初めて自分の中に誰かいると理解したのはいつだろうか。遠い昔、まだ戦争という名前の殺戮が各地で起きていた時代。今でも戦争は起きているが、馬に人がのり矢が飛び交うその時代を中世と呼ぶことを後々私は知った。
私が死ぬことができなくなったことを理解したのは、荷馬車に轢かれても傷一つついていなかった時だ。行商人は私を見ると驚いた顔で立ち去り、そして憲兵に「魔女がいる」と私を密告した。私は直ぐに十字架に張付けにされ火あぶりの刑にされた。それでも私は死ぬことはない。意識を失い数時間後、目の前には焼け焦げた数多くの見物人が倒れていた。誰一人として息をしているものはいなかった。呆然としている私の頭の中に声が鳴り響いた。
『私を呼んだのはお前だな。名前はなんて言うんだ?』
その時の答えを私は覚えていない。当たり前だ。今、私は産まれたときにつけられた名前を思い出すことが出来ないのだ。その時に名乗ったのは紛れもなく、私の本当の名前。思い出すことを出来ない単語を含んだ言葉は、やはり思い出すことが出来ない。
私は怖かった。私の中に私の知らない誰かがいることが恐ろしかった。
しかし、彼女は優しかった。私という主人各を乗っ取ることをせずに私を受け入れてくれた。それどころかあらゆる災厄から守ってくれた。
数百年の時が流れ、私の中にさらに2人の人格が産まれた。私は3人の人格を抱えたまま、生きつづけた。生きる意味を考えたことはない。ただ、死ぬことが出来ないのだから生きるしかなかった。
そんな時、私の中の3人が願いを見つけたらしい。だったら私はせめて、私を守ってくれている3人の願いを叶えてあげたいと思った。そのために嘘をつき、父に出会った。
「みんな……どこに行っちゃったの……?」
頭の中で声が聞こえない。
どこか空虚な部分を感じる。私の頭にいたはずの誰か達が跡形もなく消えてしまった。
辺りを見回すとそこは見慣れた景色だった。表札を見ると雪音と書かれている。
「どうして……ですか……?」
どうやら私はクリスの家の前に置き去りにされたらしい。
S.O.N.Gの司令部である潜水艦で戦った彼女に会わせる顔はない。なのにどうして……
私は膝を抱え座り込んだ。夏の夜のねっとりと絡みつく暑さが全身に張り付く。
私には3人のように戦う力はない。私はいつも、主人各として3人の移動手段としてでしか役に立たない。だが……頭の中に3人はもういない。私は数百年の間を共に過ごしてきた同居人をなくしてしまった。胸が張り裂けそうな悲しみが襲いかかる。
呆然としている沙優を 初めて自分の中に誰かいると理解したのはいつだろうか。遠い昔、まだ戦争という名前の殺戮が各地で起きていた時代。今でも戦争は起きているが、馬に人がのり矢が飛び交うその時代を中世と呼ぶことを後々私は知った。
私が死ぬことができなくなったことを理解したのは、荷馬車に轢かれても傷一つついていなかった時だ。行商人は私を見ると驚いた顔で立ち去り、そして憲兵に「魔女がいる」と私を密告した。私は直ぐに十字架に張付けにされ火あぶりの刑にされた。それでも私は死ぬことはない。意識を失い数時間後、目の前には焼け焦げた数多くの見物人が倒れていた。誰一人として息をしているものはいなかった。呆然としている私の頭の中に声が鳴り響いた。
『私を呼んだのはお前だな。名前はなんて言うんだ?』
その時の答えを私は覚えていない。当たり前だ。今、私は産まれたときにつけられた名前を思い出すことが出来ないのだ。その時に名乗ったのは紛れもなく、私の本当の名前。思い出すことを出来ない単語を含んだ言葉は、やはり思い出すことが出来ない。
私は怖かった。私の中に私の知らない誰かがいることが恐ろしかった。
しかし、彼女は優しかった。私という主人各を乗っ取ることをせずに私を受け入れてくれた。それどころかあらゆる災厄から守ってくれた。
数百年の時が流れ、私の中にさらに2人の人格が産まれた。私は3人の人格を抱えたまま、生きつづけた。生きる意味を考えたことはない。ただ、死ぬことが出来ないのだから生きるしかなかった。
そんな時、私の中の3人が願いを見つけたらしい。だったら私はせめて、私を守ってくれている3人の願いを叶えてあげたいと思った。そのために嘘をつき、父に出会った。
