異なった歴史を辿った地球のドイツを召喚してしまった結果 作:やがみ0821
グラメウス大陸におけるジークフリート作戦は順調であった。
南部に上陸したドイツ軍は橋頭堡を築き上げ、内陸部への本格的な浸透を開始。
空軍機及び海軍機による爆撃もまたそれに伴って、内陸部に対して行われ始めた。
そして、作戦開始から半月程で、南部を完全に制圧。
また世界の扉方面へとそれなりの数の魔物や魔獣が逃げてきたが、こちらも特に苦もなく現地に駐屯していたドイツ軍により粉砕された。
多数の魔物達は内陸へと逃げるが、空海軍による絨毯爆撃が実施され、あっという間にその数を減らしていった。
地面に穴を掘って隠れて、一矢報いようとした魔物や魔獣もいるにはいたが、全体としては少数であり、また彼ら決死の攻撃も戦車を先頭にし、やってくるドイツ軍に対しては有効な打撃を与えることができなかった。
そして先遣隊が事前に発見されていた、困難となる地点へと辿り着く。
天然の要害とでも言うべき、巨大な岩壁だ。
それは延々と左右に続いており、最短距離を行くならば超える必要があった。
とはいえ、登って超えるのは不可能と偵察機による発見時点で判断され、予定通りに裂け目を探すこととなった。
他の先遣隊もその岩壁に阻まれており、あちこちで裂け目探しが始まった。
事前の空軍による偵察では岩壁の向こうには広大な黒土地帯があり、また湖や川もあるらしい。
集落と思われる多数の建物も確認されているが、何が住んでいるかまでは分からない。
頻繁に行われた航空機やヘリによる偵察では近づくと、どうやらその騒音を警戒され、あっという間に建物の中に逃げてしまうらしく、詳しい確認はできてない。
予想では、それこそ数十万人クラスの都市がすっぽり収まる程度には、この岩壁に囲まれた土地は広かった。
ヘリによる岩壁超えをやらないのも、ここ住んでいる連中がもしも高度な知能を持った魔物や魔獣の住処であった場合、面倒くさいことになる可能性があった為だ。
トーパ王国からの情報によればグラメウス大陸における魔物の中には強大な魔法を使うものもいるらしく、輸送中のヘリは最悪落とされる危険があった。
また、砲爆撃で潰すという選択肢も取られなかった。
もし万が一、意思疎通ができた場合、交渉次第で魔物や魔獣達の同意を得て彼らの調査ができる可能性もあり、様々な研究が一気に進むチャンスだった。
そんな理由で、とりあえず接触してみようという方針だ。
それはドイツにとっても、そしてその天然の要害の中にあった国にとっても幸運なことだった。
岩壁に裂け目を見つけたある先遣隊は、ただちにそのことを他の部隊と上級司令部へと報告する。
そして、その先遣隊は裂け目の中へと侵入を開始した。
裂け目に入って5分程のところで、彼らは人工的に作られた城壁にぶつかった。
裂け目を塞ぐように構築されたその城壁には通行の為に小さな門までついている。
「何者か!?」
城壁の上からの声に先遣隊の面々はそちらへと視線を向ける。
そこには人間をはじめとした、様々な種族の者達が先遣隊へと弓に矢をつがえて、向けていた。
「魔物か? 魔獣か?」
先遣隊を率いる士官からの問いかけに、相手側は即座に否定する。
「違う! 我々はエスペラント王国の者だ!」
「我々はドイツ帝国の陸軍部隊だ! ここグラメウス大陸において、魔物及び魔獣掃討作戦を展開している! ここより南は完全に我々が制圧した!」
士官の言葉にエスペラント側は大きくざわめいた。
「それは、本当か? お前達が魔物や魔獣ではないという証拠は?」
証拠を出せと言われても、と士官は困った。
そのとき、ある兵士が進み出て、深呼吸をし、大きく歌を歌い始める。
彼がグラメウス大陸に派遣される前、トーパ王国でエルフの女の子と一夜を共にしたとき、教えてもらったものだ。
女の子によれば1万年以上前の魔王討伐軍で歌われた歌とのことだが、トーパ王国の民なら誰でも知っているとのことだ。
もしも彼らがその魔王討伐軍の生き残りだったならば、知っているかもしれない、とその兵士は判断した。
効果は劇的だった。
エスペラント側の誰もが、弓を下ろすか、床に放り投げた。
そして、彼に合わせて歌ったり、嗚咽をもらす。
士官は静かに問いかけた。
「トーパ王国を知っているか?」
答えたのは最初に誰何した男だった。
「知っている、知っているとも。私の先祖の故郷だ。魔王に滅ぼされ、先祖が魔王討伐軍に参加したときはまだ再建されていなかったと伝えられている」
「トーパ王国は再建されているぞ。我々はそこを拠点とし、こちらへと進出してきた」
「そうか……ありがとう……我々の戦いは、終わったのだな……」
万感の思いを込めて、告げられた言葉に士官は力強く告げる。
エスペラントとドイツ、何もかもが違うが、しかし、今、ここにいるのはどちらも戦士である。
欧州戦争時には一兵卒として参加した経験があった士官も、戦いが終わったときのあの思いはよく覚えている。
