殿がだんじょんなどに行くのは間違っておりますぞ! 作:志葉親子を見守る天井
─────それは何も変わらぬ朝だった。
早朝五時、(あえて本名は伏せさせて貰うが)私こと黒子は日課にして仕事である門の前の掃き掃除に向かうべく身支度を3秒程で整える。
因みに黒子と言っても歌舞伎などで出てくる方であり決してバスケ部だった訳ではない。
当初はこれを着替えるだけでも1分はかかっていたが、今ではこの通り。最も、ベテランの先輩方は文字通り一瞬目を離した瞬間には着替え終わっているのでそれに比べればペーペーこの上ないが。
私は志葉家という約300年以上続く侍の一族にお仕えしているのだが、今私がいるそのお屋敷は広い。中学生の時に課外授業で当時のそれなりの一族の屋敷へ行った事はあるが、体感にして少なくとも1.5倍以上は広い。
それもそのはず、志葉家は初代の頃より『三途の川』よりありとあらゆる隙間を通して現れる化け物の軍団『外道衆』とこの世を護るために戦い続け
そして何故私がそれを過去形で言い表したのか。
至極単純、その戦いが幕を下ろしたからだ。
そして、
勇気と絆によって結ばれた七人の侍達、『侍戦隊シンケンジャー』は外道衆の大将・血祭ドウコクを打ち破り、あわや滅亡寸前まで追い詰められたこの世を命をかけて救ってくれた。
そうして戦いが終わり、先代を含めた他の侍が拠点であったこの屋敷を去られ早三ヶ月。今日は先代様がお尋ねになられているとはいえ、慣れとは恐ろしいもので、未だあの頃の喧騒が耳から一向に消えず、ただでさえ広く感じていた屋敷がさらに伽藍とした様に思える。
少し前のことに想いを馳せ、「そういえば時々ことは様が早起きなさっては篠笛の練習をなさっていたなぁ」等と思い返し、ふと違和感に気付いた。
いや、別段
だからこそおかしい。確かに軒先で近所の奥様方と話(ジェスチャー)はするが何もこんな時間にはしないし、まず聞きなれた声に比べかなり野太い。それも一人二人ではなく、最低でも3、4人のグループが3つ程といった所か。志葉家黒子特別教育訓練の全過程をクリアしていれば、新入りでもこの程度は楽勝でわかる。
そして季節外れに寒い。
今は六月中旬。最近は異常気象のせいか既に七月下旬並に暑かったのだが、夏服の上から空気の冷たさが肌を刺してくる。志葉家黒子特別教育訓練を積んだ私でも少し身震いしてしまう程だ。確か昨晩は特に暑かったので殿と姫君の寝室の襖を開けっ放ししてしまったが、お風邪を引いておられないだろうか。少し心配だ。
・・・少し殿のお具合が心配になるが、この小さく、されどどうしても捨て置けない嫌な予感を確かめなければならない。そんな気がする。
(殿、姫君、直ぐに戻ります故、少々お待ち下さい)
胸の中で語りかけ、自室に戻り念のために帯刀した後、再び門へと静かに駆けて行った。
その三十秒後、側近の日下部 彦馬様のお部屋へと駆けて行く事になる。
そして呑気な事を
─────志葉邸の外が中世の欧州の様になっていたのだから。
「······
「えぇ、言うまでもなく一大事ですな」
「······だな」
「な、何故この様な事態にぃ······!?」
志葉邸の一角、大広間にて。
一族・並びにその側近という4トップが一堂に会し、頭を悩ませていた。
志葉家十九代目当主・志葉丈瑠は僅かに震えながら手元の茶を一気に煽り。
志葉家十八代目当主・志葉薫は「何故こうなった」と言わんばかりにこめかみを摘み。
志葉丈瑠直属の側近・日下部彦馬は停止しようとする頭を必死に動かしながら唸り。
志葉薫直属の側近・丹波歳三はこの世の終わりだという顔で頭を抱え、隣の主に引っぱたかれた。いと哀れなり。
「······取り敢えず、黒子達が集めてくれた情報を纏めよう」
それぞれで唸ってばかりでも仕方ない。丈留は話を聞き出す。
黒子によってこの異常を知らされた彦馬と丹波は、事実確認を行った後、黒子達への情報収集を命じた。伊達で務まるほど側近という役職は温くはない、という事だ。
黒子らはホワイトボードを引っ張ってくると、これ迄に集まった情報を書き連ねていく。
曰く、現時点で志葉邸があるこの地は『おらりお』と呼ばれており、日本は兎も角、世界の地図帳でも現時点で見つかっていない。
曰く、人間だけでなくファンタジーに出てくるような半獣人や妖精等が存在している。
曰く、この世界には『神』が実在している。
曰く、黒子用ショドウフォン間での連絡は問題なく取ることが出来るが、ネット回線や警察等の他の場所には一切繋がらない。
曰く、この地には『だんじょん』なるものが存在し、神々から『ふぁるな』なるものを賜った『冒険者』達がモンスター相手に金を稼いでいる。
曰く、志葉邸にて管理している金が円ではなく紙幣も纏めてよく分からない金貨になっていた。
「頭が痛く、いやおかしく······手遅れか?」
「多分俺もです」
「姫ぇ!?当主殿も!?」
新旧当主の選択
「······彼らに対しては失礼だが、外道衆や炎神、天使にも会ったからな。百歩譲って神とか獣人には目を瞑ろう」
「当主殿?」
「だが問題はこの『金』に関してだ。もし今の状況が何らかの結界か何かで巻き込まれたとしても、まぁこの時点で少しおかしいが───ここは無視できない」
「何をがめつい事を仰って······いや待てよ」
「そういう事だ、流石は丹波殿。これが示す事はつまり───」
「単にたまたま巻き込まれたのではなく、
「然もこの世界で過ごす事を前提として、か······。一体誰が、何故この様な大掛かりな事を」
「それに関しては、これから少しずつ調べていきましょう」
「······だな」
一通り話し合いが終わったのだろう、四人は意図せず同時に溜め息をついた。それと同時に
「さて、聞くだけじゃ完全に理解し切れない、実際に街を見てくる。爺、丹波殿、姫を留守を。······まぁ理解出来る気はしないが」
「「はっ、お気をつけて」」
「留守は任せろ。······
「······ありがとうございます、母上」
こうして丈留は、或る意味人生最大の
シンケンジャー外伝、本日はこれまで。
なんだかんだで丹波さんは何故か小さい頃から好きだった。