「それではこれより第45回聖チョリチョウ大学付属中学校の入学式を始めます。新入生は入場の準備をして整列してください」
司会の先生の合図で私を含めた新入生が体育館の前で待機していた。私達B組も入学式のその時を、今か今かと待っていた。外から中をちらっと見た時に、皆のご両親や来賓の方、それに在校生で体育館内は凄い人で溢れかえっていた。
「私こんな人の前で挨拶するのか……」
正直今まで大勢の前で挨拶などをした事がなかった私は不安でいっぱいだった。先程まで8割程暗記していた挨拶文も体育館の前に来た瞬間全てを忘れてしまっていた。どうしよう……こんな時エレナお母さんならどうやって緊張をほぐしたのだろうか。そもそも緊張なんてしなかったのかな。
「顔色悪いけど大丈夫?」
「綾小路さん?何で一番前に?」
「綾小路のあで出席番号1番だからだよ」
声をかけられて振り向くとそこには、心配そうに私を見つめる綾小路さんがいた。なんだかポニーテールが朝見た時よりしゅんとしているのは気の所為だろうか。
「なるほどね」
それ以上の言葉が出てこなかった。緊張で喉は乾ききっているし手は震えているしでこの場から逃げ出したくなっていた。
「乾先生。予定では何時から入場でしたっけ?」
「ん?後15分後よ。ちょっと在校生の入場に手間取って予定より送れてるみたい。ごめんね待たせちゃって」
「ありがとうございます。ちょっと月村さんトイレ我慢してるみたいなのでダッシュで行ってきますね!ほら月村早く!我慢は体に良くないよ!」
「え?ちょ!ちょっと引っ張らないで!」
綾小路さんが何を考えているのか私には、全く分からなかった。トイレに行きたいなんて一言も行ってないし我慢もしてない。
「え?ここトイレじゃなくて中庭だよ?」
「いいからそこ座って。綺麗なとこだよねここ。私入学する前におばさんに特別に入れてもらってここの桜の木が大好きなんだ」
綾小路さんが私を連れてきたのはトイレではなく、体育館のすぐ横にある中庭だった。中庭と言っても小さくはなく、木や花などが植えられていてとても綺麗に咲き誇っていた。桜の花のすぐ傍のベンチに私は半ば強引に座らされた。
「そうなんだ。って何で私をここに連れてきたの!?そろそろ入学式始まっちゃうのに。まだ暗記だって勘弁じゃないから遊んでる暇ないよ!」
私は今すぐにでも中庭を出て元の場所に戻ろうとしたが、それを綾小路さんは止めた。
「全く……そんな焦っても仕方ないでしょ。ちょっとは落ち着きなよ」
「別に焦ってなんてないし落ち着いてるよ。だからどいて」
綾小路さんはそれでも私の前をどかなかった。
「声は震えてるし手汗もびっしょりな人が落ち着いてる?それはちょっと無理があるんじゃない?全く。せっかく私が緊張ほぐしてあげようと思ってゆっくり出来る場所連れてきてあげたのに」
「え……?」
綾小路さんは私を落ち着かせるためにここに連れ出してくれたの?確かに今は手の震えもないしさっきまでの緊張感や喉の乾きも消えていた。
「え?じゃないよ。流石に目の前であんな顔白くなられたら心配にならない方がおかしいって。朝はため息ついてるし体調悪いなら休んだ方がいいって」
そこまで心配してくれてたんだ。それで先生に気づかれないように私を連れ出してくれたんだ……でもなんで出会ったばっかの私にそこまでしてくれるんだろうか。私は思い切って綾小路さんに聞いてみることにした。
「ありがと。でも何で出会ったばっかの私にそこまでしてくれるの?綾小路さんに何の得もないはずだよ。朝もエレナお母さんの件で周りの子に言ってくれたみたいだけど、それで綾小路さんが悪く見られたりしたら大変だと思うし」
「特に理由はないかな。強いて言うならなんかほっとけないんだよね。それに可愛い子と仲良くなりたいっていうのは自然の摂理だと思うし。あ、また赤くなったね」
「もー!別に可愛くないって言ってるでしょ!……まぁありがとう。大分落ち着いたからもう大丈夫。先戻るね」
私は恥ずかしさの余り綾小路さんの顔を見れず、逃げるようにその場からいなくなった。でも助けられたのは事実で、先程までの緊張などは全てなくなり、さっきまで暗記していた文章が頭の中に戻ってきた。入学式が終わったらなにかお礼しなきゃ。楓お母さんから何かしてもらったら絶対お礼するんだよと小さい頃から口酸っぱく言われていたからであって私自信が綾小路さんに何かしてあげたいとかでは断じてないから。
「ふふ、ホントに不思議な子。頑張れ月村」
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「すみません戻りました」
私は綾小路さんより一足早く体育館の前へへと戻った。丁度私達の前のクラスが入場している所でギリギリだったみたいだ。
