ゼロの使い魔の元マスター   作:ユウシャ

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3話 アーサー・ペンドラゴン

 食事を終えて立香を探していたルイズは、中庭で暢気にデザートを食べている立香を見つけて声をかけた。

 

「あんた、ご飯食べなくても良いとか言ってなかった?」

「あ、おかえりマスター。そうなんだけど、エミヤの料理が食べたくなっちゃって」

 

 そう言いながら立香は、赤くて柔らかそうなデザートを口に運ぶ。

 

「なに、それあいつが作ったの? あいつ料理できたんだ」

「凄い上手だよ。僕の知る限り料理の腕は上から二番目かな」

 

 ふーん、とルイズは立香の食べている物を見る。ルイズが見たこともない物だった。

 美味しそうに食べている立香を見ていると、興味が出てきたルイズはデザートについて尋ねた。

 

「なんなのそれ?」

「いちご味のフルーチェだってさ。って言って分かるかな?」

「フルーチェ?」

 

 聞き覚えの無い単語だったので、首をかしげて聞き返すルイズ。

 うーん……と立香は唸る。

 

「僕料理は全然だからなんて言えば良いかな……。あ、食べてみる?」

「……じゃあ貰うわ。エミヤは?」

「あそこ」

 

 立香の指さした先には、相変わらず給仕を続けるエミヤの姿があった。

 ルイズは呆れた。

 

「使い魔の癖になにしてんのよあいつ……」

「台所借りる為に仕事を引き受けたんだってさ」

 

 そう言いながら立香は、空の小皿に大皿に入っているフルーチェとスプーンを乗せて、ルイズに手渡した。

 受け取ったルイズは空いている椅子に座りスプーンを取ると、何度かフルーチェをつついてから掬い、恐る恐る口に運んだ。

 そしてすぐに「んっ!」と喉を鳴らす。

 

「なにこれ! 美味しいじゃない! こんなの初めて食べたわ!」

「でしょ?」

「ええ! なにあいつ、料理人だったの?」

「いや、料理は趣味って言ってたよ」

 

 話している間にもルイズはパクパクと食べ進めていく。そしてあっという間に食べ終えてしまった。

 それから、じっと大皿に入ったフルーチェを見つめるルイズ。

 苦笑しながら立香は「食べて良いよ」と言うと、ルイズは嬉しそうに小皿によそってまた食べ始める。

 そんなルイズを見て、立香は楽しそうに笑った。

 

「な、なによ?」

「ううん。ここは平和で良いな、って思って」

「はぁ?」

「問答無用で殺し合う必要がない。話し合えば分かり合える。こうして美味しい物を食べて喜べる。子供達が健やかに育つことが出来る。それはとても素敵なことだよ」

 

 中庭で談笑している子供達を、どこか遠くを見るようにそう言う立香。その声は羨ましげだった。

 しかしルイズにはその光景が不思議でしかなかった。

 

「なに言ってんのよ。あんただってまだそんな達観するような年でもないでしょ」

「え?」

 

 ルイズからは、立香はどう高めに見ても18歳くらいにしか見えなかった。

 一瞬間を置いてそれを思い出した立香はクスクスと笑いだしてしまう。

 馬鹿にされたと感じたルイズが顔を赤くさせたが、立香は手を振った。

 

「違う違う、馬鹿にした訳じゃないんだ。ごめん、説明してなかったよね。僕はとっくに老衰で死んでるよ」

「え!? そ、そうなの!?」

「うん。この姿は皆と戦った時の姿なんだ、まだ19歳の時。というかサーヴァントは基本的には、その人が一番すごかった時か、その人が一番認知されている姿で召喚されるんだよ。例外もいっぱいあるけどね」

 

 ルイズはまじまじと立香を見る。

 

「じゃあ中身はおじいちゃんってこと?」

「精神年齢は19のままだよ? ただ、そのあと死ぬまでの記憶はあるってだけで」

「つくづく不思議な存在ねぇサーヴァントって」

 

 そんな話をしながらもルイズは食べる手を止めず、残っていたフルーチェも食べ尽くしてしまった。

 もう少し食べたかったなぁ、と思いつつ立香は立ち上がった。

 

「さて、このあと何か予定はあるかな?」

「30分後から午後の授業があるけど」

「丁度良かった。じゃあ早速次のサーヴァントを召喚しよっか」

「次の! そうね!」

 

