「楓お姉さんの家は施設からどのぐらいかかるんですか?」
「だいたい15分ぐらいかな」
「なるほどです」
施設から車を走らせてだいたい10分ぐらいたっただろうか。っていうことは残り5分ぐらいで楓お姉さんと会えるのか……
私は胸の高鳴りを抑えられずにいた。施設を出てから心臓の音が紅葉さんにも聞こえるんじゃないかと思うぐらい激しく動悸していた。
「瑠衣ちゃんがそんなに楽しそうな顔初めて見たわよ」
「え!?私そんな表情してますか?」
紅葉さんはなんだか楽しそうだった。迷惑をかけてるはずなのになんでだろうか。
「なんだかソワソワしてるって言うかまだ頬少し赤いよ?緊張してる?」
「えっと……ちょっと緊張してるかもです。誰かと2人で話すことなんて紅葉さん以外いませんでしたし」
「ふふ、確かにそうだね。でも大きくなったら二人っきりで話す事だって多くなると思うし練習だと思ったら?恋人だってそのうち出来るんだしさ」
「そういう事にしておきます」
大きくなったら……か。大きくなる前にこの施設を出れるのだろうか。先のことなんて全然考えられないや。
「着いたよ」
紅葉さんが指をさした先には、普通の一軒家があった。楓お姉さんとエレナお姉さんってなんかお嬢様みたいな雰囲気あったからもっと大きいお家に住んでるのかと思った。
「ほらほら、私はこのまま戻っちゃうからピンポンしてきなさいな」
「え!?私がですか?てっきり紅葉さんが声かけてくれるものかと……」
「なんとなくそっちの方が面白そうなんだもん。後ろ車来るといけないから早く降りちゃって」
「面白そうって……あ、すみません今降ります」
私は、後ろを確認すると紅葉さんの車から降りた。
「それじゃ後は頑張るんだよ!今日は泊まってくること!皆には体調悪くて寝てるって言っておくからね!それじゃ!」
「え!?ちょっと泊まりなんて聞いてませんよ!」
私の言葉を無視して紅葉さんは、窓から手をこちらに振って車を発進させてその場からいなくなってしまった。ってか5歳児1人にする教育者がいていいの!?と、とりあえず落ち着かなきゃ。とにかくピンポン押さなきゃだよね。
「押していいんだよね……紅葉さんが電話してたし大丈夫だよね?」
私が門の前でピンポンを押そうか迷っていると、不意に楓お姉さんの家の扉がガチャりと開いた。
「あれ?瑠衣ちゃん?」
扉から顔を出したのは楓お姉さんだった。透き通るような綺麗な声に私はすぐに楓お姉さんだと分かった。昨日は、しっかりオシャレをしていた服装だったが今日はスウェットに長袖のTシャツにパーカーを羽織ったラフな格好をしていた。
「ホントに可愛い人だなぁ……」
私は、無意識のうちに楓お姉さんに見とれてしまっていた。天使のような声と少し童顔な可愛い顔から目が離れなかった。
「瑠衣ちゃん?」
「ひゃい!す、すみません突然来てしまって!ご迷惑でしたよね……」
楓お姉さんから声をかけられ、ようやく正気に戻れた。何を考えているんだろう私……
「全然大丈夫だよ。とにかくここじゃなんだし入って入って」
「すみませんお邪魔します」
私は、門を開け楓お姉さんが待つ玄関へとゆっくりと歩いて行った。
「お母さんはもう行っちゃった?」
「はい。施設の方にすぐ戻るって言ってました」
扉を開けると玄関は綺麗に整理整頓されていて靴なども綺麗に並べられていた。家の中はすぐ右側がリビング、左側に多分和室かな?畳が見えるし。そして目の前に2階に通じている階段があった。
「そっか。瑠衣ちゃんオレンジジュースと紅茶どっちが好きかな?」
「嫌いなものは無いのでどちらでも大丈夫です」
「分かった!じゃあミルクティーいれてあげるからそこに座って待っててくれる?」
「すみませんありがとうございます」
私は、楓お姉さんに言われるがままリビングにある椅子に腰をかけた。リビングの中にはエレナお姉さんとの結婚した時の写真だろうか、2人がウエディングドレスを着た写真が飾られていた。
「綺麗……」
「お待たせ。綺麗って私達の事かな?ありがと」
楓お姉さんは、私の前にミルクティーを置くと自分も私の対面に座って一息ついていた。
「ありがとうございます。はい。二人とも凄く似合ってて綺麗だと思って」
