キスで魔力を増幅するけど藤丸立香は男の子です   作:286545

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転生者はキスらせたい

 爆心地のように火と煙で汚されている。そんな都市あるいは時代にオレ達はレイシフトした。メンバーは先輩とマシュとオレ、そして合流したオルガマリー所長だ。

 

 マシュの盾を霊脈地へ置いた事で、サーヴァントの召喚が可能になった。だからと言って必ず、サーヴァントが召喚される訳ではない。サーヴァントの代わりに抽出されるのは概念礼装だ。まあ、平たく言うとゴミの山である。

 

「先輩、気に病む必要はない。カルデアの歴史においても、召喚に成功した例は3件だ」

「じゃあ10回程度じゃ出ないんだ」

 

「ああ、すべて概念礼装だったーーなんて、いつもの話だ」

「貴方に期待なんてしていないわ。こればかりは素人も一流も関係ない、運の問題だもの」

 

 サーヴァントは召喚できなかった。それでも特異点となった原因を調べるために、オレ達は各地を探索する。しかし、エネミーを倒して回ったオレ達は、敵に察知されていた。マシュはスケルトンを余裕で倒せけれど、そんなマシュと同じサーヴァントだ。

 

『戦うなリッカ、マシュ! 君たちにサーヴァント戦は、まだ早い!』

 

 それはシャドウ・サーヴァントであって、本来のサーヴァントではない。聖杯に取り込まれたサーヴァントを元に作られた模造品で、宝具は使えない。しかし、それでもマシュは苦戦していた。

 

 オレ達は一塊になって、マシュの盾に守られるしかない。それに対してライダーらしきシャドウ・サーヴァントは、鎖を振り回していた。中距離から攻撃できるライダーに対して、マシュは守るために足を止めるしかない。所長が魔術で攻撃したものの、ライダーは棒立ちで防いでいる様子すらなかった。

 

「人間の魔術じゃ、サーヴァントにダメージは与えられない。神秘の格が違うのよ!」

 

元のサーヴァントは、対魔力を有するメドゥーサだ。儀式の必要な大魔術を用いても無効化される。

 

「あれは時間稼ぎだ。他に何か来るぞ。おそらく新たなサーヴァントだ」

「貴方に言われてなくても、そのくらい分かってるわよ! ああ、もう!」

 

 オレの使い道について、早く思い出して欲しいものだ。だからと言ってオレから進言するのは、欲しがっているように見えて良くない。

 

「そうよーー」

 

 来たか!

 

「ーー礼装!」

 

 違う、そうじゃない!

 

「君、礼装のスキルを使ってマシュを一時的に強化するのよ」

 

 所長は小声で、先輩へ伝える。所長の言う魔術礼装は、先輩の着ている制服だ。魔術を使えずとも、礼装に魔力を通せば使用できる。マスター候補用で予備も多く、そこまで細工を施す隙はなかった。

 

「魔術礼装ーー瞬間強化!」

「はあああああ!」

 

 その名の通り、強化は一瞬だ。その一瞬で飛び出したマシュは、敵へ突っ込む。巨大な盾を振り上げ、ライダーへ叩きつけた。激突の衝撃で火花が飛び散り、ライダーは跳ね飛ばされた。

 

「しまった。距離を取られた!」

 

 そこからライダーは円を描くように走る。ライダーの動きに合わせて、マシュは横へ走った。それはオレ達の下へ回り込ませないためだ。つまり元の中距離へ戻って、瞬間強化は無駄になった。

 

「魔術礼装ーー瞬間強化! あれ? 発動しない? もう壊れた?」

「礼装のスキルごとにクールタイムがあるのよ! これだから素人のマスターは!」

 

「どうして連続で使えるようにしなかったんですか!?」

「魔術の反動で死ぬわよ! 死にたいの!?」

 

「魔術の発動は常に死と隣り合わせだ。魔術とは、そういう危険な物だ」

「貴方だって魔術を使えない素人でしょ! 分かったふり!? それとも使えるの!? 使えないの!?」

 

「使えません」

「だったら黙ってなさい!」

 

 早く礼装を使い切って、オレの出番が来ることを願おう。

 

「私の言うことを、よく聞きなさい。サーヴァントは道具です」

「道具ってーー」

 

「だからマスターである君は曖昧な指示ではなく、十分な指示を出さなければなりません」

「ーーはい」

 

「瞬間強化して、どうするの? 敵へ接近して、どうしたかったの?」

「それは所長の指示で、瞬間強化を使っただけで、どうするのかなんて考えていません!」

 

