異なった歴史を辿った地球のドイツを召喚してしまった結果   作:やがみ0821

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飽和攻撃

 

「まだ住民共は来ないのか!」

 

 とある属領にて、部隊長が声を張り上げていた。

 いわゆる属領住民による強制労働であったのだが、最近は自発的に住民達が参加していた為、部隊長のストレスはほとんど無くなっていた矢先にこれだ。

 

 住民達を動員したワイバーン基地の建設はほぼ終わり、ワイバーン部隊も進出してきている。

 最後の仕上げという段階で、このようなことになるとは全く予想していなかった。

 

 始業時間である9時はとっくに過ぎており、まもなく10時になろうとしている。

 部隊長は当然、指揮下にある兵士達に住民達を連れてくるよう命じているのだが、10分前の報告によれば、市街地はもぬけの殻であり、人っ子一人いないとのこと。

 

 集団で逃げ出した、となると部隊長の責任問題になってくる為、彼も必死だ。

 慌てて捜索隊を編成し、付近を探させている。

 

「部隊長! こんな張り紙が町長の家の中に!」

 

 もう一度、市街地を探させていた兵士の1人が戻ってきた。

 部隊長は兵士が持ってきた張り紙を受け取り、書かれていたものを見た。

 

 そこには短く書かれていた。

 

 

 パーパルディアへ

 クソくらえ!

 

 

 

 その時だった。

 聞いたことも無い音が遠くから聞こえてきたのは。

 

 張り紙に怒るよりも、部隊長達はその音が気になった。

 彼らは皆、空を見上げ、音の発生源を探す。

 すると、南の方にきらきらと光る何かが複数見えた。

 

 それらはあっという間にこちらへと近づいてきて――

 

 何かが落ちてくる音が聞こえたと思ったら、彼らは一瞬熱いと感じ、そしてその意識は永遠に途切れることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇都エストシラントを守護するワイバーン基地には当然であるが精鋭が配備されていた。

 虎の子であるワイバーンオーバーロード、主力となるワイバーンロード。

 通常のワイバーンは二線級の戦力として属領統治軍に主に配備されており、エストシラント周辺の基地には存在しなかった。

 第三文明圏においては最強の名を欲しいままにする、ワイバーンオーバーロード、そしてワイバーンロードであったが、今日を持って、その座を明け渡すこととなった。

 

 

 エストシラント全域に響き渡る程の騒々しい轟音。

 何事かと、皇帝ルディアスから国民まで、誰も彼もが空を見上げた。

 

 ワイバーン基地の他にも、三大陸軍基地の一つである皇都防衛隊陸軍基地がエストシラントの郊外に存在したが、将軍や兵士達も、この音の正体を突き止めるには至らなかった。

 

 だが、エストシラント上空を哨戒している――敵襲などあるはずもないので、退屈な任務とされていた――ワイバーンロードと竜騎士達は気がついた。

 

 遥かな天空できらきらと何かが陽の光を受けて、煌めいていることに。

 それは見たこともない速さで、さながら流れ星のようであった。

 

 だが、流れ星が複数、真っ昼間にエストシラントの上を通り過ぎるなどこれまでにない。

 

 何だと思っているときだった。

 黒い何かがその流れ星から複数落ちてきた。

 

 彼ら竜騎士達は精鋭だ。

 だからこそ、それが何かを突き止めるべく、全速力で向かう。

 

 ワイバーン基地の周辺に落下すると彼らは予想し、どんどん距離を詰めていき――

 

 

 閃光、爆発。

 衝撃波がワイバーンロードたちに襲いかかり、彼らは一瞬で全身を引きちぎられた。

 

 彼らだけでなく同心円状に広がっていった複数の衝撃波は民間人・兵士の区別なく殺傷し、また建物を一瞬にして崩壊、あるいは損傷させた。

 そして、傷つきながらも生き残った者達は巨大なキノコ雲が幾つも基地の方向から立ち昇っているのを見た。

 

 

 

 

