「それで手紙って誰からだったの?やっぱりラブレターだった?」
トイレから戻ると教室の入口で彩香が待ち構えていた。
「さぁ誰からだろうね。ホームルーム始まるから早く席戻った方がいいよ」
私は軽く彩香を流して席に戻ろうとしたのだが、今日の彩香は一味違うようだった。
「内容教えてくれなきゃ戻らないよ」
私を制するように彩香が私の前で立ちはだかった。
「もー……ホントにまだ分からないんだって。今日放課後話があるからってだけの手紙だよ。内容分かったら教えてあげるからとりあえず通してくれる?」
「絶対だからね!?」
「分かったわよ」
そう言うと満足したのかやっと彩香は私を通してくれるみたいだった。席に戻ると前の席の皐月さんがニコニコしながらこちらを見てきた。
「何よ」
「ふふ、彩香さんも大変だねって思っただけですわ」
「ん?なんで彩香?私じゃなくて?」
「えぇ。まぁ近いうちもしかしたら私がこう言ってる理由が分かると思いますわ」
皐月さんが何を言ってるかよく分からなかったがそれ以上の言及はしなかった。また何か変なお嬢様的感が働いたのだろうぐらいにしか思わなかったのだ。皐月さんの方からもそれ以上は何も言ってこなかったし、きっとどんな事が書いてあったかも大方見当はついているのだろう。
それからの今日の一日はとても長く感じた。特に手紙の事なんて気にしてないつもりではいたが、授業の合間には彩香が毎回私の方に来て顔色を伺っているし、私自身今村美彩っていう名前を近くのクラスで探してしまっていた。
「それでは今日一日お疲れ様でした。さようなら」
やっと終わった……ってかここからが本番なんだけど。いつも通りやっている授業がこんなに疲れたと感じたのは入学してから初だった。
「それじゃ行こっか彩葉」
「は?」
「は?じゃないよ。なんで彩香が着いてくるのよ」
突然訳の分からないことを彩香が言い出した。あんたは私の保護者か……それに1人で来てって言ってるのにあんた連れてける訳ないでしょうに……
「はぁ……皐月さん。お願いします」
「承知致しましたわ。柚月」
「はい。皐月お嬢様」
皐月さんが柚月ちゃんに声をかけると、いつものおっとりした姿はどこにもなく、彩香を机の上に拘束してみた。
「彩香ごめんね。でも手紙には1人でって書いてたからさ。そこで皐月さん達とおしゃべりでもしてて」
「いろはぁ!待ってよー!」
私は柚月ちゃんに拘束されている彩香を放置して約束の場所である屋上へと急いだ。
「なんか面倒くさくなってきたな。小学生の頃の私なら絶対行ってないもんねこういうの」
実は小学生の頃も同じような事が2.3回あったのだ。まぁそれはあからさまに告白されるって分かってたし、断り方とかも幼い私には分からなかったのだ。今思えば悪い事しちゃったな。
「はぁ……ふぅ。よし」
私は一呼吸置いて屋上へ繋がる扉に手をかけた。
「手紙をくれたのは貴方?」
「あ!はい!呼び出してしまって本当にごめんなさい」
そこに立っていたのは私と同じぐらい髪を伸ばした綺麗な人だった。身長は、私より少し小さいぐらいで150センチとかかな。顔立ちは整っていて、彩香が可愛いタイプならこの人は綺麗なお姉さんみたいだなと思った。パッチリ二重で目も大きく、何か見透かされているような嫌な感じがした。それに何だかさっきから視線が私の足元に向いているような気がするのは気の所為だろうか。
「あれ?先輩ですか?」
その人の上履きを見ると、つま先の色が青かった。私達の学校は、各学年で上履きの色が違うのだ。1年生は白、2年生は青、3年生は赤。といった形で分けられているのだ。
「あ、ごめんね。まずは自己紹介しなきゃだよね。2年A組の今村美彩(みいろ)です。宜しくね彩葉ちゃん」
声も透き通っていて綺麗だな。この人もきっとどこかのお嬢様なのだろう。立ち振る舞いがとても上品に見えた。
「宜しくお願いします。知ってるとは思いますが1年B組の月村彩葉です」
「それで早速本題に入りたいんだけど大丈夫かな?」
「はい。話があるから私を呼んだんですもんね」
私がそう言うと少しだけ今村先輩の顔が赤くなって行くのが分かった。やっぱり告白の話なのかな?それだったら上手く断って傷付けないようにしないとだよね……
「実はね、この場所って私のお昼寝スポットなんだよね。それで昨日彩葉ちゃんお友達かは分からないけどちょっと喧嘩してたでしょ?」
「まぁそうですね。全然先輩いたなんて気付きませんでしたよ」
見られてたか……昨日屋上には誰もいなかったと思うんだけどな。鍵もかかってたし。
「まぁ私が寝てるのってそこだからね」
先輩は、屋上にある給水タンクを指さした。え?そこに寝るスペースあるの?
