うーん、今回の話は陰鬱な空気が漂っています
嫌いな人は嫌いな話だし、嫌なことを思い出す人もいるかもしれません
というか、書いてたら嫌なこと思い出しましたもの
それなりに心構えをもって読んだ方がいいかもしれません
それではどうぞ
《ススキノ》遠征の帰り道、私は一つため息をついた
なんてことはない、やっと説教が終わったかという安堵のため息だ
いや、まあ、確かにやりすぎたわよ
ちょっと頭に血が上っていただけでね
それでも《変化:怪物》を発動させなかったってことは本気で怒っていたわけではないのだろうけど
今は《ススキノ》から離れようとひたすら空を飛んでいる
そうそう追いつかれるとは思わないけど、用心に越したことはない
そもそも追ってくる気力も残っていないだろうけども
目の前に見える輝かしい赤色の大地は、後ろから迫っている月の訪れが近いことを示している
……今日の野営はひどいことになるわね
野営は設営自体に時間がかかるため、その意思があるなら早めに準備を開始した方が良い
天幕を張るのにも、焚き火の材料たる枯れ枝を集めるにも時間がかかる
天幕は慣れてくれば問題はないが、枯れ枝に関しては運も絡んでくる
いつだって焚き火に都合のよい枯れ枝が落ちているとは限らないのだ
まあ現実よりは手間はかからないけどね
現実だったら料理やらなんやら増えるし
それにいざというときは寝袋に包まれて寝るだけってのも、ありだし
危ないけども
やがて三体の《鷲獅子》と一匹の蝙蝠は一つの丘陵へと降りていった
「別に怖いわけじゃないぞ」
シロエに手を引いてもらいながら《鷲獅子》を降りたアカツキはそう言い訳のように言った
……アカツキ、それ怖いって言っているのと同義だからね?
まあ、分からなくもないけど
強靭な爪、アカツキの頭など丸のみできそうな嘴、威圧感たっぷりの眼、味方だと言われても簡単には怖さは消えないわよね
目の前に人懐っこい猛獣がいる感じと同じね
まあ、慣れるのにちょっと時間がかかるだろうけど、大丈夫でしょうね
「とりあえず目標達成かしら?」
まあ、正確にいえば《アキバ》の街にたどり着かない限り達成とは言えないけれども、一番の山場は越えた
あとはゆっくりでもいいから確実に帰るだけだからね、比較的楽になるでしょう
私は最悪《ススキノ》に戻る可能性があるけれども
向こうの方でシロエたちは今回の山場を越えたことを褒めあっている
もっともシロエはこういうのが苦手なのかちょっとタジタジになっているけど
さてと、今のうちに私は自分の用事をこなしに行きますか……ね
ついでに薪も集めてきましょう
そして私は夕闇の森のように溶けるように消えていった
「あれ?そういえば、もう一人いましたよね?あの女性はどこに?」
そうセララが言い出すまでそのことに気づく者はいなかったらしい
日の光が弱まっている所為か、森の中は余計に暗かった
私は、途中から人の姿になり、薪を集めつつできるだけ丘から離れていた
この辺りにモンスターはいないみたいね
もっともほんの少しだけ《緑小鬼》がうろついているみたいだけれど
でも、それにしても少なすぎる
まあ、私が久々にゆっくり休憩できるからいいかしら
さてと……このあたりでいいかしらね
私は薪を《魔法鞄》にいれて、代わりに今回の遠征でひどいほど活躍した《鈴》を取り出す
「来なさい、アル、ファー、コン」
りんと小さな音と共に私の目の前には三匹の《緑小鬼》がいた
『あれ、なんで俺らここにいるんだ?』
アルとファーは突然周りの景色が変わってしまったことに困惑しているみたいで二人ともきょろきょろと辺りを見渡している
対してコンは
『ふむ、ここは《オウウ》の山々の中か……。なるほど、彼女に呼び出されたのだな』
……なんであなたはこんなにも落ち着き払っているのかしらね
説明はしたけれども、分かったからと言って、そんなすぐに慣れるものだとは思わないのだけれど
まあ、いいか
『こっちよ、あなたたち』
私は彼らに声をかけた
『だれだ! って、なんだ、お前かよ……』
『あら、ずいぶんな挨拶ね。まあ、いいわ。何か最近変わったことは?』
アルを無視して私はコンに声をかける
話は一番通じやすいしね
心の奥底まで盗み見られている気がするけども
『そうだな……、そういえば冒険者同士の仲間割れが減った気がするな。ただ何というか同じ地域で同じ顔ぶれの連中を見るようになったな』
……おそらくギルドによる狩場占領ね
《緑小鬼》の行動範囲から察するに《アキバ》の街付近でしょうね
治安はよくなったけど強者が搾取する暗黙の了解ができてきたってことかしら
『そういや変な薬を飲んでる強そうな集団もいたよな?』
『確かにいたな、赤い髪の魔物よりも血気盛んそうな冒険者だったな』
……なるほど、あそこが《EXPポット》を使ってレベル上げに励み……いや、待ちなさい
《EXPポット》は低レベル冒険者が早くレベルを上げてこのゲームを楽しんでもらおうと運営が配っている物よね
酔狂な冒険者でもない限り高レベルの冒険者がそれを持っていることはありえないはずよ?