 ドイツ空軍による第一撃は対列強を――地球における列強――想定しつつも主に2点の変更を加えた、爆撃から始まった。

 変更の一つは本来は敵空軍基地やレーダーサイトの無力化を狙う攻撃であったが、レーダーサイトが存在しない為、陸軍基地や海軍基地、軍港へと変更されている点だ。

 そして、この攻撃に使われる爆弾は命中精度を威力で補うべく、開発された5トン爆弾、10トン爆弾、20トン爆弾であった。

 核兵器が実戦配備されていない為、苦肉の策だ。

 これらの大型爆弾は1発あたりのコストは高かったが、転移により臨時予算が通っていたので問題はなく、また実戦で試したいという空軍側の意向もあった。

 また、もう1つの大きな変更といえば侵入時の高度と速度だ。

 ワイバーンオーバーロードであっても、上昇限度は通常のワイバーンとあまり変わらないことが判明している。

 

 ドイツ側からすれば概要だけでもいいから教えてくれとアデナウアー経由で頼んでみたら、あっさりと詳細な性能を教えてくれたので拍子抜けであった。

 速度や戦闘行動半径、上昇限度といったものがドイツからすれば欲しいものであり、それ以外の――例えばワイバーンオーバーロードの作り方などは――そこまで魅力的には思えなかった。

 

 当初、ドイツ空軍は対列強――特に対ロシアを想定したドクトリンに従ってB70ワルキューレによる高高度高速侵入爆撃をパーパルディアに行うつもりであった。

 しかし、もっとも警戒していたワイバーンオーバーロードはドイツ空軍にとっては、大した脅威にならなかった。

 だからこそ、ワイバーンオーバーロードが上がってこれない高度5000m付近からの亜音速爆撃に切り替えた。

 命中精度を高める為だ。 

 

 もっとも、この高度と速度は、マッハ2を超える速度を出し成層圏を飛行するB70からすれば、低高度・低速もいいところだ。

 このB70は計画段階ではマッハ3を狙ったが、マッハ3に耐えられる機体の製造にコストがかかりすぎるという試算がかなり早い段階で出たことで、速度は抑える代わりに、機体内部の爆弾槽を広く大きくし、搭載量の増加を図るなどの変更を行い、汎用性を高めた。

 この変更により製造コストが低下した為、B70はそれなりの数が平時から揃えられていたのだが、数が増えた分、維持費用がかさんでおり、政府と議会からは浪費の女神と呼ばれていた。

 

 

 なお、地球の列強みたいな国家があった場合を想定した実戦演習としてドクトリン通り――高高度高速侵入爆撃――に実施してはどうか、という意見もあったが、演習扱いするには費用が掛かりすぎるということで却下となった。

 

 

 さて、ドイツ空軍による第一撃はエストシラントだけではなく、各地の主要なワイバーン基地や陸軍基地、海軍基地や軍港に対して距離の問題もあり、若干の時間差で攻撃が行われたが、パーパルディアからすれば同時攻撃と言っても過言ではなかった。

 

 これにより皇国本土及び属領にあった主要なワイバーン基地、その全てが潰された。

 また、陸軍においても皇国が誇る三大基地をはじめ、規模の大きい基地は属領にあるものも含め、ほとんどが壊滅し、海軍も同様に主だった軍港や海軍基地を停泊していた艦隊ごと破壊された。

 

 

 

 しかも、これで終わったわけではなかった。

 午後にはB95と欧州戦争末期に開発されたB46の発展型であるB52を主力とし、パーパルディアの一大生産拠点である工業都市デュロをはじめとした、皇国の重要拠点及び第一撃では攻撃しなかった中小規模の陸軍基地を爆撃する。

 また、同時並行でA-10による残存する敵陸軍部隊や艦船への攻撃も行われる。

 パーパルディア皇国軍の艦船は木造なので30mmガトリングガンで十分無力化できると考えられた。

 

 なお、A-10の参加部隊には欧州戦争で若輩ながらもA-5を操り戦果を挙げ、戦後は教官を務め、現在では少将となったルーデルが陣頭指揮を執る地上攻撃航空団も含まれていた。

 

  

 

 

 

 

 一方、海においても予定通りに始まっていた。

 

 

 

『停船せよ。こちらはドイツ海軍所属の駆逐艦マックス・シュルツである。停船しない場合は撃沈する』

 

 灰色の艦船がパーパルディア方面へと向かう小規模な船団へ拡声器でもって呼びかけていた。

 船団側は何事かと思いつつも、その船は船団よりも素早く前方に回り込んでいくのを見て、船団側の船長達は即座に停船指示に従った。

 

