辛かったからね」

 

 

 

 

 

少しぬるくなったお茶を啜る。

俺に続いて安晴も湯のみを手にする。

 

「さっき、玄十郎さんから聞いたんだけど……"叢雨丸"を抜けなかったんだって」

 

落ち着いた感情がドキリと大きく跳ねる。

 

「えぇ、抜けなかったです。」

「そうか……どういうことなんだろう」

「俺、ずっと気になってたんですけど、"叢雨丸"を扱える条件ってなんだったんですかね」

「んー」

 

 

そう質問する俺に対し、安晴は目を細めたまま、眉をひそめて考え込む。

 

 

「実はよくわかってないんだ」

「よくわかってない?どういうことですか?」

「"叢雨丸"を佳正くんの前に使った人物は歴史上ではただ1人。それは当の昔の人。"叢雨丸"が作られた時代の人なんだ」

「あーなるほど?」

 

 

その説明にイマイチピンと来てないので追加説明を求める。

 

「そのつまりは、前例が少ない上に条件の書物がないんだよ」

 

 

前例がない、書物がない。

俺の前の所有者は"叢雨丸"が作られた時代の人となると何百年も昔になる。なるほど、わからないわけだ。

 

 

「だから、穂織のイベントとして、観光客に"叢雨丸"を抜いてもらおうって話になったんだよ」

「あーだからなんですね。でも、その肝心の"叢雨丸"を抜く人物が現れないから、情報が集められない、と?」

「まぁそういうことになるね」

 

 

 

 

 

まだまだ謎多き"叢雨丸"。

俺と安晴は同時にため息をこぼす。多少なりともわかる事があれば、なんて期待は鎮座した。

 

 

 

「何を落ち込んでいるのですか?」

「茉子……。いや、人生なかなか上手くいかないなーって嘆いてた」

「ふーん?あ、そういえばお母さんからこれ貰ったんですよ。良ければみんなでーって」

 

 

台所から顔を出したエプロン姿の茉子は、細長い紙袋をテーブルの上に置く。丁寧に紙袋を剥がすと、中には『美味しい羊羹』と明記されている箱が現れた。

 

 

「羊羹?」

「そう、羊羹。もしかして初めて?」

「あぁうん。見たこと聞いたことはあるけど、食べたことは多分ないな」

 

 

 

 

羊羹は、名前はもちろん見た事はある。

高校時代の学祭のイベント打ち上げの時に、買い出し頼まれた際のメモに羊羹が何故かリストアップされていて、ショッピングモールで購入した。結局皆が食いあさって俺自身が食べることはなかったが。

 

 

「食べてみたら?」

「あぁ、じゃあお言葉に甘えて」

 

 

箱を開け、事前に等分された羊羹を1切れ口に運ぶ。しっとりもっちりした食感で餡子の甘さがしっかり引き出ていて、だけどその甘さが強すぎることなく控えめで食べやすい。

 

 

「……羊羹美味いな」

「でしょ?結構良いところのお店なんだって」

「ふーん」

 

 

気がつけば2切れ目に手を伸ばしていた。そんな姿を見た安晴も、「僕も一切れ」と言って手を伸ばす。

 

 

「あ、ほんとだ。これは美味しい」

 

 

安晴が感嘆の声を上げる中、俺は3つ目に手を伸ばす。

止まらない。止めることが出来ない。どうして今まで羊羹を食べようと思ってこなかったのか疑問に思うくらい手と口が進む。3つ目をもぐもぐと頬張り、空いた手で湯呑みを持つ。飲み込んですぐにお茶を啜る。

甘いお菓子とちょっと渋めの緑茶の相性が抜群で、思わず喉がなる。

 

 

 

「気に入ってくれた?」

「あぁ、めちゃくちゃ気に入った」

「なら出してよかった。じゃあ私も1切れ」

 

 