ということは、何か最悪な事態が《アキバ》の中でこそこそ起きているというわけね
『胸糞悪いわね』
『どうかしたのか』
『いえ、こっちの話よ。それよりも、魔物関連の話は?』
私は怒りを抑えつつも、他の情報を聞こうとする
『ソルが早くしゅ……』
『私が《アキバ》の街に帰ったら少しずつつけてあげるからと伝えときなさい』
『了解した。それと《アキバ》の街付近の魔物たちは特に問題はなさそうだ、いつも通りといった感じだな。だが……』
そういうとコンは辺りを見回してから言った
『どう考えても今、この辺りの同類の数が少ない』
『それは私も思ったのだけれど?』
『我々の本拠地はこの《オウウ》の地にある。なのに、その辺りにいないとなるときな臭い……』
確かにそうかもしれない、だが……
『まあ、警戒はしておくわ。今は《アキバ》に帰るのが先決だけど』
『分かった。これくらいだな、特筆すべき情報は』
『そう。じゃあ、またね』
そう言って私はもう一度鈴を鳴らす
するとそこにはもう《緑小鬼》の姿など存在しなかった
それを確認すると私は来た道を急ぎ足で引き返した
帰ってくるとみんな野営の準備に取り掛かっていた
おそらく姿の見えない三人は私のように薪を取りに行ったり、水を汲みに行ったりしているのだろう
シロエとセララはテント張り中のようだ
「シロエ、薪取ってきたわよ」
「なんだ。伯爵は薪取りに行ってたんだ。それなら先に言ってよ」
「ごめんなさいね。何か手伝うことは?」
「いいよ、久々に休める機会でしょ? 休んで来たら?」
「それもそうね。分かったわ。ちょっとあそこで休んでくる」
そういって私は人の姿で久々の休憩をとった
優秀な子どもは大人に褒められる
その点、私はとても優秀だったのだろう
何をやっても、何をやらせても素晴らしい結果を出し、先生たちに褒められた
自分がお嬢様であることもそれを加速させていった
だからこそだろう
私は他の人より出過ぎたのだ
人間はみんな一緒も求める
不可能なのに、できもしないのに、無理なのに
それでも、それを分かっていても人間は求め続ける
持ちすぎた者を嫉妬が襲い、持たなすぎる者には侮蔑が襲う
私は持ちすぎた者であった
襲い来る嫉妬は、初めは静かでおとなしいものであった
こそこそと流れていく邪悪な言の葉
曰くあの子はお嬢様だから
曰くあの子は綺麗だから
曰くあの子が先生に体を売ったから
曰く、曰く
その言の葉は私にも先生たちにも気づかれず、否、気づかれないように巧妙に隠されて流れていった
やがてその言の葉は過激になり、私の耳に静かに入り始めた
それは隠れた暗殺者から放たれる刃
その刃は次々と私の心へと飛んでいく
しかし、その刃は私の心へ刺さることはなかった
だからこそ、まずかった
攻撃力が足りなければもっと威力を上げるか、もしくは別の攻撃手段に変えるかのどちらかの対応を取る
言葉はより強力な刃へと変わり、私の心へと正面から突き立てられていく
それに加えて嫌がらせも始まった
ある時は咲き誇る可憐な百合の花が一輪、私の机に置かれていた
ある時は私の給食が事故に見せかけられて床にひっくり返された
ある時は教科書の一ページ一ページに悪口が寄せ書きのように書かれていた
ある時は私のシューズが教室のスピーカーの上に置かれていた
ある時は、ある時は
それらは先生たちに気づかれないようにずるがしこく隠されていた
