登場人物
瑠衣(5歳)
赤ん坊の頃に両親に捨てられ孤児院に入る。内気な性格で5歳児とは思えない程頭が良い。その為他の孤児院の子達から浮いてしまい孤立してしまった。ずっと変わらなくつまらない日常を過ごしていたが、孤児院に来た楓達を見て心が変わり始める。
橘 紅葉(41歳)
孤児院の職員。明るく綺麗で子供達から1番の信頼を得ている。瑠衣にも積極的に声を掛けているが、中々心を開いてくれず困っていた。楓の実の母親でもある。
月村 楓(22歳)
旧姓 橘楓。19歳の時に月村エレナと同性婚をする。昔は月村エレナのメイドとして働いていたが、今はそれをやることもなく、主婦として家を任されている。
月村エレナ(23歳)
名前のある月村家の当主。現在は、住んでいたお屋敷を同性に向けた結婚相談所に変えて仕事をしている。現在の自宅は、特に特徴のない一軒家。持ち前のカリスマ力は相変わらずで、エレナの結婚相談所には人が絶えないだとか。
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『〇〇ちゃんごめんね……』
暗い部屋の中、私の目の前で自分の首にロープをかける母親の姿が鮮明に映されていた。
「ママ!!待ってよ!!ママ!!!」
『もう戻れないのよ……ごめんね……』
「ママ!!!いやぁ!!!!」
「瑠衣ちゃん!!瑠衣ちゃん!!大丈夫!?」
私を呼ぶ声が頭上から降り注いでいた。
「はぁ……はぁ……夢……?」
「大丈夫?すんごいうなされてたよ?うわ、凄い汗じゃない。今拭くもの持ってくるからね」
声の主は、ここの孤児院の職員の橘紅葉さん。施設の子供から優しいお母さんみたいと、とても評判がいいらしい。それでも本当のお母さんじゃないのにね。
私は物心つく前に捨てられ、ここの孤児院、確か名前はさくらんぼハウス。私の他にも身寄りの無い子供が20人近く住んでいた。
「ありがとうございます」
なんであんな夢を見たんだろうか……私は、母親の名前も顔も覚えていない。この瑠衣という名前も、聞けば施設の人に付けてもらったらしい。自分の名前もわからない。本当に何も知らずにこの施設で過ごしていくしか生きる術がなかった。いつか私の母親となってくれる人が素敵な名前を付けてくれないかな……そんな風な夢物語を頭の中で考えたりもするが、所詮は夢の産物。現実はそんな甘くない。確かに身寄りの無い子供を、子宝に恵まれなかった夫妻が預かるという事もあるらしいが、それで幸せになれるかと言ったら分からないだろう。血の繋がっていない子供を本当に愛せるのか?と私は思ってしまった。こんな事を考えているから、私には友達が出来ないんだなとも思う。5歳児だとは思えないぐらい頭がいいのも自分でも分かっていた。他の子は施設に馴染み、友達を作って毎日を楽しく過ごしているというのに、私は何をやっているんだろうか……
「お待たせ。怖い夢でも見ちゃった?」
そう言いながら紅葉さんは、私の額の汗を拭いながら心配そうに私の顔を覗き込んでいた。私の事をこんな風に気にかけてくれるのも施設の中では紅葉さんぐらいだろう。考え方が子供じゃないよ。って他の職員さんには煙たがられている、という事も他の子から聞いたこともある。近寄りたくなければ近寄らなければいい。私は馴れ合いなんてこっちからお断りだ。本当に自分という存在を分かってくれて、認めてくれる人。そんな人が1人いてくれればいいんだ。
「ご心配お掛けしてすみません。大丈夫ですから」
そう言って私は、再び布団の中に入り朝を待った。朝起きてご飯を食べて読書をする。昼ご飯を食べてまた読書。夜ご飯を食べてお風呂に入って寝る。もうこんなつまらない日常にも飽きちゃったな……何か少しでも変わってくれればいいのに……私が変わろうとしてない時点でダメかもしれないけどね。私を変えてくれるような人に出会えたらな……そう思いながら私の意識は夢の中に消えていった。
翌朝、私はいつも通り朝6:30に目が覚めた。8時寝6:30起きが私の生活サイクル。この施設に入って4歳の誕生日を迎えた時にこの生活サイクルを初めてからは、未だにこのサイクルを破った事がない。早寝早起きは三文の徳になるって本にも書いてあったし悪い事ではないだろう。
私は、自分の部屋から出ると顔を洗いに生徒共有の洗面所まで歩いて行った。相変わらず他の子達は寝ているみたいだ。基本的にこの施設の朝ごはんは9時。大体の子は紅葉さんや他の職員さんが起こしに来るまでは寝ていることが多い。ちなみに歳が4歳以下の子は職員さんと一緒に寝る事が義務付けられているみたいだった。この施設では5歳になってからは、自室が一応与えられることになっている。それでも職員さんと一緒じゃなきゃ嫌だって人は、枕を持って行って一緒に寝ているみたいだった。私は、5歳を迎えた時に自室を与えられたことがとても嬉しかった。誰にも邪魔されずに読書を出来る環境を与えて貰ったことはとても嬉しかった。今までは他の子がうるさくてそれどころではなかったからだ。
「瑠衣ちゃんおはよ。よく眠れた?」
洗面所で顔を洗っていると紅葉さんに声を掛けられた。これから皆の朝ごはんを作るんだろう。腰には可愛いエプロンが巻かれていた。
「おはようございます。お陰様でよく眠れました」
「そっか。なら良かった。何か飲む?」
「お気遣いなくです。部屋にまだお茶がありますので。失礼します」
