まさかエレナお母さんがあんな人気者だったなんて思いもしなかった。きっと皆のお母さんがエレナお母さんの先輩ぐらいにあたる年齢で子供にエレナお母さんの話をしたんだろう。ってか今日の入学式エレナお母さん来ると思うんだけど大丈夫かな……
「おーい。月村そろそろホームルームはじまるぞ。腹痛いのか?大丈夫?」
トイレの外から綾小路さんの声がした。わざわざ心配してくれて見に来てくれたのかな。だとしたらちょっと申し訳ない気持ちになった。ただ人と話すのが面倒になってトイレに逃げ込んだとは思っていないだろうしね。
「大丈夫だよ。もう出るから戻ってて」
「そっか。無理すんなよー」
それだけ言うと足音はトイレの中から外へと流れて行った。優しい人なんだね。
私は、トイレから出ると教室へと戻ろうとしたのだが。
「大丈夫?なんか周りの子に囲まれてた時死にそうな顔してたからちょっと心配してたんだ。ここに来る時に思ったんだけど月村ってあんまり人と話すの得意じゃないだろ?だから疲れてないかなって思ってさ」
大雑把な性格かと思っていたがそうではないらしい。私の態度が分かりやすいのか、この子が鋭いのか……エレナお母さんならこんな時軽くあしらっちゃうんだろうな。逆に楓お母さんならちょっとアタフタしてエレナお母さんが助けにいくんだろうなぁ。とにかく今はエレナお母さんと楓お母さんの前で恥かく訳にいかないから入学式ちゃんと成功させなきゃだよね。
「ありがとう。綾小路さんって優しいんだね」
「別にそんなんじゃないよ。ってかやっと笑ってくれたね。笑った顔可愛いんだからむすっとしてない方がいいと思うよ」
「はぁ!?別に可愛くないから。早く戻ろ!」
面と向かって可愛いなんて言われたせいで自分の調子が完全に狂ったのが分かった。それに私なんかより綾小路さんの方が可愛いと思うけどな。
「照れることないじゃんか。ちょっと待ってよー!」
「うるさい!」
私は綾小路さんを置いて1人教室へと戻った。
教室に戻ると、前の席の堂場皐月さんが私に申し訳ないと言った顔で話しかけてきた。
「ごめんなさいね。まさかあんなに騒がしくなるなんて思わなくて……」
やっぱり皐月さんはメイドの柚月さん以外には優しいのかも知れない。
「別に大丈夫だよ。お母さんがあんな人気者だったなんて知らなかったからさ。まぁまた騒ぎになるのだけは勘弁して欲しいかな」
「そこら辺は大丈夫だと思うわよ。綾小路さんがあんまり人の家の事で突っ込むのはどうかと思う。って皆を一喝してくれたからしばらくは大丈夫じゃないかしら」
「綾小路さんが?」
「えぇ。貴方が居なくなってからすぐにね。友達が困ってるから助けてくれたんじゃない?いいお友達がいて羨ましいわ」
「いや綾小路さんは別にそんなんじゃ……ううん。そうだね。後で改めてお礼言うことにする」
流石にそこまでしてもらって私の口から友達じゃないなんて死んでも言えなかった。向こうが私の事を友達と思っているのかは分からないが今はそういう事にしておこう。
コンコンコン。
「失礼するわね。皆、席に着いて貰っていいかしら」
教室のノックと共にこのクラスの担任の先生らしき人が入ってきた。なんだか真面目な人っぽい。そんな気がした。外見は黒髪のショートカットで薄い化粧をしていた。年齢はお母さん達と同じぐらいだろうか。
「まずは入学おめでとうございます。私は今日からB組の担任をする事になった乾梨花と言います。宜しくね」
そう言うと、乾先生は黒板に今日の大まかな予定を書き出していた。この後すぐに体育館に移動して入学式。それが終わったら流れ解散になるらしい。本格的なクラスでの活動は明日からになるみたいだった。
「それと月村さんには新入生代表挨拶をしてもらう事になってるけどお母さんから聞いてるよね?」
ん?今、月村って言わなかったかな。新入生代表挨拶?お母さんから何か聞いてる?いや全部初耳なんですけど……
「今の今までそんな事知りませんでしたけど……」
「え……エレナお母さんから何も聞いてない?」
「はい。全く言われてませんが……」
乾先生もこの事態は想定していなかったのだろう。明らかに顔に焦りの色が出ていた。
「はぁ……何してるのエレナ……ちょっと待っててね。今原稿持ってくるから。この際暗記なんてしなくてもいいからさ。読んでもらうだけでいいから……ホントにごめんね」
「い、いえ。こちらこそ母が何かすみません……」
こうして私が新入生代表の挨拶をする事となった。ホントに何してるのよエレナお母さん!
