神速の殺戮姫は太陽を嫌う   作:クトゥルフ

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鹿肉なんて大嫌いだっ!!
毎度毎度私を悩ませおってからに……狂乱の角鹿だってしかり、今回だってしかり
もう鹿肉なんて……

今回は非常に難産でした

それでは本編へどうぞ




宴は盛り上がる、されど憂いは晴れず

…………今までこんなにも喜ばしいことがあったかしら……

私は今死んでも構わないといった幸せそうな表情でため息をつく

「やばい。なんだこれ、すげぇよっ!!」

「主君、主君っ。これはなんというべきか、至福だっ」

皆もどうやら同じ気持ちのようだ

騒いでないシロエもこのことに驚きと喜びを感じているのだろう

単に表現できないだけで

私も含めてみんなが狂喜している理由は目の前にあるいい匂いを漂わせている鹿肉の串焼きにある

ただの鹿肉の串焼きであればだれも狂喜乱舞などしないだろう

むしろまたこの食事をしなければならないのかと悲嘆に暮れていたことだろう

だがこれはただの鹿肉の串焼きではない

味のある鹿肉の串焼きなのだ

それをただの鹿肉の串焼きというのが本来なら正しいのだろうが、この世界の今までの常識から考えたならばそれはただの鹿肉の串焼きではないのだ

この世界の常識として、食事には味がないというものが存在していた

そこから考えればこの鹿肉の串焼きには味があるのはそれだけで大事なのである

「おいしいです……けど。――なんでっ?」

シロエが驚きの声を上げる

おそらく目の前でメニューを使わず調理しているからでしょうね

でもそれだけなはずがない

それだけならば私たちは味のない食事に悩まされるはずがない

誰かが絶対に気づくはずだから

となると何か条件があるのね…………

私はゆっくりと鹿肉の串焼きを味わいながら食べる

補正がかかりすぎていて本当に途轍もないご馳走ね

今までまともな食事をしてこなかったというのを筆頭に、疲労、空腹、仲間、外、安堵、この料理を途轍もないご馳走に輝かせているのはそれらの補正と……

「おいしい! これすっげぇよ。にゃん太班長すごいっ! ぱんつの次くらいに愛してる!!」

「大げさですにゃぁ」

現実のネコさん自身の料理スキルの高さでしょうね

現にあの動き……ただ者じゃないわね、やっぱり

そもそも野外料理やら鹿を捌くなんてほとんどのプレイヤーができないわよ

いや、まあ、私もやったことはあるけど……ね?

しかし、まあ、そんな技術、ネコさんはどこで学んだのかしらね?

そんな風に考えながらも、私は食べる手を止めることはなかった

気が付けば手元には串だけしか残っておらず、それに気づいた私はなんだか悲しい気持ちになる

それに気づいたのであろうネコさんがすっとおかわりを差し出してきた

「おかわりですにゃ」

「あら、ありがとう」

そっけなく対応しているように見えるだろうが、私に《狼牙族》のような尻尾があったら、激しく振られていただろう

いや、おいしいんだもの、ネコさんの料理

「班長っ。おい! にゃん太先生っ。なんでこんな味なんだ? っていうか、なんで煎餅味にならないんだよっ!? 被告の証言を求めます祭りっ」

直継は両手に鹿肉の串焼きを持ちながら尋ねた

ちょうどいいわね、私もそれに便乗しましょう

「確かに気になるわね。おそらくメニューを使わないことが条件なんだろうけど、その程度じゃみんな知っているはずだし、もう一つ何か重要な条件があるんでしょ?」

ネコさんは驚いたようにこちらを見てきた

あら、やはり当たりだったみたいね

「ルナちの言う通りですにゃ。メニューを使って料理をすると、どうやってもあの味の食糧アイテムになってしまうのですにゃ。素材を集めて、現実世界と同じように料理をすればいいんですにゃ」

「でもそれは――」

アカツキ、食べながらはやめなさい

のどに肉が詰まったらどうするのよ

まあ、その途中で鹿肉を飲みこもうとしたアカツキにシロエが水筒を渡す

ついでに続くはずだった台詞も引き取ったみたいね

「それはやってみましたけど、その方法でやっても結局は謎アイテムができるだけでは? 魚を焼こうとした時も魚とは無関係な奇妙な消し炭か、スライムみたいなペーストができるだけだったし。……この世界では普通の料理ができないはずですよね? 伯爵が言っていた通り、何か条件があるんですか?」

「その通り。条件は調理する人が《料理人》であることですにゃ。ただ調理スキルが足りないと《料理人》でも調理することができないですにゃ」

サブクラスの特技がゲーム時代とは違った効果を持っているとは思ったけど、まさかそこまでできるとは……

ん、それならば…………

私は食べる手を止めて思考を巡らせる

スキルさえあればメニューを開かなくても料理が作れるのならば、他の物もまた然りではないのか

戦闘系の《サブクラス》でも、何かゲーム時代以外の使い道があるのではないか

そして…………………

こればっかりは試してみるしかないわね

私は考えるのをやめて、再び串焼きを食べ始めた

 

 

 

一段落ついたからだろうか、お互い自己紹介が始まることとなった

まあ、ネコさんがセララのことを紹介したからなんだけどね

「はじめましてっ。ご挨拶も遅れましてっ。今回は助けていただいてありがとうございます、セララですっ。《森呪遣い(ドルイド)》の19レベルで、サブは《家政婦》で、まだひよっ娘ですっ」

…………可愛らしくて礼儀がいいなんて本当にいい子ね

本当にあの光景を見せるのは気が引けるような子ね

あの時のネコさんは本当にグッジョブよ

「クラスの三大可愛い娘でいうと三番目なんだけどラブレターをもらう数は一番多いとかそんな感じだぜっ」

「は、はひぃっ!?」

直継、あなた、そんなに褒めてどうしたいの?

