第97管理外世界の赤い球   作:破壊光線

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封じられた言葉

 翌日、時刻は放課後。場所は見知らぬ平原だった。 

 ここは海鳴市から離れているが、アースラからの情報でジュエルシードがあると言われて急行した。現地にはなのはとユーノ、そして時空管理局のクロノが新しく加わって、三人で捜索している。

 平原がいくら広くても三人が高度なサーチ魔法を使えばあっという間にジュエルシードは見つかり、とくにトラブルも無くコレを封印。さあ、帰ろうとなった時、問題が起こった。空が割れたのだ。

 三人が一様になんだと驚くと、割れた空から二つの人影が降りて来る。

 

「ごめんね」

「なのは!」

「ちょっと待て、何処へ行く」

 

 なのはが影に心当たりがあったのか、クロノとユーノを置いて駆け寄った。

 人影がだんだん大きくなり、ぼやけた輪郭がはっきりする。髪の毛の長さ、顔立ち、来ている服。なのはの予想がだんだんと現実になり始めていた。

 なのはは二つの人影が何者なのか、完全に判断できた。それは……。

 

「アリサちゃんにすずかちゃん! どうしてここに、それにその恰好……」

 

 例の、メフィラスからもらった、バリアジャケットに身を包んだアリサとすずかだった。二人は一瞬喜んだが、すぐに首を横に振る。そして、あろうことか親友のなのはに武器を構えた。

 

「なのは! 今までごめんなさい。今すぐ私たちが洗脳を解いてあげるから待ってて」

「ちょっと痛くしちゃうと思うけど、一瞬だから」

「あ、アリサちゃん。すずかちゃん、どうしたの? なんで武器なんか構えているの」

 

 なのはは困惑と喜びと恐怖が入り混じった表情で叫んだ。

 なのはの声は聞こえていないのか、アリサとすずかは悲しい表情でうつむいている。二つのデバイスはカタカタと小刻みに震えて、扇と槍の先端は、なのはを捕らえたままだった。

 そして、三人の脳内にあの渋い声が聞こえてくる。

 

「何をしているのです。あなた達の目の前には悪に落ちかけている友がいるのです。それを助けるのがあなた達親友にできることではありませんか」

「メフィラス!」

「おや、高町なのはさん。親友とこんな場所で、偶然、会ったのですよ。もっと再会を喜んではいかがですか?

 もっとも、いまの二人にはあなたの声が届かないように細工してありますけどねぇ」

 

 アリサちゃん! すずかちゃん! なのはがいくら叫んでも、親友には声が届いていないのか悲しい顔のままだ。かわりに二人のデバイスが怪しく輝いていた。

 

「アリサさん、すずかさん。親友が苦しそうに叫んでいます。唸り声に聞こえると思いますが、親友のあなた達なら分かるでしょう。助けて、と言っているのです。

 彼女も彼女なりに抵抗をしているのですよ。さあ、今すぐ卑劣な洗脳から解放させてあげなさい」

 

 どうやら二人のデバイスがなのはの言葉をただの唸り声として変換しているようだ。

なのはがいくら親友の名前を呼んでも、二人には、ただなのはが苦しそうに叫んでいるようにしか聞こえない。

 そして、メフィラスは一人安全な場所に待機し、洗脳を解くためと言って、仲良し三人組で戦わせようとしている。

 メフィラスの言葉にすずかとアリサが頷いた。そして、何かを決心した表情に変わった。

 

「デスレム・インフェルノ!」

「ヘルフローズンブレス!」

 

 氷の槍からは冷気が、炎の扇子からは火球がなのは目掛けて飛んでくる。残酷なことに親友が放った技はデスレムとグローザムの必殺技と同じ名前だった。

 なのはは友達が攻撃してきた事実に動揺し、ただ浮いている。レイジングハートが機転を利かせて魔法でバリアを張り、何とか防いだ。しかし、なのはが誰から見ても戦意喪失している明らかだった。そして、メフィラスの声が再び響く。

 

「なのはさん。もしここで、私の負けです。あなたのしもべになります。と言っていただければこの戦いは終了です。そして、ユーノ君、アリサさん、すずかさん。この三人とあなたが仲間となって、ジュエルシードを集めるのです。

 素晴らしいではありませんか、時空管理局とかいう余所者の力を借りずに、あなたと信頼するご友人が、この地球と家族を守る。実にいい。さあ、みんなで地球を守りましょう、私の支配下で。ワッハッハッハッハ」

「嫌だ、アリサちゃんとすずかちゃんを騙すような人と一緒に戦いたくなんかない」

 

