「ちょっと早く出過ぎちゃったかな」
家を出て数分経っても彩香の姿は一向に見えなかった。彩香の性格だとちょっと遅れてくることも考えてもう少しゆっくり出ればよかったかな。楓お母さんとの二人の時間がちょっと減っちゃったよ。
「なーに不機嫌な顔してるのよ彩葉」
「え?」
「おはよ!ちょっと遅れちゃってごめんね」
顔を上げると少し顔が赤くなって息が荒くなっている彩香がいた。遅れそうになって走ってきてくれたのかな?
「おはよ。私も今出てきたとこだし気にしないで。それじゃ行こ」
「よかったー。うん!」
私と彩香は2人で並んで学校へと向かった。通学路ということもあってか在校生が多く、時々あの人がエレナさんの娘さんだよね?という声が時々聞こえてきた。昨日の代表挨拶の1件で随分有名になってしまったらしい。
「はぁ……私は静かに中学生活送りたかったんだけどな」
「いやいや……そんなに背が高くて綺麗な人ならエレナさんの娘以前の問題だと思うけど……」
「私より綺麗な人なんてたくさんいるよ。ほら、私の前の席の……あ!堂場皐月さん。あの人なんて私の数倍綺麗じゃん」
「嬉しい事を言ってくれますのね」
「「え?」」
声の方に振り返るとそこには堂場皐月さんとメイドの柚月さんが私達の丁度後ろを歩いていた。いったいいつから私達の後ろにいたのだろうか……輝いて見える綺麗な長い金髪がとても特徴的な人だ。柚月さんは対照的に黒髪のショートカット。この前と同じで皐月さんの後ろに隠れるようにして立っていた。
「おはようございます。月村さん、綾小路さん」
流石お嬢様。挨拶ひとつだけでもとても品があるように見えた。昔はエレナお母さんもこんな感じだったのかな。
「おはよ。彩葉でいいよ。」
「私の事も彩香で大丈夫だよ」
「それなら私の事も皐月とお呼びください。こちらはメイドの柚月です」
「あ、えっと……堂場柚月です。宜しく御願いします。」
皐月さんにポンと肩を叩かれるとビクビクしながら私達の前で自己紹介をしてくれた。人と話すのが苦手なのだろうか。
「よろしくね柚月さん」
「よろしくー!」
「それではここで会ったのも何かの縁ですし一緒に行きましょうか」
「そーだね」
4人で歩いていると彩香が小声ではなしかけてきた。
「ねぇ、この4人目立ちすぎるって。クラス内で一二を争う美人とそれなりに可愛い私と小動物みたいで可愛い柚月さんの4人だよ?やばくない?」
一体何を言ってるんだこいつは……ってかさりげなく自分の事それなりに可愛いって言ったわね……
「別にどうでもいいでしょ。誰も気にしてないよそんな事」
「彩葉は女子高ってとこ舐めてるよ……」
私はこれ以上の会話は無駄だと思い学校に着くまでは、皐月さんに話しかけられた時以外ほぼ無言だった。
しかし、彩香の言っていた意味を下駄箱を開けてすぐ理解する事になるとは思わなかった。
「疲れた……学校まで車で来れたらいいのに」
なんて無駄口を叩きながら自分の下駄箱を開けてその中身に驚愕した。
「何これ……」
「ん?彩葉どーしたの?って酷い!何これ!」
下駄箱の中には昨日までは新品同様真っ白だった上履きに誹謗中傷の落書きがこれでもかというぐらい書き込まれていた。昨日までの白さはどこにもなく、ドブにでも入れられたんじゃないかって言うぐらい黒ずんでいた。
「はぁ……子供じゃないんだから……」
「え!?ちょっとそれ履いていくつもりなの!?」
「別にいいよこれで。幸い濡れてたりはしないし今日1日ぐらいこれで過ごすよ」
「そんなのダメだよ!ちょっと待ってて私職員室からお客さん用のスリッパ持ってくるから」
彩香が大きな声を出したせいか、私の周りには人だかりが出来始めていた。
「酷い……彩葉さん、私の執事に連絡して新しいものを持ってこさせましょうか?」
「ううん。気持ちだけで大丈夫。そんなことして皐月さんにまでこんなこと書かれたら嫌だしね。皐月さんの方は大丈夫だったの?」
「えぇ……私の方は特に何も無かったですわ」
皐月さんの表情を見ると何かに怯えているような顔をしていた。過去に同じような事をされたことがあったのだろうか。
「彩葉!持ってきたよ!後その上履き貸して。乾先生が証拠として持っておくって」
「ありがと」
私は、彩香からお客さん用のスリッパを預かるとそれに履き替え、汚くなってしまった上履きを彩香に渡した。
