夢を見た。
俺は学校で授業を受けていた。教科は算数、黒板には速さの問題が書かれている。デスレムと一緒に解いた問題だった。俺が指名されて問題と解いていく。どれもこれも簡単で、計算式はもちろん。分速から時速、時速から秒速までも完璧に解けた。女性の先生が黒板の問題すべてに丸を付ける。
「はい、さすがヒロシ君ですね。百点満点です。みんなもヒロシ君を見習って勉強を頑張りましょう」
クラス内で拍手が起こった。嬉しくなどない。
この拍手はいつになったら止むのだろうか、俺がそんなことを考えているとクラスメイトの一人が手を挙げる。ソイツの顔は分からないし、声も聞いたことがない。だけど、言葉ははっきりと聞こえた。
「ヒロシ君がこの年になってもウルトラマンなんかを見ているそうです。それもマネしていいですか」
「それは止めましょう」
今度はクラス中で笑いが起こった。俺は俯き、黙って机の上を見つめる。ノートには俺のオリジナル怪獣が描かれていた。そいつの目は赤鉛筆で塗りつぶされていて、オレンジ色の光線を吐いていた。
怪獣の赤い目を見ていたら先生がノートを取り上げる。
「こんなのを書いているからダメなんですよ」
俺の目の前でノートを破り捨てた。
先生は紙くずとなったノートを乱雑につき返し、スタスタと黒板に戻っていく。クラスメイトの笑い声が一段と大きくなった。
どうしてこんな事をするんだろう。どうして怪獣を好きになってはいけないんだろう。ポケモンの鉛筆を持ったまま笑っている友達を見て、俺は怒りを覚えた。
「ヒロシ君、ヒロシ君。悔しくは無いのですか」
筆箱の中から声が聞こえる。
俺はすぐさまチャックを開いて中を確認すると、小さな怪獣消しゴムで埋め尽くされている。普段の俺の筆箱の中に怪獣消しゴムは入っていない。それはこれが夢だからだろう。だからこそ、筆箱の別のチャックにメフィラス星人がいても驚かなかった。
「ほら、ランドセルの中を見てください。あなたの望むものが入っていますよ」
メフィラス星人に言われるがまま、俺はすぐさま立ち上がって教室の後ろにあるロッカーからランドセルを引っ張り出す。クラスメイトの笑う中、開いてみると『赤い球』が転がって、俺の膝の上に落ちた。
すぐさま俺は『赤い球』掲げた。
「こいつらを怪獣にしろ!」
真っ赤な光を放ち、クラスメイトの姿が変わる。
教壇にはデスレムが立ち、ベムスター、メトロン星人、グローザム、バキシムといった怪獣や超獣が椅子の上に座っている。気分がいい。
黒板には俺がノートに描いてたオリジナルのドラゴン怪獣と身体の半分くらいの大きさのカマを持った怪獣、尻尾の付け根まで口が裂けた大あごの怪獣が描かれていた。
俺はウルトラシリーズを全話見てきたが、この三体の怪獣はテレビで見たことがない。だけど、どこか不思議とこの三体を知っていた。ビームを吐くこと、空を飛んで光弾を放つこと、突進が武器で泳ぎが得意なこと。
名前の知らない二体の怪獣、俺の頭の中で二つの単語がよぎった。
「スキュラ、バジリスク」
バジリスクはヘビの怪物だった。後程ニワトリと合体してコカトリスとかいう怪物になるとかならないとか。スキュラは神話に登場する上半身が女性、腹に犬、下半身が魚の怪物だ。
ウルトラマンと全く関係のない怪物がなぜ……。黒板の三大怪獣の目が赤く光ると、俺は目を開いた。
目が覚めると、俺はフェイトと目が合った。
フェイトは四つん這いになって俺に覆いかぶさっている。手は俺の肩を掴んでいることからゆすり起こしていたのだろう。ボーっとしたままフェイトを見つめていると、彼女の顔がだんだんと赤くなっていく。
「あの、えっと、ヒロシ君。そんなつもりじゃないから、起こしに来ただけだから」
