異なった歴史を辿った地球のドイツを召喚してしまった結果 作:やがみ0821
「パル・キマイラやパルカオンですが、おそらく我が国よりもアニュンリールはうまく扱えるでしょう」
ミリシアル帝国から派遣されてきた魔帝対策省古代兵器戦術運用対策部運用課のメテオスは居並ぶドイツ軍の将官達にそのように説明した。
彼は普段のプライドの高さなどは鳴りを潜めている。
9月中旬に行われたドイツ海空軍の大演習を見たことも大きいだろう。
「ラヴァーナルの兵器は個々人の魔力に依存する部分が多い為、我が国では苦肉の策として、それを技術で補っています。色々な装置を載せている為、パル・キマイラにしろパルカオンにしろ、本来よりも非常に重くなっている状態です」
これにより、とメテオスは言葉を続ける。
「特にパル・キマイラはその影響が顕著で速度が大きく低下し、また搭載量も半減するなど、全体的に能力が低下しています」
詳細な性能に関しましてはお手元の資料をご確認ください、とメテオスは告げたのだった。
ドイツ軍がもっとも警戒しているのはパル・キマイラとパルカオンだった。
どちらも地球では存在し得なかったものだ。
もっとも、パルカオンは海上を進んでくれるので対処のしようがあったが、パル・キマイラのような空を飛ぶ戦艦にはドイツ軍は悩んだ。
しかし、メテオスによりパル・キマイラ及びパルカオンの性能が語られ、アニュンリールにおける同型機や同型艦の性能がある程度予想できると、ある結論に達した。
その結論とは対艦ミサイルの飽和攻撃だ。
幸いにもパル・キマイラは巨大であり、その速度は遅い上、飛行高度も1000mには達しない。
アニュンリールがミリシアルよりもうまく性能を引き出せていたとしても、それは変わらない。
ミリシアルのパル・キマイラにはない、誘導魔光弾とかいう魔法のミサイルをアニュンリールのものは大量に積んでいる可能性があり、そこだけが心配だ。
とはいえ、ドイツ人やドイツ製の兵器は魔力を持たない為、魔力を探知されて追尾される心配はない。
だが、パル・キマイラやパルカオンなどのラヴァーナル製の兵器には魔力を電気エネルギーに変換し、電波を発する魔導電磁レーダーがある。
ドイツ軍に対してはこちらが使用されると考えられ、電波を発するなら妨害が効果があるのではないか、と予想された。
そして、パルカオンに関しては一応、船の形状ではあるのだが、島のように巨大であった。
主武装は戦艦のように大口径主砲であるのだが、空母としての機能も備えており、更に航行速度もその巨大さからは想像もできない程に速い。
他にも武装としてパル・キマイラにも搭載されていたアトラタテス砲や、パル・キマイラには無かった誘導魔光弾の発射機が多数備え付けられている。
また、それら以外にもミリシアルでもよく分からない兵器類が搭載されており、メテオスがそれらのイラストを持ってきていた。
アーネンエルベの科学者達へとそのイラスト類が回され、彼らはレーザー兵器やレールガンではないか、と予想した。
ラヴァーナルの技術力は恐るべきものであったが、海上を進む船であることに間違いはないので、潜水艦による攻撃や、パル・キマイラと同じく対艦ミサイルの飽和攻撃で対処できると判断された。
パル・キマイラはともかくとして、パルカオンはウチに欲しい、とヴェルナーらドイツ軍の将官は考えたが、どう見ても金食い虫なパルカオンを平時に維持する余裕はドイツ軍にはない。
そもそも、技術体系自体が全く違う――魔法と科学――である為、整備するには他国から専門家を派遣してもらう必要があり、余計にカネが掛かることは想像に容易い。
何よりも超兵器を1隻保有するよりも、従来の兵器をそれなりの数、保有していた方が色々と使い勝手がいい。
素直に本物は諦めて、模型で満足しておくしかなかった。
さて、アニュンリールは空と海中から隙間なく監視されており、またドイツとは距離があった。
その為にアニュンリールが警戒網を突破して先制攻撃を加えるのはまず無理だとドイツは判断した。
アニュンリールの勝利条件はラヴァーナルが復活するまで負けないことだ。
しかし、その条件を達成するのは開戦してしまえば不可能に近いものとなってしまう。
開戦の決意はしたものの、それは積極的に仕掛けるという意味合いではなかった。
彼らにとって時間は味方である為、積極的に開戦するという理由もない。
開戦をしないまま、睨み合いで、数年が経過してもアニュンリールとしては全く構わなかった。
とはいえ、それは
ムーやミリシアルが軍拡したとしても、たかが知れており、数の優位を質の優位で覆すことができるとアニュンリール側は確信していた。
それは正しかったが、ドイツに対しても同じように考えてしまった。
ドイツが8月に戦時体制への移行を始めたが、ドイツの兵器は複雑であり、おそらく高価であるだろうから、そこまで多くの数は揃えられず、それならば十分に対応できる、と。