 勝利を確信して大笑いする宇宙人。なのははきっぱりと拒絶した。

 五感、魔力、魔法、自分の力の全てを使ってメフィラスの姿を探すがどこに見当たらないし、見当もつかない。どれだけ探してもどこまでも広がる平原と、自分に武器を構えて向かってくる親友だけ。ユーノもクロノも見当たらない。

 これ以上攻撃を受けることは精神的にも肉体的にも厳しい。なのはは決死の思いでレイジングハートを構えた。二人のとの距離は十分にあり、むしろなのはが最も得意とする距離だった。レイジングハートが二人に標準を合わせる。なのはが命じれば桃色の光線が直撃するだろう。

 

 歯を食いしばると脳裏に怪獣の姿が思い出された。

 初めて変身して、砲撃で倒した怪獣。名前は分からないけど、茶色くて青色の熱線を吐き、青色の球体になって空を飛んだあの怪獣。これから放とうとする砲撃であの怪獣を倒した。そして今、同じことをアリサとすずかに。

 

「違う。違う!」

 

 親友と怪獣を重ねてしまった自分に恐怖し、なのはは逃げ出した。

 

 

 

 なのは、すずか、アリサの三人が戦闘を始めた頃、赤い空間では俺とメフィラス星人がその成り行きを見守っていた。

 俺はメフィラスの個室にある椅子に座って、木製のテーブルの上に置いてあるお菓子をつまんでいた。最近はメトロンが買ってきた翠屋なる洋菓子店のクッキーがよく置いてある。バターたっぷりのクッキーを味わいながら、液晶テレビで戦況を見ていた。

 テレビの隣ではこの部屋の主、メフィラスが凄そうな機械の前に立ち、マイク片手になのはを挑発していた。

 

「メフィラス、確かに俺は時空管理局を倒せと言ったが、ここまでやれとは言ってないぞ」

「いいじゃないですか、これは私と彼女たちのゲームです。誰も死ぬことはありません」

 

 そういう問題じゃないんだよな。これだとなのはがトラウマ確定コースに入る。まあ、俺たちと高町なのはの戦績は、ベムスターの勝ち星と、ベムラーとデスレム、グローザムが負け。合計1勝2敗だし、ここで勝っておきたい気持ちもある。噂によると、旅館でデスレムとグローザムが一度勝ってたらしいから2勝2敗か。でも、ベムスターが完全決着を終える前にフェイトに倒されたから、あの勝ち星も怪しいな。

 考えたよな、メフィラス。なのはが洗脳されたと嘘情報を流し、アリサとすずかにデバイス渡して。渡したデバイスには、なのはの声が全て悲鳴に変換される機能付き。そして自分は高みの見物。

 

「ヒロシ君、大丈夫なのですか? 時間の方は。これからフェイトと会うのでしょう。私としても彼女を引き付けてもらえると助かります」

 

 この戦いの途中で俺とメトロンはフェイトに会うことになっている理由は二つ。

 一つ目はメトロンが、フェイトに関して興味深い情報が入ったから。二つ目はメフィラスが言うにはこのゲームに勝つためにはフェイトの存在をコントロールしておきたいとも言っていた。確かに、全員が信用できる位置にフェイトがいるし。この場にフェイトがいたらアリサとすずかに、真実話して正気に戻って終わりだ。

 それでも決死の戦闘が行われている裏で遊ぶのは流石に気が引ける。

 

 スマホで時間を確認した。

 待ち受けは温泉旅館で撮った集合写真にしている。今亡きデスレムとグローザムもばっちり映ってた。待ち合わせの時間にはもう少し余裕がある。

 

「んじゃ、ドラコとテレスドン貸しておくけどちゃんと返せよ。今回はバキシムとドラゴリーも同行するから大丈夫だけど」

「ええ、感謝しています」

「あ、それとは別にテレスドンとドラコには、このゲームがメフィラスの負けになった場合は、なのは達の味方をしてでも連れ戻せって言ってあるから」

 

 誰も殺させるなよ、お前を含めてな。俺はもう一度釘を刺してから出発する。

 俺の目的は怪獣の楽園作るためだ。そこにはテレスドンもドラコも必要だし、メフィラス星人もいて欲しい。

 だから誰かを犠牲にしてまでもこの楽園を完成させようとはしたくない。デスレムとグローザムが倒されてから強くそう思っている。本来ならこの二人も招待してあげたかった。

 あの時は怪獣は死ぬものだと思っていたからフェイトにアドバイスをしたけど、倒されてからどれだけ大切にしていたかよく分かった。

 

「やりすぎるなよ。まったく、どうしてここまで悪質なことを思いつくんだろ」

「ええ。私はメフィラス星人。あなたの理想とイメージから生み出された宇宙人です。あなたの思うまま、望むままに邪悪ですよ。それでは」

 

 メフィラスの意味深な言葉を背中に受けて、俺は待ち合わせ場所に向かった。俺のスマホにはなのはと戦う二人の少女の姿が映っている。

 