「考えなくちゃいけないの! たとえ素人でも、今は君がマシュのマスターなんだから!」

 

 素人のマスターに酷な事を言うものだ。中途半端に瞬間強化の命令を出した所長が悪いと、オレは思う。

 

「所長、先輩は悪くありません。知らない事は罪ではありません。そして先輩は知ることもできなかった」

「ーーまだ出来ることはあります。君の手に刻まれた令呪です」

 

 無視された。まあ、良いだろう。先輩の耳に届いていれば、それでいい。

 

「令呪は3画に限り、サーヴァントの力を引き出す事ができます。魔術礼装と比べ物にならないほど、その効果は強力です。サーヴァントの限界を超えて、その能力を発揮させる事もできます」

 

 本来の形式である聖杯戦争の令呪ならば、空間転移すら可能だ。しかしカルデア式の令呪に、サーヴァントを縛る力はない。カルデア式の令呪は、単なる魔力資源と考えていい。その代わり、1日で1画、回復する。

 

「どうすれば良いのか、考えなさい」

 

 所長にマスター適正はなかった。先輩の代わりに、オレがマスターとなる事もできない。

 

『新たなサーヴァントの反応が、そちらに向かっている!』

 

 カルデアから通信だ。そして時間もなかった。

 

「令呪を掛けて願う。まっすぐ行って、そいつの顔を盾で殴り飛ばせ!」

「了解、先輩! マシュ・キリエライト、突進します!」

 

 音は遅れて、そう聞こえたのはライダーを跳ね飛ばした後だった。巨大な盾で殴られたライダーは、空を舞っている。その首は折れ、奇妙に曲がっていた。

 

「やったー!」

 

 先輩が歓声を上げた。

 

「いいや、まだだ! 止めを刺せ!」

 

 サーヴァントは霊核を中心に形成され、それは心臓や首にある。人の形をしているけれど人ではなく、人にとって致命傷でも死なない事がある。

 

「ーー見ツケタゾ」

『サーヴァント反応、確認! アサシンのサーヴァントだ!』

 

 折れた首のまま、壊れた人形のようにライダーは立ち上がる。動きは鈍くとも、武器である鎖を振り回す程度の力はあるらしい。それと追加で参戦したアサシンだ。

 

「アンブリファイア、私と貴方でライダーを倒します。君はアサシンを倒しなさい」

「所長とアンプで? でも相手はサーヴァントですよ!?」

 

「勝算はあるから! 早くアサシンを足止めしなさい!」

 

 嫌な予感がする。

 

「所長、どうやって対魔力の高いライダーに攻撃を通すつもりですか?」

「貴方を利用して、私の大魔術でライダーを倒します」

 

 そう言ってオレに近付く所長の顔を掴んで止める。

 

「所長、自分の体は大切にしてください。カルデアの所長である前に、貴方も女の子です」

「バカにしてるの!? 性別なんて関係ありません。私はアニムスフィアの魔術師です!」

 

 オレは嫌だ!

 

「所長としての務めを立派に果たしている事を、オレは知っています。所長がいなければ今のカルデアはありません」

「薄っぺらい言葉ね。口だけなら何とでも言えます。それ以上は私に対する侮辱と知りなさい」

 

 弱っていると言ってもサーヴァントだ。少なくともスケルトンよりも弱いという事はない。そんなライダーの鎖を必死に避けながら、所長を必死に説得しなければならない。

 

「前所長は非道な実験に手を染めていました。オレもマシュも、その実験の失敗作と成功作です。貴方がマスター候補を諦めて、所長になってくれたおかげで、オレ達は非道な実験から解放されました」

 

 所長は褒められたいと、原作知識で知っている。この所長も大きく違わないはずだ。今こそ、その知識を悪用する時だろう。

 

「所長は、よく頑張りました。つらかったでしょう、くるしかったでしょう。貴方が頑張っている事はオレが知っています。貴方が苦しいと、オレも苦しい。だから後はオレに任せてください。貴方は十分に頑張りました。だから、もう頑張らなくて良い。貴方に戦って欲しくはない」

 

 所長を抱き寄せてオレは、そう言った。頭と頭を互い違いにする事で、キスできないようにホールドする。すると風を切る鎖の先に付いた短剣が、オレの肌を掠って行った。おい、ライダー。殺すべきなのはオレではない、所長だ。

 

「そう言うセリフは自分の行動を思い返してから言いなさい!」

 

 所長は激怒した。そんな事は言われずとも分かっている。親愛なるレフならば所長も受け入れた事だろう。しかしオレのように信頼のない者から言われても、その言葉は偽りとしか思えない。

 

 所長に突き飛ばされたオレは、これに乗じて距離を取った。キスの射程から逃れた今、オレは安心する。そしてオレは、ライダーへ向き直った。所長とキスするくらいなら、ライダーと戦う方をオレは選ぶ!

