異なった歴史を辿った地球のドイツを召喚してしまった結果   作:やがみ0821

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※捏造です


暴かれる古の魔法帝国

「まるで演習だ。アニュンリール軍は我々に演習の標的を提供してくれている」

「違いない」

 

 B52の操縦士と副操縦士は、そんな軽口を叩きあった。

 大鉄槌が下され、アニュンリール軍との戦いは既に掃討作戦――作戦名:ブランシェル演習――に移行している。

 

 作戦名にある通り、もはや演習みたいなものだった。

 一切の反撃がなく、一方的に攻撃ができるが、演習相手は命が懸かっている為、必死に隠蔽や逃走をしてくれる。

 これ以上の実戦演習はない。

 

 

 今回、B52の任務は海岸沿いにあるブンカーと思われる岩山と崖を攻撃しろ、というものだ。

 まず先頭梯団のB52編隊が14トン近い重量がある大型地中貫通爆弾ミョルニルを――各機2発ずつ搭載している――目標地点に満遍なく投下。

 その後、20トン爆弾を2発搭載した後続の梯団が目標へと投下する。

 

 ミョルニルが貫通して施設内で爆発すれば、覆っている分厚い天井にも亀裂が入る為、通常の20トン爆弾でもってトドメを刺すという寸法だ。

 

 第一次攻撃隊としてB52がそれぞれおよそ100機ずつ、各地のブンカーへと向かっていた。

 

 各地のブンカーとは、ほとんど時間差がない同時攻撃であり、念の為にブンカーの沖合には潜水艦が最低でも3隻は潜んでいる。

 もしも慌てて出てきたら、魚雷でもって仕留める為だ。

 

 

「もう間もなく、目標地点だ。荷物を届けるぞ」

 

 ミョルニルにはメッセージが書いてあった。

 こういうお遊びは基本的に余程のものでなければ黙認されていた。

 

 この機に積まれたミョルニル2発にはそれぞれ次のようなメッセージが本体に書かれている。

 

 アニュンリールの天気は晴れのち、ミョルニル――

 戦艦が簡単に沈むわけがない、安心しろ――

 

 それはこの機だけではなく、他の機に搭載された爆弾にも同じように、搭乗員達と整備員達が一緒になって考えたメッセージが書かれていた。

 

 

 やがて先頭梯団のB52、およそ50機は目標地点で、ミョルニルを2発ずつ投下。

 それらは予定通りに満遍なく着弾し――まるで火山が噴火したかのように岩山が盛り上がり、一気に吹き飛んだ。

 その後に後続梯団の50機程のB52が20トン爆弾を2発ずつ投下し、トドメを刺したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アニュンリール皇国皇帝マークルは自室で悩んでいた。

 状況は予想よりも遥かに悪い。

 

 アニュンリール軍はドイツ軍相手に一歩も引かずに戦える――

 何故なら世界最強であるラヴァーナルの装備で身を固め、過去には攻め込んできた中規模な文明国を一方的に滅ぼしているからだ――

 

 しかし、蓋を開けてみれば、その予想は非常に甘かったと言わざるを得なかった。

 アニュンリール軍はドイツ軍相手に手も足も出なかった。

 

 軍どころか、既に民間にも甚大な損害が出ており、工業地帯どころか、都市が次々と更地にされている始末だ。

 

 皇都だけはまだそのような無差別攻撃をされていない。

 

 降伏せよ、とドイツが暗に促しているとマークルは考えていた。

 その気になれば皇都を更地にすることはできるが、そうはせず、行政や軍事、司法の中心地を残すことで降伏を円滑に行えるように、そしてその後の統治に支障が出ないように、としているのだろう――

 

 ただ、マークルにはこれ以上、戦争を――ドイツ軍が一方的に攻撃しているだけで、戦争と言っていいか分からないが――続けるのは困難になりつつあると思っていた。

 

 

 国民が限界に近いと彼は勿論、政府の要人や軍も感じていたのだ。

 

 ラーヴァをはじめ、この2ヶ月間で幾つもの都市が更地になったことで、国民は大きな衝撃を受けたことは想像に難くない。

 何しろ、マークルですら、報告を聞いて信じられなかったのだ。

 

 都市爆撃で民間人の死傷者は累計で10万を超えるのは確実と予想されているが、正確な人数は分からなかった。

 しかし、その人数が増えることはあっても、減ることはないというのだけは確かだ。

 

 このまま戦争を続けていれば、ドイツは都市どころか街や村までも更地に変えてきそうな勢いだった。

 そうなってしまえば、もはやラヴァーナル復活どころの話ではなく、国が完全に崩壊するだろう。

 

 また鉄道網への攻撃で物流の多くは止まってしまっている。

 道路を攻撃されないだけまだマシであったが、遠からず道路も攻撃してくるという予想がワルンから直接、マークルへと報告されていた。

 

 そうなってしまえば物流は完全に止まり、軍への補給すらままならない。

 

 ワルンもまた同じ意見であり、将兵の士気は全体的に低く、もはや戦える状態にはないとのことだ。

 パル・キマイラやパルカオンなどが配備されている特殊な基地――内陸部の地下に築かれた基地や岩山と崖に偽装された基地――では超兵器の力を信じて、徹底抗戦すべきだという意見もあるらしい。

 

「降伏か……」

 

 今日は3月24日で、もうすぐ4月に――開戦して4ヶ月目になる。

 もっと酷いことになるのは確実だ。

 

 マークルの悩みは尽きなかったが、血相を変えてワルンが部屋に駆け込んできた。

 皇帝の自室であり、普段ならば近衛兵が通さない筈であるのだが――どうやらそんな規則が吹き飛ぶ程のものらしい、とマークルは予想する。

 