「先教室行ってて。これ渡して来るからちょっと遅くなるから」
「ごめんねありがと」
なんで朝からこんな事に巻き込まれなくちゃいけないのかな……別にこんな子供の遊びで泣くようなメンタルしてるつもりもないし、ギャーギャー騒ぐ気もない。特に何も気にしてないふうに装っておけばすぐ辞めてくれないかな。
っていうかやられたのが上履きだけだといいんだけど……私の思いは一瞬で崩れる事になった。教室を開けて私の席の方に目をやるとそこにもまた人だかりが出来ていた。
「月村さん……あの……机に落書きが……」
大人しそうなメガネに三つ編みの女の子が私に声をかけてきた。遠目から私の机を見ても何か書かれてあるということはすぐにわかった。
「机もか……はいはい一体どんな落書きなんですか」
「ごめんね。一生懸命擦ったんだけど落ちなくて……私が朝来た時にはこうなってたの……」
三つ編みの子の手にはスポンジと洗剤が握られていた。きっと私が来る前に消してくれようとしたのだろう。
「ううん。あなたが悪いわけないから気にしないで。どうせ子供の落書きなんだし」
私が自分の机を見るとそこには目を疑うような文章が書かれていた。上履きに書かれていたバカだとかブスみたいなただの落書きではなかったのだ。
「っ……一体誰がこんな事……」
机の上に書かれていた内容はこうだった。
月村彩葉は、月村エレナの本当の娘では無いということ。
月村エレナは同性の人と結婚して、仕方なく親に捨てられた彩葉をどこかの施設から引き取っている。結婚相手の名前は橘楓。昔のメイドらしい。ってか女同士とか気持ち悪すぎて鳥肌が立つよね。もしかしたら月村彩葉も同性愛者かも知れないし皆気を付けた方がいいよ。エレナの名前を使って強姦されちゃうかも。
「誰がこんな事……」
「ねぇ、これってホントの事なの月村さん?」
野次馬の1人からの質問に私は返事を返せなかった。子供の落書きのレベルじゃない。一体どこで私がエレナお母さんの本当の子じゃないって事を知ったの……それに私が1番許せないところは楓お母さんまで巻き込んでいるところだった。きっと楓お母さんがこの事を知ったら自分のせいで彩葉が巻き込まれたって思い込んで悲しい顔をするだろう。絶対にそんな顔は見たくない。楓お母さんに1番似合うのは笑顔なんだから。その笑顔を壊そうとする人だけは許せない。その時私は、初めて人に対して本気で怒っている事に気付いた。今までなんだかんだでこんな風に腸が煮えくり返る事なんて無かったのだ。
「彩葉!大丈夫!?」
心配そうな顔をして彩香が私の元へと駆け寄ってきた。
「酷い……誰だよこんな事やったの!!!彩葉に何かされたの!?されてないよね!?こんな嘘を書いて彩葉に変な噂出来たらどう責任取ってくれるの!?」
彩香は教室に入ってくるなり私の元に駆け寄ってくれて、誰よりも大きな声で怒ってくれた。
「ちょっと悪ふざけが過ぎましてよ。私の友達になんてことしてくれるのかしら」
先程までの明るい表情だった皐月さんはそこにはいなかった。皐月さんは、歯を食いしばって怒りを抑えているようだった。
「彩香、皐月さん。もう大丈夫だから」
「でも!」
彩香は納得していないようだった。きっと今犯人が見つかったら、その子に噛み付きにいくんじゃないかっていうぐらい怒っていた。
「いいの。私の為に怒ってくれてありがと。皐月さんもありがとう。後は自分で何とかするから」
「でも自分でって言ってもこんな全校生徒の中で犯人を見つけるなんて無理だよ……」
「大丈夫だよ。私は月村エレナの娘だから。私ね、他人に本気で怒った事って今までで1回も無かったんだ。今までどれだけ平和ボケしてたかって気付かされたよね。ねぇ。犯人さん。聞いてるんでしょ。絶対に許さないから。エレナお母さんはともかく楓お母さんの悪口言った人は絶対に許さない。何がなんでも見つけ出して私の前で土下座させてやるから覚えててね」
「私も協力する」
「私もですわ。柚月!貴方もよ」
「はい」
「ありがと」
入学して2日目。いきなりトラブルに巻き込まれたみたいだ。度が過ぎたイタズラをした代償を払ってもらわないとね。
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