 

「お待たせしました!」

 

 そう言って通りすぎたマシュは、ライダーを踏み潰して行った。まさに一瞬の事だった。やはりサーヴァントは格が違う。

 

『落ち着く暇もないぞ! 敵性反応3騎目! 反応はライダーだ!』

 

 もうアサシンを倒したのか?疑問に思って先輩の令呪を見ると、あと1画に減っていた。オレ達を助けるために、焦って使ったのか。

 

 あと1画! あと1画だ! よくやったアサシン! オレの出番は近い!

 

「ハ、ハハハハハハハ!」

 

 オレの声ではない。シャドウ・サーヴァントが笑う。連戦となって、マシュは弱っていた。蓄積されたダメージは、マシュの体力を減少させている。

 

「魔術礼装ーー応急手当!」

 

 先輩は魔術礼装を用いて、マシュの体力を回復した。と言っても完全回復するほどの効果はない。

 

 シールダーであるマシュの防御力は高い。しかし攻撃力は低いため、戦闘の長期化に陥る。その欠点を令呪によって補っていたものの、あと1画だ。たとえ防御力が高くても、蓄積されたダメージは大きい。つまりランサーを倒すために、最後の令呪を使わなければならない。

 

「令呪をかけて願う。顔面を殴り倒せ!」

 

 巨大な鈍器は、ランサーの武器ごと押し潰した。

 

 しかしランサーは、これまで倒したライダーやアサシンと異なる。ライダーは宝具による乗り物を用いる事で、真価を発揮する。ただしシャドウ・サーヴァントは宝具を使えない。アサシンは気配遮断スキルを用いる事で、暗殺を可能とする。それに対してランサーは、素のままで強いクラスだ。つまり、あの程度でランサーは死なない。

 

「面白イ! 面白イ! 面白イ! 面白イ!」

「魔術礼装ーー緊急回避!」

 

 ランサーの反撃をマシュは回避した。これで魔術礼装のスキルも、令呪も使い切った。頼れるのはオレだけ、だ。

 

「所長、このままではーー」

「サーヴァント・キャスターだ! そこの可愛いらしいマスターに助太刀するぜ!」

 

 帰れ。

 

「キャスター、貴様! ナゼ漂流者ノ肩ヲ持ツ!」

「テメェらよりもマシだからに決まってんだろ。それと、まあ、見所のあるガキは嫌いじゃない」

 

 マシュが防ぎ、キャスターが魔術で光の玉を放つ。そうしてランサーは負けてしまった。

 

「あのーーありがとう、ございます。危ない所を助けていただいてーー」

「おう、おつかれさん。この程度、貸しにもならねえ。気にすんな」

 

「それより自分の体の心配だな。尻のあたり、ライダーのヤロウに、しつこく狙われてただろう?」

「ひゃあ!」

 

「おう、なよっとしているようで、いい体してるじゃねえか!」

「キャスターさん、先輩に何を!?」

 

 もう我慢ならないぞ、キャスター!

 

「善良な先輩で遊ぶのは止めてくれ。貴方の冗談を本気にしてしまう」

「ああ、悪い悪い。ところで、その先輩ってーのは、マスターの事か?」

 

「その通りだ。マスターと呼ばれるのは慣れないらしい」

「あの、でもーー」

 

 小さく手を上げた先輩が、恥ずかしそうに言う。

 

「ーーマスターとしての自覚も出てきました」

 

 かわいい。

 

「好い顔してるじゃねえか、先輩」

「キャスターもボクのこと先輩って呼ぶの!?」

 

「なんだ、マスターって呼ばせたいのか?」

「サーヴァントとして力を貸してくれるの?」

 

「さて、それは互いの事情によるだろ?」

 

 結果を言うと、キャスターの協力を得た。オレ達はキャスターから話を聞き、大聖杯を目的地へ定める。その途中でキャスターの特訓を受け、マシュの宝具も使えるようになった。

 

 それからオレ達は洞窟へ侵入し、アーチャーの待ち伏せを受ける。シャドウ・サーヴァントではなく、アーチャーは通常のサーヴァントだ。

 

