『彩葉ごめんね……』
ここはどこ……私は小さな公園で楓お母さんとエレナお母さんと手を繋いでいるみたいだった。でもなんで楓お母さんが悲しそうな顔をしながら私に謝っているかが分からなかった。
「どうして謝るの?」
私は、意識がはっきりしないまま返してお母さんに問いかけた。
『言うことちゃんと聞けない子は私達の子供にはいらない。だからごめんね』
そう言うと楓お母さんとエレナお母さんは握った手を離し、公園の出口へと向かっていった。
「え……やだ!待ってよ!!!私楓お母さんにまで捨てられたら何処に行けばいいの!?やっと見つけた私の居場所だったんだよ!」
私の必死な声は届かない。いくら呼びかけても楓お母さんとエレナお母さんは反応が無かった。
「彩葉!彩葉!しっかりして!」
「え……」
意識がはっきりしている……さっきまで公園にいたのは嘘みたいに、今はどこかの室内にいるみたいだった。目を開けると目を真っ赤に腫らした楓お母さんが目の前にいた。
「いったぁ……」
意識がはっきりしたと同時に頭に鈍痛が走った。痛みのある場所を触ってみると包帯をされていたみたいだ。そっか……私あの時岩に頭をぶつけて……
「よかったよぉ!もう!何日目を覚まさなかったと思ってるの!?自分の名前分かる?何処か痛いところない?」
楓お母さんは、子供のように私に抱き着いて涙を流していた。一体どれだけ心配してくれていたのだろう……楓お母さんの目の腫れをみたらどれほどの心配をかけたか分からなかった。ホントに何してるんだろう私……
すると部屋の外からエレナお母さんが入ってきた。エレナお母さんは、私に抱き着いていた楓お母さんを宥めると、私に話を始めた。
「貴方が落ち着きなさいな……彩葉。色々言いたいことはあるけどそれは後ででいいわ。ここは都内の病院。彩葉は大きな岩に頭をぶつけて救急車で沖縄の病院に搬送されたの。命に別状は無かったから私の使用人が設備のいい病院に運んでくれたのよ。それで彩葉が目を覚ますまでに4日。ちゃんと楓に謝っておきなさいよ。彩葉が目を覚ますまでずっと付き添っててくれたんだからね。それと……」
パーン!
エレナお母さんは、私の頬を軽く平手で打った。
「どれだけ心配かけたと思ってるの!海は危ないってあれだけ楓に言われてたでしょ。言うこと聞けない子は連れていけないんだからね。分かるでしょ?今回は死なずに済んだからいいけどホントに死んじゃってたかもしれないんだからね!分かる!?」
エレナお母さんは、涙ながらに私を怒った。エレナお母さんにもどれだけ心配をかけていたのだろうか……私は、自分がやってしまった事の重さと申し訳なさから自然と涙が出てきた。
「ホントにごめんなさい……私、楓お母さんにいい所見せようって思ってそれで……ホントにごめんなさい」
「分かればいいのよ。それじゃ後は楓と2人で話なさい。私はお医者様に彩葉が目を覚ました事を言ってくるからね」
私の頭を撫でるとエレナお母さんは、部屋の外へと出ていった。
「楓お母さん……ホントに迷惑かけてごめんなさい……私、私!ホントに取り返しのつかないことしちゃったなって……」
「ううん。もう謝らないで。私達は彩葉が元気でいてくれたらそれでいいんだからさ。後はお医者さんの言うことちゃんと聞くこと!守れるよね?」
「うん。もう二度とこんな間違い起こさない。私も楓お母さんとエレナお母さんの傍にずっといたいもん」
私は、横に座る楓お母さんの手を握りながら真っ直ぐ目を見つめながら言った。もうだいすきな人を悲しまさせない。私はこの事を胸に誓った。
「ならよかった。それでなんであんな無茶したの?普段の彩葉らしくなかったよ。エレナに負けたくないのは分かるけどあんなに無茶するような事でも無かったでしょ?」
「えっと……エレナお母さんに1つでも勝ちたかったの。いっつも楓お母さん取られちゃうし何か1つでもエレナお母さんに勝てたらなって思っちゃって……」
「そーだったんだね。取られちゃうって私はエレナだけの私じゃないんだから大丈夫だよ。彩葉の事もエレナの事も大好きなのは一緒だよ」