既に半分が無くなってるけれど、気にせず4切れ目。この後夕飯があるけれどそんなものは知らない。今このお菓子を食べないと後悔するような気がしてきた。

 

「てか、茉子のお母さんこれどこで買ったんだろうな。穂織に羊羹売ってる店あるの?」

「穂織にはたくさん甘味処あるから、見て回ればあるんじゃないかな。でも、見た事ない店の名前だったから多分穂織には無い店の羊羹だと思うよ」

「ふーん」

 

 

何気に安晴も気に入ったらしく、2切れ目に手を伸ばしている。俺は残された最後の1切れ手を伸ばす。やめられない止まらない、まるで某なんとかエビせんみたいなノリで手が進んでしまうから困る。後で通販で調べてみようと心に決めた。

 

「あー待って佳正。せめて1切れは芳乃様に──ってもう遅かった」

「え?」

 

 

何か茉子が言いかけた時には既に最後の1切れに齧り付いてた。

何故芳乃の名前がここで?なんて思いながら咀嚼は止めない。

 

もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ────と。

 

 

 

「……ごくっ。え?なに?芳乃様が、なんだって?」

「いやぁ、芳乃様甘い物大好きだから残しておかないとーって思ったんだけど」

「……」

 

 

せっかく体が羊羹の美味さで温まったというのに、急に背筋が寒くなってしまった。もっと早く行って欲しかったよ茉子……。

 

 

「ま、まぁ?芳乃には内緒にしておけば大丈夫だよ」

「でも今日持ってくるって芳乃様に言っちゃいましたよ?」

「……あー」

 

安晴は羊羹のあった紙トレイと俺を交互に見比べ、最後はしっかりと目を逸らした。

 

「僕は2切れしか食べてないからね?」

「いや逃げようとしないでくださいよちょっとどこ行くんです?ねぇ安晴さん逃げないでくださいっておいコラ」

 

静かに残りの茶を飲んで静かに音を立てずに立ち去る安晴。

全ての責任を俺に押し付けて安晴は消え去った。確かに八割を胃袋に収めた俺が責任を負うべきなんだろう。だけど芳乃の分を残すともっと早く言ってくれれば流石に止めたし、寧ろ2人は俺が頬張る姿を黙って見ていやがった。つまり2人にも責任はある。よってドロー。

 

「いや何がドローだよ」

「なに?」

「いやなんでもない。で、どうしよう」

「どうしようって言われてもね。間違いなくバレるよ?」

「助けて茉子姫様」

「頭が高いよ。というか巫女姫様みたいなノリで言わないで」

 

俺の渾身の震え声を無視してさっさと片付けてしまう茉子。

全くフォローする気なくて、俺達の絆はどこいったんだろうと悲しくなってきた。

 

 

「茉子助けてくれよ俺達の仲だろ?」

「ワタシ知りませーん」

「茉子はこんなに困ってる幼馴染を助けてくれる優しい女の子だって信じてる!」

「……」

 

 

しっかりキメ顔でそう告げる。ピクリと反応した茉子がゆっくりコチラを見る。どうやら心が揺れたようだ。そして茉子は──

 

 

「そんな羊羹を口の周りにつけてキメ顔で言われましてもねー」

「なぬっ!?俺とした事が!」

 

急に恥ずかしくなって口元を拭う。せっかく絶対心に響く(気がする)言葉を投げかけてやったというのにこうも決まらないとは。空振りした気分だ。

 

 

その時、玄関からガラガラと開く音が聞こえる。

安晴が戻ってきたのだろうか、なんて考えたけど襖の前に立つ人影が明らかに安晴のモノではなかった。大体160ちょいで女の子っぽいシルエットだ。

 

「あはー。がんばって佳正」

「お、おい──」

 

 

 

そして開かれる襖。

 

 

「ただいま茉子。玄関に知らない靴あったんだけど誰かお客様が──」

 

 

 

