俺は手放していた意識を戻し、静かに目を開いた。
「おはようございます。ゆっくりお休み出来ましたか?」
勿論、膝枕をしていた紫の顔だけが見えてくるわけなのだが…。
「…ずっとやっていたのか?」
「はい♪」
やはり、女というのは分からん。
俺は身体を起こし、辺りを見回す。
「俺が寝てから、どれくらい経った?」
「1時間でございますわ」
彼とはそこまで話し込んだつもりはないのだが、どうやら流れが違ったらしい。
……1時間も膝枕してたのかと呆れたのは内緒だ。
「……では、行くか」
「? どこへですか?」
俺の言葉に、紫は首を傾げる。
そうか、彼女はまだ知らないんだったな。
「霊夢の所だ」
時刻は恐らく、昼過ぎ。
静かな森の中を、俺は歩いていた。──紫と共に。
「神社で待っていても良かったんだが…」
「なりません。先ほども危ない状況でしたのに、傍にいなくては今度こそ貴方様が死んでしまいます」
「………はぁ」
ため息を吐きながら、俺は足を止める。
そして、背後にいる紫へ顔を向け──。
「どうなっても知らないぞ」
紫は冷や汗を流しながら、目を見開いた。
その表情は戸惑いに満ちているが、俺は気にしない。
再び足を動かし、霊夢の元へと進み続けるだけだ。
そして、再び謝ろう。今度は、誠心誠意…思いを込めて。
「よもや、そちらの方から出向いてくるとは…」
森の中を歩く事十数分。
目の前に、先ほどの男が現れた。
「まさか、八雲 紫まで……何のつもりだ? 古き魔王」
「………ふっ」
男の言葉を、鼻で笑った。
そして告げる。 いや、宣言する。
「確かに私は古き魔王。 時代に取り残され、人類を苦しめ続けた墓守の王だ。だが、今は違う」
私に言葉に、目の前の男は眉を顰める。
「私は決めた。 この世界で、再び王を目指す」
「!」
私の言葉に、紫は驚愕の表情を見せる。
「『逢魔時王』という最低最悪の魔王を捨て、この世界で──『逢魔時王』という最高最善の魔王になる。 そう決めたのだ」
「っ……逢魔様…!」
背後の紫が何やらうっとりとした顔をしているが、気にしない。
「……くっ、はははは!!」
だが反対に、男は大笑いしている。
彼の隣に佇む霊夢は、やはり無言だ。
「ははは……あー…笑わせてくれるじゃないか、古き魔王。 感動したよ──」
「──だが無意味だ」
へらへらとした表情から一転。
その顔は一瞬で殺意と憎しみ、何から何まで混ざり合った状態になった。
「この世界の王は既に選出されている。 私の尊敬するあのお方が、この幻想郷の王となるんだ!」
「あのお方だと?」
「あぁそうだ。 彼女に与えたこの力、これこそあのお方の力の一端。 一度負けた身なら分かるだろう? 古き魔王よ。貴様ごときがあのお方に敵うはずがないんだ」
「ほう…」
何故、そう思える?
一度負けたからか?
それとも純粋に、私よりもそのお方とやらが強いからか?
───面白い。
「下がっていろ、紫」
紫にそう告げ、俺はジクウドライバーを腰に装着する。
「フン…行け」
男の一言で、霊夢は一歩一歩こちらへ近づく。
『ジィーニアス…』
自らアナザーウォッチを起動し、胸へ添える。
苦しむ様子もなく、瞬く間に彼女の姿はアナザージーニアスへと変身した。
「八雲 紫も見ておくがいい。自らが選んだ王が、どれほど弱く、惨めな存在か」
私は対峙しているアナザージーニアスを見つめ、目を閉じる。
覚悟は出来た。
──待っていろ、霊夢。
「……なに? この空気…」
後ろで見守っていた紫は、どうやら何かを感じ取ったらしい。
流石は賢者と呼ばれる者だ。
「貴様っ…それは…!」
この男も、気づいたようだ。
今、俺の腰に装着されている物がオーマジオウドライバーだということに。
「…使わせてもらうぞ、若き日の私よ」
ドライバーの両端に手を添え、目を開く。
それと同時に、私の背後の地面に巨大で赤黒く燃え盛る時計が大地を裂きながら出現した。
「変身」
「
左右のボタンを押したと同時に、地面に浮かび上がった『ライダー』の文字が溶岩で満たされ、空中へ浮きあがる。
そして、無数の赤黒い帯状のモノに包まれた私は、その姿をオーマジオウへと変えていく。
『最高 最善 最大 最強王』
『オーマジオウ!』
空中を漂っている『ライダー』が顔にセットされる。
その際の余波で、周囲の木々が揺れ、鳥が飛び立つ。
紫は膝をつき、男も足を揺らしている。
それもそうだろう。
このオーマジオウの前に、普通でいられる奴なんていない。
…まぁ、目の前のアナザージーニアスは、多少おぼついただけで、それ以外は何も変わらないようだが。
「…どうした。先ほどの威勢は」
俺は、足を揺らしている男へ語り掛ける。
「きさ…貴様……っ、何故その力を…!!」
「なんだ、随分と震えているのだな。……お前の主君は私より強いのではなかったか?」
「っっっ……やれ!」
男の一言で、アナザージーニアスはこちらへ走り出してくる。
反撃? するわけがないだろう。
「……!」
アナザージーニアスの拳がぶつかる。
だが、私は動かない。
「……来い。お前の全てを受け止めてやる」
「っ……!!!」
私の言葉で火が付いたのか、アナザージーニアスは一撃、二撃──およそ二十撃ほどの拳を、連続で繰り出してくる。
だが、動かない。
動かせない。 それは何故か?
