「彩葉!!!」
大きな声が聞こえて、そこを見ると彩香が立っていた。皐月さんから全て聞いたのだろう。私の事を心配そうな顔をして覗き込んでいた。
「大丈夫!?湊さんに何もされてない!?ってか顔!殴られたの!?大丈夫!?って痛い!なんで叩くの!?」
あまりにもテンパっている彩香を落ち着かせるために軽く頭を叩いた。
「ちょっと落ち着きなよ。心配してくれるのは分かったからとりあえず外出るよ」
私は彩香の手を取って学校の外へと出た。湊さんと鉢合わせた時に彩香が何をするか分かったものじゃないし、とにかく今は落ち着かせるためにも少し時間を使った方がいいと思ったからだ。
学校から出て、少し歩いたところで改めて彩香に声をかけた。
「皐月さんに聞いたの?」
「うん。だけど皐月さんを責めないでね。勝手に私が彩葉を待っただけだから」
「別に怒ってないわよ。まぁ分かってるならいいわ。全部の説明は私の家でいい?外で話すのもなんだしさ」
「分かった」
そう言うと彩香はすんなり承諾したようだ。さて、この顔の腫れはどう説明したものか……素直に叩かれたって言ったら湊さんに次会った時彩香がなんかしそうで怖いしなぁ……それに土下座させたとも言えないし、穏便に解決したって言っとこうかな。
それから私の家までは、お互い一言も喋らずただ淡々と歩いた。何か声をかけるべきなのかもしれないが、人付き合いなどほとんどしてこなかったからこういう時の対処の方法が分からなかったのだ。
「今開けてもらうから待っててね」
そう言うと私は玄関のチャイムを鳴らした。
『はーい』
インターホン越しからでも分かる楓お母さんの優しくて可愛い声。今日一日で凄く疲れてるから彩香がいなかったらめちゃくちゃ甘えていたに違いない。
「彩葉。帰ったよお母さん。後、また友達連れてきたから部屋に入れても大丈夫?」
『彩香ちゃんかな?今開けるから待っててね』
そう言って玄関のドアが開くと、中からラフな格好をした楓お母さんが顔を出した。
「おかえりー。彩香ちゃんもお疲れ様」
「お邪魔します」
楓お母さんと会うのも2回目という事もあり彩香も初日ほど緊張はしていないみたいだった。
「ただいま。彩香、先私の部屋行ってて貰える?お菓子とか持って行くから」
「手伝おうか?」
「ううん。大丈夫」
「分かった。それじゃ部屋で待ってるね」
彩香が2階へ上がっていったのを確認した後で、私は楓お母さんにちょこんと体を預けた。今日は色々ありすぎた。彩香を待たせるのはちょっと悪い気もするが、話す前に楓お母さん成分を補給しておきたかったのだ。
「ちょっと彩葉……彩香ちゃんも来てるんだから今は違うんじゃないの?」
「無理。疲れた」
「学校行くたびそれじゃお母さんも困るよ……ってかなんか顔腫れてない?どこかぶつけたんじゃない?」
楓お母さんは、私の顔をまじまじと見ながら言った。
「楓お母さん顔近すぎ……」
好きな人の顔が目の前にある。なんかこれだけで一気に疲れが吹き飛んだ気がした。
「彩葉……その顔は親に見せる顔じゃないよ。冷やさなくて平気?」
「うん。大丈夫だよ。ホントにちょっとぶつけただけだから」
これ以上彩香を待たせるのも悪いので、私は適当なお菓子とお茶を持って自分の部屋へと向かった。
自分の部屋へと行くと、先程までの彩香とは違い、何故か私の方を見てニヤニヤしていた。
「ん?何か私の顔についてる?」
「ううん。彩葉みたいな人でもお母さんには甘えるんだなって。御手洗の場所聞こうと思ったらすんごい甘えててびっくりしちゃった」
見られてた……まさかこんなに早く同級生に極度のマザコンだってバレるとは……
「忘れないと彩香を退学に追い込まなきゃ行けなくなるから忘れて貰ってもいいかな?」
「怖すぎ。まぁ別に他の人になんて言わないから心配しないで。私だけが知ってる秘密ってなんか嬉しいし。楓お母さんの事好きなんだね」
「大好きだよ。だから机に楓お母さんの悪口も書いてあったからあんなに怒ったんじゃん。別に私やエレナお母さんの悪口書かれるのはどうだっていいけど大好きな楓お母さんの悪口なんて書いたら、私に刃向かおうなんて二度と考えさせないようにするわよ。それじゃそろそろ今回の結末を話そうかな。彩香もそれが知りたいから待ってたんでしょ?」
私は楓お母さんへの好意を隠さない。この世界で1番好きな人なんだもん。マザコンってバレてるなら隠す理由も無いしね。