 

 

 浩が出かけて、メフィラスがテレビ画面に視線を戻すとユーノとクロノが映っていた。

 二人のいる平原はなのはのいた平原と形はそっくりだが、空の色が紫色で草の色は真っ赤だった。不気味な異世界の中で男子二人は警戒しながらもなのはを探している。

 

「なのはーっ」

「だめだ、念話も通じない」

 

 ユーノとクロノは思いつく限り、なのはとコンタクトを取ったが何の反応も無い。さらに、アースラにも呼び掛けてみたが一切返事は無かった。平原には風も吹かず、鳥や動物の声も聞こえない。ハエのような虫すらいなかった。

 

「ここは一体どこなんだ? クロノ、何かわかる」

「僕たちの知っている世界じゃない。とすると、敵に閉じ込められたと考えるのが妥当か」

 

 男子二人が周囲を見渡しても動く者は彼らしかいない。クロノもデバイスで生命反応を探してはいるが、効果は薄い。

 当てもなく、フヨフヨと飛んでいるが事態は変化しなかった。それでもユーノが目を凝らしてなのはを探していると、地面の土が盛り上がっていることに気づいた。

 

「クロノ、あの場所土が盛り上がっているけど」

「確かに、ここには何かあるかもしれない、行ってみるか」

 

 草原に降り立って、盛り上がった地面に近づくとクロノのデバイスが生命反応を示した。

 この不思議な空間にも自分たち以外に生物がいると分かり、反応を頼りにクロノがバインドを使った。魔法でネットを作り出し、大地に放って待つこと数秒。砂ぼこりを巻き上げて現れたのは、身長が2メートルほどある茶色い地底怪獣だった。

 

「敵か」

 

 クロノが短く叫んだ。茶色い怪獣はユーノ達に見つかったと分かると、そのまま戦闘態勢に入る。雄たけびを上げ、二人目掛けて口から火炎放射を放った。ユーノ達が空に逃げて距離をとる。

 ユーノは余裕が生まれたことで茶色の怪獣を観察する。ツルツルとした堅い皮膚に太い尻尾、平べったい大きな口は先端にいくほど尖っている。腕には何やら機械が巻き付いていた。

 

「クロノ、あの怪獣の腕についた機械が分かるかい?」

「……あれか」

「この怪獣が僕たち以外にこの空間にいた生物だ。そして腕にある機械、この不思議な場所と関係あると思う」

「つまり、あの怪獣を倒す。もしくは怪獣の腕の機械を破壊すれば元に戻る。と」

 

 クロノ言葉にユーノが肯定を示す。何らかのヒントが隠されていると踏んで怪獣を攻撃しようとした時、クロノを背後から襲うものがあった。襲われる瞬間にクロノがとっさにデバイスでバリアを張る。青色の障壁には二つのカマが食い込んでいた。

 

「もう一体か、ユーノ。どうやらコイツは茶色の怪獣をかばったみたいだな。それだけ大切だということだ、君の勘は当たっているぞ」

 

 クロノは歯を食いしばって攻撃に耐え、その隙にカマの持ち主を見た。

 全身灰色の身体に短い尻尾、背中には透明の羽が生えていた。凶悪そうな顔には額から一本、角が生えている。

 怪獣は両腕のカマに力をこめて、クロノのバリアを引き裂いた。クロノが距離をとる、こちらの怪獣には機械が付いていない。

 

「ユーノ、何だっていい。僕がコイツを抑えておくから、茶色い方の機械を破壊してくれ」

「分かった」

 

 ユーノが飛ぶ。地底怪獣は炎を吐いて迎え撃つ。

 バリアを張って、身体をひねって火炎放射を避けるが、怪獣の放つ炎は精度、威力共にユーノの予想をはるかに超えていて、左腕を掠った。バランスを崩して落ちていく。それでもユーノは臆することなく、身体を重力に任せて右手に魔力を溜めた。

 

「でえやああ」

 

 恐怖を振り払って怪獣の腕をぶん殴った。目標の機械がバラバラに砕け散って、地底怪獣がやってしまったとばかりに頭を抱える。凶悪そうな顔に似合わず、コミカルな一面を見せた。

 怪獣の腕に巻かれていた機械は、ユーノの予測通り、この空間を維持する装置だった。さっきまで紫色だった空がきれいな青に塗りつぶされた。

 

「よし、元に戻った。ナイスだ、ユーノ! きっとなのはが近くにいる。嫌な予感がする、ここは僕に任せて君はなのはを助けに行ってくれっ!」

 

 分かった! ユーノは叫ぶ。二体の怪獣の相手をクロノに任せて、ユーノはなのはを探しに飛び立った。

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