 キラキラ目を輝かせ、ルイズも素早く席を立った。

 立香はエミヤを見る。女子数人に囲まれていた。

 

「エミヤも忙しそうだね。まぁ大丈夫かな」

 

 わざわざ呼ぶほどの危険は無いと判断した立香は、ルイズと二人で少し隅の方に移動する。

 ルイズは分かりやすくウキウキとしていた。

 

「さ! 早く喚びなさいよ!」

「その前に。さっきは僕の判断でエミヤを召喚したからさ、次はマスターの意見を聞こうかと思ってるんだけど」

「ほんと!?」

 

 思っても見なかった提案にルイズは喜んだ。

 

「どんなサーヴァントが良い?」

「えーと……そうね、まずはやっぱり外見よね。一目見て凄い! って思えるのじゃないとダメ」

 

 立香は共に旅をした仲間達の姿を脳裏に浮かべた。

 一目見て凄い、となれば大柄のサーヴァントが良いだろう。

 身長という面だとまだまだ絞りきれる程では無いし、装備となると「一目見て」が少し難しいかもしれない。

 

「他は? 性別とか」

「そりゃ男性じゃない? 女性だとナメられるし」

「男だね」

 

 立香は考えた。

 大分候補は絞れてきたように思える。かなり大柄で男性となると……。

 更にルイズは続けた。

 

「あ! 魔法使えるのはいる?」

「うーん……魔法は分からないけど、似たようなのなら使えるかな」

「じゃあそれで! あとはそうねぇ……強いのとか?」

「それは当然」

「そ。じゃあまぁ、とりあえずそんなところで。あ、格好いいのがいるならそれも!」

 

 一目見て凄い。男性。魔法のようなものを使える。強い。格好いい。

 すべての要素を併せ持つサーヴァント。幾つかの候補が浮かび、そのなかでも一騎、ピッタリのサーヴァントがいた。

 立香は満足したように頷き、嬉しそうにそのサーヴァントの名を口に出す。

 

「よし。じゃあイヴァン雷帝を召喚しよう」

「ちょっと待て」

 

 いつの間にかそこにいたエミヤが、物凄い勢いで割って入りながら立香の頭を掴む。立香の声が聞こえていたエミヤには、まったく承服できないサーヴァントだったので慌てて駆けてきたのだ。

 当然の事だが、エミヤはいつまで召喚されているかも分からない。その間立香とルイズ、更にイヴァン雷帝の様子を見なければならない……そんな胃痛の種を増やされるのは心底から嫌だった。

 

「確かに雷帝なら彼女の要望通りではあるだろうが、この場に相応しい容姿では無いだろう明らかに。そうだな?」

「え? そうかな……肩に乗ると楽しいよ?」

「それができるのは君だけだ。良いからもっと普通の……もうアーサー王で良いだろう。な?」

「でもアーサーは魔法っぽいの使えなくない?」

「良いかマスター。宝具は魔法みたいなものだ」

「そうかな……でもそこまで大きくないよ?」

「いや彼は偉大な人物だ」

「うーん……ヘラクレスとかキングハサンとか項羽とかの方が、マスターの意見に近くない?」

「見た目だけなら確かにそうかもしれないが! アーサーは典型的な『最高の騎士』じゃないか!」

 

 普段は察しが良い立香なのだが、真剣にルイズの要望に沿うサーヴァントを考えている今の立香は大分察しが悪かった。エミヤが嫌がっている事に気付かずに言いあいを始めてしまう。

 そしてそれに疑問を覚えたルイズはエミヤに言った。

 

「ちょっと、私の望んでる使い魔がいるならそれで良いじゃない。何が問題なのよ?」

「……君は身長5m越えの使い魔を連れ歩きたいか?」

「…………は?」

 

 意味が分からず聞き返したルイズは、エミヤの瞳から光が消えている事に気付いた。

 ルイズはそのまま立香の方を見る。なんの反応も示さない。

 二人の反応から、ここで自分が「それで良い」と言えば大変なことになる……とルイズが理解するには十分だった。

 ルイズの背を冷や汗が伝い、ごくりと唾を飲み込む。そして努めて冷静に、危険物を扱うかのように言った。

 

「身長は普通くらいで」

 