「もうこんなんでも3年経つんだよ結婚してから」
楓お姉さんはミルクティーを啜りながら話していた。
「もうそんなに経つんですね。いつから付き合ってたんですか?」
「高校2年生になった時ぐらいだったかな。だから結婚するまでに3年かな」
「そうなんですね」
高校生の時からだったんだ。周りの目とかどうだったんだろうとかは思っちゃダメだよね。でも凄いな……しっかり結婚までして生活も安定してるみたいだしホントに大変だったんだろうな……
「それで瑠衣ちゃんはどうして私に会いに来てくれたのかな?」
「えっとですね……」
そりゃ聞かれるよね。でもなんて答えたら。楓お姉さんの笑顔が見たくてなんて言えるわけないじゃん……
「もしかして怒らせちゃったかな?昨日エレナが酷い言い方したもんね……ごめんね無神経な事エレナが言っちゃって」
しゅんとした表情で楓お姉さんが話す。その表情は子犬が飼い主に怒られているような表情で失礼だとは思ったが少しだけ可愛いと思えてしまった。
「ち、違いますよ!むしろその逆で!」
「逆?」
焦りのあまり余計な事まで喋っちゃったよ……この際仕方ないかな。
「はい。今まで施設で生活してきて他人を気にした事なんて全く無かったんです。昨日も言ったと思いますが私は友達がいません。施設にいてもやってることは読書と勉強だけでにた。でも楓お姉さんだけは違かったんです。昨日少しお話しさせてもらって、すぐ会いたい、またお話したいと思ってしまったんです。それで紅葉さんに無茶言って楓お姉さんの家まで来ました」
私は楓お姉さんの目をしっかりと見て話をした。
「そっか。私達が施設に行ったことが少しでも瑠衣ちゃんにプラスになってるんなら良かったよ。今日は泊まってくよね?エレナもそろそろ帰ってくるだろうしお風呂沸かしてくるから一緒に入ろっか」
「一応楓お姉さんさえ良ければ泊まらせてもらおうかなと思ってました。すみませんご迷惑をおかけして……え?一緒に?いやいや!あの!嫌とかではないんですけどえっと」
施設の子や紅葉さんと一緒にお風呂にはもちろん入ったこともあるし、それに対して何とも思ったことも無い。でも楓お姉さんと一緒に?いやいや無理!なんでかわかんないけど恥ずかしいしそれに意識しちゃいそうっていうか……あぁもうわかんない!何なのよこの気持ち!
「ん?どうしたの?もしかして1人で入りたかった?ごめんね気付いてあげられなくて」
「えっとそうじゃないんです。その……ご心配おかけしてすみません大丈夫です。一緒に入って貰えますか?」
「瑠衣ちゃんさえいいなら私は喜んでだよ」
楓お姉さんは、私に向かって笑顔で返事を返した。ホントにその笑顔を見ると嫌な事を全て忘れられるんじゃないかって思えるほど楓お姉さんの笑顔には癒し効果があると思う。
「はい。宜しくお願いします!良かったらお背中流させて貰えませんか?」
「ホントに!?じゃあお願いします!私も瑠衣ちゃんの背中流してあげるね」
「いいんですか?ありがとうございます」
「もちろんだよ。それじゃお風呂沸かしてくるからちょっと待っててね。瑠衣ちゃんが読みそうな本は左手に見える本棚に入ってると思うから良かったら読んでていいからね」
「ありがとうございます。そうさせてもらいますね」
私の返答を聞くと楓お姉さんはリビングがら出ていった。
「はぁ……なんでこんなに疲れてるんだろう私。気紛らわせるために楓お姉さんが勧めてくれたし本でも読んでようかな」
私は椅子からひょいと降りると本棚がある方へと向かって、読む本を探す事にした。
「んー……恋愛小説が多いみたいだけど楓お姉さんが好きなのかな?あれ?何か本と本の間に挟まってる。本が痛んじゃわないように取らなきゃ。せっかく綺麗に並べられてるのにもったいないよ。えっと……何で本棚に首輪が……前に犬でも飼ってたのかな?」
何故かは分からないが本と本の間に恐らく大型犬用の首輪が挟まっていた。何か思い出の品だろうか?そう考えると元の場所に戻した方がいいのかな?がお姉さんが戻ってきた時に聞けばいいかな。考えているとリビングの外の方から足音が聞こえてきた。丁度戻ってきたかな?
