倉庫街は潮風の影響を受けているからか、ところどころ錆が目立っている。零時を越えた頃には辺りに人気は一切ない。代わりにそこにいるのは3人の少女と1体の化け物だ。もっとも、化け物とカウントしてしまうと彼は全力で否定するのだろう。
「待っていましたよ皆さん」
「こんなところに呼び出してどういう意図があるのかしら、ドクターウェル」
ドクターウェルより招待状という趣味の悪い手紙が届いたのが昨日の夜。指定された時刻や場所から怪しさしかなかったが、マリアは切歌と調に声をかけ、とりあえず向かうこととした。
「怖い顔をしないでくださいよ。あと、シンフォギアは解除してもらえるとこちらとしても話やすいのですがね」
「ネフィリムを一体化しているような化け物とちゃんと話が出来るのか怪しいと思うのだけれども」
「僕を化け物だなんて言うなんて酷いじゃないですか。少し前……協力した仲ではありませんか」
「なら、見事復活を果たした英雄様は今度は何をしようとしているのかしら?」
ウェル博士は気味の悪い声で笑う。笑っているだけだというのに全身が脅威を感じている。目の前にいるのは人間ではなく化け物であること、聖遺物であることを改めて自覚した。
「難しい話ではありませんよ。僕はただ見てみたいんですよ。
「それがあの時、どこかへ行っちゃった理由なの?」
「そうですよ。そして僕は世界を見回りました。いやはや、相も変わらず人間は愚かしい。お互いに殺し合い、命の無意味な駆け引きをしている。改めて理解しましたよ世界には英雄が必要だと」
ニヤリとネフィリムが口角を上げる。
マリア達はギアを構えた。何かをしようとしていることはすぐにわかった。しかし、ウェルが次の行動を起こそうとはしない。口角を上げたまま天を見上げ制止している。
「いったいどうしたんデスか」
「僕が招待状を送ったのは貴方達だけだと思うのですがね。どうやら邪魔が入ってしまったようです」
『蒼ノ一閃』
斬劇が放たれ地面と激突する。
「翼ッ!」
「何をしている! あのウェル博士は敵は脅威だ。独断で動かれては困る」
「……そうね、ごめんなさい」
「はてさて……困りましたね」
翼の攻撃を巨体に似合わない俊敏な動きで躱したウェル博士が彼女達の前に立ちはだかる。ウェル博士の背中から巨大な翼が形成され、飛び立つ準備を始めた。
「こうなってしまっては話し合うことなどできませんね。僕はここで一度、退くこととしましょうか」
「させないデス!」
『切・呪りeッTぉ』
切歌の攻撃に対し、ウェル博士は両手を前に突き出し盾のようなものを構築して防いだ。だが、動きが止まった一瞬の隙をつき装者達はウェル博士の上空をとり、各々追撃を加えようとする。
「単調な動きですねぇ……僕はァッ! この世界の英雄ですよォォォ!」
「きゃぁ!」
唐突に構築されたネフィリムの尻尾にあたる部位が上空にいた装者達をなぎ払う。地面に叩きつけられた彼女達に追い打ちをかけるかのように翼の部分から牙の形をした何かが射出された。
「さすがはシンフォギア。これだけでは仕留められませんね」
「貴方がなにをしようとしているかなんてしらないけれど、平和を乱そうとしているなら許すわけにはいかない!」
「心外な。僕は新しい平和を創ろうとしているだけですよ」
ネフィリムの眼が怪しく光る。
「皆、走れッ!」
「どうしたの翼!」
瞬間、地面に刺さっていた牙が同時に爆発を起こす。巨大なエネルギーの塊となった爆炎が周囲を焼き尽くした。黒煙が上がり視界が遮られる。次にウェル博士の方を見た時には、既に彼は姿を消していた。
「逃げられた……!」
「またしてやられたデス」
「……マリア、ウェル博士は何をしようとしているかわかったのか?」
「何もわからなかったわ。ただ……彼はまた、英雄になろうとしている」