楓お母さんは、私を励ますように優しく話していた。そうじゃないんだよ。何度も楓お母さんに好きだよって言われる度に私は、自分の中に不満を感じていた。もちろん家族として好きだよって言われることが嫌いなわけではない。でもエレナお母さんに好きって言っている意味と同じような好きを私も言って欲しいのだ。
「違うよ……楓お母さん。もうこの気持ち我慢出来ない。ん……」
私は、自分の気持ちを楓お母さんに分かって貰えるように楓お母さんの唇に自分の唇を重ねた。
「私の好きはこういう好きなの。でも楓お母さんの好きはこうじゃないよね……ごめんね急にこんな変な事言って」
「えっと、その彩葉は」
コンコンコン
楓お母さんが私に言葉を返そうとした時、部屋に誰か来たみたいで言葉が遮られた。
「失礼します。1度レントゲン撮りたいので彩葉ちゃんお借りしますね。お母さんはレントゲン室の前でお待ち下さい」
「わ、分かりました。宜しくお願いします」
「彩葉ちゃんそのままでいいからね。お写真撮る部屋行くからじっとしててね」
「分かりました」
私は、ベッドで寝かされたままレントゲン室へと運ばれた。病室から出る時に楓お母さんの顔を怖くて見れなかった。もし拒絶しているような顔をしていたら……嫌な反応をしていたら耐えられないと思ったからだ。
「彩葉ちゃん体調とかはどう?気持ち悪い所とかない?」
「大丈夫です。少し頭が痛いぐらいです」
レントゲン室へと着くと、優しそうな顔をした看護師さんが私に声をかけた。きっと暗い部屋だから緊張とか不安感を紛らわすために声をかけてくれたのだろう。普通の5歳児ならば怖がっていてもおかしくはないだろう。でも、私は楓お母さんとエレナお母さんと会うまでは、暗い部屋でずっと過ごしてきた事もあり、何も感じなかった。
「そっか!それじゃ写真撮るからそのままじっとしててね」
そう言って看護師さんはレントゲン室を出ていった。今の私は、レントゲンや自分の病状などはどうでもよく、楓お母さんが私の言動に大してどう思っているのか気になって仕方がなかった。
「終わったよー!あ!月村さんもう入って大丈夫ですよ。彩葉ちゃんじっとしてていい子ですね」
!?もしかして楓お母さん!?私どんな顔して合えばいいのか分かんないよ。
「ご迷惑をかけていないようでしたら何よりです。彩葉、ゆっくり立てるかしら?無理しないでいいからね」
そこに表れたのはエレナお母さんだった。私は、ほっと一息つくとエレナお母さんが言った通りゆっくりと地面に足を立てた。
「大丈夫?ふらふらしない?」
「うん。ホントに頭が痛いだけだから大丈夫だよ」
「ホントに大事にならなくてよかったわ……今日1日泊まって明日の昼には退院出来るからまた迎えに来るわね」
「うん。ホントにごめんねエレナお母さん」
「子供を持ったんだからこのぐらいの覚悟は出来てるわよ」
「それじゃまた明日ね」
「うん」
そう言って手を振るとエレナお母さんはレントゲン室から出て行った。
「それじゃゆっくり歩いて病室まで行こっか。お姉さんの手離さないようにね」
「はい」
私は、看護師さんに手を引かれ自分の病室まで戻りベッドに入ると、疲れていたのかすぐに意識は夢の中へと落ちていった。
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side楓
「それで彩葉ちゃんは大丈夫そうなのね?楓?楓ちゃん聞こえてますかー?」
「あ!ごめんなさいちょっと考え事してました。明日には退院出来るみたいです。何回も病院まで送り迎え頼んでしまってホントにすみません」
「気にしないでいいのよ。私も気になってたしね。でもホントによかったぁ……1時はどうなる事かと思ったもん」
病院の帰り道。いつもの詩織さんの車で私とエレナは自宅へと向かっていた。彩葉が倒れたと連絡した矢先に詩織さんが車を回してくれて、目を覚ます間ずっと送り迎えをしてくれた。本当に詩織さんには頭が上がらない。