フェイトはベッドの上で飛びはねて正座したかと思うと、慌てて床に降りようとする。しかし、俺の掛布団に足を取られて転げ落ち、床に激突した。
「大丈夫かよ」
「あーうー、平気。平気だから見ないで」
ぶつけた所を手でさすりながらそっぽを向いた。長い髪は二つに束ねられていて、赤くなっている耳が見える。ぶつけた場所は頬だったはずなのに。
フェイトはいつもの黒いワンピースに着替えていた。部屋着は大きめの白シャツみたいな、もっとラフな格好をしていた記憶がある。どこかに行くのだろうか。
「なんで起こしに来たのさ」
「……母さんが呼んでて、メトロンさんにヒロシを起こしてやってくれって言われた」
「メトロン何してた」
「忙しいって。……ココアシガレット咥えてたけど」
「アイツぶん殴っていいぞ」
禁煙なのは評価したいが、この一件とは関係ない。フェイトがベッドから落ちた痛みを思い知ればいい。
「分かった。すぐ行く」
俺はフェイトを先に行かせて、身支度に入る。
この部屋は地球から時空管理局に追われて『時の庭園』に逃げてきたときに、プレシアから貸し与えられたものだ。俺の衣服や勉強道具など、娯楽を除いた俺のものが置いてある。地球にいた俺の部屋から娯楽を除いたもの全てがあると言っていい。怪獣グッズは別の部屋に並んである。
俺はタンスの中から黒いトレーナーとベージュのパンツに着替えて『赤い球』を持って、プレシアのいる玉座に向かった。
廊下を歩きながら今、俺が置かれている立場を確認する。
過去からリニスを釣れて返ってきた俺たち。出迎えてくれたのは驚きで言葉を失ったプレシアと、軽快に笑っているメトロンだった。さらにメフィラス星人までもが帰還。ゲームの結果は……ドラコとテレスドンの表情で察した。
現状、リニスを含めたフェイト家と俺、メトロン、メフィラスといういつものメンバーがそろっている。プレシアは病気を持っていたが、宇宙人二人が英知を結集させて作った薬品により、完治はしないものの以前よりは容態がよくなっている。結果、リニスとプレシアは契約をし、晴れてリニスが使い魔になった。
この過去からリニスを連れて来たことで、プレシアは俺たちが有能だと認めた。結果、俺たちは『時の庭園』に住まわせてもらっている。
ジュエルシード集めは継続中だが、管理局側の網をかいくぐりながら捜索しているのでペースも効率も酷いものだった。その度にプレシアが追い詰められているような気がするが、気のせいだと思う。
一方でジュエルシードが集められそうにない時は、『時の庭園』に待機してフェイトとアルフはリニスと仲良く遊んでいる。俺はプレシアから部屋を一つ貰って、怪獣のソフビなどを自宅から移動させてアジトを作った。二人の宇宙人と一緒にいそいそと対管理局用の怪獣軍団を創作中だ。
そんな感じなので、今回はジュエルシードがらみで協力して欲しいのだと見当をつけた。
俺がプレシアの玉座に着くと、フェイトをはじめリニス、アルフといったテスタロッサ家と、メトロン星人とメフィラス星人というメンバーが雁首揃えて待っていた。悪の組織の作戦会議みたいな雰囲気で佇んでいる。俺の姿を見るなりプレシアが口を開く。
「これで全員ね。さて、本題だけど、私の探している『ジュエルシード』が見つかったわ、それも六つも。場所は海鳴市の海。個数的にも時空管理局は確保したいはず。フェイトに回収させてもいいのだけど、どこぞの宇宙人さんのせいで敵が増えてしまったから数の差で負けるわ。そこで、ヒロシたちも手伝いなさい」
隣でメフィラスが邪悪なオーラを放っている。プレシアの言いたいことも分かるけど、もっと穏便に物事を済ませられないのか。
プレシアは言いたいことを言ったのか、この場を去ろうとする。どこぞの宇宙人さんが反撃に出た。
