時は流れて旅行の前日の6月29日。私も大分月村家の生活に慣れてきた所だった。
「彩葉、手を丸めて。伸ばしたままだと指切っちゃうかもだから気を付けてね」
「うん。こんな感じかな?」
「そうそう上手だよ!それじゃ切ったじゃがいもをボールに入れてね」
「わかったー」
ここ最近私は、楓さんに暇な時間に料理を教えて貰っていて、今は特訓の真っ最中。エレナお母さんには内緒で、今度目の前で手料理を作ってあげてびっくりさせたいな。って思ったのが最近やっている理由だった。まぁそれは建前で本音は、楓お母さんの近くにいられて、少しだけでも肌に触れていたかったからだ。エレナお母さんを利用するような形になって申し訳ないけどエレナお母さんが私に与えた猶予は2週間。少しでも楓お母さんにアピールしなくっちゃ!
「そろそろエレナ帰ってくると思うからお湯沸かしておいてもらってもいい?コーヒーの淹れ方はもう覚えた?」
「うん。もう完璧だよ」
「ホントに物覚え早くて偉いね」
「えへへ」
少しの事でも私が出来ると、楓お母さんは私の事のように喜んでくれて頭を撫でてくれる。そんな所がホントに好きでたまらなかった。この前エレナお母さんがふざけて楓お母さんにしたキスが羨ましくて仕方なかった。私もいつか楓お母さんにキス出来る日が来るんだろうか。
楓お母さんの言った通り私がお湯を沸かし終わってティーカップを出している間にエレナお母さんが帰ってきた。私は、パタパタと玄関の方にエレナお母さんを迎えに行った。
「ただいまー。お出迎えありがとう彩葉」
私は、無言でエレナお母さんが持っていた鞄を受け取るとエレナお母さんの部屋に持って行って鞄を置いてきた。私が来る前は楓お母さんの仕事だったんだけど、少しでも楓お母さんが楽出来るようにこれから私がやるからいいよって言ったのがきっかけだった。
「おかえりなさいエレナお母さん。コーヒー入ってるよ」
「ありがと。行こっか」
「うん!」
エレナお母さんも優しい人で私が2階のエレナお母さんの部屋に鞄を置きに行って帰ってくるまで玄関で待ってくれていた。
リビングに戻ると夜ご飯がテーブルに並べられていた。今日のメニューはカレーライス。野菜とお肉は私が切ったことはエレナお母さんには内緒だ。
「それじゃ食べよっか。いただきます」
「「いただきます」」
私は、エレナお母さんが自分が具材を切ったことに気付かれるんじゃないかとドキドキしていた。もちろんカレーは楓お母さんがルーを1から作っているから美味しくないはずがないが、具材が不格好なんだよね……
「相変わらず楓のカレーは美味しいわね。そこら辺でお店出してるとこよりよっぽど美味しいわ。後、彩葉もお手伝いありがとね。ちゃんと切れてるじゃない。手切らなかった?」
エレナお母さんは当たり前のように話した。流石に楓お母さんと私とじゃ切り方でバレるか……
「やっぱり分かっちゃうよね。楓お母さんが教えてくれたから大丈夫だよ」
「なら良かったわ。それで貴方達旅行の準備は出来た?」
「私はもう確認終わらせて玄関に荷物置いてあるよ。彩葉は?」
「私も一昨日のうちにまとめておきました」
ホントに着替えと水着ぐらいしか持っていくものないし30分ぐらいで終わったから楽だったな。それにしても沖縄かぁ……テレビでしか見たことないけど綺麗なんだろうなぁ。それに海って言ったら水着だよね。楓お母さんの水着姿とっても楽しみだなぁ。別に私泳げるけど泳げないフリして楓お母さんに抱き着いたりしたら怒られるかな。でもこの旅行が1番距離詰められるチャンスだしそのぐらいしなきゃだよね。
「あ、彩葉。後で話があるから私の部屋に来てもらえるかしら」
「え?うん」
突然のエレナお母さんからの呼び出しに少しビクッとした。何かしたかな私。
「そんな怖い顔しなくも大丈夫よ。悪い話じゃないわ」
「ならいいけど……」
「え?私は?」
「楓には内緒の話よ」
「なんか私だけ仲間外れじゃん。まぁいいや。片付けしとくから早くしてきちゃいなよ。明日早いんだから彩葉夜遅くまで拘束してたら怒るからね」
楓お母さんは少し不機嫌そうな顔をしながら言葉を返した。まぁ多分私関係の話ってなると楓お母さんについてだから聞かれたらまずいしね……
「分かってるわよ。それじゃ食べ終わったら私の部屋ね」
「りょーかい」
私は、夜ご飯を食べ終わると食器を台所にさげた後でエレナお母さんの部屋に向かった。
コンコンコン
「エレナお母さん、私だけど」
「入っていいわよ」
