異なった歴史を辿った地球のドイツを召喚してしまった結果 作:やがみ0821
捏造いっぱいです。
ドイツ及びその同盟国、友好国がアニュンリールと開戦してから3ヶ月が経過していた。
この間、ドイツは海空軍による空爆にのみ留めていたのだが、アニュンリールはどうしようもない状態になっていた。
何よりも彼らに効いたのは2ヶ月前から始まった市街地への無差別爆撃だ。
事前警告として各地の主だった都市にビラが撒かれて、降伏しなければこれより警告なしの無差別攻撃を開始する、という内容だった。
既にアニュンリール軍は、手も足も出ない状況で一方的なサンドバッグ状態だったが、彼らの内情を国民が知る筈もない。
ラヴァーナル復活という大願成就の為の戦争だと彼らは確信しており、ラヴァーナルの遺産がある軍が負ける筈がないと信じ込んでいた。
それはドイツ以外の国が相手なら問題がなかったのだが、相手が悪すぎた。
警告のビラ撒きは3日間、実施されたが、政府や軍の関係者以外は誰も真に受ける者はいなかった。
そして、始まった爆撃は、政府も軍も、そして国民すらも想像を絶する地獄をこの世に創り出した。
ドイツ空軍はアニュンリールで第二の都市であるラーヴァに対して1000機爆撃を行った。
爆撃機の爆弾搭載量が増えたことや命中精度の向上などにより、もはやそこまで機数を揃える必要は全くないのだが、見せしめとして夜間に敢えて行った。
結果、ラーヴァは郊外まで含めて完全に何も無くなった。
ところどころに焼け残った建物が残っていたが、爆撃前の巨大都市の面影は全く無い。
アニュンリール側の死傷者は万を軽く超えていた。
要因は幾つもあった。
事前にレーダーサイトも周辺の空軍基地も壊滅していた為、迎撃を全く受けなかったこと、夜間であることから目視での発見が困難であったこと、大編隊が奏でるジェットエンジンの音も鳴り響いていたのだが、単なる音だけなら、不思議には思っても避難する者は少なかったといったものだ。
ラーヴァを皮切りに、ドイツ空軍は続々とアニュンリールの中でも規模の大きな都市を順次更地に変えていった。
1ヶ月目でラーヴァを含む12個の都市が更地となり、2ヶ月目には14個の都市が更地に変えられた。
2つ目の都市からは1000機ではなく、かなり数を減じたものであったが、それでも爆撃機の群れは問題なく仕事をした。
本来なら都市への戦略爆撃は費用に見合った効果が出ないのだが、それは地球での話だ。
大型爆撃機の大編隊による都市への夜間空襲など経験したことがないアニュンリール国民にとっては、大混乱を引き起こすに十分過ぎた。
攻撃を受けていない都市からはこぞって市民達が田舎へと逃げ出し、幹線道路は逃げる市民の車――ガソリンではなく魔石の魔力で動く、魔導式エンジンを搭載した車――で溢れかえり、大渋滞を引き起こしていた。
ドイツ空軍は、その避難する車列を発見していたが、攻撃を加えなかった。
精々、低空を超音速で飛んだりした程度だ。
飛び去った後、大混乱が生じ、事故が多発したとしても、当然考慮はしなかった。
そういった悪戯は各地で行われていたが、やられる側はたまったものではない。
軍は何をしているんだ、という国民からの怨嗟の声はアニュンリール軍にも当然、届いていたが、どうしようもなかった。
挙げ句の果てに、ドイツ軍が投下してきた爆弾には、たまに変なものが混ざっていた。
巨大なボビンが大量に落下傘付きでゆっくり落ちてきたと思ったら、エンジンらしきものに点火し、車輪を回転させながら地面に着地して進んできた。
その車体には爆薬が大量に詰め込まれていたらしく、何かにぶつかると大爆発を起こした。
中には地面に着地と同時に倒れて、その場で大爆発を起こしたりするものもあり、それを目撃した者は理解の範疇を超えていた為に軍人であっても困惑した。
困惑させる要因はまだあった。
不発したボビンを調査したところ、車輪に大陸共通言語で『イギリスより愛と紅茶、そして炸薬を込めて』という文章が大きく書かれていたが、アニュンリール側からすれば全く意味が分からなかった。
他にも便器やバスタブ、キッチンなどが爆弾に改造されて投下されていた。
アニュンリール軍は、ドイツ軍の攻撃に全く対応できていなかった。
おふざけ的な攻撃もあったが、基本的にドイツ軍の攻撃は容赦がない。
都市爆撃の開始と同時に各地の鉄道網への大規模攻撃も開始された。
列車本体は勿論のこと、駅や操車場、車両基地、鉄橋や陸橋など、復旧に時間が掛かる施設や設備が主目標とされた。
また、アニュンリール海軍は空爆を警戒して、ブランシェル大陸南部の港や海軍基地へと残存艦艇を移動させようとした。
艦艇は夜間に出港していたが、沖合に出ると正体不明の海中からの攻撃に遭うか、いつも通りにレーダーが撹乱されたところに、多数の誘導魔光弾――対艦ミサイル――が降り注いで撃沈された。