ドイツが仕掛けてくるのは、複雑かつ高価な兵器を多数揃えられたときであり、それには年単位の時間が掛かることは間違いなく、そのような兵器は使ってしまえば補充に時間が掛かる。
故に彼らは短期決戦の方針であるだろうから、兵器が集中投入される可能性が高い初撃さえ防いでしまえば、あとは本土に引き篭もることでラヴァーナルが復活するまで時間を稼げるとアニュンリールは考えた。
だからこそ、彼らは自分達から開戦し、ドイツの戦時体制への移行が完了する前に戦争を始めるということをしなかった。
アニュンリールの最大の誤算はドイツの軍拡ペースを見誤ってしまったことだった。
そして、戦争において主導権を握られるというのが、どれほどに致命的であるか、身を以て知ることになったのは中央暦1642年12月1日のことだった。
午前9時12分。
ブシュパカ・ラタンにおけるアニュンリール政府の外務省出張所にて、ドイツ大使が外交官へと宣戦布告文書を手渡した。
これにより宣戦布告文書に記された通り、本日午前11時をもって、アニュンリールとドイツが戦争状態となることが確定した。
そして、宣戦布告文書が手渡されたときには、ミリシアルに建設された、複数の基地からドイツ空軍の攻撃隊が既に飛び立ち、向かっていた。
彼らはパーパルディアのときと同じように、11時ちょうどに攻撃を仕掛ける為だ。
しかし、今回はパーパルディアのときと決定的に違うことがあった。
B70の群れは本来のドクトリンに従い、高高度高速侵入でもって、機内に抱え込んだ大型爆弾をそれぞれの目標――レーダーサイト及び空軍基地――に対して投下するのだ。
アニュンリール皇国軍は、それを魔導電磁レーダーにて捉えることに成功した。
しかし、レーダーサイトに勤務する彼らは信じられなかった。
これまでちょくちょくとドイツ軍の偵察機らしきものが、ありえない高高度を飛んでいたのは探知していた。
しかし、それは音速未満の速度であった。
皇国軍が持つ天の浮舟――ラヴァーナル製の戦闘機ヴィーナ――による迎撃はできたが、こちらの戦闘機の性能を知られてしまうことを防ぐ為に、見逃していた。
もっとも、それは合理的な判断でもあった。
確かにヴィーナは上昇速度も凄まじいのだが、それでも高度25000mにまで上がるには相応の時間が掛かる。
ドイツの偵察機も当然、レーダーを備えていると考えられた為、迎撃に上がったところで一瞬で探知され、すぐに逃げてしまうだろうと推測された。
だが、それが仇となった。
十分な偵察ができた為、ドイツ空軍の第一次攻撃隊はレーダーサイトや空軍基地に向けて、一直線で進んでいたのだ。
ミリシアル方面から迫りくる無数の編隊を沿岸部に設置されていた、複数のレーダーサイトが捉えた。
その高度は20000mを超えており、速度もまたマッハ2を超えていた。
B70は敵の防空識別圏に入ることを想定し、ブランシェル大陸に迫った段階で巡航速度から増速しつつ、高度も上げている。
レーダーサイトからの警報により、ただちに全ての空軍基地に迎撃命令が下り、スクランブル態勢にあったヴィーナが続々と離陸を開始した。
しかし、遅かった。
高高度超音速侵入という戦術はアニュンリールの想像を超えていた。
だが、何よりも致命的であったのは敵を探知した全てのレーダーサイトで、その画面にノイズが走り、真っ白に染まってしまったことだ。
これでは敵機がどこへ向かうのか、全く分からない。
それぞれのレーダーサイトでは慌てて、整備員を呼び、故障原因の特定を急がせていた。
「一体、どうなっている!?」
アニュンリール皇国軍を全て統括する統合司令部、その中央指令所で司令官が叫んだ。
皇都に置かれたこの司令部にはブランシェル大陸における全ての情報が集まってくる。
ドイツと午前11時をもって戦争状態に突入すると外務省から連絡が入ってきたのは1時間前のことだ。
開戦まであと僅かな時間しかないという段階であり、急速に戦闘態勢が整えられていく中で、最悪のことが起こった。
大陸北部に点在している複数のレーダーサイトで敵の編隊を探知したが、すぐにレーダーが故障したという報告が矢継ぎ早に入ってきたのだ。
「各レーダーサイトより、復旧の見込みは不明とのことです」
オペレーターの言葉に司令官は苦虫を噛み潰したかのような表情となる。
「もう11時になるんだぞ!?」
「私に言われましても……」
司令官が怒鳴った相手は報告してきたオペレーターだ。
彼に文句を言ったところで、どうにもならないが、司令官は怒鳴らずにはいられなかった。
「故障前に探知した敵機の数は?」
「各レーダーサイトの報告を合計し、重複を除けば最低でも200機以上、それぞれ高度20000mを音速の2倍程度の速さで……」
「音速の2倍?」
司令官は問い返した。
「はい」
