初めてガンプラバトルを生で見た時の興奮は覚えている。会場の割れんばかりの歓声に答えるように、二機のガンプラが星が遠く光る宇宙で持てる力全てをぶつけた。射撃、格闘、果ては武器さえ捨てた肉弾戦にまで縺れた。
どんな機体で結末がどうなったか曖昧。だが当時の僕にとってはガンプラバトルを生で見れただけで十分だった。
あのガンプラが自分の目の前で戦う、それだけで興奮しっぱなしだ。帰宅する車内で運転する父と後ろに座る母に興奮冷めやらぬ僕はずっと観戦したガンプラバトルのことについて話しかけていた。呆れることにそれは家に着くまでずっと、小一時間は喋っていた。
僕もあのフィールドで自分のガンプラで!
繰り返し口にしたあの夢、最早遠い過去の話。
あの頃の僕が今の僕を見たら、どう思うのか。
きっと失望するだろうな。ガンプラにさえ触れない今の状態なんて、考えもしなかった。
でももし、僕の意思が強ければ、粒子が見えるだけと思い込めれば、ガンプラバトルをやっていたのかもしれない。
しかし僕は、自分が、粒子が見える異常な僕が怖くなった。
結局、あの時に口にした夢はただの憧れに過ぎなかったのか。
「おーいワタル?」
「え、あぁ」
バトルは既に終わっていた。結末はどうなったのか、途中から自分の世界に入ってしまったため見届けることが出来なかった。
「結構見入ってたよな、その間に買うもの買わせて貰ったぜ」
「そうか、それじゃあ出るか?」
「お前は何か買うものとかって...ないか」
「勝手に決めつけるなよ...いや、まぁないけど」
「そうだよな、お前出来ないもんな、ガンプラバトルもビルドも」
出来ない、僕は勉強はできるけどガンプラに関しては全くの素人、そう設定している。
これなら、無理にガンプラバトルに誘われたりもしない。ガンプラと距離を置いて生活できる。
僕はあの日からこうして生きている。
「ビルドなら教えてやるけど、やってみる気になったか?」
「んー、やっぱり遠慮しておく、不器用だし向いてないかな。」
ケイジとはよくこんなやり取りをするが、その度に断っている。ケイジなりの気遣いなのか、有り難いけど僕はもう触らないと決めている。
そうか、と呟くとガンプラの話題はそこで終わった。
直ぐにケイジは共通のアニメの話に切り替えてきた。僕もガンプラのことは忘れ直ぐ様乗っかっていく。
入り口まで進み、開閉ボタンを押してドアを開くと、そこには僕らと同じ制服を着た男子が立っていた。
快晴の澄み渡る空の色をした綺麗な髪色が目立ち、背はそれほど高くなく柔和な顔立ちをしている。
「すみません、邪魔ですね」
僕らに気づいた彼はそう言うと立っていた場所から数歩横にそれた。
その間際、両手で抱えられているイフリート改が目に入った。このガンプラ、さっきガンプラバトルで戦っていた機体だ。あのパイロットは彼だったのか。
「お、さっきのイフリート改!」
ケイジも目に入ったようで指差して早速食いついた。彼も大事に抱えながら自身のガンプラを見えやすいように胸まで挙げた。
「バトル、見てたのですか...恥ずかしいです」
「恥ずかしい?そんなことないって!すごかったよ、ガンプラバトル素人の俺達でも無駄のない動きしてたってわかったよ」
「そそそそそんな!滅相もないです」
確かに、ビルを飛び移る動きに無駄はなく、手慣れていた。自身のガンプラのブースト性能を把握しているからこそ出来る芸当だ。何度も機体を動かしたに違いない。
「なぁ、名前は?」
「ボクですか?...フユト、タカヤマ=フユト...」
「俺オカモト=ケイジ、こっちがキヤマ=ワタル」
「オカモトくん、キヤマくん...覚えました!」
タカヤマくん、本当にイフリート改を動かしていたのか?