クラスの中で三番目と言え、可愛い娘といった挙句、その三人の中で一番モテるって褒め言葉しかないじゃない

まあ、一番じゃ気が済まない人にはそうじゃないだろうけど

そんなこと言うからセララ、戸惑っているじゃない

もっともそんなこと言ったら、あの子が黙っていないけどね

ほら、見事に膝が刺さってる

「膝はやめろっ! 膝はっ!」

「主君、失礼な人に膝蹴りを入れておいた」

「しかも事後報告かよっ!?」

「いいじゃない、直継。報告としては正しいでしょう?」

「そういう問題かっ!?」

しかし、おいしいから分からなくないけど、顔を庇わずに肉が落ちないように守っているし……

アカツキの膝、なんだかんだで痛いだろうに……

「ふふふっ」

その様子が面白かったのかセララは笑みを零していた

ちょうどいいと思ったのか、そのタイミングでシロエは直継を紹介し始めた

「あー、これは直継。《守護戦士》。腕は信用できる」

「腕は……ね」

「下品でおバカだから仕方ない」

「だんだん俺の扱いひどくなってねえか!?」

気のせいよ、気のせい

とりあえず本当に腕はいいのよ、仮にも《茶会》のメンバーだったのだから

その点とムードメイカーなのは認めるわよ、下品だけども

「直継っちは昔からこうなのですにゃ。えっちくさい人だと思って大目に見てあげて欲しいのですにゃ。それに、さっきの台詞はセララさんを褒めているのですにゃん」

「え?」

あ、どっちも褒め言葉だと思われてなかったのね

もっと上手に分かりやすく褒めなさいよ

まあ、そんな風にいうから直継なんでしょうね

「クラスで一番モテる。そういってくれてるのですにゃ。直継っちは照れ屋ですからにゃー」

「あー、確かに」

自分からは下ネタに走るのに、女性から迫れるのに弱いとかそういう一面もあるからねえ

「おい、ちょっとまて班長、ルナ。別にそういうわけじゃねぇ。俺は美少女よりもおぱんぎゅっ!!」

ナイスよ、アカツキ

というか直継はそれでいいのかしら?

アカツキの時は美少女だとか騒いでたくせに

倒れている直継に私は残念なものを見るかのような視線を向ける

言動さえ気を付ければ、蹴られないのにね……

「痛っぇ~。だんだん容赦がなくなるな、ちみっこ」

そりゃあ、どれくらいまで力を入れていいか、分かってきたからでしょうね

それよりも……

「主君、変態の顔を陥没させた。あと肉を没収した」

「え? あっ。あ~っ!!」

うん、そっち

アカツキは蹴りを入れたタイミングで直継から串焼きを奪い取っていた

どこでそんな技術を覚えたのかしら……

当然串焼きはアカツキの口の中だ

「そんなのねぇよ……」

直継が落ち着くのも無理はない

まあ、すぐにネコさんが新しいお肉をくれるから問題ないでしょうけど

私たちのおなかを満たしてもなお鹿肉は余るだろうし

「ところでそちらのお嬢さん方は?」

ネコさんは直継にお肉を渡してから、アカツキと私に話を振る。

「ああ、そういえばまだ自己紹介をしていなかったわね。私はルナ。こっちはアカツキ。二人ともそれなりの実力を持っているわ」

「なるほどですにゃぁ」

私の名前を聞いて思い当たる節があったのだろう

まあ、ネコさんも《茶会》の一員だから、おおよそ師匠から聞いたんでしょうね

「若輩者のアカツキです、老師」

アカツキが生真面目な表情でネコさんにそう挨拶をした

真面目なのはこの子の取り柄なんだけどねぇ…………

そうも硬いといつか痛い目に合うわよ

もうここは現実の世界なのだから

できないことの方が多い現実なのだから

直継とアカツキの小競り合いを見ながら、私は友人のことを心配した

 

 

 

ふとシロエがゲームの頃に出会った双子の話を始めた

出合った頃はゲームを始めたばかりの初心者で、向こうから話しかけてきたらしい

双子はただそこにいたからシロエに話しかけたらしい

初心者である以上街の構造やら何やら知らなかったから聞いてみたのだろう

それからシロエはその双子とたびたび付き合うようになった

《師範》(高レベル冒険者がレベルの低い冒険者と一緒に冒険できるようにレベルを下げるシステムね)を使って戦闘に関することを教えながら、一緒に冒険するなど仲良く遊んでいたそうだ

それこそ《大災害》直前までそうだったらしい

シロエの思い出話を聞いているのは実に気持ちよかった

己の悪すぎる思い出よりも素晴らしいものだから

ただし同時にその双子は最悪ひどい目にあっていそうだという思いがあった

理由は簡単

まだレベルが低い冒険者である以上、その双子も当然あれを受け取っているだろう

《EXPポット》を

それを売りさばいているギルドがいるのならば、そのギルドはどこからか集めているわけよね

それこそ初心者たちから…………

…………巻き込まれてなければいいけど

まあ、巻き込まれてなくてもやることは変わらないけどね

皆の話を楽しそうに聞きながら私は《アキバ》の街のゴミ掃除を考え始め、それはこの宴が終わるまで続くこととなった

もっとも宴は宴できっちりと楽しんだけども

 

 




もう鹿肉なんて嫌いだ…………

さてと次回は
今度こそ大地人の村ですね

ではまた次回!
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