「お邪魔しました」
「またいつでも遊びに来てね」
「これからも彩葉を宜しくね彩香ちゃん」
リビングへと行くとエレナお母さんと楓お母さんは椅子に座って紅茶を飲んでいるところだった。彩香はぺこりと2人に挨拶をして、私は玄関まででお見送りをする事にした。
「ねぇ彩葉、良かったら明日から一緒に学校行かない?今朝会ったみたいに丁度通学路なんだよねこの道」
「いいよ。何時に家の前いればいい?」
「ホントに!?よかった。それじゃ8:15分にここでお願い」
彩香は、私がいいよと言ったら嬉しそうに顔を輝かせていた。別にそこまで喜ぶことではないと思うけれど、なんだか彩香の喜んだ顔を見ていたらなんだかおかしくて、私まで笑みが零れた。
「りょーかい。それじゃまた明日」
「うん!また明日!あ!ちょっと待って!RINE教えてよ」
「あー……私携帯持ってないんだよねごめんね」
「マジで!?それなら仕方ないね……それじゃまた明日!」
「はーい」
そう言うと彩香は玄関の扉を開けて帰って行った。
携帯かぁ……今まで欲しいって思った事無かったなそう言えば。小学生の頃から持ってる子もいたけど友達いなかったし持っていたところで何かに使いたいとも思わなかったしなぁ。
「彩葉、ご飯もう少し待ってて貰える?」
「ん?全然ゆっくりで大丈夫だよ」
ひょっこり楓お母さんがリビングからこちらに顔を出していた。そうだ思い出した。私に友達出来たってことはもう甘えてもいいんだよね?私は考えるより先に楓お母さんに抱きついた。
「彩葉?彩香ちゃんと何かあったの?」
楓お母さんは私の突然の奇行に驚いているみたいだった。まさか何も言わずにいきなり抱き着かれるとは思わなかったんだろう。
「疲れただけだよ。やっぱりここが1番落ち着く」
「全くもう……もう私より背も大きいのにそんなに甘えないの」
「だって楓お母さんの腕の中が私の1番のお気に入りの場所だもん。友達も出来たしいいよね?」
小学生の時から私のお気に入りの場所だもん。ふかふかだしいい匂いするし何より安心する。確かにちょっと身長伸びすぎて抱き着きにくくなったのは確かだけどね。
「そろそろ親離れして欲しいんだけど……」
「やーだ!頑張ったんだから頭撫でてくれたら話してあげる。代表の挨拶だってちゃんとやったよ?」
自分でも分かるぐらいに今日はいつも以上に楓お母さんに甘えていた。普段は抱き着いて楓お母さんの匂いを嗅げば落ち着いたんだけど、今日だけはもう少しだけ甘えたくなったのだ。
「仕方ないなぁ。ちゃんと見てたよ。よく頑張ったね」
そう言うと楓お母さんは、私に抱き着き返しながら頭を撫でてくれた。私が幸せな感情に入り浸っているとリビングからエレナお母さんが私の事を死んだ魚のような目をして見ていた。
「彩葉……ホントに楓の前だとダメ人間になるわね……って言うかマザコンなら私にもそういう態度とってくれてもいいんじゃないかしら?」
「別にマザコンでいいもん。エレナお母さんはなんか違う……」
エレナお母さんはどっちかと言うとお父さんに近いんだよね。なんだかんだ色々と勉強や世の中のルールをこの5年間で教えてくれたのはエレナお母さんだった。そのお陰もあって人から嫌われるようなことは無かったと思うし、テストとかも苦労することは無かった。楓お母さんは私にメンタル面のサポートやエレナお母さんと喧嘩した時などに心身となって話を聞いてくれた。それに小さい頃から大好きだった笑顔を毎日見せてくれるお陰で私はずっと幸せだった。
「はぁ……まぁそろそろ楓を離してあげなさいな。この調子だと親離れするのは大分先になりそうね」
「それじゃご飯作っちゃうね」
「私も手伝うよ」
「ありがと」
私と楓お母さんは、仲良くエレナお母さんがいるリビングへと入った。
小学校の高学年からようやく楓お母さんから包丁を持っていいことが許可された私は、暇があれば楓お母さんに料理を教えて貰っていた。まぁ少しでも楓お母さんの近くにいたいし少しでも負担が減ればと思ってやってるんだけどね。台所に私と楓お母さんが並んで立っていると、よくエレナお母さんにどっちが娘だか分からないわね。なんてよく言われていた。確かに後ろから見たら私の方が一回り大きいもんね。
楓お母さんがご飯を作り終え、私はテーブルに料理を運んでいた時にふと思い出したことがあった。彩香が家に来たり、楓お母さんに甘えていたりで忘れていたがエレナお母さんに言う事があったじゃないか。
「ねぇエレナお母さん」
「ん?何かしら?」
ぼーっとテレビを見ていたエレナお母さんに私は声をかけた。
「今日ご飯抜きでいいよね?代表挨拶の事忘れたとは言わせないよ」
そう言うとエレナお母さんの顔がしまったという顔に変わっていた。きっとエレナお母さんからしたら私が気付いてない事を良いことに何も言わなかったんだろう。
