一発ネタです。駄文注意。

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クルダの技を継ぎし弟子。異世界に転生しても余裕で生き抜く。

「君の牙は折れているか?」

 

 戦争により生まれ故郷を失った僕に、何処からか現れた男が問いかける。

 僕はどう答えて良いかわからず、ただ『生きたい』と願った。

 

「そうか」

 

 それだけ言うと、男が柔らかく笑う。

 僕はようやく助かるのだとひと心地つき、そして辛うじて繋ぎ止めていた意識を手放した。

 

 

 

 

 それから5年。

 ガウと名乗った男により、外の世界で生きていくのに必要最低限の技術を習った。

 

 

「そらそらどうした腰が入ってないぞ!」

 

 必殺の一撃が込められた拳が顔の真横を穿つ。

 初めから当てるつもりはないが、一切押さえつける気の無い攻撃力が死を予感させる。背後の大岩がその一撃を受け止めきれず粉々に砕けたのだ。

 

 クルダ流交殺法──表技『*1滅刺(メイス)

 

 それらを本気で放ってくる相手に恐怖を覚えないわけがない。

 僕は泣き言を言いながら必死で避け、ようやく覚えたばかりの影技で反撃に出る。

 

「ちぇぁああああ!」

 

 クルダ流交殺法──影技『*2舞乱(ブーメラン)』だ! 

 なるべく隙を見せず、渾身の力で放った旋風脚。

 

 だが、あっけなく師匠によって受け止められてしまう。

 

「ははは、出だしが遅くて見え見えだったぞ。まだまだ未熟だな」

「くっそー」

 

 そのまま宙吊りで場所を移動。

 師匠は傭兵王国クルダの修練闘士(セヴァール)の一人。交友関係も広く、師匠の師匠も偉大な人物だったらしい。

 

 野生の獣相手には必殺である舞乱も、師匠にかかれば児戯に等しい。

 でも僕はこの偉大な師匠の元で暮らして、いつか立派な闘士(ヴァール)になって見せると意気込んだ。

 師匠はなれるといいなとはにかんでいたけど、僕はなれると思い込んでいた。

 だってこんなにも素晴らしい師についているのだから。

 僕は程よく焼けたウサギ肉にかぶりつき、栄養を補給するとすぐにいつもの鍛錬に向かった。

 

 

 

 

 あれから10年。

 空に五本の牙跡を見つけてからと言うものの険しい表情を見せていた師匠が、やることがあると言って僕の元を去ってしまった。

 僕は影技を中心にある程度マスターしたけど、表技もしっかり磨けとそれなりに注意を受けて、形だけはマスターしていた。

 でも、師匠がいてくれないと張り合いがないって言うか。

 僕はきっと師匠が好きだったのだろう。人として、そして師として。

 

 

 

 僕が最後に意識を失う前、天が紅に染まった。

 降り注ぐ大量の熱になすすべも無く死んだのだ。

 結局師匠に助けてもらっらこの命も、無駄にしてしまった。

 師匠はお前なら良いお嫁さんになれるって、そんな風に言ってくれた。

 でも、それを叶える間も無く意識は薄れた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 目がさめると知らない部屋にいた。

 どこだろう、クルダじゃないことは確かだ。もしかして話に聞いた聖王国? 

 なんでこんなところにいるんだろうか? 

 さっさと逃げ出して……そう思ったところで身体が動かない事に気がついた。

 

「あう、うぁああ」

 

 声も出ない。

 何がどうなったの? 

 混乱している僕の前には真上から覗き込むような巨人が、僕の体を掴み上げた。

 

「ひっ……ぅあああぁ」

 

 精一杯抵抗した。食べられる──そう思ったのもつかの間、体全体に暖かな光が宿った。

 

「クールの魔法をかけたわ。怖い思いをさせてごめんなさい。クレア」

 

 誰のことだろう、僕はシュラ。師匠のつけてくれた名前がちゃんとある。

 もしかして誰かと間違えているのだろうか? 

 

 その巨人はまるで僕のことを赤子のようにあやし始める。

 そこでなんと無く察してしまう。

 この場所のことを、そしてあの跡自分がどうなったのかを。

 

 輪廻の輪をくぐり、全く違う世界へと生まれ直したのだと。

 

 

 

 10歳になった。

 シュラとしてでなく、クレアとして。

 

 僕はそこそこ良い生まれだったため、学園に編入しなくてはいけなかった。

 そこでは剣や魔法といった技能を磨く場所だと言われる。

 残念なことにここでは打撃を中心とした技法は蛮族にのみ許された最低の技術として、あまり推奨されていなかった。

 

 それでも隠れてこっそり修練に励む。

 走り込みも、基礎訓練も全ては剣技を磨くためだと偽り、私は唯一の師であるガウ・バンの技をこの世界で再現した。

 

 

 

 ◇

 

 

「クレア、無謀だ! 木剣でグレートボアに立ち向かうなど!」

 

 学園では外での実技訓練が頻繁に行われた。

 本日はグループを組んで角ウサギを討伐せよと命が下っていた。

 正直、飽きていた。そこで食事中にボアに襲われると言うハプニングに出会った。なんとか追い払うことに成功するも、すぐに奥から巨体が現れた。

 強敵の気配を感じた僕は、すぐさま飛びかかったと言うわけだ。

 すぐ後ろから僕に色目を使う貴族のライノールが心配そうな声を上げる。

 確かに見上げるほどの巨体に、木剣では大してダメージを与えることはできないだろう。

 

 だがクルダの技ならば話は別だ。

 

 剣の柄に手をかけるフリをして、拳を握りこむ。

 師匠が最も得意としていたた技、お借りします。

 

 

 ──クルダ流交殺法・表技『滅刺(メイス)

 

 拳圧が空気の層をぶち破り、渾身の一撃がグレートボアの瞳を貫通する。

 久々に感じる肉を貫通する手ごたえ。

 返り血を浴びた姿はまるでこちらがダメージを受けたようにも思えたのだろう。同じグループの子が悲鳴をあげた。

 

「まだ仕留めきれてない、牙の折れてる獣に用はないわ! 逃げなさい」

 

 同じグループの子を逃すように叱咤する。

 もちろん、ここから先自分が楽しむためである。

 みんなに見せないようにしていたが、私は笑っていた。

 この世界にきてからと言うものの、血湧き肉躍る戦いに飢えていたのだ。

 

 返り血を頬に貼り付け、武技言語を謳う。

 

『我は無敵なり──我が影技に敵うものなし──我が一撃は無敵なり」

 

 己を鼓舞し、本来では出力不可能な領域にまで己を高めるクルダ流交殺法影門死殺技──『*3裂破(レイピア)

 

 

 大地をえぐるほど能力を発揮したその技により、グレートボアはミンチ肉に生まれ変わった。周囲には血の匂いが漂い、ただ事ではない惨状が生み出されている。これがよもや10歳になったばかりの幼子がしでかしたなどとは教員たちも思いもしないことだろう。

 

 だから頭の固い教師たちは魔族が出没したと騒ぎ立てた。

 もちろんクレア的には強敵が出てきてくれるのならラッキーだと小さくガッツポーズした。

 

 

 

 

 

 

*1
直線的に拳を高速で繰り出す基本的な打撃技

*2
要は旋風脚

*3
飛び込みながら蹴りを放つ




必殺技は見開きページを贅沢に使って脳内補完よろしく


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