自律型聖遺物ネフィリム。かつてFISの一員として世界に革命を起こそうと武装蜂起した彼らの切り札として用いられた。しかし、フロンティアの崩壊と同時にネフィリムは暴走をするも装者達に破壊されたはずだった。
後日起こったキャロル・マールス・ディーンハイムのチフォージュ・シャトーによる世界滅亡の危機にネフィリムを宿したウェル博士が現れ、その特性を活かしてシャトーを操作するも代償としてウェル博士は死亡が確認されていた。公式記録ではそのようになっていたはずだ。
故にここにいる誰ひとりとして現状を理解することができなかった。死んだはずの男が、装者の敵となり手助けをして散っていた男がなぜ再び現れたのか……
「僕はここに再び登場をはたしたァァァ! シンフォギア、この意味がわかるか?」
ウェル博士が意気揚々と問いを投げかける。
同時に足音が複数聞こえ、クリス以外のシンフォギア装者達も合流することとなった。
「な……どうしてアナタがいるのよ!」
「マリアッ! マリアじゃないかッ! 大嘘つきのマリアッ!」
「気色悪い」
「し、しんだじゃなかったんデスか!」
「相変わらず意味分からない人……」
「Dr.ウェル! なぜここにきて姿を現したッ! 解答によってはお前も切る!」
「私を無視していい気になっているわね……!」
翼の問いにウェル博士が答える前にアインは槍を空間に突き、矢を放出し始める。
無数の矢が一直線に装者達に襲いかかる。ウェル博士は巨体からは想像できない素早さで移動をすると右手を前方へと掲げた。瞬間、矢は勢いを失い地面へと落ちていく。
得意げな様子のウェル博士にアインは舌打ちをした。
「そんなこと決まっているじゃないですかッ! 愛、ですよ!」
「なぜここで愛ッ!」
「そんなことよりも……沙優ちゃん、やめてよ! こんなことはもう……やめよう!」
響が叫ぶ。アインはフンと鼻で笑った。槍を頭上へと掲げる。
「立花響。お前には叶えたい願いはあるか?」
「願い……?」
「私には……私達にはある。それは命に賭してでも、世界を代償にしてでも叶えたい願いだ。そのためならば私達は……どんな手でも使うッ!!」
アインの頭上が崩れ落ちる。
「沙優ッ!」
クリスが叫んだ。土煙が収まる頃、そこにはアインの姿はなかった。空に手を伸ばしたままフリーズしているクリスがいる。その手は沙優を掴むために開かれていた。しかし、そこには何も掴んだものはない。虚無を握りしめ、クリスは不甲斐なさに壁を殴った。
〇●〇●〇
アインの帰還に気がつくとクリスチャン・ローゼンクロイツは高らかに笑った。彼は答えなど聞くまでもなく知っていた。
「レイラインの場所は完璧にわかったのだな」
「はい。団長……そろそろこの体に全ての人格を納めるのは限界です」
「わかっている。では始めよう。付いてこい」
ローゼンクロイツの後に続きアインは歩き始めた。薄暗い廊下が続き、やがて病院の手術台のような場所へと辿り着く。そこには3つのベッドが置いてあった。一つ違う点があるとすればベッドには器となる体が既に横たわっていることだろう。
「ギアをつけたまえ」
ローゼンクロイツに促され、アインはヘッドギアをつけ空いている椅子に横たわった。
これでようやく私達は願いへと近づくことが出来る。この体は沙優のものだ。私達が簡単に傷つけることが許されない。故に全力で戦うことができずに、願いを叶えるために遠回りをしてしまった。
「これから白井沙優に眠っている3つの人格、アイン、ツヴァイ、ドライを俺の用意したホムンクルスへと移し替える。成功すれば、各人格は器たる体を手に入れることができるだろう。さて……計画はまだ終わってはいない。お前達が叶えたい願いがあるというならばまだ、働いてもらうぞ」
「もちろんです団長」
アインは目をつむった。
思えばここまでの道のりは険しかった。
白井沙優という少女がいた。彼女はクリスチャン・ローゼンクロイツの実の娘だ。本来の名前は違うはずだ。彼女は父であり錬金術師であるローゼンクロイツにより、賢者の石を与えられた。そうして得たものが不老不死。彼女は数百年を生きている。
しかし、長く生きることは時として罪となる。
最初に彼女が世界から見放されたのは15世紀だろうか。魔女狩りが各地で横行していた時代。いつまでも容姿を保ち続ける沙優は格好の標的となった。十字架に張付けにされ、炎の中へと投じられた。世界への恨みと怒りを抱いた。アツい助けて……少女の願いが届くわけもなかった。だが彼女は不老不死故に死ぬことはできない。永遠に続く苦しみから逃れるため、彼女は「今悲惨な目に遭っているのは自分ではない」という妄想を始めた。そして現れたのが怒りを宿す人格ドライだった。
さらに時は流れた。二度の世界を巻き込む大戦が起こった。大戦で彼女は各国から兵器の威力実験のモルモットして使われた。またしても白井沙優は、悲惨な目に遭っているのは自分ではないと否定をした。そして産まれたのが悲しみを宿したアインと恨みを宿したツヴァイ。
二度目の大戦が終わった頃、白井沙優の主人各となる何者かは3人の新たな人格によって消えそうになっていた。3人は考えた。白井沙優はただ平穏に平和に生きていたいだけなのに実の父に不老不死にされ、そのせいで悲惨な目に遭い、今では人格までも消えそうになっていることがあまりにも不憫であると。彼女に幸せになってもらうためにはどうすればよいかと……
その時、白井沙優は父であるローゼンクロイツに再会した。
3人の人格は白井沙優に相談することなく、ローゼンクロイツの野望を知ると一つの契約を結んだ。
「私達を白井沙優の体から切り離し、白井沙優を幸せに生きることができる世界を創ることが条件だ」
ついに3人の人格は己の体を手に入れたのだった。
「沙優……あと少しだからね……」