女子高生がスマホを片手に、電車に揺られている。もう夜の九時だ。彼女は生粋の田舎っ子。だからこんな時間に一人で電車に揺られている。まさしく一人で。四両編成の電車に乗る乗客はこの時間帯は彼女一人であった。そして、お盆だろうが、関係ない。彼女は予備校帰りで疲れた脳をさらに疲れさせるべく、スマホのサイトに飛んで行く。
<やほー(きゅーりっち)
<あ、きゅーりっちさん、こんばんはー^_^(コメ)
<予備校おつおつ〜(緑茶)
<みなさんばんわ〜!(きゅーりっち)
彼女のハンドルネームはきゅーりっちである。彼女はサイト内では知名度は低い。それに対してコメや緑茶は称号付きだ。一体何の称号かと言えば、そう、このサイト内で出題される謎解きでの成績を残すことで得られる称号である。一風変わったこのサイト、暗号迷宮、ではとにかく時代の流れに逆らうかのように、ドット絵師が背景イラストを担当し、独特の世界観を表現する。解答者たちのチャット欄、出題欄以外の文字はドットで描かれていて、広告は一切ない。運営者の方もきちんと実在していらっしゃる。
カバンからイヤホンを取り出して、彼女は耳を騒音から遮断するように塞いだ。
あーあ、田舎の電車のここが嫌だよね。
ガタガタ、ガタガタ、ガタガタ・・・。規則的に音を立てて、車内を結構な騒音が響き、カーブはこれでもかというほど揺れる。椅子に座っていないとよろめくくらいだ。東京に向かうにつれてこの揺れは大幅に改善されているところに、彼女は、出たよ登り至上主義!と心の中で悪態をつく。
<やあやあ、昨日続きやらん?(アラモード)
<えー、イベント始まってるじゃないですか。今回公式から出してもらった迷宮だし、攻略・・・(緑茶)
<ばんわ〜、アラさん、りょっさん、きゅーちゃん、コメさん(ex竹林)
<えー、未解決先でしょ?(きゅーりっち)
<ばんわ〜(緑茶)
<ばんわ〜(アイリーン)
<みなさんばんわ!(きゅーりっち)
続々とチャット欄には社会人の方々がやってきている。ここのチャット欄は1000語を超えると自動的に古いチャットが消されていくので、推理を披露する際には別のチャット欄をたちあげなくてはならないし、チャット欄の出入りもカウントされる為、大人数でワイワイ推理をするのは向いていないのだ。私たちのメンバーも二人から五人でチャット欄で推理をするのがほとんどだ。メンバーといってもお互いのことをログインした時のみ画面で確認できるだけなので、過去ログから仲の良い人を探して適当に部屋に入っていくのが基本だ。過去ログを消してしまうと探すのは手伝ってもらわないと困難を極める。
<んー、期間限定に一票!(アイリーン)
<お、姉さまのご意見をいただきましたぜ(アラモード)
<いやん、お姉さまの灰色の脳を見てみたい!(コメ)
<ハラヘッタ(カイザー)
<じゃあ、みんなこっち来てー(アラモード)