「あんな高いところ怖くないんですか?」
「最初は怖かったけど風が気持ち良くてすんごい寝やすいんだよね。ほら、よく見ると裏から登れるし、2人ぐらいなら人が座れるスペースだってあるんだよ」
「なるほど……それで口止め料でも請求する気ですか?」
「ううん。いや、少しだけあってるかな。話を戻すね。それで彩葉ちゃん土下座させてたでしょ。それでその……」
いやいやいや、なんでそこでモジモジするの!?私はめちゃくちゃ嫌な予感がした。5歳の時に初めて見たエレナお母さんのあの気持ち悪い顔。罵られて喜んでいた顔が今急に頭から離れられなくなったのだ。
「私のご主人様になってくれない?」
「嫌です」
予想通りだった。この人はエレナお母さんと同じ人種で、罵られて性的興奮を覚えるドMの変態だった。
「その冷たい目も素敵よ彩葉ちゃん。入学式の時からこんなに綺麗で可愛いご主人様が欲しくて仕方なかったの。週一回でいいの。それで彩葉ちゃんがここで何をしていたかの秘密も言わないから。ダメ?」
確かに私がここで湊さんを土下座させていたなんて噂が広がったら面倒くさくなるのは間違い無かった。この人みたいに奴隷志望の子も現れるかもしれないし、月村さんってエレナさんの娘って地位利用してどうこうしてるとも思われるのはごめんだった。
「はぁ……分かりました。ホントに週一回だけですからね」
「契約成立ね」
そう言うと今村先輩はとても嬉しそうな表情をしていた。ホントに何でこんな事に……
「それで私は何をしたらいいんですか?」
「えっと……まず今村先輩って呼び方をやめて欲しいかな。美彩でいいよ。後敬語も辞めてね。それで今日からスタートでいいのかな?」
同性の私相手にそんな顔を赤らめられても困る……まぁそれは人の好きの形だから何も言わないけど、美彩の好きの形は歪みすぎてる。
「まぁいいけど。それで私は何をしたらいいの?」
「そうね。まずは軽めに頭を踏んでもらえる?」
「軽めに???それで軽いの?まだ先があるのめちゃくちゃ怖いんだけど」
「大丈夫だよ。それじゃ強気に命令して貰える?何私の前に立ってるの?早く土下座してよこの雌豚!って」
「気持ち悪い……」
やべ、素が出ちゃった。流石に先輩相手に悪いと思って謝ろうとしたのだが美彩は逆だった。
「はぅ!セルフで罵って貰えるなんて美彩は幸せです」
喜んでる……エレナ感激です!の顔してるよこの人。
「はぁ……何私の前に立ってるのよ?早く土下座してよこの雌豚!早く土下座してよほんっとに気持ち悪い!」
「はい!私如きが二足歩行しててごめんなさい!こんな私に罰をお与え下さい彩葉様!」
そう言うと美彩は、私の前にすんごい勢いで土下座をした。ホントにこんな綺麗な人の頭踏んでいいの……
流石に上履きで踏むのはあれだったので、上履きを脱いで靴下でちょこんと美彩の頭を踏んだ。
「最高すぎて死にそう……美彩感激ですわ!」
私の足の下ではぁはぁと息が荒くなっている美彩を見ると、楓お母さんの足を舐めて喜んでるエレナお母さんを思い出して頭が痛くなってきた。
「あんたも感激です言うんかい!!!はぁ……楓お母さん助けて……」
最悪な関係がスタートしてしまった。こんな事なら屋上に来なければよかった……
彩葉「はぁ……エレナお母さんいつものやつやって」
エレナ「何よいつものやつって?」
彩葉「感激です!」
エレナ「別にあれは持ちネタじゃないわよ……何かあったの学校で?」
彩葉「別に何もないよ。楓お母さん1番最初にエレナお母さんに足舐められた時どんな気分だった?」
楓「そりゃ気持ち悪かったよ……しかもあの頃ってメイドとお嬢様だったから尚更複雑な気持ちになったもん。ほらエレナ別に今そういう雰囲気じゃねいから」
彩葉「楓お母さん、エレナお母さん踏んで欲しそうだから踏んであげたら?」
楓「なんで娘の前でそんな事しなきゃいけないのよ……」
エレナ「放置プレーですね!エレナ感激です!」
彩葉、楓「はぁ……」