「へ、陛下!」

「どうした?」

「ぱ、パルカオンの全ての偽装基地が、ドイツ軍の攻撃を受けました! 詳細は不明ですが、相当な被害を受けたようです!」

 

 マークルはワルンが何を言っているのか、すぐに理解することはできなかった。

 

「それは、いつの話だ?」

「1時間程前……午前10時過ぎだそうです」

 

 マークルは決意し、ワルンに問いかける。

 

「軍には降伏に反対する者はいるか?」

「いえ、いません。いたとしても、私が何とかします」

 

 ワルンの言葉にマークルは重々しく頷いた。

 

 最後の1人になっても、戦い抜くなどという信念は、もはや欠片もなかった。

 

 

 

 

 

 

 中央暦1642年3月29日午前8時22分。

 アニュンリールはドイツに対して、無条件降伏を申し入れ、ドイツはそれを受諾した。

 

 その情報はただちに全世界を駆け巡り、各国の軍ではアニュンリールに対して同情的な意見が出た。

 魔帝復活はさておいて、あんな連中相手に、よく粘ったものだ、と。

 

 ドイツが実は魔帝ではないか、という意見も各国では出たが、ドイツが魔帝だったら、とっくの昔に世界を支配している、というもっともな反論にドイツ=魔帝論は消え去った。

 

 アニュンリールの被害は甚大であったが、講和条約に関しては比較的スムーズだった。

 ラヴァーナルに関する全ての情報と技術をドイツ及びミリシアル、ムーに開示することと賠償金と一部領土の割譲をドイツが求めたくらいだ。

 

 参戦した各国はドイツから要請があれば軍を派遣する用意はできていたが、そうする間もなく終わってしまったことで、何もしていない。

 ドイツが単独でアニュンリールと戦い、圧勝したというのが実態だ。

 何もしていないのに、講和条約でドイツ以上の主張をするわけにもいかず、少額の賠償金を求めた程度であった。

 少額とはいえ、それを求めた国の数が非常に多かった――実質的に世界の全ての国々がドイツ側に参戦していた為――ので、合計金額としては少額ではなくなってしまったが、そこは些細な問題だ。

 

 アニュンリール側としては、国や種族が無くなる程の過酷な要求をされず、拍子抜けであった。

 ラヴァーナル復活を目論むというのは、それほどのことであったのだが、ドイツはそこまで求めなかった。

 

 さすがにラヴァーナルに関して、ドイツがどう思っているかなどとアニュンリール側が聞ける筈もなかった。

 

 そして、それは聞かなくて正解だった。

 

 

 塵や煤などの微粒子を外に出さない魔法はミリシアル及び他の魔法文明国が威信を掛けて、共同で開発を進めている

 それは中々に順調な進展をみせており、核の冬を防げる可能性が高くなったとドイツは予想していた。

 

 また、広範囲にその結界を展開する装置類の開発も比較的順調だ。

 これらの装置開発に成功すれば、膨大な魔導師を必要とせずに済むと期待されている。

 

 ラヴァーナルに理性はなく、話し合いで解決できないなら、手早く潰すしかないというのがドイツの出した結論だ。

 

 時間的な猶予をラヴァーナルに与えると、こちらの被害を増やすだけであり、利益は全くない。

 だからこそ、先制核攻撃にて一撃で決着をつける方針となっていた。

 

 用意される核弾頭と大陸間弾道ミサイルの数は100や200ではない。

 それでは不十分だと判断されていたからだ。

 

 ラヴァーナルが防御用の結界を展開することも予想される為、なるべく多めに投入する必要があった。

 無論、大陸間弾道ミサイルだけでなく、必要があるならば航空機や艦船、潜水艦からの核攻撃も実施される予定だ。

 

 ドイツにとってアニュンリールとの戦争における最大の成果は、ラヴァーナルに関する膨大にして、詳細な情報が得られたことだ。

 

 全体的にラヴァーナルの技術は高く、ドイツよりも遥かに優れた部分が多くあった。

 しかし、軍事的な分野に限ってみれば、ドイツの方が優れている部分が多かったことが判明した。

 

 軍事技術というものは、敵に対して自軍が圧倒的に優位に立てるなら、急激な発展はしない。必要が無いからだ。仮に誰かが画期的な新兵器を発明したとしても、そういう状況では、実戦部隊に配備されて戦力化するまで十年、二十年、下手すればそれ以上かかってしまう。まともな政治家なら、そんなことには予算をつけないからだ。

 ラヴァーナルに電子戦や潜水艦などの概念が無かったのは、まさしく、そういう物を必要としなかったからなのである。

 

 同格か格上の国々と、しのぎを削ることで、互いに技術を急激に発展させてきた地球という世界は、少なくともこの世界の国々やグラ・バルカスから見ると特殊過ぎる世界だった。

 

 そして、技術に関する情報以外で、ドイツにとって最高の情報があった。

 

 それはラティストア大陸があった位置だ。

 アニュンリールからの情報によれば未来へ転移したが、出現する場所は元の位置とのこと。

 

 その場所とはロデニウス大陸から見ると東方、ムー大陸から見た場合は南方となる海上だ。

 

 更には当時のラティストア大陸の地図や世界地図まで残っており、ドイツ側としては嬉しい誤算だった。

 

 さっさとラヴァーナルを潰して、これまでの戦争の後始末をしたい――経済的な意味で。

 

 それがドイツ政府の本音であった。

 また、軍としても戦後の約束された大軍縮に溜息しか出ないが、政府の決定に逆らうわけにもいかない為、仕方がないと割り切っていた。

 

 


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