異なった歴史を辿った地球のドイツを召喚してしまった結果   作:やがみ0821

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お試しに……


対応と接触

「いや、どうしよう……これ……」

 

 ヴェルナーは途方に暮れてしまった。

 目の前にいる三軍のトップ――陸軍参謀総長マンシュタイン元帥、海軍総司令官デーニッツ元帥、そして空軍参謀総長であるエアハルト・ミルヒ元帥に思わず問いかけてしまった。

 

 未知の勢力との遭遇は良いにしても、何でドラゴンなんだ、というのがその情報を知りえた軍と政府の面々の偽らざる意見だ。

 

 ドラゴンに乗った人を発見し、その後も哨戒機は多くの情報を本国へと送ってきた。

 未知の大陸だ。

 

 同じように哨戒機の行く先々でドラゴンに乗った人間――竜騎士と仮称された――が迎撃に上がってきたりしたが、全て巡航速度で簡単に振り切ることに成功した。

 また、幸いであったのは詳細な分析こそなされていないが、とりあえず人体に影響がある大気組成ではなさそうだというのが哨戒機から送られてきたデータで判明している。

 

 その後に哨戒機を増援し、大陸の詳細なデータの収集に務めることになったのだが、今回の懸念はドラゴンだ。

 

「現状では哨戒機に追いつけないというのは慰めにはならんでしょうな」

 

 ミルヒの言葉にヴェルナーは頷く。

 

「最悪の予想として、神話に出てくるような怪物がいる可能性もあります」

 

 マンシュタインの言葉にデーニッツが続く。

 

「フェンリルが神話のスペックで出てきたら……どうしますか?」

「やめてくれ」

 

 ヴェルナーは両手を挙げてみせつつも、言葉を紡ぐ。

 

「とりあえず、人工衛星の打ち上げを急ぐしかない。少なくとも、地球ではないことは確かだ。しかし、フェンリルが神話のスペックで出てきたとして……対艦ミサイルや対地ミサイルが効くのか?」

「グロス・ドイッチュラント級の20インチ砲でも効くかどうか……というか、そもそも捕捉できるかも分かりません」

 

 デーニッツの自信がなさそうな言葉にヴェルナーは頭を振る。

 

「最悪、核弾頭を量産して集中投下するしかないか? それも効くか、怪しいが……」

「それは早計でしょう」

 

 ミルヒが告げる。

 

「少なくとも、現段階では情報収集に努めるしかありません。フェンリルが野良犬みたいにそこらを闊歩している世界なら、我々はもう襲われているでしょうし」

 

 それもそうだ、とヴェルナーらは頷く。 

 そして、ヴェルナーは政府からの要請を伝える。

 

「さて、デーニッツ元帥。政府から海軍にフネの派遣指示が来ている。件の大陸に外交官及び専門家達による調査団を派遣したいとのことだ」

「測量艦と駆逐艦を派遣しましょう。最低限、水深や暗礁だけでも分かれば海軍のみならず、船舶の活動範囲が大きく広がりますし、どう転ぶにせよ、その大陸までのルートを確保したいところです」

 

 デーニッツの言葉を受け、ミルヒが提案する。

 

「空軍も護衛機をつけてはどうでしょうか? もしも対話ができず、敵対してしまった場合、撤退支援を行います」

 

 ヴェルナーは肯定し、告げる。

 

「陸軍も念の為に出動準備を整えておいてくれ。海を泳いで渡ってくるような、化け物がいるかもしれない」

「神話に出てくるような生物がいないことを祈るばかりです」

「全くその通りだ。状況は欧州戦争の開戦時と同じくらいには悪い。政府から追加の指示が来る可能性も考慮しておいてくれ」

 

 ヴェルナーはそう締めくくりながら、政府に働きかけて、早急に予算を確保せねばと強く決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クワトイネ公国の政治部会では1週間前にマイハークの北側海上方面から現れた謎の飛行物体に対して、今日も議論が続いていた。

 1週間前に現れたその物体は6日前にも現れ、多数の紙を町にばら撒いていった。

 そこに書かれていたのは文字らしきものであり、どうやら複数の種類で書かれていることまでは分かったが、内容は分からなかった。

 以後、今日に至るまでその飛行物体は1日ごとに数を増やしながら、紙をばら撒いていった。

 文字と思われるものの種類は膨大のようで、解析が全く捗っていないが、大陸共通言語ではないことだけは確かだ。

 

 何かしらの意思を伝えたいことは分かるのだが、中身が分からない。

 その為、軍や国民に対して、未知の勢力からの接触があるかもしれないと通達が出されている。

 

 友好的な勢力であれば良いのだが――

 

 それは政治部会における共通した考えだった。

 

 

 

 

 そして、謎の飛行物体が現れて8日目の朝。

 マイハークの北側海上に見慣れぬフネが5隻、マイハークへ向けて一直線に航行しているのが竜騎士により確認された。

 その小艦隊の後方にはこれまでに見たものとは違う飛行物体が幾つか旋回しているのが見えた。

 

 竜騎士は恐る恐るその小艦隊を先導しようと、彼らにゆっくりと近づいたが、特に攻撃されることもなく、甲板上に水夫達が大勢出てきて、手を振ってきた。

 

 良かった、友好的だ、と竜騎士は安堵しつつ、そのことを司令部へと報告し、小艦隊の先頭へと陣取った。

 

 案内してくれるのか、という問いかけが先頭艦からあった。

 それは非常に大きな声であり、竜騎士はバランスを崩しかけたが、どうにか立て直し、そうだ、と負けないように大声で叫んだ。

 

