ガンダムBF OVER   作:i am

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1話 ガンプラ

幼いときに何度も見たDVDがある。

何年か前のガンプラバトル世界大会だ。

繰り返し繰り返し見たから、もう頭のなかで完璧に再現できる。

僕の大好きな機体、スタービルドストライクはこの大会で優勝し、世界を驚かせた。ビルダーの固定概念にとらわれないプラフスキー粒子を使用した柔軟な発想、乗り手の戦局を見極め切り返す咄嗟の判断力、未だに僕が憧れる機体とビルダーとパイロットだ。

今では見なくなったけど、当時は僕も絶対こんな機体を創って世界大会に出るんだ!と父母に意気込んでいた。

 

今となっては、幻想を見ていた楽しい時間だったと思う。

 

 

 

 

「帰ろーぜ、ワタル」

 

「ん、あぁ」

 

机にべったりとつけていた上半身を起こして覚めきってない頭で一言返した。

 

「にしてもよく寝るよな」

 

「お前も人のこと言えるのか?2限3限ぐっすり寝てたの見てたからな」

 

「俺みてるなら黒板見ろよ」

 

なんで寝てた奴から正論を言われなきゃいけないんだ。

しかも真顔、どんな神経で言ってるんだ。思わずため息が出る。

こんな中身のない会話でも脳は動くらしい。馬鹿らしくなって鞄を手に取ると椅子を押して整えてから、教室を出た。これから何しようか、隣で何か聞こえるがそれは心底どうでもよいので、これからの予定を考えていた。

 

キヤマ=ワタルとオカモト=ケイジ、どこにでもいる二人組。これといってクラスで目立つこともないし、話題になることもない。ただ少し周囲と違う点は、ガンプラバトルをやらない、ことだ。

ガンプラバトルは最早一度は人間誰もが通る道みたいなもので、僕ら二人一度も触れてない訳ではない。

触れて、そして辞めた。それぞれ事情が、何か考えがあって、辞めた。

 

 

放課後はガンプラバトル、なんてのは常識みたいなもので近くの模型店や大型ショッピングセンターに直行する学生は多い。日が暮れるまでガンプラバトルに没頭し、日夜腕を磨いているのだ。更に部活も盛んで全国大会など大規模な大会や交流会が開かれている。

ウチにもあったような、なかったような。

 

「なぁ、うちの学校ってガンプラバトル部あったっけ?」

 

「え?あっただろ、確か」

 

ふーん、あったんだ。そうか。

僕たちがガンプラバトルに関わってないからこの話題も僕の質問だけで終わった。

 

学校を出てすぐの大通りを二人でブラブラ。することもない、なにするー、どうするー、を掛け合い進展しない話をしながらとりあえず足だけは進める。

数十分経った頃、ケイジが突然足を止めた。

 

「どうした?」

 

「そういえば、買うパーツあったんだ」

 

「それじゃあ、行くか。どうせ暇だし」

 

ケイジが足を止めたのは小さな個人経営の模型屋。見慣れない建物だ、こんな場所に模型屋なんてできてたんだ、前まではコンビニだった気がする。

興味もあってかケイジの買い物に付き合うことにした。

 

ケイジはガンプラバトルはやらないがガンプラは好きである。ビルダーとしてなら確かな腕を持っている。

彼曰くバトルは向いてない、とのこと。

だからビル専、ビルダー専門である。

部屋には結構な数のガンプラがショーケースに並べられている。どれもこれも新品、傷一つない。当たり前だ、ケイジのガンプラはフィールドを駆け回るために生まれた訳じゃないから。

それを心無い連中は「勿体無い」、「戦ってこそガンプラ」なんて言ってきた時もある。

それに対して「戦うだけじゃない、魅せることが出来る、それがガンプラだ」と返したのはちょっとかっこよかった。こいつは、普段気も抜けてるしヘラヘラしててドジだが、ビルダーである自分を恥ずかしいなどと思ってはない。だから、応援している。

 

「昨日冗談でドムのスカート部分にリボン着けたらさ、なんか申し訳なくなってさ...」

 

店の入り口で突然話しかけてきたと思ったらこれだ。

折角人が誉めた途端裏切るような話をしないでくれ。

まぁ、今のケイジはビルダーじゃないから...平常運転だ。

 

「お、ここガンプラバトル出来るんだな」

 

「へぇ...」

 

話しかけておいて次に飛び付いたのは入り口左のガラス越しに行われていたガンプラバトル。小さい店だけどしっかり置いているんだ。

ガラスに引っ付き覗きこむケイジの横に立ちフィールドを眺めた。

都市部フィールド、一機は建物の間を走り回り間合いを取りながらマシンガンで牽制している。ヘッドと背負ったWRを見るに陸戦型ガンダムかな。

対するは赤いオーラを纏ったMS、肩部分を赤に染めたイフリート。EXAM搭載のイフリート改だ。

ビルを次から次へと飛び移り、高機動を利用して陸戦型との距離を詰めていく。

 

「あのイフリート改、動きが違うな。素人でもわかる」

 

「...そうだな」

 

このフィールドにはマシンガン以外にも舞うものがある。見えてしまう、僕には。

ケイジには、この二機を操作するパイロットには見えないかもしれないが、僕には、今見えている。

青い光、粒々が束になって発射されたマシンガンの弾を取り囲むように浮遊しながら飛んでいっていく。

粒子の光、プラフスキー粒子。

僕は、これが見えてしまったから、ガンプラバトルを辞めた。


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