『パーパルディア皇国は現在、我が国ドイツと交戦中である。パーパルディアへ通じる海域は我が軍により全て封鎖されている。引き返されたし』

 

 引き返せ、と言われて船団側は納得できず、反論するかと思いきや、彼らは素直に従った。

 彼らはシオス王国からパーパルディアへと向かう商人達の船団だったからだ。

 

 ドイツについてはよく知っているし、何よりもお得意様だ。

 

 それにパーパルディアについては色々と思うところがあるので、ドイツが叩き潰してくれるなら万々歳であった。

 

 

 船団側の旗艦から手旗信号が送られる。

 マックス・シュルツ側は――無論、ここにはいないマックス・シュルツ以外のドイツ艦船であっても――この世界の船乗り達から手旗信号を学んでいた為に問題なく、それを理解できた。

 

 

 

 物資の補給は必要なりや?

 当方に格安で提供する用意あり――

 

 

 商魂逞しいシオスの商人達にマックス・シュルツは感謝しつつも丁重に断った。

 

 

 パーパルディアへ通じる海域ではどこも同じように、ドイツ海軍による封鎖が始まっていた。

 とはいえ、パーパルディアと海を跨いで恒常的に取引がある国は第三文明圏内か、もしくは第三文明圏に近い文明圏外国だ。

 これらの国々はドイツとも取引があり、なおかつ友好的な関係で、そして例外なくパーパルディアに苦渋を舐めさせられた国ばかりであった。

 その為、停船に従わず、武力衝突に発展するという事態は幸いにも無かった。

 

 

 

 

 

 カイオスは呆然としていた。

 時刻は12時を回っていたが、とてもではないが食欲など湧いてこない。

 

 ドイツと開戦してからたったの2時間しか経過していない。

 2時間程前、彼は監査軍に連絡し、ドイツへの対応をじっくりと考えようと思っていた。

 

 カイオスにとって、ドイツが急な宣戦布告をしてくることは予想できていた。

 蛮国の最後の抵抗というやつで、戦わずして降伏するくらいなら――という思想によるものだ。

 これまでにもよく有ったので、彼は驚くことなど無かった。

 半年掛けて、必死に皇国に抵抗する為に軍備を整えていたのだろうな、と憐れみすら抱く程だった。

 

 

 

 しかし、これはいったいどういうことだろうか。

 

 カイオスは思い出す。

 この2時間で起こったことを。 

 

 

 10時を回ってすぐ、突如として大地が複数回に渡って揺れた。

 慌てて外へと飛び出したカイオスと職員達は天へと上るキノコ雲が遠くに見えた。

 

 その後は悪夢でしかない。

 

 エストシラントのワイバーン基地と皇都防衛隊陸軍基地が吹き飛んだことが第一報として1時間後くらいにもたらされた。

 それから30分程して、魔信により続々と各地から報告が入ってきた。

 

 本来ならカイオスの第3外務局という畑違いの部署に入ってくる通信ではないが、送信側は混乱の為か、無差別にエストシラントに救援を求めているようだった。

 

 カイオスをはじめ、それを聞いた通信室の職員達は、荒唐無稽・流言飛語とは思わなかった。

 

 少なくとも本国領土と属領におけるワイバーン基地、皇国軍の三大陸軍基地及びそれらには及ばないものの、それなりに規模が大きな陸軍基地、主だった軍港や海軍基地とそこに停泊していた艦隊。

 それらは2時間で消し飛んだ。

 

 それは皇国軍の戦力がほとんど失われたことを意味する。

 もしかしたら、たまたま基地を離れていた部隊や艦隊などもいるかもしれないが、少数だろう。

 また、カイオスが動かせる監査軍の指揮下にある艦隊が停泊していた港や陸軍基地、ワイバーン基地とも連絡がつかないことから、失われたと彼は判断するしかなかった。

 

 

 

「カイオス局長!」

 

 呼ぶ声にカイオスは我に返る。

 近衛兵だった。

 彼は走ってきた為か、荒い呼吸であったが、カイオスへと用件を告げる。

 

「皇帝陛下より、緊急御前会議を開催するとのことです! ただちに皇城へ来るようにと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことなのだこれは!?」

 

