「んん……私あのまま寝ちゃったんだ。あれ?」
私は右手と左手から誰かの体温を感じた。その温もりの正体は、右手は楓お姉さんが、左手はエレナお姉さんが私と手を繋いでくれていたみたいだった。
「そっか……今日から楓お姉さんとエレナお姉さんが私のお母さんなんだ……」
私はその幸せを確かめるように2人の手を強く握って再び布団の中へ入った。2人が起きるまではこうしてずっと手を握っていたいと思ったのだ。血は繋がっていなくても私達はしっかりとした家族なんだ。
「楓お母さん、エレナお母さん。これから宜しくお願いします」
お母さん……か。なんだかとっても恥ずかしいな。昨日までお姉さんって言ってたんだもんね。
「んん……おはよ瑠衣ちゃん」
「おはようございます」
先に楓お姉さんが目を覚ましたみたいだ。
「もう家族になるんだから敬語じゃなくていいんだよ?」
楓お姉さんが笑いながら私に話していた。
「えっと……まだ慣れなくて。慣れたらタメ語って形じゃダメでしょうか?」
「瑠衣ちゃんのペースでいいよ。少しずつでいいよ」
「ありがとうございます」
ホントに楓お姉さんは優しい。こんなに綺麗な笑顔を浮かべる人は今まで見たことがなかった。
「後ね、多分もう少ししたらお母さん来ると思うからさ。一応施設でお世話になったんだしちゃんとお礼しなきゃダメだからね?出来る?」
「もちろんです。私の事を1番見てくれていたのは紅葉さんでしたから」
「そっか!それじゃ朝ごはん作ってあげるからエレナ起こしてリビング連れてきてくれる?」
「分かりました」
そう言うと楓お姉さんは寝室からリビングの方へと向かって行った。
さてと、私はエレナお姉さんを起こさなくっちゃ。こうしてまぶたを閉じているとホントにお人形さんみたいだなこの人……綺麗すぎて逆に怖いよ。この人に欠点とかあるのかな?
「エレナお姉さん朝ですよ。楓お姉さんが朝ごはん作ってくれてるので起きてください」
「ん……後少し……」
「ちょっとエレナお姉さん!」
エレナお姉さんは寝返りを打って私から距離を置くようにくるくると転がっていた。
器用な逃げ方するなぁ……朝弱いのかな?じゃあ1つ欠点見つけちゃったかな。
私は、頭の中にエレナお姉さんは朝が弱いと言うことをメモした。ってか起こさなきゃだよね。楓お姉さんから頼まれてるんだし。
「エレナお姉さんいい加減起きてくださいよー!もう……これじゃどっちが子供か分からないじゃないですか……」
声だけじゃ拉致があかないと思った私はエレナお姉さんに馬乗りになって体を揺することにした。私ぐらいの体重なら痛くないだろうし大丈夫だよね?
「お姉さん朝ですよ。起きてください」
「んーー……楓?」
「楓お姉さんじゃないですよ。瑠衣です」
「楓様エレナを虐めてくれるんですね!?わざわざ上に乗ってくれるなんてエレナはホントに嬉しいです!」
「ちょ!ちょっとエレナお姉さん!楓お姉さんじゃないってば!」
どどどどうしちゃったんだろエレナお姉さん。何か変なものでも食べたのだろうか。私はエレナお姉さんの視線がある一点に向いていることに気が付いた。
「あの……なんでずっと私の足を見てるんですか……」
「楓様焦らさないで下さい……いつもみたいにエレナに口で綺麗にしてよって命令して欲しいです……」
「………楓お姉さーん!助けてー!!!」
拉致があかないとふんだ私は、楓お姉さんに助けを求めるべくリビングまで届くように大きな声を出した。きっとエレナお姉さんは寝ぼけて私と楓お姉さんを間違えているみたいだった。重大な欠点見つけちゃったかなそれにしても……エレナお姉さんは極度なマゾみたいだった……
「どうしたの瑠衣ちゃん!あれ?特に何ともないみたいだけどどうしかした?」
息を切らせながら楓お姉さんは寝室に現れた。ホントにこんな事で呼んでしまって申し訳ない。
「実はエレナお姉さんが寝ぼけて……ゴニョゴニョ」
少し悪い気はしたが、私は楓お姉さんに先程のエレナお姉さん寝ぼけ事件を全て話した。それを聞いた楓お姉さんはと言うと……
「ちょっとエレナ!!!」
初めて楓お姉さんが怒っているのを見た。やっぱり楓お姉さんも怒る時は怒るよね。
「んー………何よ朝から騒々しいわね。って…楓さん?何でそんな怖い顔をしてるのかしら……私何もしてないわよね?」
「してなかったら怒ってないぐらいわかんないの?ねぇ?瑠衣ちゃんが折角エレナの事起こそうとしたのにエレナはどうしたと思う?」
「えっと……もしかして手を出したりしてないわよね?寝ぼけててパチーンとかビンタとかしたとかじゃ……」
エレナお姉さんの顔がどんどん青ざめていくのがわかった。手を出したの意味合いが違うんだよね……
