神社には時計がない。
故に、今が何時か、詳しくは特定できないのだが…。
恐らく、既に誰もが寝静まっているであろう深夜。
俺は一人で森に来ていた。
「…………」
まぁ、正確に言うと一人ではない。
「出てこい、紫。いるのだろう?」
「───ふふっ、流石は逢魔時王…いえ、逢魔様ですわ。 一体なぜ?」
「お前の視線は独特だからな、一度浴びたら忘れることなど出来んよ」
「あらあら、嬉しいお話ですわね。 ……それで、何の御用でしょう?」
「…なに、少し謝罪をな」
「………はい?」
紫は拍子抜けとでも言わんばかりの顔をしている。
何か、重大な事を言われると思っていたのだろうか…いや、これも重大ではあるんだがな。
「…今の私は逢魔の力が使えない。 だから、微妙な形で期待に応えられないのだ。すまない」
「…………」
紫はだんまりとしていたが、次第に肩が揺れ始め…。
「ぷっ…ふふふ…はははは!」
見た目と裏腹な笑い方をしながら、彼女は両手で腹を押さえている。
ふむ、笑われるようなことしたか?
「あっ…んんっ、申し訳ございません。あまりの素直さに…」
「それは構わないんだが…」
「えっと、謝罪でしたかしら…その辺に関してはお気になさらず。こちらとしても、貴方様がいてくれるだけで大きく違いますから」
「…そうか。それは良かった」
「ふふふ……それにしても…」
一頻り笑った後、紫が私の方を見て何か考え込んでいた。
「貴方様はまるで…そう、ギャップ萌え! ギャップ萌えの塊ですね!」
何やら訳の分からない事を言い始めた。
ギャップ…萌え…ふむ、意味が分からないわけではない。
私が生きていた時代の半世紀ほど前…学生だった私はそのような単語を何回も聞いた。
身近にそのような創作物を好きな奴がいたからだ。
しかしまぁ…まさか私がギャップ萌えだと言われる日が来るとは…。
「そんなにギャップ萌えか? 私は…」
「そう、それですよそれ」
「んん?」
「そのあどけなさそうな顔でその話し方…可愛い顔で俺様口調…ギャップ萌えですわ!」
……今後の紫に対する印象を変えるべきだろうか。
「…そんなに、私は可愛い顔をしているか?」
「えぇ、えぇ。していますとも。 霊夢も若干意識していましたわ」
「…………」
思い返してみるが、霊夢がそのような態度を見せた所はない。
恐らく、紫の勘違いだろうな。
「……ふぅ、まぁいい。 それで俺はこれからどうするべきだ?」
紫に、今の自分は逢魔時王ではなく逢魔として接している事を仄めかせる。
「そう、ですね…あまり無理はさせたくありませんので、ご自分のペースで調査を続けてください。オーマジオウへの道も、そのうち見つかるかもしれませんわ」
「分かった。…では明日は、霊夢に幻想郷の案内でも頼むか」
「あら、デートですの?」
デートではないだろう。
どう考えても。
デートでは………ないはずだ。
………不味いな、幼き頃から王になりたいとばかり思っていたせいか、その辺は未だ未知の領域だ。
初恋は……まぁ、子供ならではだな。
「……今日はもう寝る。 お前も寝ておけよ」
「えっ」
「……ん?」
立ち去ろうとした俺を、紫の声と布の音が引き留めた。
振り返ってみると…。
「…何故服を脱いでいる? 紫よ…」
「ふふ、王たる者には夜伽が必要ではなくて?」
ニヤニヤしながらも、紫は服を脱ぐ手を止めない。
「……そうか。では後は頼んだ」
時間も時間だろうから、俺は早急にその場を立ち去ったのだ。
「そんな殺生な」という叫び声が聞こえた気がしたが、何も知らない。聴いていない。
……明日から、忙しくなりそうだな。
ゼロワンドライバー買いました~
明日は全裸待機せねば…(使命感)