戦姫絶唱シンフォギア MP   作:ROGOSS

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しばらく期間を空けてしまい申し訳ありません。
これからはなるべく定期的に更新していきます。


身命を賭して為す (2)

心臓が少しだけ跳ね上がる。感じていた懐かしい気配が消え去った。

 

「ツヴァイ……ドライ……」

 

 生死不明となった同士の名前が口から漏れた。

 沙優の生きることに邪魔をする者がいない世界、沙優が幸せになる世界を創るために、沙優を全ての不幸守るために……立った一人の少女を守るために集った者達の散り際は今だというのだろうか?

 

「ならば認めざるおえないか……」

 

 二人は今日、永遠になることを認めた。

 沙優の怒り、恐怖、悲しみ……負の感情を切り取ることで完成された私達は、沙優なしで生きていくことは出来なかった。沙優なしでは誕生することも出来なかった。沙優の想いから産まれた存在だからこそわかるものがある。沙優は決して不幸にしかなってはいけない人ではない。彼女は誰よりも優しく、温かく人に接してきた。それを今まで裏切り続けて来たのは人間だった。同種族でありながら、他者の不幸を望むことしか出来ない劣等種族。そんな奴らでも沙優は守ろうとするならば……私達が邪魔者を排除する。

 どんな方法を使うこととなっても……

 

「そうだよ、ゲイボルク……」

 

 ゲイボルクを空へかざす。空気の収縮が始まり、莫大なエネルギーが矛先へと集中した。目標はもはや意地で立ち向かっているとしか思えない程ボロボロになったシンフォギア装者達。この一投で全てを決めてみせる。心に強く近い、投擲のモーションへと入った。

 

「アインさん……私達は戦わなきゃいけない理由はないんですよ!」

「バカ、まだ話しかけるのか!」

「クリスちゃん、おかしいよ、私はおかしいと思うよ! だって私達もアインさんも、皆が沙優ちゃんの幸せを願っているのに、どうして戦わなきゃいけないの」

「……」

 

 聞こえてきた声に反応するなという方が無理だった。

 アインは投擲するはずだったゲイボルクを下ろした。

 

「沙優は今まで……多くの絶望に直面してきた。その度に人々は彼女を迫害してきた。そんな人間を……沙優に危害を加える人間をこの世界から一人残らず消すことは悪ではない!」

「悪だよ! 沙優ちゃんが酷い目にあってきたのは……悪い人達のせいだと思う。それでも、沙優ちゃんは笑うことを捨てなかった! 沙優ちゃんは人間に絶望しても、希望を捨てなかった! そうじゃなかったら、沙優ちゃんはアインさん達を守って欲しいなんて私達にお願いしないよ!」

 

 イメージが脳内になだれ込んできた。音楽という旋律と共に言葉によって情景が紡ぎ出される。シンフォギア装者達が出陣するほんの数分前、沙優は確かに彼女達に私達を守って欲しいと言っていた。これから戦うべき敵を守って欲しいなんて言うのは、なんと傲慢なことだろう。そうわかっていながらも、沙優は勇気を出して私達の安寧を案じてくれた。私達が沙優のことを想い続けるように。一度も会ったことがない私達を沙優も想ってくれていた。

 

「私の戦う意味はない……?」

 

 私達は沙優の思いとは逆行していていることを続けていた。私達こそが沙優を悲しみに落とし入れる元凶……? 不安が脳内を駆け巡っていく。とめどもない悲しみが心を支配していく。

 

「ちげーだろッ!」

「……!」

「沙優はお前達のやっていることをハッキリとわかっちゃいない。だけど、お前達を嫌いになっちゃいない。お前達を好きだから一緒にいたんだろ! 別れ、バカ!」

「クリスちゃん……ちゃんと説得、手伝ってくれるんだね」

「うるさいバカ、お前もバカだしアイツもバカだな」

「……ハハハ」

 

 ツヴァイ、ドライ……私もお前達の元へ早く逝くことが弔いになるのかもしれない。

 だけど、お前達が逝ってしまったからこそ、私はまだ消えるわけにはいかない。まだもう少しだけ、沙優の隣に居ることを許してはくれないだろうか……

 ゲイボルクが地面に落ちる。気がつくとアインは自然と両手を挙げていた。

 

「降参する」

「おせーよバカ」

 

 響とクリスも武器をおさめた。この場にはもはや暴力は必要がなくなった。

 ……そう誰もが考えていた。

 

『俺に従えない木偶には生きる価値はない』

 

 一瞬の出来事だった。

 質量をもった何かが音速の壁を破りながら、アインに降り注いだ。まるでSF映画のビーム兵器のようにオレンジ色となったビームは数秒間、アインの立っていた場所を焼き付くすると収束した。着弾地点には文字通り塵一つ残っていない。

 

「お前ッ!」

『無駄なことはするな。お前如きには俺は探せん。木偶の処分は済んだ。お前達は次の機会に処分してやるさ。期待して待っていろ』

「お前、お前ッ!!」

 

 クリスは叫んだ。返事はない。どうしようもない理不尽を目の当たりにしながら、叫ぶことしか彼女には出来なかった。


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