戦姫絶唱シンフォギア MP   作:ROGOSS

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ただ、会いたい (1)

 本部の取り調べ室には重い空気が漂っていた。ただし、取り調べを担当している弦十郎にはまったく害意を加えるような気配はない。取り調べる対象が顔見知りであり、尚且つ二度目となっているのだから当然なのかもしれない。もっとも、彼女が何かを隠そうとしている様子が見られないこともこの空気感の要因であるだろう。

 

「では、早速だが聞かせてもらいたい。我々と対峙しているアイン、ツヴァイ、ドライの個々の能力を」

「私も……よくわからないんです。3人は私の中にいる別人格だけれども……誰かが出てきている時は私はすごく眠くなって寝てしまうから……ただ、前にアインが言っていたことを覚えています。たしか、ゲイボルグ、ヴァジュラ、クラウ・ソラス……この3つの神話武器を使っているみたいな話を聞いたような……」

 

 沙優の言葉を聞き、弦十郎は緒川にアイコンタクトをした。緒川は持っているタブレットで名前の挙がった武器を調べ始める。

 

「たしかに特徴は一致しています。一振りで無数の矢を撃ち出すことのできるゲイボルグ、雷を操るヴァジュラ、光と炎を宿すことができるクラウ・ソラス。神話こそ違いますが、世界的に見ても有名な武器となっていますし、遺物として残っていたとしても不思議ではありません」

「だが聞いたことがないぞ。俺達が3つも聖遺物の存在を見逃しているとはな」

「確かにその点だけは妙ですね。薔薇十字団は随分と前から隠し持っていた可能性もありますね」

「ううむ……」

 

 弦十郎が難しい顔をする。まったく、最近は苦労の絶えない。

 沙優はただ縮こまり、何かをアクションを起こそうとはしない。

 クリスが沙優を連れて本部までやってきたのが数時間前。沙優がクリスの家の前で蹲り、行き場のない状態となっていたと聞いた時は仲間に裏切られたのかと思ったがそういう訳ではないようだ。しかし、沙優自身がなぜ彼女達から突き放されたのかは理解していないように見える。ならば彼女は再びスパイとして送り込まれたのか? あるいは、各人格が己の肉体を得たことによりお荷物となる沙優を捨てたのか……理由はわからないが、沙優は自らS.O.N.Gに協力をすると言い出した。偽の情報を掴まされる可能性はあるが、今更嘘をついたところで意味があるとは思えず、弦十郎が直々に沙優に話を聞くはこびとなっていた。

 

「沙優さん、ひとつだけ聞いてもいいですか?」

「なんですか……?」

「沙優さんは今まで薔薇十字団に協力をしていました。どのような経緯で沙優さんが薔薇十字から離脱したのかはわかりませんが、沙優さんの目的や……叶えたい願いなどはないのですか?」

「私の……願い……ですか?」

「うむ、俺も気になっていたところだ。君はクリスくんに再び頼ることを決めたようだが……本来我々は敵同士のはずだ。敵に頼る姿を見ていると、どこか君には矛盾を感じている。沙優くん、君は本当に戦いを望んでいるのか?」

「戦いは……もうこりごりです」

 

 沙優はうつむく。ぎゅっと拳を握りしめた。今まで体験してきた悲惨な状況。人が死に、殺し、恨まれ、憎しみあい……戦いは誰も幸せにはなれない。勝者でさえ、底知れない敗者の負の感情にいつの日か呑み込まれてしまう。戦争の日々は本当に地獄だった。新兵器の人体実験台としてモルモットのように扱われた。不死身の存在として疎まれ続けた。利用され続けた。

 だが、そんな私の中にはいつも味方がいた。3人の味方は私をいつも守ってくれた。彼女は私にとって陽だまりだった。だけれども……私は……

 

「私は会いたいんです。アインにもツヴァイにもドライにも……私は死ねない体になってしまっています。私の父であるクリスチャン・ローゼンクロイツは賢者の石を錬金術で生成すると私に使いました。私は不死身になってしまったせいで苦しい思いをたくさんして……悲しい思いもたくさんして……現実から逃げてきました。だけど、現実から逃げた私をいつも守ってくれたのが3人だったんです。だから私は……私の中にいた彼女達にお礼と言いたいんです。叶うなら……みんなで一緒にズッといたい。だって私、一度も3人をしっかりと見たことないんですよ。ズッと守ってくれたのに、一度も見たこともなくて存在しかしらないなんて、なんか嫌じゃないですか」

「……」

 

 沈黙が流れた。

 エルフナインくんのメディカルチェックで沙優が不死身であること、多重人格者だる彼女の中には現在、白井沙優という人格しか存在しないことはわかっていた。しかし、彼女がひとつの体で4つの人格を保持したままどのような人生を送ってきたのかは想像することはできなかった。彼女は今、心の底から真実を語った。彼女が泣きそうになりながらも必死に訴えかけている様子を見れば、嘘を言っていないことは一目瞭然だった。

 ならば大人である俺達には何ができるのだろうか? このまま戦い、勝者と死者を生み出すことが最善策と言えるのだろうか? 両者に意地と信念を携えているからこそ、戦いは苛烈さを増していく。このまま黙って見過ごすことが大人として責任のある行動だと言えるだろうか?

 

「沙優くん、君の願いはよくわかった。だが、これは世界をかけた戦いとなることが予想される。誰かが死んでしまうこともあるかもしれない。その時、君は誰の味方になる?」

「私は……私は誰の味方でもありません。私は私の考えてる、私がイメージできる世界をみんなで創りたいだけです」

「わかった。君がやりたいことは出来うる限りの協力はしよう。君の望む世界を俺にも見せてくれ」

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