転生したからダークヒーローをロールプレイする 作:カステラ
ゼロが桜花学園を去って数分後。駆けつけた警察によって襲撃者達は連行され、負傷者の手当てが始まった。
幸いと言って良いのか重傷者は骨を数本折られた学園長と襲撃者達のボスのみ。それ以外の者は皮膚を切る、擦りむくなどの軽傷で済んでいた。
「焔! 無事だったか!」
焔が手当てを受けていると、現場に来ていた玄治が心配そうに焔に駆け寄る。焔は玄治に苦笑いしながら頬を掻いた。
「うん。咄嗟の事だけど何とか自分の身は守れた。でも、他の皆を守る余裕なんて無かったよ……」
「いや、お前は学生の身でありながら良く健闘した。自分の身を守れたという事は日々の鍛錬を怠らなかった証拠だ。誇っていいんだぞ」
「ありがとう父さん」
しかし、と玄治は周りを見る。体育館の鉄筋や天井は有り得ない角度で曲がり、それら全てが襲撃者を捕らえていた跡が残っている。
「これは一体……。焔、何があったんだ?」
「ゼロだよ。いきなりゼロが現れて襲撃者全員を捕まえたんだ」
「なに!? それは本当か!?」
「え、あ、うん」
父、玄治の突然の豹変ぶりに焔は驚きながら返事をする。返事を聞いた玄治は急いで誰かに電話をしだし、電話を終えると他の警官を呼び、話し出した。
「……これは、帰りが遅くなるなぁ」
話を終えて慌ただしく走り去る警官を見ながら玄治は呟く。やれやれと言いたげな表情をしながらメモとペンをポケットから取り出した。
「焔、今日起きたこと。ゆっくりで良いから思い出してくれ。もしかしたらゼロを捕まえる手掛かりになるかもしれない」
「分かった」
襲撃者の襲来からゼロが去るまで。焔はゆっくりと思い出しながら話し出した。
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「クソが…身体が痛ェ…。流石に無理し過ぎちまったかァ?」
ゴーストタウンのある場所。住む場所を変更してゼロは使い古されたベッドに横たわっていた。服を脱ぎ捨て、負傷した所に氷水が入った袋を当てている。
襲撃者達のボスの攻撃を受けきったのに吹き飛ばなかったのは、衝撃波の逆方向から衝撃波と同じ威力になるように重力を掛け、余った衝撃を無くすために鉄で無理矢理身体を固定したからである。
故に、ゼロを中心にして左右から強力な力が相殺されたことにより、ゼロは予想以上の攻撃を受け止めていたのだ。あの場で吐血しなかったのは奇跡と言っていいだろう。
「……ハァ。顔は見られちまうしよォ」
ゼロがフードを深く被っていたのは、当然の如く素顔を隠すこと。変声器は持っていないので声は変えれないが、顔を隠すことで発見を遅らせる事が目的であった。
今まで素顔をバレずに行動出来たが、今回はそうではなかった。大勢に素顔がバレたのだ。ゼロにとって痛手であったのは言うまでもない。
「此処がバレちまうのも時間の問題かァ?」
既に一度襲撃者達に住処をバレている。情報網が日に日に拡大している警察庁に尻尾を掴まれるのは時間の問題だろう。それに、自身の住処を襲撃者達が警察に漏らす可能性は十分にあった。
「と、なると……アイツん所に行くしかねェかァ」
ゼロは痛みで悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、起き上がる。フードを深く被り、おぼつかない足取りで目的地へと向かった。
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東京の路地裏の奥。薄暗い店内の中で一人の女性がグラスを丁寧に拭き上げる。店内はクラシックが流れ、落ち着きがあるオシャレなバーと言えばそこまでであるが、あくまでもそれは表向けである。
「よォ……元気だったかァ?」