 ルディアスは怒鳴りつけた。

 第1から第3外務局の局長、皇国軍最高司令官、皇帝の相談役、国家戦略局局長、情報局局長と錚々たる面々が揃っていたが、誰も皇帝の問いに答えられなかった。

 

 しかし、カイオスはどうにか報告する。

 

「陛下、第3外務局にドイツから……」

 

 ドイツという単語にルディアスの表情は一変する。

 

「おお! ドイツから救援が!?」

 

 笑顔でそう問いかけられ、カイオスは胃が非常に痛くなった。

 

「いえ……本日午前10時をもって、我が国に対して宣戦布告すると……」

 

 ルディアスは数回瞬きをする。

 理解できないといった様子だ。

 他の面々も同じような反応だった。

 

「皇国軍を差し向けろ! 殲滅戦を行う!」

 

 数十秒掛けて、ようやく理解したルディアスは怒りのあまり、そう叫んだ。

 しかし、ここで皇国軍最高司令官のアルデが恐る恐る告げる。

 

「陛下……現在把握できている限りですが、我が軍は本国軍、属領統治軍含め陸海空の、大半の戦力を午前中に起きた謎の爆発により、失いました。また、基地だけでなく周辺市街地への被害も甚大で、死傷者も多数……」

「あの爆発は何だ! アルデ!」

 

 アルデは胃が非常に痛くなったが、答えないわけにはいかない。

 

「わ、分かりません。ただ、直前に流星と思しきものが複数目撃されており、その、隕石が落ちてきた可能性が高いと……」

「それでは何か!? 我が国の基地や港を狙いすまして、多数の隕石が降ってきたのか!? そんなことが起きるわけないだろう!」

「し、しかし陛下、現状ではそうとしか考えられません!」

 

 アルデの必死の言葉。

 ルディアスの矛先が彼に向いている中で、顔色が非常に悪い人物が存在した。

 その人物は脂汗を額から流している。

 

 情報局局長のノイスだった。

 その次に顔色が悪いのは国家戦略局局長であるラッサだ。

 

 カイオスは勿論、他の面々も気がついた。

 ルディアスもまた、2人の顔色が悪いことに気がつく。

 

「ノイス、ラッサ。何か知っているのか?」

 

 ルディアスに問いかけられたら、答えないわけにはいかない。

 

「も、申し訳ありません! ドイツに関することで……」

 

 

 そのときだった。

 御前会議を行っているにも関わらず、伝令が飛び込んできた。

 

 部屋の前で警備にあたっていた近衛兵達も、伝令の報告内容を聞き、一大事と即座に判断し、彼を通したのだ。

 

「何事か!」

 

 皇帝直々の問いかけに伝令は叫ぶ。

 

「属領各地にて大規模な反乱が発生! 各地の属領統治軍より、救援要請多数!」

 

 ルディアス達は一瞬、思考が完全に停止した。

 彼らは信じられなかった――否、信じたくなかった。

 

 最悪のタイミングで、最悪のことが起こったことに。

 

 しかし、彼らの最悪はまだ終わらない。

 

 また別の伝令が駆け込んできた。

 

「今度は何だ!」

 

 叫ぶルディアスに伝令もまた叫び返す。

 

「近海哨戒中の戦列艦より緊急信です! 皇国沿岸海域がドイツ海軍により、封鎖されている模様!」

「攻撃して沈めろ!」

 

 ルディアスが当然ともいえる命令を下した。

 補足説明をするように、アルデが口を開く。

 

「確か、30隻程の艦隊で、訓練を兼ねて哨戒していた筈だ。撃沈は十分可能。何しろ、相手は文明圏外国の海軍だ。一方的な戦闘になる」

 

 アルデが言った直後、3人目の伝令が駆け込んできた。

 

「哨戒中の戦列艦より通信! 敵艦より射程外から一方的に攻撃されつつあり! 残存艦、10隻! 救援乞う!」

 

 ルディアスとアルデ、そして他の出席者達は一斉にノイスとラッサへ視線を向ける。

 

「改めて問おう。何を知っている?」

 

 ノイスとラッサはほぼ同時に土下座した。

 そして、ノイスが告げる。

 

「ロデニウス大陸にある各国や、アルタラスなどに潜入している諜報員達からは、ドイツは機械式のワイバーンを開発し、高威力の魔法攻撃を実行できると……」

「また、ドイツは鉄製の巨大船を実用化しており、ドイツの船は基本的に全て鉄製で……ムーと同等程度の技術力があるかもしれない、と……」

 