俺と目が合い、女の子の声が止まる。

昔と変わらない朝武芳乃が目の前にいた。白と赤の巫女服に真っ白で艶のある髪と小さな顔で落ち着きのある雰囲気は昔と変わらない。きっとその巫女服は母である秋穂からの譲り受けだろう。

 

茉子もそうだったが、昔と比べてやたら胸の成長が素晴らしく、頑張って視線をずらすも視界の隅では胸に注目がいってしまう。男の性だ、許してください。

 

 

「どちら、さま……?」

 

どうやら俺だと認識できないようで、軽く会釈するも困惑した顔は隠せていない。

 

「貴女こそ、どちら様ですか?」

 

なので俺もボケる。でないと罪悪感で押し潰されてちゃんと会話ができない気がする。出だしはボケる。それでいい。

 

「お疲れ様です芳乃様」

「茉子もいつもありがとう。ところでこちらの男性は?」

「ご存知ないですか?」

 

 

俺の意図を組んで、あえて知らないフリをする茉子は流石だ。

これ絶対萩原佳正って言う流れだろ。

 

 

 

 

「この方は、昨日芳乃様に持っていくはずだった羊羹を1人で全部食べてしまった、10年前ワタシ達と仲良くしてた萩原佳正くんです」

「うんうん──って茉子!?おっま何言ってんだよ!!」

「事実だよ」

「だからって言わなくてもいいだろ!?予想外すぎるよ!」

 

流石、我が幼馴染・常陸茉子。

予想出来ないことを平気でやってくれるから対応するのが大変だ。

 

「萩原、佳正?」

「……」

 

せっかくのボケが潰えたので、俺は観念して芳乃の前に跪く。

さっきみたいに俺と芳乃は友人関係のようなやり取りができる関係ではない。本来、芳乃と俺は主従の関係。それは茉子も同じだ。

 

「長らくの間音信不通で御無沙汰となってしまい申し訳ございませんでした。萩原佳正、本日より穂織に戻った旨の挨拶に参りました」

「……あの、佳正君?」

「あの佳正です」

 

 

芳乃は一体俺の事をどう見ているのだろうか。

やはり、秋穂の件やあの場で逃げた事に対して俺に憤りを感じてはいるはずだ。

 

「……」

「……」

 

だからきっと俺の事を追い出すだろうし、茉子に近づくなとか言いそうだ。言われても文句は言えない立場なのだ。

この静寂が長く感じる。1分が1時間、2分が2時間とさえ感じる。この静寂が途切れた時が、俺の判決なのだろう。

 

「……」

「そんなに畏まらなくていいんですよ。畏まられた時、ホントに佳正君なのか疑ってしまいました」

「ですが、俺は」

「どうして佳正君が責任を感じているんです?」

 

 

芳乃の問いの真意がわからない。

責任の有無なんて、逆にどうして質問してくるのか質問したい。当たり前の事なのに、さも感じる必要は無いと言いたげな表情をする。

 

「当たり前です。俺がしっかりしていれば、あんな事にはならなかったんです。それは芳乃様もおわかりのはずです」

「わかりません」

 

ピシャリ、と彼女は即答した。

 

「私も茉子も貴方も、10年前は小学生です。どうしてまだ右も左も分からない幼少期の貴方が全部の責任を背負わなければならないのですか?」

「それは……」

「お母さんが亡くなってしまったことも、"祟り神"に穂織が襲われた事も決して佳正君の責任ではありません。起こるべくして起こってしまったものです。その事に佳正君を責めた事は、私は1度もありません」

「芳乃、様」

 

真面目な声で芳乃は断言する。

芳乃も茉子も、「俺は悪くない、責任を負う必要は無い」と言ってくれた。同情で言ってる様子もなく、自分を責めることはなかった。

 

だけど、俺は頑固者だ。あんなに救いの手を差し伸べられても素直に受け取れずにいる。2人を信用していない訳では無い。むしろあの瞬間の茉子の言葉や今の芳乃の背中を押す言葉も、俺の心にしっかりと届いている。