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さてと。いつも通り黒の服装でいいかしらね。それと鞄を持って。ん?何これ?月村エレナ様?こんな封筒あったかしら。
「エレナー!後10分で出るからね!」
「分かってるわ!ちょっと待ってて!」
階下から楓の呼ぶ声がする。ただこの封筒のシールに心当たりがあったのだ。確かあれは2週間前ぐらいに酔って帰ってきて今はチェリチョウ学院の先生をやってる梨花ちゃんから電話があって……
『もしもしエレナ?久しぶり!私の事覚えてる?』
「久しぶりね。もちろん覚えてるわよ。何かあったの?」
『娘さんうちの中学に来てくれるんでしょ?なら生徒代表の挨拶を頼みたいんだけどどうかなって思って』
「ふふ、彩葉なら何でもこなしてくれるから任せなさいな。なんたって私の娘なんだから挨拶ぐらい難なくこなすわよ!」
『ホントに!?なら言っといてね!私忙しいから手紙送るからそれに詳しい詳細とか載ってるから娘さんに伝えてあげてね。それじゃまたね!』
「わかったわ。あー……頭痛い。早く寝なきゃ……」
………
「あーーー!!!」
「ちょっと何!?エレナ!?何かあったの!?」
って事はこの封筒の中身って……
私は、封筒を開けると予想通り今日の入学式についての流れなどが細かく書いてあった。今頃彩葉と梨花ちゃん困ってるだろうな……昔っからホントにお酒が絡むとろくな事がないわね。ってかこの事楓に言わない方がいいんじゃないかしら。多分めちゃくちゃ怒られるわよねこれ。それでしばらくの間晩酌禁止ってなりかねないし……よし。この封筒の事は何も見てないし知らない。
「エレナ、その手紙何?そのシール学校からだよね?」
「え?あぁ。同窓会のお知らせみたいな感じよ。だから大したものじゃないわ。ほら、早く行きましょ。彩葉も待ってるだろうし」
私の行動がよそよそしかったのか変なところがあったのかは分からないが、楓はそんな甘い人ではなかった。私の手を払いのけるとそのまま手紙を手に取って中を確認していた。
「ふーん。彩葉に新入生代表挨拶ね。それでエレナ。この事ちゃんと彩葉に教えてあげた?まさか今思い出して誤魔化そうとしたなんて事ないよね?」
しまった……とにかく今は誤魔化さないと。
「そんな訳ないじゃない。私を誰だと思ってるのよ」
「エレナ。最後の質問ね。彩葉にちゃんと伝えたの?もし、彩葉が帰ってきた時に何も聞いてなかったって言って泣きついてきたらどうなるか分かるよね?まさかあの月村エレナが嘘ついて誤魔化そうだなんて思わないよね?」
楓に私の嘘は通用しないんだったわ……完全にお怒りモードになっていた。
「すみませんでした……」
私は、一通りこうなってしまった経緯を楓に話した。
「もー!ほんっと有り得ない!しばらくはお酒は禁止だからね!彩葉大丈夫かな……」
「大丈夫よ。あの子ならしっかりやってくれるわよ」
「あのね……彩葉は人前とか得意な方じゃないんだからホントに金輪際やめてよね」
「気を付けるわ」
確かに私達の前ではしっかりしてるけど実際他の人の前だとどうなっているのかは気になった。楓からは、ほとんど学校では話さないって聞いたけど、あまり信じられないのよね。実際私の友達と話す時は表情豊かでいい子なんだもん。まぁ今日しっかり挨拶が出来たら大丈夫ね。楽しみに待つ事にするわ。
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「ええっと……暖かな春の光に誘われて桜のつぼみも膨らみ始めた今日の良き日、私たちは聖チョリチョウ大学付属中学校に入学しました。どんな生活が待っているのだろうと不安と期待が入り混じった複雑な気持ちです。
授業について行けるのか、部活動はきつくないか、友達とうまくやっていけるのか、不安は尽きません。しかし、この不安も楽しみながら一歩一歩確実に中学生として頑張っていけるよう努力してまいります。先生方、並びに来賓の方々、御面倒をおかけすることがあるかもしれません。優しく、時に厳しくご指導していただけると嬉しいです。………長いよ!こんなの覚えられるわけないじゃん。いいや普通に紙持ちながら読も」
私は乾先生が考えてくれた新入生代表の挨拶文を読んでいた。流石にこの量を30分で覚えられるわけがない。だいたい今回はエレナお母さんのせいでこんなことになってるんだし、無理することもないよね。
「……でもエレナお母さんならこんな時も何の問題もないわよって感じでこなしちゃうんだろうな。仕方ない、やるだけやってみるかな」
1度は諦めかけたが入学式が始まるギリギリまで挨拶文と睨めっこすることとなった。流石に空気を読んでくれたのか前の席の皐月さんや綾小路さんは話しかけてこなかった。
〜入学式5分前〜
「それでは皆さん廊下に出席番号順に並んで下さい。月村さんは1番前に。ホントにごめんね急になっちゃって」
乾先生は申し訳なさそうに私に向かって頭を下げていた。もう何度頭を下げて貰ったか分からない。エレナお母さん今日来るならちゃんと乾先生に謝ってよね。もちろん私にもだけど。
「気にしないで下さい。どれもこれもあの人が悪い事なので。なんとか少しは覚えましたが心配なのでメモ帳に文章写したのでそれは持っていってもいいですか?」
「むしろあの短時間でもうそんなに覚えたの!?凄いね。もちろん大丈夫だよ。頑張ってね!」
「ありがとうございます」
クラスで列になって待っていると、前のクラスの人達が動き始め私達のクラスも入学式が行われる体育館へと向かった。
エレナ「なんだか前に皆で一緒に海行った時あたりからどうも酒癖が悪いって言うか弱い気がするのよね……アルコールに弱いのは楓だけだと思ったんだけど……」
楓「別に私はお酒苦手じゃないよ?前に詩織さんと飲んだ時ストゼロ2リットル普通に飲めちゃって自分でもちょっと引いちゃった」
エレナ「マジ……?ってかストゼロって言うのやめなさい。別に家でも飲んだらいいのに」
楓「ううん。私は別にお酒好きってわけでもないからエレナが飲みたい時に一緒に飲めたらそれでいいかな」
エレナ「好き」
楓「なにそれ、変なエレナ」
詩織「何を見せられてるの私達……」
彩葉「私に聞かないで下さい……毎日毎日こんな感じですよ。全く、ホントに今回は大変だったんだから反省してよねエレナお母さん。あー……ダメだ。完全に2人の世界に入っちゃった。それでは次回は入学式になります!私がちゃんと新入生代表として挨拶出来たか見てくださいね!」