 これにより、会話ができることが判明し、小艦隊の先頭艦と竜騎士との間でマイハークに到着するまでやり取りが続けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドイツ帝国外交団の代表パーペンです」

「クワトイネ公国首相のカナタです」

「公国外務卿のリンスイです」

 

 マイハークにある商館を会場とし、遂に2つの国家は出会った。

 

「長らくお待たせし、申し訳ありません」

 

 カナタは謝罪してみせる。

 相手がどのような態度に出るか、観察する為だ。

 

 とはいえ、クワトイネ側が長く待たせたのは事実でもある。

 マイハークの港に入港したドイツ艦隊は半日程、上陸許可が降りなかった。

 ひとえにそれは首相と外務卿がマイハークにやってくる為に要した時間であった。

 

 カナタの謝罪にパーペンはすぐさま返す。

 

「いえ、こちらこそ、8日前から現在に至るまで貴国の領空、そして本日は領海を侵犯してしまい、申し訳ありません。我が国としても、突然このような事態になってしまい、混乱しているのです」

 

 パーペンの言葉にカナタ、リンスイはロウリア王国とは違うのではないか、と判断しつつ、問いかける。

 

「どのような事態になってしまわれたのですか?」 

 

 リンスイの問いかけにパーペンは率直に告げる。

 

「荒唐無稽と思われるでしょうが、我が国は元々は別の世界に存在していました。証拠として、これを見ていただければ……」

 

 パーペンの言葉に随行員が素早くセッティングを行う。

 壁一面にスクリーンが置かれ、そして映像が映し出された。

 

 噂に聞く魔写というやつか、とカナタとリンスイは思いつつも、そこに映し出された映像に驚愕する。

 

 映し出されたのは国連安保理常任理事国の代表9人の姿であった。

 その会議室に掲げられている9つの国旗のうち1つはドイツ艦に掲げられていたことから、ドイツのものだと分かるが、それ以外は全てカナタもリンスイも見たことがなかった。

 彼らはそれぞれ仲が良さそうに会話をし、笑い合っている。

 彼らの内容もカナタとリンスイは理解できたが、他愛もない、仕事を終えた男達の会話だった。

 ただそこにちらほらと出てくる地名は全く聞き覚えがないものばかりだ。

 

「イギリス、アメリカ、ロシア、日本、ドナウ連邦、フランス、オスマントルコ、イタリア……ご存知ありませんか?」

「いえ、聞いたことがありません」

「私も長く外務卿を務めていますが、どの文明圏でも聞いたことがありません」

 

 なるほど、とパーペンは頷きつつ、更に問いかける。

 

「実は昨日まで我が国の航空機……空を飛ぶ機械により、多数の紙を撒きましたが、それらは全て我々の世界における様々な言語でした。どれでも構いませんから、内容は読み取れましたか?」

「いえ、残念ながら読み取れませんでした」

 

 カナタはそう答えつつ、リンスイへと視線を向ける。

 すると彼も心得たとばかりに軽く頷いた。

 既に2人共、確信している。

 

 ドイツは神話にあるような転移国家であり、ロウリアとは全く違う国であると。

 

「我が国としましては、貴国と友好的な関係を構築していきたいというのが政府及び議会の一致した意見です」

 

 パーペンの言葉にリンスイは答える。

 

「我が国としましても、貴国とは友好的関係を結びたいと思います。しかし、現在、我が国は少々危機的な状況にあるのです」

 

 味方は一国でも欲しい、というのがクワトイネ側の偽らざる本音だ。

 ロウリア王国による軍事的圧迫は日を追う毎に高まり、いつ開戦してもおかしくはない。

 どれほど遅くても半年以内には侵攻が始まるというのが情報分析部と軍による予想だ。

 

 友好的関係を構築する代わりに、ドイツを引き込んでしまいたい、という思惑だ。

 

 パーペンもまたリンスイの言葉に何かがあると警戒する。

 

「実は我が国に隣接しているロウリア王国は、我が国に対して軍事的侵攻を企図しているのです」

 

 パーペンは軽く頷いて、続きを促す。

 

「ただの戦争であるならば、言ってはなんですが、よくある話です。ただ、彼の国は我々のような亜人の殲滅を掲げているのです」

 

 リンスイの言葉をパーペンは反芻し、問いかける。

 

「耳が妙に尖っているとは感じていましたが、あなた方はアールヴですか?」

「アールヴ……それはあなた方の世界における呼び方なのですか? 我々はエルフというのですが」

「ええ、我が国で広く親しまれている北欧神話に出てくる存在で、確か他の国や神話ではエルフと呼ばれていました」

 

 パーペンは答えつつも面倒なことになった、と内心では舌打ちする。

 

 クワトイネがドイツをロウリアとの戦争に引き込みたい、という意図が見えた為に。

 そして、パーペンがその意図に気づいただろうと判断し、リンスイは畳み掛ける。

 

「その御礼として、我々は貴国に利益あるものを提供したいと思います」

 

 リンスイの言葉にパーペンは訝しげな視線を向ける。

 

「我々が持つこの世界の様々な情報というのはどうでしょうか? この世界には貴国の常識が通じない国家や地域もあるかもしれません」

 

 リンスイの提案にパーペンは答える。

 

「即答はできかねます。少々、お時間を頂きたい」

「構いません。明日にも、という程に切迫した状況ではありませんが、ただ、遅すぎると手遅れになりますので……」

 

 パーペンに対し、カナタはそのように告げたのだった。

 

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