「私もようやく一息つけそうですよ。ずっと気張ってたんで疲れちゃいました」
「そうだよね。今日はゆっくり休んでね。エレナにこき使われそうになっても無視していいからね」
詩織さんは冗談半分に笑いながら言っていた。
「全く失礼しちゃうわね。そんな事する訳ないでしょ。私も安心したら少し眠くなったからすぐ寝るわよ」
エレナは後部座席でぐったりとしていた。エレナもこの件で疲れたのだろう。私もエレナも心配でほとんど眠れなかったのは事実だ。気を紛らわす為にくだらない話やいつも通りの行為をしたりしていたけど、全然気は紛れず最後には彩葉大丈夫かな……って口を揃えて言っていた。
気が付けば車は、もう家の前まで来ていた。
「ほら着いたよ。彩葉ちゃん退院したら会わせてよね。それじゃまたね!」
「ありがとうございます」
「ありがとね」
詩織さんは、私達を降ろすとそのまま自宅へと戻って行った。私達も詩織さんに一礼すると重たい足を引きずるかのようにゆっくりと進み、鍵を空け自宅へと入った。
「疲れたわ……」
エレナは、荷物を置くとソファーに身体を投げ出し顔を埋めていた。
「寝るならちゃんと布団で寝ないと体痛めちゃうよ」
「分かってるわよ。んーーー。それで楓。私がいない間に彩葉と何があったの?彩葉がレントゲン室に行く時、貴方放心状態だったわよ」
「別に何も無いよ。お医者さん来たからお医者さんに任せようと思って黙ってたの」
私は、平静を保ちながら言った。彩葉からの告白。別に隠す事では無いけれどもなんだか彩葉に悪い気がしたのだ。
「楓。私に嘘は通じないわよ。何年一緒にいると思ってるのよ」
呆れたようにエレナは私から目線を逸らさず言葉を返した。
「もー!別にいいじゃんなんでも!」
エレナに隠し事はやっぱり出来ないか……ホントにこの人の洞察力は侮れない。普通に返事を返したつもりだったんだけどな。
「彩葉にエレナお母さんの好きと私への好きとでは意味が違うんですよ!私は楓お母さんを1人の女性として好きです!とか言われたんじゃないの?」
ホントに何で分かるのか……まるで見てきたように話をするエレナは少し怖かった。
「見てたの?」
「彩葉が貴方の事を好きだって聞いてたからよ。よく相談受けてたのよ。どうしたらいい?って。それで今日楓の顔を見て、彩葉もずっとレントゲン室でソワソワしてるし、あー……言ったのかなって思ったのよ」
「ずっと2人でこそこそしてたのはそういう事だったんだね。はぁ……傷付けずになんて言ったらいいと思う?私達が5歳の頃なんてそんな事思いもしなかったよね。私の初恋も高校生の時だったし、あの子は色々早すぎるよ。まさかキスされるなんて思わなかったもん」
しまった。キスされたなんて流れで言っちゃったけどエレナはそこまで読めてなかったし、余計な事言っちゃったな。
私の焦りとは裏腹に興味が無さそうにエレナは言葉を返した。
「これは楓と彩葉の問題よ。私には関係ないわ。それじゃおやすみなさい」
「え!?それだけ!?」
「疲れてるのよ。おやすみ」
エレナはそう言うとフラフラと2階の寝室に上がって行った。
「ちょっとぉ……娘の問題なんだから一緒に考えてくれたっていいじゃん!はぁ……私も寝て明日考えよ……」
私もこれ以上考える体力は残っていなかったようで、ベッドに入るとすぐに夢の中へと意識が消えていった。
天音「私達も心配したんだからね!沖から彩葉ちゃん抱えたエレナが血相変えて天音!救急車!早く!って叫んだ時はホントにびっくりしたんだから。楓ちゃんはずっと泣いちゃってて私のせいだって自己嫌悪してるしホントに何事もなくてよかったよ。でも冷静にエレナが救急隊員の人とかに何が起きてこーなったってしっかり説明してたのは流石って思ったよ。やっぱりあの子は凄いや」
さゆり「ホントに何事もなくて良かった……楓の泣き顔ももう見たくないもん。やっぱりあの3人には笑ってて欲しいもん!」
天音「だね!次話からはエレナのサポートを貰えない楓ちゃんが苦悩するシーンから始まります!それではまた次話で会いましょう!」