部屋に入るとエレナお母さんはどうやら明日の最終確認をしているみたいだった。鞄の中を開けてメモと照らし合わせていた。こういう所はしっかりしてるんだなぁとエレナお母さんの新しい一面を見れた気がする。それにエレナお母さんには珍しく赤いメガネをかけていた。なんていうか絵になるって言い方が正しいのかな。綺麗な人には何でも似合うって言うけどそれぐらいエレナお母さんに赤いメガネが似合っていた。
「普段からメガネかければいいのに。すんごい似合ってるよ」
「ありがとう。楓に言われてからなのよ、細かい作業したりする時にメガネをするようになったのって。あの子がエレナすんごく似合ってるよ!って毎回言ってくるから嬉しくってね。あ!ごめんね惚気けちゃって。何よ、少しは反応してよね。ボケてる身にもなりなさいよ」
「くだらない話してるなら私楓お母さんのお片付け手伝いたいんだけど?要件は何?」
私はエレナお母さんのボケを完全に無視して話を続けた。
「面白くない子ね。それでどうするつもり?私が言うのもなんだけど告白するなら旅行中が1番いいと思うけど?私と天音は事情知ってるし彩葉と楓を二人っきりにしてあげることだって簡単なの。なんなら寝室も2人だけの部屋にだってね」
案の定楓お母さん絡みの話だった。私だって自分の頭の中ではそこがベストだって分かってる。前に読んだ恋愛小説でもムードは大事って書いてあったもん。でもどうやって言葉にすればいいか分からないんだよ……
「うん。旅行中に楓お母さんに告白するよ。でも寝室は私とエレナお母さんと楓お母さんの3人にして貰ってもいい?絶対寝不足で旅行どころじゃなくなるからさ。でもどう言葉にしたらいいのか分かんないんだよ。仮に私が告白して楓お母さんに拒絶されたらって思うだけで嫌になるし、告白なんてしなきゃよかったってならないかなって……」
私は、エレナお母さんに思っていることをそのまま伝えた。人に弱音なんてみせるのは嫌だけどホントに怖いんだよ。もし楓お母さんに気持ち悪いなんて思われたら次の日からどう接していいか分からないもん。
「ジェシカに言われた言葉を思い出しなさい。当たって砕けろよ。それに楓がそんな子に見える?あんまり私の女の悪口言うとぶっ飛ばすわよ。拒絶?嫌悪?そんなふうになるわけないじゃない。弱音なんて彩葉らしくないわよしっかりなさい」
「でも……それでももしかしたら!」
「ったく仕方ないわね」
「エレナお母さん……?」
私が半分泣きそうになっていた所でエレナお母さんに優しく抱き締められた。楓お母さんの胸の中と同じように安心感があって先程まであったぐちゃぐちゃとした感情が洗い流されていく感じだった。
「大丈夫よ。自分の思った通りに動けば絶対後悔しないわ。彩葉は強い子でしょ。私の子なんだもん。弱い子のわけないわ。だからこれはお母さんとの約束。後悔しないように全力で楓にぶつかってきなさい。いいわね?」
エレナお母さんは、私の背中を擦りながら優しく語りかけてくれた。
「ありがと……エレナお母さん。私全力で楓お母さんにぶつかってくる!」
「分かればよし。それじゃ解散!明日に備えて早く寝ちゃいなさい。おやすみ」
「うん。おやすみ」
私は、エレナお母さんの部屋を出ると決意を新たにして自分の部屋へ入り、明日に備えて寝ることにした。
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sideエレナ
「ちょっと追い込みすぎちゃったかしらね。期限なんてつけるべきじゃなかったかしら」
私は、先程の彩葉の苦しそうな顔を思い出すと少しやりすぎたかなと言う思いが心に残っていた。頭が良いとは言え中身は5歳児。分からないことだらけなのにいきなり告白だなんて無茶させすぎかな……
「はぁ……私らしくもない。私は、あの子が最高のパフォーマンスを出せる環境を整えて上げるだけ。結局最後に悩むのは彩葉じゃなくて楓だもの。どーせ私の所に泣きついてくるんでしょうけど今回はアドバイスはあげないからね楓。ふぁーあ。私も早く寝ようかしらね」
私は、1人リビングにいる楓に声をかけるとすぐにベッドの中に入り意識は夢の中へと消えていった。
楓「あ、もしもしさゆり?明日なんだけど何時にお屋敷行けばいいの?」
さゆり『朝8時に来てくれれば大丈夫!楽しみだね!天音なんて今日ずっとソワソワしててホントに面白かったよ』
楓「そりゃ新婚旅行だもん。誰だって楽しみだよ。それじゃ全力で楽しもうね!おやすみ!」
さゆり『うん!おやすみ楓』
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