「次からはもっと早くトイレ済ませてね。それで新入生代表の挨拶だけど大丈夫?さっきも言ったけど私があげた紙見ながら言っても大丈夫だからね?」
「いえ、大丈夫です。エレナお母さんが同じ立場に立っていたら間違いなく全文暗記して完璧にこなすはずです。だから紙は見ません。もしもの為にポケットに入れておきます」
「それなら頑張ってきなさい!きっとお母さんも楽しみに席で見ているはずよ。さてと、それじゃ皆私についてきてね!」
そう言うと乾先生は、体育館の中へと入っていった。それを追うように私達はゆっくりと体育館への中へと入場した。知らない間に綾小路さんも戻っていた。
体育館に入って1番に目に入ったのは大きなステージと教壇。あそこで私は皆の代表として挨拶をするんだ……絶対成功させなくっちゃ。入ってすぐは在校生とご来賓の方々が座っていた。そして、体育館の中央辺りに保護者の席があった。流石にこの広い保護者席で楓お母さんとエレナお母さんを見つけるのは難しいと思ったがすぐにエレナお母さんを見つけられた。何故だか理由は分からないが、A組の人達がエレナお母さんを取り囲んでいた。ある人は握手をしていたりある人は写真やサインを求めていた。横にいる楓お母さんは、呆れているようなまたか……という表情をしていた。ホントにどれだけ人気なんだあの人……
「凄い人気だねエレナさん」
後ろを歩いていた綾小路さんが小さな声で私に声をかけてきた。丁度A組の人が立ち止まってしまったせいで私達も足止めを食らっていた。
「私には何であんな人気出るのか分からないけどね」
『新入生の方は立ち止まらずに入場して下さい。保護者の方やご来賓、在校生の方に声をかけないようお願いします』
見かねた先生がアナウンスで新入生に注意喚起のアナウンスを入れていた。ホントに何してるんだか……そして私もエレナお母さんの横を通る時にちらっとエレナお母さんの顔を見たら苦笑いで顔の前でごめんねの仕草をしていた。私はそれを無視して自分の席へと座った。そして、新入生全員が所定の位置に座るとついに入学式が始まった。
最初に校長先生の挨拶、国歌斉唱、在校生からのお言葉、ご来賓の方々からのお話などがあり、ついに私の出番が来た。
『それでは次に新入生代表の挨拶となります。1年B組月村彩葉さん。ステージまでお願いします』
「はい」
月村と言う名前が呼ばれた時にまた周りがザワついたのが分かった。ホントにどれだけ知名度があるんだか。私は特に緊張もすること無くステージの上へとあがった。ステージの上へと上がると全体を見ることが出来たが、周りを見すぎると緊張すると思い、楓お母さんを見ながら話す事にした。楓お母さん以外の人は全て物語で言うところのモブなんだ。わざわざ視界に入れることは無い。そして私は、話し始めた。
「暖かな春の光に誘われて桜のつぼみも膨らみ始めた今日の良き日、私たちは聖チョリチョウ大学付属中学校に入学しました。どんな生活が待っているのだろうと不安と期待が入り混じった複雑な気持ちです。授業について行けるのか、部活動はきつくないか、友達とうまくやっていけるのか、不安は尽きません。しかし、この不安も楽しみながら一歩一歩確実に中学生として頑張っていけるよう努力してまいります。先生方、並びに来賓の方々、御面倒をおかけすることがあるかもしれません。優しく、時に厳しくご指導していただけると嬉しいです。新入生代表、1年B組月村彩葉」
パチパチパチパチパチパチ。私が挨拶を終えると周りから拍手が送られた。ミス無く言えてよかった。私は一安心してステージから降り、元の席へと戻った。席へ座ると綾小路さんに話しかけられた。
「完璧だったね。お疲れ様」
「ありがと」
淡白な返事だったが今はこれでいいだろう。お礼はちゃんとするから待っててね綾小路さん。そして、自分の出番が終わった事で安心しきってしまった私は気が付けば睡魔に襲われ意識は夢の中へと消えていった。
彩葉「なんで新入生にたかられてたの?」
エレナ「んーなんかエレナ様ファンクラブみたいなのがあるらしいわよ。それで私見つけて驚いてその勢いみたいよ。それに保護者じゃなくて来賓の人だと思われてたらしいわ。まぁ新入生代表の挨拶が彩葉だったしそこで気付いたかもね」
彩葉「なるほどね。めんどくさいなぁ……エレナお母さんと比較されたらこの先めちゃくちゃだるいよね」
エレナ「いいじゃない?目指すべきものは大きいものの方がいいのよ」
彩葉「そうだね。それじゃ高校に上がるまでに友達3人作って胸をエレナお母さんより大きくすること目標にするね。今Aカップだよね?」
エレナ「失礼ね!Bはあるわよ!」
楓「嘘つくのは良くないと思うな。エレナはBよりのAだよ」
彩葉「エレナお母さん……」
エレナ「そんな目で私を見ないで……」
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