 それでいい、と頷くエミヤを見てルイズはホッと息を吐いた。

 立香は「そう? 分かった」と何事も無かったかのように言った。

 その立香の振る舞いに、ルイズはもうひとつ理解することがあった。それはまだ確信できる程の事では無かったが、それでもその片鱗は感じられたような気がした。

『立香は普通じゃない』。

 ルイズは今まで立香を、ちょっと珍しい事が出来る使い魔……くらいのものと考えていた。

 しかし改めて立香からは常識のようなものがストン、と抜け落ちているように思えた。日常的な事ではなく、もっと大元の所の認識が違うのでは、と。

 見た目はどうにも頼りないのだが、その奥にある……何か底知れないものを見てしまったようなそんな気がしてルイズは一瞬身体を強張らせる。

 しかしそれはまだ、ほんのちょっとした違和感でしかない。

 ルイズは今気付いた事を忘れることにした。気のせいだ、と自身に語りかけると、不思議とそんな気がしてきた。

 

「じゃあアーサーにお願いしようかな」

「そうしてくれ」

 

 やれやれ、とエミヤが仕事に戻ろうとした時だった。

 

「わっ!」

 

 突然立香が耳を塞いで、地面に転がった。また彼の中の英霊達が騒ぎだしたのである。

 そのまま「わーわー!」と転がる立香に、ルイズは驚いた。

 

「ちょ、なになに!? どうしたの!?」

「問題はない」

「問題はない、じゃないわよ! 説明しなさいよ説明を!」

 

 面倒な……と思いつつ、説明しなければ余計に面倒な気がしたエミヤは口を開く。

 

「サーヴァントとは過去存在した人間、あるいは創作の人物……それの分身のようなものだ。例外はあるが……まぁそれは今は良い。ここまでは理解しているな?」

「えーと……昔話に出てくる人ってことよね?」

「その認識で構わない。我々は求められれば召喚に応じ、そこでの役目が終わる時に消える運命にある」

「ふーん……え!? じゃあリツカもいつか消えちゃうの!?」

「そうなるだろうな。……それで、役目を終えて消えた後には座と呼ばれる、サーヴァントを記録している場所に戻るのだが、その召喚の経験はある程度は本体に蓄積されるんだ」

「本体? あ、分身なんだもんね! そりゃ本体もいるか」

「少しは黙って聞いたらどうだね君は……」

 

 呆れたように言うエミヤに、頬を膨らませて抗議するルイズ。だがなにも言わずにエミヤの言葉を待った。

 その様子を見て頷いたエミヤは続ける。

 

「経験はある程度は蓄積されるものの、記憶は引き継ぐことはできないんだ。これにも例外はあるんだが、それも今は置いておく」

「例外だらけね……」

「これは仮の話だが、例えば私が君のサーヴァントだったとする。そして私は敵に倒され消滅した。そして君はまた私を召喚したとして……それは一度目に君に召喚され、消滅するまでに君といた私ではなく、新しい英霊・エミヤとしての召喚になるんだ」

「へぇ……不便なものね、サーヴァントって」

 

 なんとなく受け入れそうになって、ルイズはすぐにエミヤの矛盾に気がついた。

 

「……あれ? 変じゃない? 記憶が引き継げないのよね? じゃあなんであんた、リツカのこと知ってんの?」

「ほう……考える力と注意力はあるようだ」

「なんですって!?」

「ルイズ、マスターの役割は覚えているか?」

 

 瞬間沸騰したルイズに対してエミヤは間髪入れずに聞いた。

 その真剣な瞳に、ルイズは怒りを飲み込んで考える。

 

「……確か、世界を救う英雄なのよね?」

「その通りだ。マスターが共に戦ったサーヴァントを召喚し、危機に陥った世界を救う。それが藤丸立香という英雄に与えられた役割だ」

 

 それを聞いてルイズは納得した。

 

「……そっか。考えてみたらそうよね。世界が危ないって時に召喚されて、強い使い魔を召喚したのになんの記憶も無いんじゃ、協力できないかもしれないわよね」

「マスターに召喚された我々は座ではなく、また別の場所に登録された。あくまで『藤丸立香』が召喚したサーヴァントとしてな。そことマスターは常に繋がっていて、マスターに直接文句をぶつけている……というのが現状というわけだ」

 

 エミヤは親指で転がっている立香を指差す。

 想像するだけで面倒だという事が分かる状況だ。ルイズも「最悪ね」と頷く。

 やがて立香が、よろよろと立ち上がった。

 