だからこそ、言わずにはいられなかった。
「ああ、そうだ。戦いは終わった。君達には平和を謳歌する義務がある」
士官の言葉に対し、彼はニカッと笑って頷き、叫ぶ。
「ようこそ、ドイツの諸君! 我々は君達を歓迎する!」
かつての魔王討伐軍の末裔達が築いた国――エスペラント王国がグラメウス大陸にあった。
その大ニュースはドイツとエスペラントの両者による接触から2週間程が経過してから、世界に向けて発表された。
誰も彼もが驚愕した。
それは2つの意味で。
1万年以上前の末裔が厳しい環境の中で国を築いていたことと、どこの国も近寄らなかったグラメウス大陸にドイツが進出したことだ。
なお、発表が2週間遅れたのは、ドイツとエスペラントの間で様々な協議が行われた為であった。
とはいえ、エスペラント王国側も生き残ることが最優先であり、領土拡大などという意思はこれまで全くなく、また自分達を見つけてくれたドイツに対して領土を寄越せなどということを言う気は全く無かった。
ドイツ側もエスペラント王国の事情を鑑みて、岩壁の内部だけでは不便であるからと岩壁外側10kmの範囲までをエスペラントの領土とすることを認めた。
エスペラント以外にも国が存在した場合を除き、グラメウス大陸はドイツの総取りであるので、強欲極まりなかったが、他国から批判されることはなかった。
そもそも扱いに困っていた魔物達の楽園であるグラメウス大陸。
魔物をどうにかしたとしても寒冷地であることから、居住するには適さない。
ドイツが領有したいなら、どうぞご勝手に――というのが各国の反応であった。
他にもエスペラント王国とドイツが国交樹立と共に安全保障条約をはじめとした、幾つかの条約や協定を結んだことも発表された。
そして、ドイツはその後も順調にグラメウス大陸への進出を行い、途中で鬼人族と接触、彼らから太陽神の使いか、それに類するものとして歓迎を受けた。
また魔物や魔獣、魔族を退治してくれたことに関して、盛大に感謝された。
ドイツ側はエスペラント王国との接触後に魔族とちらほらと出会っていたが、例外なく好戦的であり、会話はできたが、友好的な関係は構築できないと判断され、魔物や魔獣と同じ扱いであった。
その際に頼まれごとをされたが、代わりに多くの情報を得ることができたので、ドイツとしては嬉しい反面、面倒を押し付けられた形となった。
彼らの国とも国交を結んだが、彼らが隠れて暮らしている種族であった為、そのことを考慮し、ドイツはエスペラントのときのように世界に向けて積極的に発表はしなかった。
一方で、貧乏くじを引いてしまった者がいた。
「お、おのれぇ……ドイツめぇ……」
アニュンリール皇国のダクシルドは憎々しげに空を飛び回る航空機やヘリを見つめていた。
ノスグーラを復活させたものの彼を支配できなかった為、仕方なくエスペラント王国の北側にある休火山バグラ――王国がある岩壁内部の北側ではなく、岩壁外側にある――に拠点を作り、あれこれと画策していたのだが、全ては終わった。
情報によると、ドイツはグラメウス大陸にいるのは魔物と魔獣としか思っていないらしく、魔族とか鬼人族とかの会話が可能な知的生命体がいることを知らないようだ。
ドイツ軍はダクシルドが支配下におこうとして目星をつけていた魔族達や、部署に回ってくる少ない予算をやりくりして、四苦八苦しながら本国から持ってきた色んな機材その他諸々を全部吹き飛ばしたのである。
特に魔族制御装置が破壊されたのは致命的だ。
エスペラント王国にある魔帝復活ビーコンもこれでは回収など不可能だった。
本国に泣きついたとしても、ドイツと事を構えるなんぞ、決して首を縦に振らないだろう。
それもこれも、まるで酔っ払いが看板を蹴飛ばしていくような感覚で、山には魔物や魔獣がちょびっとしかいないのに、爆撃をしていったり、変な咆哮の攻撃をしてくるドイツ軍が全部悪いとダクシルドは憤慨する。
特に変な咆哮のやつは絶対に許さないと彼は思う。
確かに、襲撃を警戒せずに偽装をしていなかった自分も悪いが、拠点とはいっても、見た目は単なる山小屋だ。
そんな山小屋に執拗に何回も攻撃をするなんて、非常識だ。
ダクシルドは慌てて避難した為、手に持っていた小型通信機以外はほとんど何も持ち出せず、どうにか生き延びたという状態だ。
「……どうやって帰ればいいんだ?」
定期的に食糧などの物資補給の為に船は来ていたが、これではその船に乗って帰ることなど不可能だし、そもそも来るかどうかも分からない。
連絡を入れてみるが、来てくれるかは怪しいところだ。
周りは完全にドイツ軍に囲まれており、エスペラント王国に潜入して王国民の振りをするにも、有翼人ということから無理だった。
そもそもエスペラントには建国時から有翼人は存在しておらず、明らかに部外者であることが一目瞭然であった。
ダクシルドは途方に暮れるしかなかった。