「みんな……どこに行っちゃったの……?」
頭の中で声が聞こえない。
どこか空虚な部分を感じる。私の頭にいたはずの誰か達が跡形もなく消えてしまった。
辺りを見回すとそこは見慣れた景色だった。表札を見ると雪音と書かれている。
「どうして……ですか……?」
どうやら私はクリスの家の前に置き去りにされたらしい。
S.O.N.Gの司令部である潜水艦で戦った彼女に会わせる顔はない。なのにどうして……
私は膝を抱え座り込んだ。夏の夜のねっとりと絡みつく暑さが全身に張り付く。
私には3人のように戦う力はない。私はいつも、主人各として3人の移動手段としてでしか役に立たない。だが……頭の中に3人はもういない。私は数百年の間を共に過ごしてきた同居人をなくしてしまった。胸が張り裂けそうな悲しみが襲いかかる。
呆然としている沙優を見つめる影があった。
一人は白と黒で半分に分けられた仮面をつけ、一人はピエロのような仮面をつけ、一人は能面のような仮面をつけている。
3人は初めて自分の体を得た。
最初の仕事として彼女たちが選んだものは、沙優を元の世界へ戻すことだった。実態のない人格として沙優の中にいたからこそわかっていた。沙優が装者達と過ごしていた日々は、今までの数百年の生活の中で一番彼女らしかったことを。その生活を壊してしまった。私達は沙優を利用して自分達の願いを叶えようとするあまり、彼女の得るべき幸せを奪ってしまった。今更どうこうすることはできないとしても、彼女を元の場所へともどすことくらいはできた。
「これでいいんだよなぁ?」
「もちろんです。ここからは私達の戦いです」
「そう。沙優が永遠に平和に幸せに暮らせる世界を創るために……私達を産んでくれた彼女が幸福でいられるように……」
「はい。私達が彼女の盾となり矛となり戦いましょう」
「あたりめぇだ。さぁ、派手にぶちかましにいくぜぇ!」
〇●〇●〇
時は少し遡る。
沙優ことアインが圧倒的な力を見せつけながらもウェル博士の参戦によって退けることができた艦内では、不穏な空気が漂っていた。目の前の脅威は消えていないとばかりに、装者たちはギアをまといウェル博士に対峙する。既に人の形はなく、いつか響が暴走しながらも一度は倒した怪物の形態をしたウェル博士はやれやらとでも言わんばかりに首を振った。
「僕は君達を助けたのだがね?」
「ふざけないで! ドクターウェル! どうして生きているの! あなたはチフォージュ・シャトーの崩落に巻き込まれて死んだはず」
「それはあまりにも悲惨すぎる! ネフィリムの再生力を侮っている! 僕は崩落に巻き込まれ、確かに肉体を失った。しかしッ! 本当の意味でネフィリムと融合し、圧倒的な再生力を持ってして天才は……否、英雄は復活したのだッ!」
「ウェル博士、貴様が再び我らに刃を向けるというならば、防人として切るまでの話!」
「おいおい、僕は別に悪いことをしようとしているわけじゃない。だが……」
ネフィリムの腕が翼となり、羽ばたき始める。
風圧が装者達に襲いかかった。
「せっかく復活の機会を手に入れたんだ! 少しだけ見定めさせてもらうよ。英雄を倒したシンフォギアは、はたして次の世界崩壊を守れる存在なのかをね」
「待つデス!」
「行かせないっ!」
切歌と調が走り出し、ウェル博士へと攻撃を開始する。しかし、ウェル博士の翼は盾となり、攻撃を弾いた。思わぬ行動に二人は不意をつかれて吹き飛ばされる。その様子を残念そうに見ながら、ウェル博士は飛び立ち始めた。
「それじゃぁ、しっかりと働いてくれよ」
ウェル博士が遙か上空へと姿を消す。
「博士……今度は何を企んでいるんだろう」
「そんなこと知るか。バカは考えても仕方ないだろう。それよりも……」
クリスは響に悪態を突きながら落ちているペンダントを拾い上げる。真っ赤なそれはイチイバルを宿した大切なものだ。
信じたくはなかった現実がクリスに突きつけられた。たった数日間だとはいえ、沙優と過ごした日々はクリスの中では大切な思い出となっていた。思い出は僅か数分の出来事で無残に砕け散った。
「いったいどうすりゃいいってんだよ」