「何故だ……何故効かない……!!?」
決まっているだろう。
「私が生まれながらの王だからだ」
オーマコーザリティーハンドの能力を使い、アナザージーニアスを空中へ浮遊させる。
「…っ! ……!!」
必死にもがいているアナザージーニアスだが、因果律操作の前では抵抗など無意味だ。
「フンッ!!!」
衝撃波を放ち、アナザージーニアスを数十メートル先へ吹き飛ばす。
その際に木々をなぎ倒していったが、一種の仕返しとでも考えればそれでいい。
「グッ……グググ……」
アナザージーニアスが、初めて声を発しながら起き上がろうとしていた。
それも、霊夢の声に近い形で。
「……どうした。その程度か? 天才」
俺はアナザージーニアスの元へゆっくりと近づいていき、両手を広げた。
もっと来いという、挑発だ。
すると突然現れたグラフが私を拘束し、動きを封じた。
素早く起き上がったアナザージーニアスは、そのグラフに乗り、私に蹴りを放とうと──
「仕返し、第二弾だ」
──したところで、動きが止まった。
いや、時を止めたのだ。私が。
「ハァッ!!」
再び因果律を操作し、グラフを破壊する。
そしてそのまま、私はアナザージーニアスを蹴り上げる。
「…これで、終わりだ」
『ビルド!』
ビルドライドウォッチを起動し、仮面ライダービルドを召喚する。
ただし、ただのビルドではない。
【ビルド ジーニアスフォーム】だ。
「目には目を。毒には毒を。──天才には、天才だ」
そして、再びドライバーの両端を押す。
『
召喚されたビルドも、それに合わせるようにドライバーのレバーを回転させる。
『ワンサイド! 逆サイド! オールサイド!』
すると、空中にいたアナザージーニアスを、大きな垂直方向の虹グラフが拘束する。
そして、私はドライバーの端を再度押す。
『ビルドの
私とビルドは、共に飛び上がる。
アナザージーニアスよりも、遥か上空へと。
そして、そのままアナザージーニアスに向けて──。
『ボルテックフィニッシュ!!』
『ジーニアスフィニッシュ!!』
──ダブルライダーキックを放った。
【紫side】
私は、見てしまった。
彼の真の実力を。
彼の絶対的な力を。
彼と、彼に召喚された者が最後に放った技…その威力は絶大で、周囲一帯は木々がなくなり、地面には大きなクレーターが出来ていた。
クレーターの中心には煙が上がっており、何があるのかは確認できない。
次第にその煙はなくなっていき、一人のシルエットが確認できた。
「………!!」
我ながら、今思えば恥ずかしい事だ。
賢者ともあろう者が、このような涙を流してしまうなんて。
「──逢魔様…!」
そこには、微笑みと共に霊夢を抱えている愛おしき王が、立っていた。
はぁぁぁぁぁ……きちぃ()
オーマジオウの強さを如何に表現するかですよねぇ…俺TUEEEなキャラの戦闘シーンってこれが初なんですけど、結構不安です
ちなみに今話、紫が逢魔様としか言っていない気もしますが、単純に喋らせる暇がなくそれくらいしか台詞が思いつかなかったせいです()