「ふぅ……瑠衣ちゃんお待たせ。多分後20分もしたらお風呂沸くと思うからちょっと待っててね。何か本見つけられた?」
「あ、その本を探してたらこんなものを見つけたんですけれど前に犬を飼われてたんですか?見つけて元に戻すか考えていたんですけれども」
楓お姉さんに首輪を見せると何故かさっきまで柔らかな表情の楓お姉さんがしまったといった表情に変わっていた。何か事情がありそうだね……
「そ、そうなの!半年前まで犬飼ってたんだけど今はもう死んじゃったから大切に残してあるんだ」
楓お姉さんも嘘が下手だよね……きっと嘘を普段ついていないからいざと言う時にボロが出るんだろう。いつもの楓お姉さんと180°態度が違うし焦っているのがみえみえだった。ここには私と楓お姉さんしかいないしちょっと聞いてみようかな。何か隠し事したままっていうのは私の性にあわないし。
「その犬の名前はエレナっていう犬じゃないですよね?」
「っ!?さ、流石に結婚相手の名前を犬にしたりしないよ」
当たりみたいだ……前に本でそういう事をするカップルもいるみたいな事を読んでたまたま頭の片隅に置いておいたけどまさかこんな近くにいるなんて。
「隠さなくてもいいですよ。私そういうの気にしませんから」
「はぁ……瑠衣ちゃんちょっと色々ずば抜けすぎだよ……普通の5歳児らしくしてもいいんじゃない?」
「ひねくれてるのは分かってます。ごめんなさい突っ込みすぎましたよね」
「まぁこれはエレナのミスだから……お母さんとかには言っちゃダメだからね?」
「口は堅いほうなので大丈夫ですよ」
「ホントにお願いね……」
ピンポーン……ピンポーン
「あ、エレナ帰ってきたみたいだよ。瑠衣ちゃんいるって知ったらびっくりするんじゃないかな」
「エレナお姉さんには言ってないんですか?」
「うん。サプライズにしようかなって思って。後今すぐにその首輪元の場所に戻しておいてもらえる?」
「あ、すみませんそうですよね」
楓お姉さんは苦笑いで私に言った。エレナお姉さん私がいるって知らないらしいけどホントにお邪魔じゃないのかな……
「ただいま」
「おかえりなさい。今お茶入れるから座って待ってて」
「いつもありがとうね楓」
「ううん。エレナもお仕事毎日ありがと。お疲れ様でした」
玄関からは2人の声が聞こえていた。
「疲れた……あら?お客さんかしら?」
「お邪魔してます。突然すみません」
「びっくりでしょ?わざわざ来てくれたんだよ。これお茶ね」
楓さんがお茶をエレナお姉さんに出しながら笑顔で話していた。
「ありがとう。どうしたの?もしかして私に会いたくなったとか?」
「楓お姉さんに会いたくなっちゃって。あ、エレナお姉さんにも会いたかったですよ」
「私はついでってことね……ホントに可愛くないわよ貴方」
「自分でも分かってますよ。お仕事お疲れ様です。色々あって今日お世話になることになったんですけれども大丈夫ですか?」
「別にそんな改まらなくていいわよ。敬語も別にいらないし。子供は子供らしく世間体も気にしないぐらいでいいのよ。試しにエレナって言ってみなさいな。エレナお茶ちょーだいぐらい言っても怒る人はいないわよ」
なんていうか思ってたよりエレナお姉さんも優しい人みたいだ。エレナさんは私の警戒心を解くためかも知れないが優しそうな笑顔で私に話しかけてくれた。クールな印象から少しだけだけど堅いイメージがあったんだよね。まぁさっきの首輪事件で警戒する必要もなかったかな。
「じゃあ失礼して……エレナ、お手!」
「ぶー!ちょっと楓!?何言ったのこの子に!?」
エレナお姉さんは飲んでいたお茶を吹き出していた。それを見た楓お姉さんは、頭を抱えて瑠衣ちゃんそれは言っちゃダメだよと呟いていた。
「エレナが本の間に首輪入れてるなんて思わないもん!もう少しまともな隠し場所あったでしょ?」
「仕方ないじゃない瑠衣ちゃん来るなんて知らなかったし、すぐ使うと思ったから近くにおいて置いたのよ!」
エレナお姉さんは顔を真っ赤にして楓お姉さんに抗議をしていた。なんだか今の2人は施設に来た2人とは全く違くて、面白おかしくて自然と笑みが零れてしまった。
「あら、やっと笑ったわね」
「え?私ですか?」
エレナお姉さんが私の方を見て言ってきた。
「そうよ。施設にいた時から表情が固すぎると思ってたのよね。笑った顔すんごく可愛いんだからそんな仏頂面してたんじゃ勿体ないわよ」
「えっと……ありがとうございます」
ストレートに褒められて私は少し照れてしまった。誰でも目の前にモデル級の美人に自分の容姿を褒められたら照れるよね。
「あら、赤くなった顔も可愛いじゃない。楓もそう思うでしょ?」
「うん。瑠衣ちゃんはもっと感情表に出してもいいと思うよ。結構心の内に溜め込んだりしてない?」
溜め込むか……間違いないと思う。こんなに表に表情を出したのは楓お姉さんとエレナお姉さんの前ぐらいな気がする。
「ちょっとそういう所はあったと思います」
「これから出していけばいいと思うよ。瑠衣ちゃんホントに可愛いんだから自信持って大丈夫だよ。あ!お風呂沸いたから行こっか」
「ありがとうございます。はい」
「え?2人で入ってくるの?」
「折角だからね。あんまりこんな機会ないしさ」
「なら私もご一緒しようかしら。瑠衣ちゃん私もいい?」
「もちろんです」
「なら決まりだね。着替えとかは私の小さい時の服があるからそれ貸してあげるね」
「ありがとうございます」
私は楓さんに手を引かれてお風呂場に向かっていった。
楓「ホントに勘弁してよね!瑠衣ちゃんが右手に首輪持ってた時心臓止まるかと思ったんだから」
エレナ「ごめんなさい……でも普通に考えて5歳児がそんな知識あるなんて思う方がおかしいでしょ?あの子精神年齢20は超えてるわよ」
楓「まぁ確かにそうだね。とにかく今度からあんなとこに置くのは辞めてよね。えっと次回も月村家での話になると思います。良かったら感想、評価など宜しくお願い致します!」