「まぁ何事も無く終わったから良かったんじゃない?それに先生達の評価もいきなりやらせて完璧に出来たってなった方がインパクトあるし結果オーライって事で終わりにならないかしら」
「ふーん。そういう事いうんだ。楓お母さん、エレナお母さんの料理下げてもいいかな?」
「いいと思うよ。エレナ、私朝言わなかったっけ?ちゃんと彩葉に謝ってって」
そう言うとエレナお母さんは慌てたように私の服の裾を掴むと私に頭を下げた。
「えっと……この度は私のミスで彩葉に大変なご迷惑をお掛けしてしまい誠に申し訳ございませんでした……」
不本意ながら謝るエレナお母さんを見てると何故だか笑いが込み上げてきた。娘に謝るのが恥ずかしいのかちょっとだけ顔が赤いし、楓お母さんの方をチラチラ見て何かを気にしていた。
「ふふ、もういいよエレナお母さん。そんなに私に謝るのが嫌だったの?」
「別にそんなんじゃないわよ。楓の朝の怒った顔思い出したらちょっと私が私でいられなくなりそうだったから危なかっただけよ」
それってドMの病気なんじゃ……と突っ込みそうになったが私はだんまりを決め事にした。でもちょっとだけ楓お母さんの気持ちが分かったかもしれない。内気になってるエレナお母さんはいつもよりちょっとだけ可愛く見えた。
「はいはいくだらないこと言ってないでご飯食べちゃってね。彩葉は明日から本格的に学校始まるんだから早く寝るんだよ?」
「分かってるよー。いただきます」
「いただきます」
私達は仲良く3人でご飯を食べると、楓お母さんは片付けがあるからという事で私を先にお風呂へと向かわせた。
「楓お母さんと一緒にお風呂入りたかったのになぁ……まぁいっか。早くお風呂入って寝ちゃお」
学校始まったばかりで寝坊するわけ行かないし彩香とも一緒に行く約束しちゃったしで今日は早く寝ることにした。
1人湯船でぼんやりと浸かっていると脱衣場でガサゴソと服を脱ぐ音がした。もしかして楓お母さんかな?いやあのシルエットは違う……
「人をシルエットで判断するのはやめてもらってもいいかしら?」
「人の心を読むのやめてってば。狭いんだけど……」
エレナお母さんは何も言わずに湯船に入ってきた。幸いこの家の湯船は人2人が入るぐらいならなんて事はないが160センチオーバーの2人が足を伸ばして入るには少し窮屈だった。
「まぁたまにはいいじゃない。ほらおいで彩葉」
エレナお母さんは自分の体の前で両手を広げて私が上に座るのを待っていたみたいだ。
「もうそんな歳じゃないよ。普段おいでなんてしないくせに楓お母さんと喧嘩でもしたの?」
「楓と喧嘩なんてする訳ないでしょ。よいしょっと。やっぱりちょっと抱っこすると大きいわね……」
エレナお母さんは私を抱き上げると自分の上に座らせた。そりゃ身長だけは大きいんだから大きいのは当然でしょ……
「あんまり言いたくないんだけどさ、やっぱり背中にふかふかしたものがないと悲しいよね。人肌は感じるけど壁に寄りかかってるみたいな」
「胸の大きさに関しては彩葉だって人の事言えないでしょ……ここに来てから全く変わってないわよ」
胸の大きさは私の悩みの一つだった。まだ中学生になったばかりなんだから気にしなくていいんだよと楓お母さんは笑っていたが、流石にAAカップというのはどうなのだろうか……エレナお母さんですらAはあるというのに……
「それを言われると困る……このまま身長だけ伸びてエレナお母さんと同じようにコンクリートとかまな板とか言われたらって思うと死にたくなるよね」
「あんたホントいい性格してるわね……それと彩葉」
「ん?」
「今日はホントにごめんね。私のミスで朝困らせてしまったでしょ」
割と真剣にエレナお母さんはきにしていてくれたらしく、声色から元気が無くなっていた。最初は何してくれてんのよドMお母さんって思ってはいたが別に今は全く気にしてないんだけどね。
「別に気にしてないよ」
「良かった……嫌われたらどうしようかと思ってたのよ」
「嫌いになんてなるわけないじゃん。私は楓お母さんはもちろんだけどエレナお母さんの事も大好きなんだからね」
「ふふ、ありがとう」
そう言うと後ろからエレナお母さんは私の事を優しく抱きしめた。ホントにこういう所は可愛いと思う。毎回喧嘩をした後とかに気にしてくれてエレナお母さんはよく私の事を抱きしめてくれる。
明日からは本格的に学校が始まる事だし2人のお母さんに迷惑かけないように頑張らなくっちゃだよね。
綾小路由紀「え!?彩葉ちゃんと仲良くなったの?」
彩香「うん。めちゃくちゃ綺麗な子だったよ」
由紀「まさかエレナちゃんのとこの彩葉ちゃんが最初の友達になるなんて思わなかったわ。絶対エレナちゃんだけは怒らせちゃダメだからね!?わかった!?」
彩香「え、うん。(何で彩葉じゃなくてエレナさんなんだろう……)」