ただここまでされても私の心のHPはほとんど減らなかった
しかし彼らは諦めなかった
誰にも見つからずにやってきているのに何の反応も見えないなどというのは彼らのプライドを傷付けるというのと変わらなかったのだ
やがて彼らは従来の攻撃をさらに過激にした挙句、直接的に攻撃を下し始めた
足を引っ掛けるではなまっちょろい、先生がいなければ平然と蹴る
体育館裏に呼び出して集団リンチなんて可愛らしい、兄に頼んで不良グループを引き連れて、路地裏でひたすらに暴力をふるう
階段から突き落とすくらいじゃ物足りない、二階の窓から突き落とす
そんな小学生の身には耐えきれないような暴力と言葉を私はかろうじて耐えてしまった
死んでもおかしくないのに耐えてしまった
そして、血が出てようが、大怪我をしてようが無理にでも作った笑顔で平気そうな態度でやさしく彼らに言葉をかけるのだ
その様子がとても怖かったのか一人の少女は泣きながらこういった
バケモノ
その少女の泣き声を聞いた先生にその日は見つかった
誰が彼女を泣かせたのと先生が聞くと皆、私を指さした
私は否定できなかった、彼女はいじめられても屈しない私を怖がって泣いたのだから
先生はそれを見て驚き、そして嘆いた
なんであなたがこんなことを
そうして職員室に呼ばれ先生に初めて怒られた
先生は私の服が汚れているのを、私から血が出ているのを全部無視して、全て私が悪いかのようにしかりつけた
その日私は家のベッドで泣きじゃくった
次の日から、周囲の子たちの悪口は変わっていった
バケモノだから髪が銀色なんだ
バケモノだから肌が白いんだ
バケモノだからそんなにも目が赤いんだ
バケモノだから、人間じゃないから
その言葉は今までよりも私の心に深々と刺さっていった
そしてそれは行動にまで反映され、大きな事件が起きてしまった
バケモノは倒さなきゃいけない
ある日、私が学校に登校した時のこと、教室に入ってすぐに
私の胸を刃が貫いた
「やった、バケモノを倒した!」
少年は高らかに声を上げた
何人かの少年は彼と共に喜んだ
残りの少年たちは後ろの方で怖じ気ついていた
何人かの少女たちは喜んだ
「こうなって当然だったのよ」
残りの少女たちは悲鳴を上げた
倒れてなお笑顔を振りまいている私を見て
当然、子どもたちは誰も私を助けには来なかった
「…………ナ、ルナ!」
「……ううっ、あっ!?」
目が覚めると目の前にアカツキがいた
「大丈夫か、ルナ? 何やらうなされていたようだが……」
「大丈夫……とは言えないわね、ちょっと昔の夢を見てね」
アカツキにはもうすでに昔のことは話してある、あの嫌な思い出を
だからこそ、どんな夢を見たのか察したのであろう、アカツキは私の頭をなでながらこう言った
「…………そうか、つらかったら私を頼ってくれ」
「そうするわ」
友人の優しさに私はできる限りの笑顔を向けた
もっともほとんど泣き顔にしか見えなかっただろうけども
いじめ、きついんですよね
次回はあれですね、鹿肉ですね
それから今度こそ大地人の村にたどり着いてほしいものです
それでは次回!
感想、評価、誤字等の指摘など、楽しみにしてるのでどうかよろしくお願いします
また、アンケートもまだまだ実施中ですよ
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