「おう、信奉者の登場だ。相変わらず聖剣使いを護ってんのか?」

「信奉者になった覚えはないがね。つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」

 

 自然の洞窟を拡張されていると言っても、やはり狭い。マシュの盾と、キャスターによるルーンの防壁を用いれば、アーチャーの下へ辿り着くのは難しくなかった。ミサイルのように爆発する矢も、マシュの盾を突破できない。

 

「ーー赤原猟犬」

 

するとアーチャーの射撃が一時的に停止する。こちらが接近するギリギリまでチャージした後、まるで獣のように何度も襲いかかる剣を放った。キャスターのルーン魔術で弾いても止まる事はない。しかしアーチャーに接近すると、アーチャーは弓を消し、剣を手に取った。そう、あれは弓も使えて、剣も使えるアーチャーだ。

 

「I am the bone of my sword」

 

 どこからか剣を取り出すアーチャーは、詠唱する。アーチャーは防戦を主とする剣技で、必殺に至らない。虚空から射出される複数の剣も、行動の妨害が限度だ。そもそもキャスターは矢避けの加護によって、矢を見てから避ける。

 

「後ろから剣が飛んで来ます! いえ、横から! 上からも!」

 

「ちぃ! ハメられたか!?」

「キャスターさん!」

 

 ただし必殺の技となれば異なる。複数の方角から同時に襲いかかった小剣は、キャスターにとって障害となった。そこへ襲いかかった獣のような剣が、逃げ場のないキャスターに食い込む。

 

「ーー壊れた幻想」

 

 アーチャーの言葉は起爆のトリガーだ。獣のような剣はキャスターに食い込んだまま大爆発を起こした。

 

「そろそろ片付けの時間だーーUnlimited Blade Works」

 

 戦闘の合間に行われていた詠唱が、ついに終わる。広さの限定された洞窟は、荒れた大地へ塗り替えられた。世界を侵食する大魔術、固有結界だ。さきほど目前まで迫っていたアーチャーは、遠く離れた丘に立っていた。

 

「うそでしょ」

 

 思わず呟いた所長は呆然としていた。ここからが本番だ。遮る物のないアーチャーの戦場で、さきほどと同じことを行う必要がある。異なる点と言えば、あちらのアーチャーは軽傷で、こちらのキャスターは重傷だ。

 

「さて、ここに取り出したるはゲイ・ボルグ。君の武器であり、そして死因でもある」

 

 それはランサーとして召喚された時、宝具として与えられる槍だ。

 

「そちらの少女にはクラレントだ。それともアロンダイトの方が良いかね? どちらも、ある意味、その盾を割った剣だ」

 

 どちらも円卓に関係している。クラレントは内乱を起こしたモードレッドの武器であり、アロンダイトは王妃と不倫したランスロットの武器だ。しかし、それは盾の話だ。マシュに力を貸した英霊の最も致命的な死因は、聖杯と言える。

 

「どうなってるのよ!? どうして、あのアーチャーは複数の宝具を持ってるの!? おまけに世界で数少ない固有結界の使い手!? いったい元になった英霊は、どこの魔術師よ!? なによりアーチャーじゃなかったの!? ちょっとロマニ! ーーロマニ?」

 

 アーチャーの閉ざされた世界に、オレ達は取り込まれた。当然ながら、世界の表側にあたる洞窟にオレ達の姿はない。カルデアの通信も遮断された。

 

 あまりの絶望感によって、いつもの所長に戻っている。サーヴァントの宝具は、人々の幻想によって形作られる。生前よりも強くなる事もあれば、弱くなる事もある。しかし、あのアーチャーは未来の英霊で、じつは宝具を持っていない。未来の英霊で信仰もないため、知名度による強化もない素のままだ。

 

 通常の英霊は、人の抑止力であるアラヤにスカウトされる。しかし、アーチャーをスカウトしたのは星の抑止力であるガイアだ。

 

 あの非常識な宝具の数は、固有結界というスキルの産物だ。あらゆる剣を解析し、固有結界に蓄積する。通常ならば英霊は成長せず、英雄としての力量も変化しない。しかし、このアーチャーは剣を読み取る事で、拡張する英霊だ。

 

「所長、諦めますか? 諦めて、楽になりますか?」

「嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ、まだ死にたくない! そうよ、まだ手はあるじゃない!」

 

 ついに所長は禁断の扉に手を掛けた。

 

「リッカ・フジマル! あなた、こいつとキスしなさい!」

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