「おや、呼び出しておいて、言いたいことを言ってお帰りですか。本当に欲しいのならば作戦の一つや二つ提案から去ってもよいとは思いませんか? 自分は何もしないで失敗したら怒る、成功したら喜ぶ。実に簡単な仕事ですねえ」
「お生憎様、私は怪獣の事をよく知らないもので。あなた達が考えた方が怪獣の力を引き出せると思ったのよ」
「……役立たずが」
「そのセリフ、そのまま返してあげる」
黒づくめ二人の険悪な空気にフェイトがオロオロしていた。見かねたリニスがプレシアをなだめ、俺がメフィラスを止めた。事無きを得たが、協力する以上は仲良くしてほしい。メトロン星人はココアシガレットを食べていた。こいつはこいつで平常運転だったのである意味安心した。
プレシアが去って、残された俺たちは作戦会議に入った。
リニスが現状を整理する。
「六つともジュエルシードは海鳴市の海中にあって、その場所はかたまっています。六つとも休眠状態なので、被害はありません」
「問題は時空管理局ですか。彼らの戦力は、クロノ、なのは、ユーノ、アリサ、すずか。以上五名が主戦力として考えるべきです。さらに時空管理局のサポートがあると予想できます」
メフィラスが敵戦力を洗い出し、それを受けてメトロンが発言した。
「こっちはフェイト、アルフ、リニス、メフィラスかな~。でもメフィラスは私とサポートに回って欲しいから抜いて三人。少年、活躍できそうな怪獣いる?」
「もちろん。ブラックギラスとレッドギラス、キングジョー、それとギマイラ。あとはドラゴリー貸してくんない? バキシムはいつも通り異次元からサポートで。エアロヴァイパーもつけておくから、積乱雲の中に隠れててよ」
オッケーと軽い返事を返す極彩色の宇宙人。フェイトは聞きなれない怪獣たちの名前に首を傾げている。
「ヒロシ、その怪獣たちでどうやって戦うの? あとはイゴマスやピグモンはいない?」
「イゴマスとピグモン? なんで、イゴマスはともかくピグモンは戦力外じゃない」
「そっか」
フェイトはそれだけ言って、しょぼくれた。イゴマスとピグモンが好きなのかな。今度機会があったらイゴマスなら作ってもいいかもしれない。ピグモンは……ドラコと喧嘩しそうだから却下。
気を取り直して俺は作戦を説明する。
「基本的に管理局と戦うのはフェイト達。キングジョーはサポート、主に壁役になってもらう。分離できるから機動力もあるし」
宇宙ロボット、キングジョー。
ウルトラセブンに初登場したロボット怪獣だ。ペダン星人が造り上げたスーパーロボットで怪力と破壊光線が武器。宇宙合金で作られた金色の身体は、セブンの光線やアイスラッガーにも耐え、四つに分離できる。機動力、パワー、防御力に優れた強豪怪獣だ。
今回は分離した状態で破壊光線によるフェイト達のサポート。合体した防御力を生かして、なのはのディバインバスターを防ぐ壁役。この二つで活躍できると思ってる。
「ブラックギラスとレッドギラスはジュエルシードが暴走したときに戦ってもらうのと、管理局と戦うときの攻撃の要になれると思う」
双子怪獣ブラックギラス。双子怪獣レッドギラス。
この二体はウルトラマンレオの第一話に登場し、マグマ星人と一緒に暴れてセブンの足を折ったほどの実力者だ。
二匹ともティラノサウルスを直立させて、腕を太くし、背中にゴジラのような背ビレをつけたような見た目をしている。最大の特徴は頭部と背中に一本ずつ大きな角が生えている。名前の通り、赤い方が弟のレッドギラス、黒い方が兄のブラックギラス。
武器は頭の角から放つレーザー光線と、二体が正面から組み合って回転し、竜巻を起こす『ギラススピン』だ。