「そんな事したら今すぐ別れてるよ。何をしたか聴きたい?」
「えぇまぁ。そんなに楓が怒るのも珍しいし」
「はぁ……エレナがした事って言うのはね」
楓お姉さんは若干呆れながらエレナお姉さんに説明していた。それを聞いたエレナお姉さんはと言うと……
「マジ……?」
「マジだから怒ってるんでしょ……ホントに勘弁してよね。瑠衣ちゃんに変な性癖ついたらどう責任取るわけ?それにまだ5歳の女の子に変な事教えないでよね。いくら瑠衣ちゃんが頭いいからって」
「あ、あの、私は大丈夫ですからここら辺で……」
「瑠衣ちゃんがそう言うならいいけど……」
楓お姉さんの怒りが鎮む様子が無かったので私は会話を切った。
「瑠衣ちゃんごめんね。折角起こしてくれようとしたのに」
謝るエレナお姉さんは、本当に反省しているみたいで暗い表情をしていた。
「大丈夫ですよ。誰にでも人間欠点ぐらいありますから。それじゃリビング行きましょうよ」
「ありがとう。そうね」
朝の珍事は無事に解決し、私は楓お姉さんが作る朝ごはんを楽しみに待っていた。
ピンポーン……ピンポーン
「あ!多分お母さんだからエレナ出てあげて」
「随分早いのね。分かったわ」
時刻は朝の9:30。施設なら丁度ご飯を食べてる時間ぐらいかな。きっと皆がご飯を食べてる時に抜けてきたのかな。
玄関から紅葉さんの声が聞こえてきた。やっぱり紅葉さんだったみたいだった。
「ごめんね朝早くに。瑠衣ちゃん昨日はよく眠れた?」
「おはようございます。はい。いつも通りに寝れましたよ」
「そっか。なら良かった。それで引き継ぎ前に大切な事を言わなきゃいけないんだけどいいかしら?」
「お母さん。後ちょっとで朝ごはん出来るから食べながらでもいい?」
「大丈夫よ」
「ありがと。コーヒー飲むよね?」
「うん。お願い」
大切な事?戸籍とかも変えなきゃだと思うしそれ以上に何かあるのかな?
楓お姉さんの言った通り数分でテーブルの上には焼き鮭、わかめのお味噌、白米、レタスをちぎったものが並べられた。
「皆お待たせ!それじゃ食べよっか。いただきます」
「「いただきます」」
「さてと……私もあまり時間がないから早速だけど本題ね。瑠衣ちゃんの名前についてなんだけど、瑠衣って言うのは私達が付けた名前なのよ。仮名って言うのかな。もちろん瑠衣ちゃんさえよければ今の名前のまま月村瑠衣で戸籍登録しても構わないわ。でも、瑠衣ちゃんが楓やエレナちゃんに違う名前を付けて欲しいんならそっちにした方がいいと思ったのよ」
名前か……深く考えたことは無かったけどせっかくだから楓お姉さんとエレナお姉さんに付けて欲しい。新しいスタートを切るのにも丁度いいとも思えた。
「えっと……楓お姉さん、エレナお姉さん。私に名前を付けて貰えませんか。私は今日からお二人の娘です。施設の仮の名前で呼ばれるならお二人に名前を付けて欲しいです」
私は2人の目を見ながら真剣に話した。
「そっか。じゃあエレナ。前から決めてた名前にしよっか」
「そうね。私も賛成よ」
どうやら楓お姉さんとエレナお姉さんは前から私の名前について考えてくれていたみたいだった。
「前からですか?」
「うん。実は言うとね。瑠衣ちゃんと初めて会った日から私達と家族になって欲しいなって思ってたんだ。それで名前なんだけど……」
一体どんな名前になるのだろうか……きっと人生で2回目の名前を貰う人なんて日本じゃホントに少ないよね。
「はい」
「彩葉って名前はどうかな?彩ろに葉っぱの葉。彩りある人生を歩んで欲しいっていう思いでこの名前にしたの。もちろん瑠衣ちゃんが嫌なら考え直すよ」
彩葉……嫌いじゃない。今の私は色で表したら透明色だもん。色々な色を重ねてこれから生きていきたい。私には豪華な名前かもしれないけどせっかく楓お姉さんとエレナお姉さんが考えてくれたんだもん。名前に恥じないように生きていかなくっちゃ。
「彩葉……とっても素敵な名前だと思います。名前負けしないように頑張って生きていきますね」
「改めて宜しくね彩葉」
「はい。宜しくお願いします楓お姉さん、エレナお姉さん」
「ふふ、お母さんでいいって言ってるのに」
「まぁ彩葉らしくていいんじゃない?でもずーっとお姉さん呼び続いたら私が彩葉の足舐めるからね?それが嫌なら半年以内にちゃんとお母さんって言えるようになること?いいわね?」
「それだけは勘弁して下さい……」
エレナお姉さんの発言に楓お姉さんと紅葉さんは笑っていた。こうやって家族皆でこれから笑って過ごして行くんだろうなと思うと楽しみで仕方がなかった。
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