 ルディアスは怒りのあまりに震え、しかし、それを抑えるべく、深呼吸を数回する。

 

「……つまりは何か? お前達は、皇国に対する反逆を働いた、あるいはドイツと繋がっていたと理解して良いのか?」

 

 とんでもありません、と2人は叫ぶ。

 

「し、しかし、信じられますか? 私も含め、情報局は誰も信じませんでした」

「同じく、国家戦略局も誰も信じませんでした……ですから、話を盛っていると……ドイツは文明圏外国ですから、その……」

 

 ルディアスは傍にあった水差しを乱暴に掴み取り、それを自身のコップに注ぐ。

 そして、一気に飲み干す。

 

 どうにか彼は気を落ち着かせることに成功する。

 完全ではなかったが、少なくともただちにノイスとラッサの処刑を命じない程度には。

 

 ルディアスは静かに問いかける。

 

「他にはあるか?」

「クワトイネから食糧を運んできた船の水夫達も各地の港で、その、ドイツに関する話をしていたとのこと。ドイツは凄いと……鉄製の船や機械式ワイバーンとか色々と……」

「どうしてそれを報告しなかった?」

「クワトイネもまた文明圏外国ですから、彼らの話を鵜呑みにするのは……ですから、荒唐無稽だと判断し、精々が我が国よりも少し下回るか、最高でも同等程度の軍備であると情報局は想定しました」

 

 そのことをラッサは知らなかったらしく、驚いた顔だ。

 国家戦略局は基本的に国外の諜報や工作を担当している。

 情報局は工作活動は専門とせず、基本的に情報収集が専門で、国内外をカバーしている。

 その為、国内の情報に関して、国家戦略局は情報局と比べて疎いところがあった。

 

「率直に尋ねる。アルデ、我が軍が仮に再建できたとして……勝てるか?」

 

 アルデはすぐには答えなかった。

 これまでのやり取りで、彼はこの数時間の間に行われた攻撃が誰によって、実施されたのか、理解してしまった為に。

 彼の中でルディアスに対する答えは決まっているが、それを口に出すのは憚られてしまう。

 しかし、ルディアスは重ねて尋ねる。

 

「軍事の専門家から見ると、どうなのだ?」

「……ムーと同等程度では済まないでしょう。陛下が仰られたように、我が国の基地や港を狙って隕石が多数、降ってくるなどありえません」

 

 ルディアスは軽く頷き、続きを促す。

 

「おそらく、午前10時から行われたものはドイツ軍による攻撃です。カイオス局長、午前10時をもって、と仰られましたが、それは確かですか?」

「確かです。ここに原本も持ってきました」

 

 カイオスはカバンから書簡を取り出し、それを広げた。

 そこに書かれている内容を確認し、アルデは告げる。

 

「軍事的には理想的なやり方です。我々に対処する時間を与えない上、第一撃でもってこちらの主要戦力の大半を叩く……言うのは簡単ですが、これを実行するには並大抵の技術や国力では不可能です。皇国本国軍であっても、こんなことはできません」

 

 アルデはそこで言葉を切り、ルディアスや他の出席者達の反応を窺いつつ、言葉を続ける。

 

「ここからは私の推測ですが、属領で大規模な反乱が起きたのは、タイミングがあまりにも良すぎます。各地の属領からは現地住民が協力的になった、という報告が数ヶ月前にありましたが……おそらくドイツが根回しをしたのでは……」

「ノイス! 情報局は何をしていた! 昼寝でもしていたのか!? お前達の仕事だろう!」

 

 ルディアスの叱責に、ノイスはすぐさま答える。

 

「恐れながら陛下! 属領には抵抗組織が多数あり、情報局は総力を挙げてそういった組織を探し……」

「総力を挙げていたなら、何故、ドイツによる扇動工作を防げなかった!?」

 

 もっともな指摘にノイスは押し黙るしかない。

 

「陛下、発言しても?」

 

 相談役のルパーサの言葉にルディアスは頷く。

 許可を得たことで、ルパーサは告げる。

 

「アルデ殿にお聞きしますが、どのようにドイツは工作員を潜入させたと考えますか?」

 

 問いかけられ、アルデは腕を組む。

 