今回は海中に潜んでおいて、フェイト達がピンチになった時や優勢なタイミングで、ギラススピンによる竜巻攻撃を使い戦況をひっくり返してもらおうと思っている。またジュエルシードが暴走したときも、この二匹なら止めに入れると思った。
「ドラゴリーは数合わせ的な意味合いも強いけど、ロケット弾で攻撃できそうだから。あと俺の護衛が欲しい。ドラコとテレスドンは休憩を入れたい」
もうバレているかもしれないが、俺とメトロン、フェイト達はメフィラス星人と対立していることになっている。第三者が見て理想は俺とメトロンVSメフィラス星人VS時空管理局という構図だ。
ドラコとテレスドンは以前にメフィラスに貸してしまったため、俺が二匹を召喚すると、この構図が崩れることになる。時空管理局には敵勢力が多いと思わせておきたい。
最後の一匹についてリニスが訊ねた。
「ヒロシ君、じゃあギマイラという怪獣は何をするのでしょうか?」
吸血怪獣ギマイラ。
ウルトラマン80に登場した怪獣の中でも一、二を争うほどの強さを持つ。
直立二足歩行、全身棘だらけ、黒色。怪獣らしい怪獣だ。
休憩中に80と戦って万全の状態ではないのにかかわらず、格闘戦で80を圧倒。触手のような舌からは電撃を放ち、全身から放つガスは吸い込んだ人間の思考力を低下させて操るほか、ビルや戦闘機などの無機物にも効果がある。
これだけでも強力だが、頭部から生えた黄色い角は、突き刺してゼロ距離から光線を浴びせる、怪光線を放って対象を怪獣にさせて自由に操ってしまうという恐ろしいもの。テレビでも人間をラブラスという怪獣に、タコをダロンという怪獣に変えた。
また、この二匹と80を戦わせて自分は見物しているなど狡賢い。
こいつは毒ヘビをバキシムに捕まえてきてもらい、それとギマイラのソフビを掛け合わせて創った。
「ギマイラが今回の切り札。霧を出して時空管理局の通信の妨害や、怪獣化光線でこっちの味方を増やしてもらう。こいつは俺と一緒に最初から最後まで隠れているつもり。ああ、それとギマイラの霧に抵抗できる成分を『赤い球』に願ってカプセルにしてもらったから、これ飲んで。」
対ギマイラ用のカプセルを俺たちは飲み込んだ。飲み薬の錠剤ほどの大きさだったので、飲みやすかった。本来、ギマイラの霧や怪獣化光線を無効化することはできないが、チートアイテムの『赤い球』によってそれが可能になった。デバイスには影響が出ないようにあらかじめ設定されている。
「肝心な作戦だけど……」
戦力が出そろったところで、俺は今回協力してくれる怪獣たちを呼び出し、具体的な作戦を決めた。
手始めにメトロン星人とエアロヴァイパーが地球に飛来。エネルギー積乱雲を作って、そこと地球を異次元で繋ぐ。あらかじめ異次元で待機していた俺とギマイラがジュエルシードの眠る海に潜んで、ギマイラが霧を放つ。
ギマイラの霧が電子機器に影響を与えるようになったらフェイトたちがジュエルシードを回収する。以上、管理局に会わなければ戦闘は無し。もちろん、ピンチになれば助けるつもりだ。
「……こうした方がいいと思います」
リニスがさらに案を出し、みんなで練っていく。怪獣たちも各々特徴的なリアクションで会議に参加してくれた。怪獣たちとフェイト、なのはは戦ってきたため、今回初めて協力することに少し感動だ。リニスの救出劇はフェイトとリニスがオオカミの群れを瞬殺したし。
フェイトは俺たちに向き合うと丁寧にお辞儀をしてくれた。
「ヒロシ、あと怪獣の皆さん。よろしくお願いします」
「うん、やっぱりいい子だ。ヒロシ少年、嫁にするならフェイトぉぅおおぁ、痛い」
いつものごとく恋バナに繋げようとするメトロンをどつく。人間の、それも小学生の俺のパンチじゃ痛くないだろうに。
過去最大規模の作戦を立てて、俺たちは地球に乗り込むことにした。