「……せ、説明ありがとエミヤ……」

「それでどうなった?」

「今回は……アーサーってことで……」

 

 召喚する前から憔悴しきっている自分の使い魔に、呆れたようにルイズは溜め息を吐いた。

 しかし立香はすぐに表情を引き締めて、エミヤを召喚した時のように詠唱を始めた。

 

「召喚術式起動。真名・アーサー・ペンドラゴン。我が呼び掛けに応じよ!」

 

 エミヤのときとは違い、かなり省略されていた。ルイズが怪訝な視線を向けると、「これ割りと形だけのものだから」と立香は笑う。

 そしてエミヤの時と同じように魔法陣が浮かび上がり稲妻が走った後、その中央には白銀の鎧を身に付けた男が立っていた。

 

「ちょっと待ってくれマスター。形式的なものはそうだし別に良いんだけど、もう少しちゃんとしてくれても良いんじゃないかな?」

 

 どこからどう見ても文句の付けようも無い程のとんでもない美青年。物語で語られるような騎士でもここまでの誇張はされない、と思える程の容姿のアーサーの第一声は、立香への抗議だった。

 

「いやごめん……アーサーなら許してくれるかなって」

「勿論許すけど、一応格好よく出る準備をしてたんだよ?」

 

 と立香とアーサーが笑いあって、そしてアーサーはルイズの方を向いた。

 

「我が名はアーサー・ペンドラゴン。この身は今より君の剣となり盾となる。よろしく、レディ」

「あ、う、うん……」

 

 差し出された手を握り返すルイズは、どこか上の空だ。

 立香は素早くルイズの両頬を両手で挟むように掴んだ。

 

「ちょ!? あにすんのよ!」

「あれ?」

 

 魔力切れを心配した立香だったのだが、ルイズはまだかなり余裕がありそうだった。

 噛みつかれそうになったので、手を引っ込めて立香は聞いた。

 

「どうかしたの? 心ここにあらずって感じだったけど」

「……べ、別に? あんたには関係無いわよ!」

「体調が悪い訳ではない?」

「え? あ、あぁ……うん、全然平気。……あ、いや、なんかちょっと身体が怠いような……?」

 

 腕を組んでルイズの様子を伺う立香。

 その後ろにいたエミヤは、何かを言おうとして止めた。

 

「……うん。大丈夫そうだし、とりあえずいっか」

 

 そう言って、立香はアーサーへ言う。

 

「しばらくよろしくね」

「この剣に誓って、君とルイズを守り抜こう」

「うーん……とは言っても、しばらくその必要も無さそうなんだけどね」

 

 立香とエミヤ、アーサーはのどかな異世界の風景に苦笑いを浮かべる。

 何をする為に喚ばれたのかが分からない。しかし喚ばれたからには意味がある筈。

 のんびりしている時間はあるのか……立香はルイズを見た。

 相変わらずアーサーを見つめぼーっとしているルイズは、立香に見られている事にも気付いた様子がない。

 

「……なるようになる、か」

 

 そう呟いて立香は肩の力を抜いた。

 エミヤも「そうだな」と言って、給仕の仕事に戻っていった。

 

「マスター。僕も少しやりたいことがあるから、単独行動しても良いかい?」

「ん? こっちに来て早々? いいけど、やりたい事って?」

「大した用事じゃ無いんだ、ただやらなければいけない事だから。なにか問題がありそうならすぐに戻るから安心してほしい。それじゃあ行ってくるよ」

 

 颯爽と歩き出すアーサーを見送る。

 サーヴァント達の自由さに笑いながら、立香は言った。

 

「マスター、時間は大丈夫?」

「え? ……まだ余裕はあるけど、そろそろ行くわ」

「うん、それが良い」

 

 校舎へ歩き出すルイズ。

 その後ろを着いて行く立香は、誰かの視線を感じて振り返る。

 遠くの方で青い髪の少女と、赤い髪の少女がこちらを見ていた。

 立香が手を振ると、赤い髪の少女だけ手を振り返してきた。

 それ以上気にする事なく、そのままその場を後にする立香だった。




周回の合間に書いてたので、変なところあったら教えていただけると嬉しいです。
今回の目標は200箱~250箱なので、またちょっと時間空きます。
感想お待ちしてます。


ちなみにアーサーはギーシュに説教しに行きましたが、割愛します
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