10年前と違って、俺には俺のやり方で戦う道がある気がしてきてる。だけど、それでもやはり背負っていないと足元をすくわれそうな不安が残っている。

 

 

「ありがとう、ございます」

「でも、あまり無理はしないでくださいね。茉子も。これは私達朝武家の問題ですから」

「まーだそんな事仰いますか芳乃様は。もっとワタシや佳正を頼ってください」

 

 

朝武家の問題、朝武家の問題、無理はしないで。

昔となんも変わらない責任感の強さは相変わらずでちょっと笑ってしまった。

 

 

「でも」

「ん?」

 

 

途端、声色が一瞬にして変わった。色で例えるなら白から黒に。

そして俺は悟った。10年前の事は許してもらえても、許して貰えない事案がある事を。

 

 

「さっき茉子が言ってた羊羹を1人で(・・・・・・)食べたという話を詳しく教えて貰えませんか?」

「えっと、あの……」

 

擬音でいうならゴゴゴゴっと音がなっている気がする。間違いない。

これは10年前のことに対してはホントに怒っていない。でも、羊羹を全部食べたことに対してはめちゃくちゃ怒っていらっしゃる。

 

「よ、芳乃様は甘いものが大好きでしたっけ?」

「そうだよ。芳乃様は甘々なスイーツ大好きだから、怒ると怖いよー」

「茉子」

「はい申し訳ございません。口を慎みます」

 

まさかあの茉子を名前を呼んだだけで黙らせるとは。

余程芳乃のブチ切れが恐ろしいものだとうかがえる。

 

 

「まさか芳乃様が甘い物が好きだったとは露知らず、いや忘れておりまして……美味しかったものですからつい手が進んでしまいました」

「そうですか。では、私の分はどこにあるのでしょうか」

「ですから、俺の胃袋の中にしっかり収めてあります」

 

 

芳乃の声がどんどんドスの利かせた声色へと変貌する。

怖過ぎて余計な事をすべらせたら命を落としかねない。これが本当に穂織の巫女姫様のあるべき姿なのだろうか。俺のイメージとはかけ離れている。

 

 

「では佳正君にお願いがあります」

「な、なんでしょうか主殿」

「羊羹を返してください」

「返して、とは?具体的にはどのようにお返しすれば?」

 

瞬間、さらに目付きが鋭くなる。

なるほどそれは自分で考えろということか。

 

「で、では、お腹にグーパンチをお願いします」

「どうしてですか?」

「いえ、お腹に収めたモノをお返し致します」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、とある観光客がSNSで『穂織の健実神社の奥から男性の叫び声が聞こえてびびったw』というコメントを投稿し、少しバズったらしい。

 

 

 

 

 

 

 




芳乃も茉子も俺は、悪くない、責任が無いと言う。
少しは気持ちの面で軽くはなったけど、やはり罪からは逃れられない。

茉子も芳乃も知らない。俺は秋穂を見殺し(・・・)にした張本人だ。俺には何か出来ることがあったはず。だけど俺は秋穂に言われ、秋穂の指示に従って逃げたのだ。自分で考えず言われたことをただロボットのようにやってしまったのだ。

当時の俺は小学生だから、しょうがない──では済まされない。


俺は、秋穂が亡くなった原因(・・)を知っている。それは穂織に蔓延る"祟り神"が残した呪いでもあり、遺産(・・)でもある。

それをどうすれば取り除くことができるのか、俺にはまだわからない。
きっとまだ謎があるような気がしている。穂織の謎を紐解かない限りは呪いからは解放されない。

間違いなく、芳乃には"犬付き"が現れているはず。もう猶予は残されていない。

"叢雨丸"を扱えない今、俺に出来ることは頭で戦うことしかないだろう。




……なんとかしなくては。


芳乃にビンタされ、意識が飛かける中そんなことを考えていた。
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