戦姫絶唱シンフォギア MP   作:ROGOSS

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十字への誓い (1)

 ここはアツい。

 どこまでも続く灼熱の地獄に歩を進めることを躊躇ってしまう。 

 それでも私は前ヘと進み続ける。この先には希望があることを信じて。

 胸に掲げる十字は誰のものだろうか? 祈りを捧げる神などとうの昔になくしてしまった。誰からも蔑まれて産まれた私に残されているのは地獄しかない。

 やがて私の足は動かなくなる。バランスを崩し、その場へ倒れ込む。手を前に出し這って進むことを試みる。このままここでのたれ死ぬことだけは嫌だった。ここで諦めてしまえば、今まで何のために苦しい地獄と知りながらも進み続けていたのかわからなくなってしまう。

 それでも私の行く先に光などない。そもそも、最初から出口などないのだ。私が産まれた発端からして冷静に考えれば直ぐにわかることだった。

 

「私はただ……生きたいだけなのにっ! 誰が邪魔をしやがるってんだ……クソがッ……」

 

 

 怒りを込めた呪いの言葉を吐き捨てる。

 意識が朦朧とする中、私に差し出された手があった。

 その手はとても小さい。私が触れてしまえば、か弱そうなその手は燃え尽きてしまうかもしれない。

 それでも目の前の誰かは私に手を差しのばし続ける。

 

「あぁ……」

 

 その時全てを理解した。

 私はその人であり、その人こそ私の産みの親だということを……

 私が地獄のアツさにもだえ苦しむことになる発端を作ったその人。

 私はその人を恨むことはできない。怒りをぶつけることはできない。

 私はその人がいなければ最初から世の中に存在しなかったのだから。だから私は差し出された手を取った。その人は笑いながら泣いた。ごめんなさいと言葉を続けた。

 

「心配するな。私はお前だ。だからお前の苦しみは私のもんだ。一緒に生きられるなら、それでいいじゃねえか……」

 

〇●〇●〇

 

「そして俺達の存在を明かして何をしたかったというのだ」

 

 漆黒の色をした羽衣をまとった彼は冷静に冷徹に問いを投げかけた。

 部屋全体に充満した殺気や怒気は彼のものであることは疑うまでもない。

 

「準備は充分です。団長、そろそろ私達にもさらなる進化をくださるとこれからの計画に支障を出すことがないかと思います。そのためにも、存在を明かすことで迎撃態勢を取り、シンフォギア装者を一人残らず排除をすれば……団長の崇高なる理念は叶うはずです」

「なるほど。全て俺の願いのためにやったということか……ならば許そう。だが、俺達は秘密結社。その秘匿性故に簡単に名を出すことは許されない。心しておけ」

「以後、肝の命じておきます」

「2日後、お前達を苦しみから解放してやる。再び俺の前に姿を見せよ」

「かしこまりました」

 

 団長……クリスチャン・ローゼンクロイツはそれだけを言い残すと深々と椅子に座り、私に退出を促した。私は彼に一礼をすると部屋を後にする。暗く長い階段が地上へと続いている。指定された時間まであまり猶予はない。行動するならば明日が最後のチャンスだろう。

 

『どうして何も言い返さなかったんだ』

「言い返したところで意味はありません。私達の願いに何も繋がらない」

『ツヴァイの言う通りね。ドライ、あなたは直ぐに頭に血が上るところが欠点よ』

『私はいつでも煮えたぎる地獄の鎌にいるのさ。周りがアツいんだ。本人だってすぐにカッカするのは当然のことだろ』

「ドライ。その短期はいつか、あの()の不幸に繋がってしまうわ。いい加減わかるでしょ? そんなことをしないで。私達はただ、あの()に幸せになってもらいたいだけなんだから」

『私達の願いはただ一つ……そのためなら命すら惜しくもない。みんなわかっているはずよ』

「わかってる。わかってるよ。だからアインもツヴァイもお説教はやめてくれ。頭が痛くなっちまう」

 

 地上が見えてくる。

 漆黒の闇が支配する夜。ここから戻るには相当の時間を要することになるだろうが、入れ替えるタイミングは今しかない。申し訳ないが、言い訳は彼女に任せよう。

 

「アイン、あの娘を起こして」

『えぇ、撤収準備は出来てるわねツヴァイ?』

「心配しないで。今回も上手くやれたわ」

『なら、さっさと起こすとするか』

 

 

 意識が混濁する。

 自分の家に誰かがいたかのような奇妙な違和感と気持ち悪さが体を支配している。私は誰なのだろうか……必死に思い出す。そこに笑顔があった。初めて出来た友達。初めて着た洋服。初めて触れることの出来た笑顔。頭の中で描いているわけではなく、この目で直接見ることができる幸せ。

 

「はっ! クリスさんの家に戻らないと!」

 

 沙優は走り出した。

 途中、肩から下げているバッグの存在を思い出し、林の中へと中身を捨てた。すぐに見つかることはないだろう。

 再び沙優は走りだす。その背中を奇妙な顔をした仮面がいつまでも追っていた。

 

〇●〇●〇

 

 部屋の(あかり)が漏れている。クリスはもう帰宅しているようだ。初めてくる街。一番体力がない沙優は迷いに迷ったあげく、途中で力尽きてしまっていた。目覚めたときには時間はあっという間に過ぎ去っており、焦りながら走って帰宅したのだが……それでも遅かったらしい。

 

「ただいま……」

「どこいってたんだ」

「あの……その……」

 

 クリスは沙優から視線を外さない。ジッと見続ける。

 

「みなさんがなかなか帰ってこなくて……心配になって……」

「……そうか」

 

 クリスが沙優へと近づいて行く。

 殴られる。

 瞬間、思った。また殴られる。モルモットのようにサンドバッグのように私はされるがままにされる。

 

「心配かけて悪かったな」

 

 クリスは沙優を殴りはしなかった。

 沙優に頭を優しく撫でた。思わぬ行動に沙優が面食らっていると、クリスもようやく自身の行動に気がついたのかサッと手を引っ込めた。

 

「ま、まあ、探してくれたのはありがたいがメモくらい残しておけよ。心配くらいするんだからな」

「ご、ごめんなさい!」

 

 沙優はクリスに抱きついた。

 

「お、おい! そういうことは家でやれ!」

「ここは……私の家になってくれないのですか……?」

「いや、ここはお前の家でもあるがよ! あぁ、クソッ! 暑苦しいからやめろ!」

 

 顔を真っ赤にしたクリスは「風呂に入れ」といいながらソファに向かった。

 私を気遣ってくれる人が増えたことが嬉しかった。

 

「はい!」

「はいじゃねぇだろ!」

「うん!」

 

 私はクリスに照れ笑いを浮かべながら脱衣所へと向かう。しっかりと扉を閉める。

 手にしたものを見る。

 

「これでいいんですよね……?」

『上出来だ。やれば出来るって奴だな』

『気取られないように気をつけてください』

「もちろんです」

『大丈夫よ。沙優は私達と違って普通の女の子なのだから』

『それもそうだな。お前は私達の希望だ。だから……お前を私達は……』

 

 ドライが何を言いかけたのかを沙優はわからない。手にしている赤いペンダントは神々しく光っていた。

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