カランコロンとドアが開く音と共にゼロがバーへ来店する。女性はゼロを見て微笑みながらグラスに飲み物を注いだ。
「一昨日あったばかりでしょ? もしかしてゼロはボケちゃったの?」
「あァ? ボケてねェよ。ちょっとした挨拶だろうがよォ」
出された飲み物を一気に飲みしたゼロは微笑む女性を見て眉を顰める。
「何笑ってんだァ?」
「貴方が情報目当て以外で来るのが嬉しいのよ。まぁ、情報の事よりもずっと重要なんでしょうけど」
ヒナタの本職はバーの店員ではなく情報屋。ゼロはヒナタから裏社会の組織や過激派の情報を買い、その情報を用いて行動している。ヒナタにとってゼロはお得意さんの様なものだ。
「分かってんじゃねェか」
椅子の背もたれに身体を預け、上を向いたゼロは目を瞑る。
「今朝、クソ共が俺の家まで来て機嫌を損ねやがった。そいつらの親玉を潰しに桜花学園に行ったんだがァ……顔がバレちまったんだよなァ」
「桜花学園? 何でそんな所に?」
「クソ共の親玉は桜花学園に襲撃してたんだよォ。クソが、あんなに大勢に顔がバレちまったんだ笑い事じゃ済まねェ」
ガバッと起き上がり、新しく注がれた飲み物を数秒見た後、ヒナタに視線を移した。
「そこでだヒナタ、俺を匿ってくれねェかァ?」
「あら? 貴方が私を頼るだなんて……どういった風の吹き回し?」
首を傾げたヒナタにゼロはニィと笑みを見せる。
「ここの地下にテメェの研究所があんのは知ってる。そこなら俺を匿うのは可能だろォ? 勿論タダとは言わねェ……テメェの研究を手伝うって条件でどうだァ?」
「何で私の研究所の事を知ってるのかを問い詰めたいけど……まぁ、いいわ。貴方が研究に協力するならかなりはかどりそうだし」
「じゃあ、決まりだなァ。だが、まァ……すんなりと要求を呑んだなァ?」
「当然よ。他の組織を相手するより貴方を相手にする方がよっぽど恐ろしいもの」
ヒナタの言葉に鼻で笑いながらゼロは飲み物を飲み干す。懐から代金を取り出し、カウンターに置いた。
「これは?」
「飲みもんの代金だァ」
「そう。てっきり情報を買うのかと思ったわ」
「顔バレと家バレしてんだがァ? そんな状態で外歩いたらアウトだろうがァ」
「ふふふ、そうね。それじゃあ、もう店を閉めましょうか」
ゼロの目の前に置いてあるグラスを下げ、ヒナタは入り口に掛けてある看板をひっくり返した。ゼロはそれを見て眉を顰める。
「閉店には少しばかり早いと思うんだがァ?」
「今から研究所を案内するわ。貴方が住む部屋と手伝って欲しいことを説明したいし」
「んじゃあ、行くかァ」
ゼロは頭を掻きながら立ち上がる。ヒナタはそんなゼロを見てクスリと笑いながら店の奥へとゼロを案内する。
「こっちよ」
「……随分と近代的じゃねェかァ」
顔、指紋、瞳孔、声。それらの認識を終えた後、分厚い鉄の扉が三枚開かれ、地下へと続く階段が見える。それを見て笑みを零したゼロは階段の奥へと歩き出した。
光が届かない所まで歩いた瞬間、壁に付いていた電灯が淡く光る。眩しくないように調整されたその明るさはゼロに不快感を与える事無く周りを照らしていく。
灰色のみ無機質な壁。それを見飽きたと言わんばかりにゼロがため息をつき始めた頃、先程と同じ様な鉄の扉があった。
「随分と厳重だなァ」
「侵入されたら面倒だからね」
先程と同じ手順で認証を済ませた後、ゆっくりと鉄の扉が開かれる。周りが白い光で覆われたような錯覚に落ちる程に白い内部にゼロは思わず目を細めた。
「眩しいかもしれないけど我慢してね?」
「別に無駄に眩しくても構わねェ」
所々にある白い扉とガラスの窓。部屋の中では研究者達が怪しげな薬品などを作っている。
「……お帰り、ヒナタ」
ゼロは声がした方向、後ろを振り向く。純白の髪に紅い瞳、白いワンピースが身体と同化しているんじゃないかと思わせる白い肌をもった少女が立っていた。