「圧倒的な技術力の差があると私は予想するが、攻撃前、非常に騒々しかった。あんなものでは潜入には不向きだろう」

「潜入用の別のものがある可能性は?」

「否定できない。だが、それでも目立つ筈だ。何しろ、ムーのような飛行機械は我が国には勿論、第三文明圏には存在していない」

「軍への通報などは?」

「そういったものが飛んでいたとは聞いていない。そんな珍しいものが来ていれば、必ず私のところにまで報告が上がってくる筈だ」

 

 ルパーサは頷き、そしてアルデも彼が言わんとしていることに気づいた。

 

「もしや、ドイツはワイバーンも運用しているのか? 工作員の潜入用として」

「可能性は非常に高いかと。ワイバーンであれば、遠目にはどこの国の所属かは分かりませんし、我が国の空を飛んでいても不思議ではありません。それが属領統治軍に多数配備されている通常のワイバーンなら尚更です」

 

 ルパーサの言葉にアルデは勿論、ノイスもまたしてやられた、と悔しげな顔をする。

 

「ワイバーンで各地に工作員を送り込み、現地の抵抗組織と接触し、協力を得ることで、匿ってもらう。おそらく、ドイツ本国と現地のやり取りもワイバーン経由かと思われます。抵抗組織への見返りは独立の支援といったところでしょうか」

「それならば現地住民達が協力的になったのも頷ける。道路の整備はやって来るドイツ軍の為、物資の運搬はどこに基地があるかを把握し、ドイツへ知らせる為……そういうことであったのか……」

 

 ルパーサの言葉を受け、アルデが答えを導き出した。

 アルデの答えはルパーサが考えた答えと同じであった。

 確固とした証拠は当然ないが、状況的にこれは正解だろう、と2人の言葉を聞いていた誰もが確信する。

 

 そして、ルパーサはルディアスへと視線を向ける。

 

「陛下、我が国はどうやら負けるべくして負けたという状況です。ドイツは圧倒的な力があるにも関わらず、油断も慢心もない。無償の食糧援助などという我が国に下手に出ることすら、勝利の為にやってのけました」

 

 ルディアスは何も言わず、信頼している彼の言葉に耳を傾ける。

 

「例えるならば、ミリシアル帝国が準備万端整えて、全力で我が国に殴りかかってきたようなものです。もしかしたらミリシアルよりも上かもしれませんが……」

 

 ルパーサはそう告げた。

 ミリシアルよりも上かもしれない、と優れた先見性を持つ彼に言わしめるドイツ。

 しかし、何故か、誰もそれを否定する言葉が出てこなかった。

 皆、そうかもしれないという思いが心の片隅にあった為に。

 

 ルディアスは決断する。

 信じたくない状況であるが、紛れもない現実であると彼は受け入れた。

 

 

「余はドイツに対して降伏する。ルパーサ、そなたを全権大使とし、エルトがその補佐にあたれ。必要な人員は好きなだけあちこちから引き抜いてよろしい。講和の条件については任せる」

 

 任せる、というルディアスの言葉にさすがのルパーサも驚く。

 しかし、ルディアスは彼の顔を見て、力強く告げる。

 

「そなたに任せておけば安心だ。余はそなたを、そなたらを信じている。これからが大変であるぞ」

 

 ルパーサは無論、アルデ達は全員が平伏した。

 そして、ルディアスは思い出したかのように告げる。

 

「ノイス、ラッサ。責任を感じているならば、生きて働き、汚名を返上せよ。勝手に死ぬことは許さんし、余がそう命じることもない。ルパーサに感謝するが良い」

 

 余の気を鎮めてくれた、とルディアスは苦笑し、肩を竦めてみせた。

 そのときだった。

 

 4人目と5人目の伝令が同時に駆け込んできた。

 

「報告! 各地に残存していた陸軍基地が攻撃を受け、壊滅しました! また、基地を離れていた陸軍部隊が敵の攻撃に遭い、潰走しているとのことです!」

「デュロより報告! 工場地帯及び一部市街地が敵の攻撃により炎上中! 精錬前の魔石が誘爆を繰り返し、手がつけられないとのことです!」

「時間はない、ただちに取りかかれ!」

 

 報告を受け、ルディアスはすぐさま命じたのだった。

 

 

 

 

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