「まぁ知りたいから待ってたっていうのはちょっと違うかな。彩葉が心配だったからだよ。だってその腫れって湊さんに殴られたんでしょ?」
「違うよ。これはぶつけただけ」
そう言うと彩香は、少しの沈黙の後にこう続けた。
「そんなに私って信用無いかな……言ったじゃん。友達なんだから迷惑かけたっていいって。嘘ついて彩葉が抱え込む理由なんて何一つ無いんだよ。小学校の頃の彩葉の事は知らないよ。でも今の彩葉には私達がいるでしょ?だから嘘はつかないでよ……」
そんな目で見られると私も困る。どうして彩香がこんなに私に真剣になってくれるのかがホントに分からなかった。別に無事に解決したって言えば終わりじゃないのかな?私にはそこまでして彩香が私を気にかける理由が分からなかった。
「んー……ちょっと泣きそうな顔しないでよ。分かったわよちゃんと話すから」
流石に目の前で泣きそうになってる彩香を見て、このまま嘘を突き通す自信は無かった。
私は今回の結末を1から彩香に説明した。屋上に呼び出した事、湊さんとは昔孤児院で一緒で、エレナお母さんと楓お母さんは血の繋がっていない家族で父親がいない事。もちろんぶたれた事もだ。最後に私が湊さんに土下座を強要させた事。正直最後のだけは言うか悩んだ。これを言ったらせっかく出来た友達に引かれるんじゃないか、そんな人だと思わなかったって拒絶されるんじゃないかと思ったからだ。
「そっか……ちゃんと話してくれてありがと。彩葉も複雑な家庭に産まれてたんだね。私も似たような感じだからさ。まぁ土下座で済んだなら良かったかもね湊さん。私が横にいたら思いっきりぶん殴ってたかもだし」
そう言ってえへへと笑う彩香を見て私は安心した。彩香の家庭の事情は知らないけど、私達月村家の事を何とも思ってないなら良かった。
「やっぱり彩香に言わなくて良かったわ。私が止めるはめになってたじゃん」
「そーかもね。よいしょっと」
話を聞き終わって満足して帰るために腰を上げたのかと思ったが彩香は、私の横にちょこんと座ると体を預けてきた。
「重いんだけど……」
「安心したらちょっと疲れちゃったから休ませてよ。さっき彩葉も楓さんにやってたじゃん」
「それは楓お母さん成分が枯渇してたからよ。貴方の疲れたから休ませてとは違うわ」
「一緒だよ。前に言ったじゃん可愛い女の子と仲良くなれて良かったって。だから彩葉成分補給させてよ」
そう言うと彩香は顔を私の胸に埋めると全体重を預けた。
「もう……彩香って結構私の事好きでしょ?私は好きな人の匂いとか体の柔らかさで補給してるからさ。彩香もそーなの?」
我ながら馬鹿げた質問をしたと思う。それに昔の私なら重いから嫌だよって突き飛ばしていたと思うし、なんで突き飛ばさず受け入れたかがこの時の私には分からなかった。
「好きだよー」
「どのぐらい?」
「食べちゃいたいぐらいかな」
「はいおしまい!そろそろ楓お母さんに甘えたいから帰って貰える?」
そう言うと少しだけ顔を赤くした彩香が顔を上げてこちらを見た。
「少しぐらい照れてくれてもいいじゃん」
「なんで私が彩香に好きって言われて照れなきゃ行けないのよ……ほら早く帰る準備する!」
ホントは少しだけドキッとした。人から面と向かって好きと言われた事なんて初めてに等しかったし、可愛い女の子から言われて悪い気はしなかった。
「ひっどーい!絶対いつか照れさせてやるから覚えててよ!」
「はいはい」
嫌がる彩香を無理やり部屋から連れ出して扉の前まで連れてきた。
「お邪魔しました」
「またいつでも来てね彩香ちゃん」
「はい!それじゃまた明日ね彩葉」
「うん。また明日ね」
そう言うと彩香は帰って行った。
また明日、か。友達って言うのも悪くないかもしれないね。小学校の時はまた明日なんて言ってくれる子なんていなかったから、その言葉を聞いて少しニヤニヤしてしまった。
「いい友達が出来て良かったね彩葉」
「うん。でもそろそろ限界だから今日一緒にお風呂入ろ楓お母さん」
「全く……バカ言ってないで夜ご飯作るの手伝ってね」
「あー!待ってよ楓お母さん!」
エレナ「ふーん」
楓「また変な事考えてるでしょ」
エレナ「別に何も考えてないわよ。ただ私が考えてるより早いなってだけ」
楓「頼むからあの二人に変な事しないでよね」
エレナ「私は楓にしか変な事はしないわよ」
楓「はいはい」
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