プロローグ
━━薄れゆく意識の中、私は目の前の青年…『若き日の私』に対し、微笑んだ。
彼は見事に達成した。私に出来なかったこと…成し得なかったことを…彼が達成してくれたのだ。
これほどの幸せ、幸福はない…私は、もう思い残すことなどない。そう思えた。
今後の事は、彼に任せよう。私はもう━━疲れた。
50年もの月日を、孤独に戦い続け、何も知らない人々を殺した。最低最悪の魔王として。
だがそれは、私にとって最高最善を貫いた結果なのだ。言いたくはないが、世界を根本から変えるためには彼らは犠牲になるしかなかった。
私とて、好きで彼らを殺していたわけではない。
彼らは私を敵と認識し、私と戦おうとしていた。言葉が通じないなら、力で応じるしかなかったのだ。
だが、そんな人生に終わりの刻が訪れた。
私は消えるのだ。書き換えられる世界と共に、綺麗サッパリ…誰かの記憶に残ることもなく。
…若き日の私はこう言っていた。『時計の針は、巻き戻っているように見えても、未来へ進んでいるんだ』と━━。
ならば私がしてきたことは、無駄に終わるわけではない。
それだけで、私は安心できた。
これからは、王になりたいと純粋に願い続けていた若き日の私へ、全てを託そう…。
私の身体が光り輝き、完全に消え去ろうとしていることが分かる。
せめて…せめてもの贈り物として、今私が使える全ての力を使い、彼を幸せにしようではないか。
ゲイツ…ツクヨミ…そして若き日の私よ。私が得られなかった幸せを…次の世界で、お前たちが……。
最後の力を振り絞り、私は未来創造能力を使った。
それがどのような結果になったかは、今となっては定かではない。
だが、私にとって…若き日の私にとって、とても有意義になっていることは、確実だろう。
…これにて、最低最悪にして最高最善の魔王である私は、永遠の眠りにつける━━
『本当に、そうかしら』
━━と、思っていたのだがな。
「…何者だ。まさかこのような時にまで語り掛けてくる奴がいるとは」
「お褒めに与り光栄ですわ、逢魔時王。私の名は"八雲 紫"。以後お見知りおきを」
突如目の前に空間の裂け目が出来、女が現れた。
空間転移の類のようだが、彼女……八雲 紫とは何者なのだろうか。
「…私を逢魔時王と知り、このような狼藉を働くとは…」
「あら、狼藉なんて酷いですわ。『常盤ソウゴ』ならそのような事仰らないのでは?」
「………」
なるほど、若き日の私を知っているか…これはまた、やりづらい相手がいたものだ。
「…では問おう。八雲 紫よ。貴様の目的はなんだ」
「…………」
八雲 紫はしばし目を伏せ、考え込んでいた。
まるで、決意するかのように
「単刀直入に申し上げます、逢魔時王。そのお力で、私たちを救っていただけないでしょうか」
「………」
今、目を開けた私の先に広がる光景は、自然一色。森の中だった。
足元の湖は透明度が高く、故に私自身の顔もよく見えた。
「若き日の私………いや━━」
そこに映っていたのは…。
「若き日の俺…か」
まだオーマジオウになったばかりの…19歳だった俺の顔が映っていたのだ。
とりあえずプロローグはこれくらいで。
次回にまた少し紫とのやり取りを入れときます