「爆撃機か?」
「おそらくは……」
司令官の顔色が悪くなった。
ラヴァーナル製の戦闘機は超音速機であるが、爆撃機であるヴィマは音速に近い速度でしかない。
司令官が驚いたのは爆撃機が音速の2倍で飛んできたことだ。
これは想定されていなかった事態であった。
「緊急!」
別のオペレーターの叫び声に、一斉にそちらへと視線が集まる。
「各地のレーダーサイトと連絡途絶! 通信に応答がありません!」
その報告に司令官は思わず、呟いてしまう。
「一体、何が起こっているんだ……」
既にこのとき、時刻は午前11時を過ぎていた。
ドイツ空軍における作戦名『大鉄槌――Grosse Eisenschale』
それはAWACSによるレーダー妨害とB70によるレーダーサイト及び空軍基地を目標とした爆撃から始まった。
アニュンリールにとって不幸であったのは、ラヴァーナルには電子戦という概念がなかったことだ。
実質的に対等であったのはインフィドラグーン――ラヴァーナル側は対等とすら認識していなかった――だけであり、それ以外は全てが格下。
常にラヴァーナルの全ての攻撃は妨害されることがなく行われた為に、敵が妨害してくるという想定はされていなかった。
更に不幸はあった。
これはアニュンリール特有のものであり、どうにかしようと必死になっていた矢先のことだった。
超音速戦闘機のヴィーナがあった。
それは各空軍基地に、それなりの数が配備されていたが、彼らには高高度から侵入してくる超音速爆撃機の迎撃が、どれだけシビアであるかということを正確に理解していなかった。
無論、ドイツとの対決が避けられないと判断されてから、超音速でやってくる爆撃機があるかもしれない、とそれを想定した訓練も行っていた。
しかし、カルトアルパスでの会議から今日まで数えれば8ヶ月もない。
また、爆撃機の速度は音速と同じか、やや上回る――すなわち、マッハ1を超える程度――と想定した訓練だった。
アニュンリール軍は同格もしくは格上と戦った経験がなく、周辺国どころか世界を見渡しても、ドイツが転移してくるまでは格下しかいなかった。
対するドイツ軍は同格と過去に戦った経験があり、転移直前までは純軍事的には同格か、格上の国々に囲まれていた。
この経験の差が如実に現れることとなった。
スクランブル態勢にあり、大陸北部に点在している空軍基地から次々とヴィーナが離陸していった。
しかし、彼らはB70を機上レーダーで発見こそできたが、迎撃は間に合わなかった。
それはあっという間であった。
流れ星のような速さで高空を駆け抜け、次々と黒いものを投下していくB70の群れを、見送るしかなかった。
あんな高高度、高速で投下された爆弾が当たる筈がない――
ヴィーナのパイロット達は勿論、基地側でもそう思った。
それは非常に正しかったが、B70の編隊が投下した20トン爆弾は彼らの理解を超えていた。
その爆風や衝撃波、爆発の威力はアニュンリール側が全く体験したことのないものであり、しかもそれらは1発や2発ではなく、1つの目標に対して複数降ってきた。
よほどに強靭な建物でなければ直撃せずとも爆風と衝撃波で吹き飛ばされ、運悪く外に出ていた人員や機材などもまた全て消し飛んだ。
レーダーサイトはそのような爆弾に耐えられる構造ではなかった為、直撃弾はなかったが、その爆風と衝撃波で完全に崩壊した。
それは空軍基地でも同じであった。
滑走路に直撃しない限りは離陸と着陸はできる。
しかし、基地施設や補給や整備に必要な機材と人員を根こそぎ吹き飛ばされては、何もできなかった。
勿論、飛ばされたのはそれだけではなく、格納庫にあった機体や、格納庫近くのパイロットルームで待機していたパイロット達もまた消し飛ぶか、瓦礫の山に埋もれていた。
ブランシェル大陸北部のレーダー網及び防空網はドイツ空軍の第一撃によって壊滅した。
そして、B70の空襲からおよそ1時間後。
B52及びB95の大編隊がブランシェル大陸北部にある陸軍基地や海軍基地へと向かいつつあった。
そして、アニュンリール軍の目が完全に北部へと向いたところで、東部に忍び寄る影があった。
ロデニウス大陸と同程度の大きさであるベスタル大陸には複数の国があった。
それら国々の国内にもドイツはアニュンリール攻撃の為に基地を複数建設しており、それらの基地から多数のB70が飛び立ち、ブランシェル大陸東部へと向かっていた。
こちらのB70は北部からの攻撃隊と比較して機数は少なかったが、それでも東部におけるレーダーサイト及び空軍基地を潰すには十分であった。
北部と同じようにB70の攻撃後にはB52及びB95による爆撃が行われる。
ドイツ空軍による波状攻撃を受け、アニュンリールは開戦1日目にして早くも満身創痍となりつつあった。
あと6話くらいでたぶん完結できそう。
終わりまでの道筋は見えているので、あとは書くだけ。