動かさない方がマシだった、と思えてしまう程に暗澹たる結果に終わっていた。
特に正体不明の海中からの攻撃は脅威であり、原因究明が急がれたが、制空権も制海権もドイツ軍に取られている現状では打つ手は皆無に等しかった。
ラヴァーナルには潜水艦という概念も残念ながらなかった。
海中に潜らずともラヴァーナルは世界に対して優位に立てていたので、そうする必要性が無かったのだ。
必要がなかった為に発展せず、遅れを取る分野が出てきてしまうのは仕方がないことであった。
「こんな、こんなものが……! ドイツの、地球の戦争だと言うのか!?」
ミレケネスは絶叫した。
彼女の叫びはここにいるグラ・バルカス軍の将官達にとって、共通したものだった。
ドイツ空軍及び海軍から参考資料として提出された写真や映像を、彼らは見た。
空を覆い尽くす爆撃機の大編隊は綺羅びやかな眠らぬ巨大都市ラーヴァを一夜にして、更地にしてしまった。
グラ・バルカスも敵国の民間人や都市に対して攻撃を加えている。
都市を更地にしたこともあったが、ドイツ軍のようには到底できない。
グラ・バルカス軍が爆撃機のみでラーヴァを更地にしようと思えば一回や二回の攻撃では不十分となることは、ここにいる面々には予想できた。
またグラ・バルカスが行った、そういった攻撃は見せしめという側面が強く、ドイツのように工業地帯などに限定せず、都市そのものを純軍事的な攻撃目標として、敵国の継戦能力そのものを削り取るという発想は無かったのだ。
「ドイツ軍には逆立ちしたって勝てやしないことがハッキリした。しかも、連中は容赦しないことも分かった。それは収穫だろう?」
カイザルの言葉は道理であった。
既にドイツには敵対せず、友好的に――というのがグラ・バルカス帝国の方針であったのだが、今回のアニュンリールとの戦争で、目の当たりにした形だ。
アニュンリールには超音速戦闘機が存在し、それはグラ・バルカス軍に衝撃を与えたが、そんな戦闘機を一方的に処理するドイツ軍には、もはや驚きを通り越して何の感情も沸かなくなってしまった。
またもう一つ、グラ・バルカス軍にとってはありえないことが起こっていた。
3ヶ月前に開戦したときよりも、3ヶ月経った現在の方が部隊数が増えているというのが理解したくなかった。
そもそも敵の攻撃による損失が無いという時点で、グラ・バルカス軍は説明されて、映像も見せられたが、信じたくはないし、理解したくもなかった。
だが、彼らは軍人であったので、無理矢理に理解して納得した。
技術の差があれば、このようなこともできるのだ、と。
だからこそ、現在、グラ・バルカスでは視察団の報告書や情報、ドイツで購入が許可された書籍などから、大急ぎで技術の向上に努めている。
なお、工場の排水や排煙あるいは車の排気ガスの悪影響として、地球世界で大気汚染による深刻な健康被害があったことをドイツ側から視察団は教えられていた。
何でも、他国の都市で過去に大気中に有害物資が閉じ込められて、滞留し濃縮され、強酸性の高濃度の硫酸の霧を形成したとのことだ。
硫酸の霧なんてものが発生したら、一瞬で帝都は壊滅すると視察団が大慌てで、本国に報告し、帝王グラルークスは深刻に受け止め、ドイツ側に環境汚染対策を教わったということもあった。
「アニュンリールは、よくもまあ、粘っているものだな……」
ミレケネスの言葉は、この場にいるグラ・バルカス軍の将官達だけでなく、参戦国の全ての軍人達に共通したものだった。
「ちくしょう……ちくしょう……」
悔しげな声が聞こえていた。
他にもすすり泣いている者や、地面に拳を叩きつけている者もいる。
彼らはアニュンリール陸軍第12師団所属の機甲大隊だった。
しかし、彼らが乗車していた戦車は数百m先の道路上で炎上しており、戦友達も多くが犠牲になるか、あるいは散り散りになってしまった。
大隊は夜間、内陸部への基地へ移動中に攻撃を受けた。
それは突然のことだった。
先頭を進んでいた車両が爆発炎上し、それからすぐに最後尾の車両が爆発した。
敵機と思われるエンジン音は聞こえていたが、夜間であることから目視で確認できず、大丈夫の筈だと信じるしかなかった。
しかし、夜間だろうがお構いなく、敵機は攻撃を加えてきた。
大隊はまるで的当てゲームのように一方的に空から攻撃を受け、車両を全損していた。
もしも彼らが山道であったり、森の中の道路を移動していれば、見つかったとしても全損は防げただろう。
しかし、周囲にそのようなものはなかったので、仕方がなく平地の道路を移動していたが、それは仇になった。
そのときだった。
彼らの意識は衝撃とともに暗転し、永遠に目覚めることはなかった。
「残っていた敵兵を始末した」
夜間迷彩を施したA67の射撃手はそう報告した。
空中給油でもって、ブランシェル大陸までやってきていたうちの1機だ。
欧州戦争時、猛威を振るった四発輸送機を改装したガンシップ――A47の正当な後継機だ。
