延々と続く夏休みの宿題地獄。相も変わらず響は叫び声を上げながら宿題をし、マリアとクリスは泣きながら宿題を続けている調と切歌に発破をかけている。翼はひとり涼しい顔をしていたが、緒川が「翼さん、まだ宿題終わってないですよね?」の一言に青ざめた顔をしていた。これが夏休みとして正しいのかを沙優はわからない。だけれども、目の前の情景に初体験からか胸の高鳴りを覚える。
しかし、幸せの時間は長くは続かない。刹那の時間でしかない幸福だからこそ、人は憧れ追い求める。沙優にはやるべきことがある。そして彼女たちもやるべきことがやはりあるのだ。
「すみません、トイレにいきたいです……」
「トイレなら、そこの角を曲がったところにありますよ」
「ありがとうございます!」
緒川の案内に従い、沙優は走りだす。だが彼女はトイレへと向かわない。そのまま下へと続く階段を降りていく。司令室がある潜水艦の内部構造は頭の中に入っている。目的の部屋にはすんなりと向かうことができた。ロックもかかっていない扉を開き、沙優はデータを探す作業へとうつる。しばらくコンソールをいじっているとそのデータはすぐに見つかった。
『レイラインの情報……重要なものだというのに案外簡単に見つかるものですね』
『えぇ。あとはこれを私達が覚えるだけ。といっても、完全に理解することはできたわ。沙優、早くそこから立ち去りなさい』
「なにをしているんですか? 沙優さん」
沙優は体を震わせた。
銃を突きつけられているのを気配で感じることができる。
「な、なにもしてないですよ」
「沙優さん、残念です。前々から司令と話して怪しいとは思っていました。タイミングよく沙優さんは現れた。同時に各地で出現する謎の錬金術師。体格のデータからあなたと酷似……いや、うり二つだということはわかっています。目的はわかりませんが沙優さん、今ならまだ間に合います。奪ったものを返してください」
「……」
「沙優さん!」
「うるせぇなぁ……」
沙優の体が炎に包まれる。
「なっ!」
炎を収まる頃、沙優の体は漆黒のマントを身に纏い、顔には白と黒で塗り分けられ耳まで口が裂けているマスクをつけていた。
緒川は一瞬の判断の後、銃弾を彼女にめがけて放つ。しかし、銃弾は彼女に到達する前に突如として燃え上がり灰となった。
「こうなったらしかたねえ、強行突破ってわけだなァ!」
「待ちなさい!」
マスク……ドライは剣を天に掲げ天井を破壊すると高く飛んだ。
「逃しましたか。司令! 聞こえていますね!」
『あぁ! 緒川艦内にアルカノイズに反応も検知した。すぐに司令室に戻ってこい』
「了解しました。……沙優さん」
緒川はドライが消えて行った天井を見上げながら静かに呟く。その言葉に返事などあるわけがないと知りながら……
〇●〇●〇
「艦内にアルカノイズとは、どういう警備をすればそうなるんだ!」
アルカノイズの出現を聞きつけ、クリスは現場へと向かっていた。
やがてアルカノイズの反応があったブロックまでやってくると同時に彼女はさらに見たくはないものを目にする。
「こいつはなんかの縁じゃねぇか!」
「お前か……今は付き合っている暇はない」
「そうはいかねぇぜ! ここが地獄への出発点ってな!」
「ならばどうする?」
「きまってらぁ!」
クリスは詠唱を……始めることができなかった。肌身離さずもっているはずのペンダントがない。歌が頭の中に思い浮かばない。
「お前の欲しいものはこれかな?」
ドライはペンダントをクリスへと見せつけた。
「やろぉ……!」
「これがなければ何もできまい、シンフォギアッ!」
ドライが剣を振るう。呼応するように空間に炎の渦が現れ、クリスへと襲いかかった。
生身の状態で受ければ瀕死の重傷は免れない。ドライは勝利を確信する。
沙優が仲良くしていることは知っていた。私は彼女であり、彼女は私なのだ。同じ感覚を共有している者同士、どうしても感情までも共有してしまう。それでも沙優はクリスが大怪我を負うリスクを承知の上でペンダントを盗んだのだ。ならば沙優の覚悟に応えるためにも手加減はできない。私は、ドライとしての願いを叶えるために人を殺す。
焼け焦げる臭いが充満している。それは嫌な臭いだった。スプリクラ―が作動して大量の雨を降らせる。火が消えたとしてもそこにあるのは、クリスの焼け焦げた体であることは疑う余地もない。……そのはずだった。
「冗談じゃねぇ……」
「な……バカなッ! お前のシンフォギアは確かにここにッ!」
「あぁそうだ。イチイバルはマスク野郎に奪われちまった。だからコイツを使うしかなかったんだ」
そこには五体満足のクリスの姿があった。
見たこともないシンフォギアを纏っている。ドライは少しばかり後ずさりをした。
「使わせたな……私にもう一度使わせやがったな! ネフシュタンはもう二度と使わないと決めてたのによッ!」