「あ!ちょっと待って。今日ね、私の娘とその友達が施設に遊びに来るんだ。その時良かったら瑠衣ちゃんも顔出してね。2階の空き教室の場所分かるよね?そこで皆で遊ぶ予定だから」
「わかりました。気が向いたら行くことにします」
私はそう言うと自室に戻り、本棚から本を出して読書に浸ることにした。娘さんか……きっとあの人の子供だもん。明るくて優しいんだろうな……私もそういう人が親だったら今の性格を変えることが出来るのかな。……何を考えてるんだろ。絶対にそんな事有り得ないのにね。無駄な事を考えるのをやめ、私は再び本に目を向けた。
コンコンコン
「瑠衣ちゃん朝ごはん出来たよ」
「今行きます」
もうそんな時間なんだ。私は、本にしおりを挟むと食堂へと向かった。
食堂に着くと、既に私以外の子供は既に席に着いているようだった。
「瑠衣ちゃん遅いよぉ!」
「瑠衣ちゃんのせいで朝ごはん冷めちゃうじゃん!」
「部屋で引きこもってるからだよ!」
これもいつもの光景。一人の子が私を非難するとそれに続けて周りの子も便乗して言ってくる。そしてこの後は、
「こら!そういうこと言わないって何回言ったら分かるのよ!そういう子にはご飯あげないからね?ごめんなさいは?」
「……」
「じゃあご飯いらないのね?下げちゃうよ?」
「瑠衣ちゃんごめんなさい!」
「私もごめんね」
「ごめんなさい」
紅葉さんが周りの子を叱って謝らせる。これも何回も見てきた光景だった。こういう事が起きる度に申し訳なさそうに私に謝りに来るけど何も変わってないんじゃ意味が無い。結局1番子供から信頼されている紅葉さんも現状を変えられないのだ。
「それじゃ、皆朝ごはん食べよっか。頂きます」
一同「頂きます!」
朝ごはんを食べてる途中に紅葉さんから皆に声がかかった。
「今日のお昼にね、お姉さん2人が施設に遊びに来てくれる事になりました!一緒に遊びたい人は2階の空き教室に集まって下さい!」
紅葉さんがそう言うと皆の反応は、わかりやすく喜んでいた。男子に関しては、おっぱい大きいのかな?とかちょっとだけなら触ってもいいよな!?とあからさまなセクハラ目的の声や、純粋に遊んでもらうことを楽しみにしてる子からは、トランプとか持っていこうよ!などと話が上がっていた。しかしお姉さん2人で20人の相手も出来るのだろうか?年齢層もバラバラで4歳までで5人。5歳から9歳までがもっとも多く13人。10歳が2人と言った感じだった。
まぁいっか。私もとりあえずどんな人か気になるし見に行くだけ行ってみよう。決して何かを期待している訳ではい。結局誰も私を変えられる人なんているわけないに決まってる。
朝ごはんを食べ終え、私は自室で2人の来訪者を読書をしながら待つことにした。
いつものように読書をしているはずなのに、時間が経つのがとても遅く感じられた。
「おかしいな……いつものように集中出来ない。もしかして楽しみにしてるの?いやいやそんなわけない。たまたま集中出来てないだけだ」
私は再び読書へと意識を向けその時を待った。
丁度1冊の文庫本を読み終えた時だった。廊下が騒がしいと思い、自室の扉を開けると綺麗なお姉さん2人が子供達に囲まれていた。
あれが紅葉さんが言っていた人か……娘さんはどっちだろ。1人は綺麗な黒髪を腰の辺りまで伸ばしたお姉さん。それにとても綺麗な人だった。少なくとも私が見た事のある女の人の中ではダントツで綺麗だと思う。もう1人は茶色の髪を肩まで伸ばしているお姉さん。黒髪の女の人より10センチぐらい小さく、優しそうな笑顔を子供たちに向けていた。なんとなくだけど茶髪のお姉さんが紅葉さんの娘さんだと私は思った。目元の辺りがそれとなく似ている気がするし、いつも私達が向けられている笑顔と同じような笑顔を見せていたからだ。
「はいはい!皆慌てないの!色々聞きたいこともあるだろうけど続きは空き教室でね!皆でお姉さん達を案内してあげてね。出来る?」
一同「はーい!!!」
「いいお返事!じゃあ行きましょっか。私は他の子達に声掛けてくるから先行っててね」
そう紅葉さんが答えると、お姉さん達を囲んでいた輪が無くなり、視界が開けると、茶髪のお姉さんと目が合ってしまった。
突然の出来事で私はその場で固まってしまった。
こういう時どうしたらいいんだろう。えっと!確かさっき読んだ本では手を振って挨拶してたしとりあえず手を振っておけばいいのかな。いつもの冷静な私はそこに見る影もなく、咄嗟に茶髪のお姉さんに手を振ってしまった。そうすると茶髪のお姉さんは私に笑顔を向けると、手を振り返し「後でお話しようね!」と言って他の子達に手を引かれ空き教室に向かって行った。
「はぁ……何してるんだろ私……お姉さんの笑った顔可愛かったな……って何考えてるのよ私!と、とにかく空き教室の方に行かなきゃ。他の子達は皆行くだろうし、私だけ行かないのはおかしいってだけだからね。別にお姉さんにお話しようね!って言われて話してみたいとか思ってないから!………ホントに私どうしちゃったんだろ。こんなに胸がドキドキなんてした事なかったのに……」
私はこの知らない感情を押し潰して、いつもの冷静な私に戻れ。と念じながらお姉さん達が待つ空き教室へと向かった。
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