あのガンプラの動きを見た後に彼の言葉遣いや弱々しい態度を見ると、疑いたくもなってしまう。
真面目そうでもあるし、何度も反復練習した結果なのかな、使用している機体とのギャップもあるかも。
「それと俺達同学年だから、そんな丁寧じゃなくても。」
ケイジは胸元にあるネクタイを指差した。僕らの学校はネクタイの色が学年によって異なっている。1年は青、ここにいる3人とも同じ色だ。
「そうだったんだ、同じ一年生だったんだね。これから宜しくね。よかったら、またガンプラバトル一緒にやろうよ」
「あー、まぁ、そのときはな!いつか、いつか」
気を遣ったのか強がりか曖昧に答えた。ハッキリ断っておけよ、お前じゃ敵わないぞ。
あのイフリートにボコボコにされる姿が目に浮かぶ。
でも建物の間を縫うように接近してくるイフリート改にこいつは果たしてどんな手で迎え撃つのか、ちょっと見てみたい気もする。というかケイジはどれ位動かせるんだ?もしタカヤマくんとガンプラバトルする日は絶対見届けようと誓った。
「ごめんね、ボクそろそろ帰らないと。それじゃあね、オカモトくん、キヤマくん」
何度か腕時計を確認していたタカヤマくんは一礼して走っていった。偶然立ち寄った模型屋で偶然知り合いが一人増えた。
「ケイジ、本当にガンプラバトルするのか?」
「そ、そんなわけないだろ。ましてやあんな相手」
「なんで、ハッキリ言わなかったんだよ」
「いや、ほら、なんか、そのさ、強がった訳じゃなくて」
ビルダーモードに入ってないと、どうにもケイジはカッコ悪い。
T字路でケイジと別れ真っ直ぐ家に帰宅。玄関で靴を脱いでリビングに直行する。
「ただいま」
「お帰り」
母さんが台所から顔を出した。その横に並ぶと冷蔵庫を開け冷えたお茶を手にする。
「先に手を洗ってから!」
喉がカラカラなんだ。ケイジの話に付き合うと話題が多くて大変なんだから。渋々手を洗いコップとお茶の入った容器を手に取りリビングに戻った。
「ガンプラバトル小学生全国一決定戦!!」
テレビに映し出されていたのは、小学生のガンプラバトル大会。小学生とは思えないクオリティのガンプラが次々と紹介されていく。
ガルスJ、ジンクス、zガンダム、渋い試作機や量産機から主役機まで個性が出ている。ぼーっと眺めていた。
小学生、僕も当時は、楽しくやっていた。
きっとこんな大会があれば、飛び付いていた。
すると突然、画面が真っ暗になった。
「ワタル、ご飯できたから。」
「...うん」
沢山の人に、気を遣わせている。友達にも、親にも。
特に母さんには、辛い所を一番近くで見せてしまったから、尚更だ。
「ほら、運ぶの手伝って。」
手渡してきたのはカレーの鍋。ずっしりとした重みを感じながら、慎重にリビングのテーブルに置いた。
カレーか、今日はとても空腹だし、沢山食べよう。
満腹になったお腹を擦りながら、食べ過ぎたかなと呟く。重くなってきた瞼に逆らわずどんどんと意識が落ちていく。
ガンプラバトル、久しぶりに生で見た。やっぱり、動くガンプラが一番良い。あのフィールドを躍動する姿こそ、僕の憧れたガンプラバトルだ。
...やめよう、もう終わったんだ。僕はやるべきじゃない。周りとは違うから、見えてしまうから。
部屋に響く小さな寝息、僕のなんてことのない1日は終わった。
しかしここから、僕はまたガンプラと向き合う日を歩むこととなる。それは突然現れた嵐の転校生が僕の運命を変えた。
ジョアン=エレノアが、僕をガンプラに向き合わせた。