「それでだ……どうしてお前達が私の家にいるわけだ」
「だってクリスちゃんが新しいお友達を連れてくるって聞いたから!」
「誰がそんなことを……」
「皆まで言うな。そのような人物はひとりしかいないだろう」
「おっさん……お前ってやつは!」
クリスが怒りの咆吼を上げる。
その横手は切歌と調が沙優と戯れている。否、切歌が一方的に沙優をからかって遊んでいるといったところだろうか。どこから引っ張り出してきたのか、メイド服を沙優に着させて喜んでいる。
「すごく似合っているのデス!」
「きりちゃん、あんまり困らせたら駄目だよ」
「い、いえ……その困っているわけじゃないですよ。ただ、こういうお洋服は初めて着るので……その緊張してしまいますね……」
「ほらきりちゃん、駄目だってば」
「えー、でも調だって沙優ちゃんに似合ってると思っているでしょう?」
「それはそうだけど……」
「本当ですか……?」
沙優が恥ずかしそうにうつむく。つられるように調も「うん、似合っているよ」と小さく呟く。
「はーい、みんなー! お菓子食べようー!」
未来とマリアが大量のお菓子の袋が入ったレジ袋をもってクリスの部屋に入ってくる。
喜びの声が上がり、テーブルへと向かっていく面々を見ながら、クリスはどうにでもなれとでも言った表情をしながら頭を抱えていた。
この場所が初めてたまり場になったわけではないが……準備なりなんなりをする時間を家主としてもらってもいいはずだ。
だが、突然聞こえるすすり泣く音に一同は固まっていた。響が心配そうに沙優ヘを歩み寄る。
「どうしたの……大丈夫?」
「どこか痛いの?」
「違います……私、こうやって誰かと仲良くした思い出がなくて……」
マリアと切歌、調に少しだけ陰りが走る。彼女たちは施設での日々を思い出して知るのかもしれない。だからこそ、マリアが動いた。マリアは沙優の頭に優しく手を置いた。
「大丈夫。これからたくさん思い出を作ればいいんだから」
「その通りだ。私も思い出を作っている途中であるしな。白井、これからこのお節介達にたくさん絡まれると良い」
「もしかして翼さんに褒められた?」
「響、きっと翼さんは響に一番思うところがあるんだよ」
「え、未来、それどういう意味?」
「教えなーい」
「ちょっと! 未来ー! 虐めないでよー!」
響と未来のいつも通りの会話が続く。その微笑ましい様子から周囲からは笑みがこぼれた。
その一瞬の平和は長くは続かない。
呼び出し音がする。
「はい、どうしたんデスか」
「装者達は至急集合してください。アルカノイズの反応を検知しました」
「了解デス!」
「ごめんね沙優ちゃん。少しだけお仕事してくるね」
「は、はい……」
「案ずるな。直ぐに帰ってくる」
沙優をおいて装者達は部屋を後にする。
一人残された沙優は待ちぼうけをくらっているかのように呆然と立ち尽くすしかなかった。
〇●〇●〇
『状況を説明する。各地で爆発が起きると同時にアルカノイズの反応を検知した。装者達は各地に急行し、アルカノイズを一掃せよ』
「了解っ!」
「アルカノイズくらい、いまさら! 遅れはとらないデスよ」
「切ちゃん、油断は禁物だよ」
「もちろんデス! それじゃあ、調……いくデスよ!」
「
切歌と調がギアを纏いアルカノイズの群れの中へと吶喊していく。切歌の言っていたとおり、ただのアルカノイズならば彼女たちはもう負けることはない。ウェル博士の残しているリンカーの残りの数に限りがあることだけが心配事としてあるが、目の前の彼女を守るためならば多少の無理は痛くもかゆくもない。
「そこをどくデース!」
切歌の一閃がアルカノイズを切り裂く。
「私達を止めることはできないから!」
調の一撃がアルカノイズをなぎ倒す。
二人の息のあったコンビネーションは響や翼、クリスすらも苦しめたことがある。強く結ばれた絆はどんなものよりも鋭い切れ味を持っている。
そう信じている二人がそこにはいた。
「思ったよりもたいしたことはないですね」
「なっ!」
二人の攻撃を止める者がいた。
仮面にはピエロのような模様が描かれている。
「仮面の人!」
「切ちゃん、気をつけて」
「私の担当は貴方達ですか。暁切歌と月読調」
「どうして私達の名前を……!」
「それはお教えできませんね!」
マスクは何もない空間からチャクラムを取り出すと二人に向かって投げる。
「それくらい簡単に躱せるデス!」
「そう、だといいですね……」
「危ない切ちゃん!」
調の声が聞こえ切歌は振り返る。
背後から稲妻が彼女に向かって走っていた。森羅万象の法則を無視して、左右に走る稲妻。そんなものを誰が予測できただろうか。
「うわぁぁぁぁぁ!」
稲妻に打たれ切歌の刃が届くことなく彼女は地上へと倒れ伏せる。
「そんなものですか?」
チャクラムがマスクの手に戻る。
調は切歌の元へと走り出したい気持ちを抑えながら、戦闘態勢を取った。いつまた、稲妻が向かってくるかわからない。油断できない相手であることは今の攻防でわかった。
「錬金術……」
「装者の方々は一度、錬金術師と戦ったことがありますからわかると思っていましたよ。ですが……それがどうしたというのです? わかったところでどうしようもないでしょう」
「方法はある……!」
『α式・百輪廻』
ヘッドギアの左右から小さな丸ノコが飛びだす。
圧倒的な面制圧攻撃にマスクは回避することを選択した。そこまでが調の想定範囲内。わざわざ攻撃を受けようとする者などいるわけがないのだから。
「そこっ!」
『β式・巨円斬』
マスクが逃げた先に巨大なヨーヨーが振り下ろされる。
土煙り上がり、調の視界からマスクの姿を隠した。それでもマスクに躱す余裕はなかったはずだ。今の一撃で仕留めることができたと調は確信をする。
彼女なりキャロルとの一戦を超えて考えた確かなものを持っての戦術。私ができる私なりの最大級の事。
「たしかに筋は悪くないですね」
「ど、どうしてっ!」
巨大なヨーヨーはマスクへと振り下ろされてはいなかった。
マスクが頭上に掲げているチャクラムから稲妻が放出され、ヨーヨーを支えている。
「何も敵に放つだけが使い方ではありませんからね。そして……こういう使い方もありますよ!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
稲妻がヨーヨーを通じて調へと流れ込む。
ヨーヨーという形状が稲妻の導線となってしまったことからの悲劇であった。
数秒間の感電を味わい、調もまた地面へと倒れ伏す。
「これくらいでしょうか。そろそろ止めておきましょう」
「いったい……何者なの……」
「……