105mm榴弾砲、37mm機関砲、20mmガトリングガンをそれぞれ1門ずつ搭載した、空の死神であった。
敵地上部隊は夜間行動を主とするだろう、と当初から考えられていた為、A67が投入されたのも予定通りであった。
3ヶ月後に迫った上陸作戦までに、少しでも敵地上部隊を減らしておきたい、というのがドイツ軍の方針であった。
「上陸作戦、やっぱりやらないと駄目なのか?」
ヴェルナーは大臣執務室で1人、溜息を吐いていた。
とっくの昔に上陸作戦計画は作成が完了し、彼自身も承認していた。
だが、ハッキリ言ってやりたくはなかった。
ブランシェル大陸北部にある各地の海岸から、100個師団を超える陸軍部隊及び5個師団の海兵隊が上陸するという、非常に壮大なものだ。
フランスとの戦争でノルマンディーに上陸した、バルバロッサ作戦を超える規模となる。
物資の集積及び兵力の集結と輸送は開戦前から始まっており、あと3ヶ月程で準備が整う。
上陸部隊を満載した輸送船団が出港するのはカルトアルパスだ。
元々カルトアルパス港はドイツ本国の港湾と見劣りしない広さと深さがあった。
設備は劣っていた為、開戦前からドイツ製のものを順次格安で導入してもらったことで、解決している。
ヴェルナーが上陸作戦をやりたくない理由は簡単で、海空軍による空爆と陸軍を投入した地上戦では前者の方が費用が安いのだ。
100個師団を超える兵力は大いに結構であり、それを支える兵站も問題はない。
だが、そこに掛かる全ての費用に関して、政府から直接色々と言われるのは他ならぬヴェルナーである。
政府は大盤振る舞いしてくれているが、文句を言わないとは言っていなかった。
ヒトラーやクロージクに会う度にグチグチと予算に関して言われており、また本格的な地上戦に突入すれば負傷者は勿論、戦死者も出る。
あまりにも戦死者が多くなり過ぎるのは拙いとヒトラーから口を酸っぱくして言われていた。
これまでの戦いでは戦死者どころか負傷者すら、ほとんど出ていない。
政府が望む、こちらに被害が一切出ない戦争。
地球では不可能であったそれを、この世界では今のところは達成しているが、これからもそうだとは限らない。
そのとき、ドアが叩かれた。
ヴェルナーが許可を出すと、入ってきたのはミルヒだった。
「どうかしたか?」
「実は不思議なものを偵察機と衛星が捉えまして」
「不思議なもの?」
ヴェルナーの問いかけに、ミルヒは頷き、鞄から数枚のカラー写真を取り出した。
一見、何の変哲もない線路――複線だった――と貨物列車が写っている。
「これがどうかしたか?」
「この貨物列車ですが、ここのトンネルに入っていきます」
ミルヒは指し示す。
ヴェルナーもまたそこを見る。
確かに貨物列車はトンネルに入っていく。
しかし、今、見ている写真にトンネルの出口は写っていない。
「こちらの写真を御覧ください」
ミルヒが示した別の写真は岩山と崖、そして海が写っていた。
ヴェルナーは気がついた。
「トンネルの出口はどこだ?」
「不明です。どこかで曲がっているにしても、周辺もまたこのように岩山と崖であり、空から見る限りでは出口がどこにもないのです」
ヴェルナーは腕を組んだ。
思い当たるものが一つある。
「……偽装したブンカーか?」
「おそらくは……」
「連中が隠すものといえば一つしかないが、そんな巨大なブンカーは造れるのか?」
「試算したところ、可能か不可能かでいえば可能です。ただ、費やされる時間と労力と資材は膨大です」
ヴェルナーは頷きつつ、更に問いかける。
「ブンカーの数は?」
「北部に4箇所、東部に5箇所、これと似たような不自然なトンネルがありました。これを含めて現在までに見つかったのは合計で10箇所です」
「南部や西部にも同じものがないか、探してくれ。あった場合は同時攻撃といこう。海上に出られたら厄介だ。いつ、攻撃できる?」
「南部や西部の調査も含め、2週間以内に攻撃を開始できます」
ヴェルナーは頷き、告げる。
「正確な位置や構造は分からないだろうから、例の爆弾の飽和攻撃でいい」
ヴェルナーの言葉にミルヒは頷き、写真を鞄にしまって退室していった。
「こんなこともあろうかと……というか、地球で普通に地下施設があったから、開発していたものなんだけどな」
欧州戦争時から地中貫通爆弾は研究開発されて、末期には実戦投入された。
しかし、威力不足ということで地下数十mにある施設を破壊する為の大型地中貫通爆弾が戦後すぐに研究開発が始まっており、転移する2年前に実戦配備されている。
アニュンリールが地下に危険なものを隠している可能性は大いにあった為、この大型地中貫通爆弾――ミョルニルという愛称がついている――は大量生産されていた。
「2週間以内というと、3月25日までには攻撃開始かな」
ヴェルナーはカレンダーを見ながら、何気なく呟いた。