「マスター、さっきのルイズの爆発をどう思う?」
エミヤが教室での爆発事件について尋ねてきた。
なかなか曖昧な聞き方ではあったが、その神妙な表情からエミヤが何を言いたいのかは理解できる。
「ひとつ、火力が異常だったね。軽い宝具に匹敵するレベルのものに見えたよ」
「そうだな。私の【熾天覆う七つの円環】の花弁が瞬時に六枚も破壊された。あれで失敗だと言うのだから恐れ入る」
エミヤにとって唯一の防御手段。最も信頼している強固な花弁の盾を、ルイズの爆発はいとも容易く半壊させた。
それは並大抵の事ではない。カルデアにいたころにエミヤの訓練も見てきたが、多くの英雄達がその盾の前に攻めあぐねていたのを覚えている。宝具の一撃を受けても耐えきる堅牢さは、先ほどのルイズの爆発の時には見る影もなかった。
違和感はそれだけじゃない。
「ふたつ、そんな大爆発の割りに被害が少なすぎる」
「教卓と窓ガラスは派手に砕けたが、教室全体で見れば被害は軽微と言えるだろう。何より人的被害が一切無いのは異常だ」
今回の爆発でダメージを受けたのは、僕とアーサーだけだった。僕はルイズのクッションになったのと爆発を間近で受けた。僕の中の誰かがとっさに防御魔術を展開してくれたので助かったが、それがなければ僕は消滅していたかもしれない。アーサーもシュヴルーズ先生を庇った時に、軽くだが爆発のダメージを受けていた。
それ以外に怪我をした人間は誰もいなかった。他の生徒とシュヴルーズ先生、そしてルイズを確認してみたが、ほとんど問題は無かった。
生徒達とシュヴルーズ先生は、エミヤとアーサーが庇った事で被害を受けなかった……と言うことで説明はつく。
しかしどう考えてもルイズが無傷なのはおかしい。
少し考えて、僕は頭に浮かんだ可能性を口にしてみた。
「……この世界の魔法は、人間に害が及ばないようになっている。あるいは軽度のもので済むようになっている、とか」
「それは無いよマスター。ミセス・シュヴルーズに掠り傷を負わせていたし、そもそも教室中の窓ガラスをすべて割るような衝撃が起こっているのなら、その制限はほとんど無意味だろう」
「厨房で忌々しげに言っている料理人がいたが、この世界は魔法を使う貴族たちが戦場で大活躍とのことだ」
エミヤからの追加情報で、一つ目の可能性が消えた。
「じゃあ使用者にダメージがいかないようになっているとか?」
「あれだけ派手に吹っ飛ばされてか?」
エミヤに即座に反論されて、確かに……と納得する。
ほかに何か……と考えようとした時、「まさかとは思うが……」と頭の中で孔明の声が聞こえてきた。
『先ほどの授業を聞いて私は、この世界の法則と我々の世界の法則は違う、と勝手に思い込んでいたが……もしかしたら、同じなのかもしれない』
『同じ?』
『魔法は最大の神秘であるということだ、マスター。魔法と魔術の違いは分かるな?」
『大まかには、原理が解明されているかどうか……だよね』
『そうだ。魔術とは、人類にその神秘性を解き明かされ、不思議でもなんでも無くなった魔法のことを言う。不思議ではないなら誰もそれを信仰も畏敬もしない。だから力を失う。サーヴァントの知名度によって強さが上下するのと同じようなものだな』
『……あ、そういうこと?』
『ああ。これはあくまで仮説だが……この世界は、魔法が魔術にならなかった世界なんじゃないだろうか?』
人々の魔法に対する信仰心が失われず、魔法が魔術にならずにその神秘性を保ったまま現在にまで残っている。
あれ? それってかなりまずい事なんじゃないだろうか?
『その通りだ。我々の認識ではただの火の魔術でしかないものが、こちら世界では「火を放つ魔法」だと認識されている……となればだ。今回はこれまでのどれよりも難しい旅になるかもしれないな』
神秘性という面で、僕たちサーヴァントは魔法に勝つことはできない。
そして世界の認識というのは強い影響力を持つ。
それがどれだけ弱い魔術のように僕たちに見えようと、この世界で【魔法】と定義されているのなら僕たちに抗う術は無い。
こちらの世界で召喚されたサーヴァントだろうと、僕はあくまで別の理の中にいる存在だ。それは僕の召喚するサーヴァント達も例外ではない。
『魔法は普通の人間には再現できない奇跡の力である』という概念がこの世界にあり、それをこの世界の人達が信じている以上は、僕たちがどれだけ「これは魔術だ!」と叫ぼうと何の影響も与えない。
そしてこれから先、僕たちが戦うことになるかもしれない相手は、ほとんどが【魔法使い】になるだろう。
「……気を引き締め直した方が良いかもしれないね」
「やれやれ……マスターといると飽きないな」
「そう言わないでよエミヤ、頼りにしてるからね。アーサーも!」
などと明るく言ってみたが、僕は先に行ってしまったルイズの未来に何が待ち受けているのか、と不安になった。
そして改めて、何が待っていようとマスターを守り切ることを強く誓ったのだった。
幕間の物語という名の難易度上げ
個人的な解釈で魔法と魔術とサーヴァントについて考えてみたので、「自分の解釈と違う!」という場合は遠慮なくツッコんでください
あと今回の幕間は、以前感想で「サーヴァントなのにただの人間からの攻撃で倒れるのはおかしい」と言われたので、それの回答として考えていた設定です
つまり「魔法使いという存在自体がサーヴァントに対して大小はあれど特攻状態が付加されている」みたいな認識ですね
元々「この世界の魔法は我々にとっての魔法と変わらないんだ!」「な、なんだってー!?」とやりたかったのですよね
それではまた次回まで、お待ちいただけると幸いです
感想やアドバイス、誤字報告などなど、お待ちしています