第97管理外世界の赤い球   作:破壊光線

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霧の怪獣魔境

 アリサとすずかは地上に転送された。靴からコンクリートの感触が伝わってくる。地上は晴れているが、目の前の海は霧に包まれている。普段なら曇りでも晴れでも見れる水平線ですら、濃霧の影響で目を凝らしても見えなかった。アリサがスマホのライトで照らしてみても視界は悪く、変身して魔法にとよることにした。

 アリサとすずかの役割はこの霧の発生源を突き止めることだ。霧を放つ怪獣の候補はサドラやマグニア、ギマイラとどれも地上でウルトラ戦士と戦ってきた。二人は地上に潜んでいると考え、霧を出していそうな陸地を探すことにした。

 

「あ、生命反応がある」

「どこよ……ふーん、近いじゃん、行ってみましょ」

 

 すずかがサーチ魔法を使うとすぐに反応が現れた。場所は霧に包まれている方角とは異なるが、距離的には離れていないため向かうことにした。

 警戒しながらも目的地にたどり着くと、そこには怪獣でも何でもなく犬が倒れていた。犬種はシベリアンハスキー、毛並みは白と黒首で輪は無い。大人なのかアリサと同じくらい大きかった。ハスキーは怪我をしているようで力なく横たわり、そのわき腹から血が流れて犬の周りには血だまりができていた。さらに犬のいる地点から点々と地面に赤い模様が続き、別の場所でケガをしてここまで来たことが分かる。

 

「すずか、ごめん、ちょっと寄り道するね」

「うん」

 

 アリサの家は豪邸で犬を飼っている。その数は一匹二匹のレベルではない、二桁以上にもなる。すずかを大の猫好きだと言うのなら、アリサは大の犬好きだ。そんなアリサが目の前にいる怪我した犬を放っておけるわけないのだ。

 アリサは身の丈ほどのハスキーに臆することなく近寄って、優しく頭を撫でた。

 

「よく我慢したね、痛かったね。でももう大丈夫だから安心して私たちに任せなさい」

 

 ハスキーも安心したのか目を瞑って、怪我をした個所を見せた。傷口は自動車に轢かれて出来たものではなく、鋭い刃物のようなもので切り裂かれたものだった。それが三つ、縦に並んでいた。

 信頼を勝ち取ったまではいいが、二人とも肝心な応急処置セットを持っていなかったため、これも魔法で何とかした。緑色の光が優しく傷口に当たり、三本の傷がみるみるうちに治っていく。ものの二十秒ほどで傷口は完全に塞がった。

 ハスキーは元気になったと言わんばかりにアリサに向かって、ワンと吠える。完治したとアリサが微笑むと、すずかの目つきが鋭くなった。ハスキーも歯をむき出して唸り、威嚇した。

 

「来る、上から!」

 

 すずかが叫んだ。アリサが上を向くと、濃霧を引き裂いて飛行する影が一つ。

 翼竜のような顔、身体は赤く、額には二本の角が生えていた。両足は太く、こいつが翼竜ではないことを物語っている。腕は翼と一体化し、その爪は四本で人間のように親指と他三本の指に分かれていた。もし、この腕で切り裂いたら傷口は三つだろう。それはあのハスキーのわき腹にある傷口の数と一致していた。

 怪獣は犬に向かって一直線に突っ込んできた。すずかがとっさに氷で壁を作り、攻撃を防いだ。

二人と一匹は怪獣から距離をとる。それでも怪獣はハスキーに狙いを定めて火球を放った。

 

「ラドンね、どうしてこの子を狙うのよ! 許さないんだから」

 

 アリサが叫んだ。実際はエアロヴァイパーという名前で全く違うのだが。エアロヴァイパーは名前を間違えられ、怒ったのか火球を放った。

 降りそそぐ火球に怯みもせず、アリサは扇状のデバイスを振り回すと、ハスキーの仇をとるべく火球、デスレムインフェルノを召喚。さらにすずかも加わって炎と冷気のダブルパンチだ。

 エアロヴァイパーの甲殻がいくら堅くても、暗黒四天王を元にした火球を冷気。熱したところを冷やされ、温度差による変化も加わり大ダメージとなった。

 怪獣は予想外の攻撃を恐れて、上空に飛び立った。すずかとアリサも飛び立ち、エアロヴァイパーを逃がすまいと意気込んでいる。怪獣は不利を悟ったのか額の二本の角を光らせると、空間に穴を作りその中に逃げ込んでしまった。

 

「くっそー、あとちょっとだったのに」

「……でもなんで、ワンちゃんを狙ったんだろう」

 

 すずかが首を傾げる。逃げた怪獣を探してアリサが当たりを見渡しても、霧が濃くて何も見えない。デバイスを使って周囲を調べてみると、なのはとフェイトの魔力反応があった。フェイトの周りに四つの飛行物体が飛んでいることも分かる。

 すずかが一点を見つめていた。その方向はなのはの魔力反応があった場所だ。アリサが普段のおっとりとした親友の見せる意外な一面に見とれていると、彼女は口を動かして念話を使っているようだ。しばらくしてから、ふう。と一息ついて。

 

「もう大丈夫だと思う。霧の怪獣を探しに行こ」

 

 すずかに促されるままアリサは地上に降りる。ハスキーは尻尾を振りながら待っていた。

 

 

 

 アリサはハスキーに懐かれたようで、何処へ行こうとしても二人の後を付いてくる。仕方ないので、二人はハスキーを連れて霧を生み出す怪獣を探しに行くことにした。

 土地勘を頼りに人が隠れていそうな場所を探していると、突如としてハスキーが霧の海を見たまま吠えた。一心不乱に吠える姿を見て、アリサは何事かと自分のデバイスをハスキーの視線の先に向けた。

 デスローグなる扇形のデバイスは、はじめこそ何の反応も示さなかったが、しばらくして赤く光りだした。デスローグの光はすずかのデバイス、グロッケンにも伝わり青く輝き始めた。二つの光が霧の海を照らすと、さっきまでライトを通さなかった霧に一筋の光の道ができた。すずかとアリサは顔を見合わせる。ハスキーは二人の少女を見つめて訴えかけている。

 

「あの先に何かあるってことでいいよね」

「きっとこの霧を生み出した怪獣がいるのよ」

 

 アリサとすずかが飛び立とうとしたとき、ハスキーがアリサの足に飛びついた。

 バランスを崩してアリサが墜落、頭を撫でながら起き上がる。

 

「いったたた……何よお、いきなり飛びついて。……え、アンタもついてきたいの?」

 

 ハスキーは尻尾を振ってお座りしている。それからワンとだけ吠えた。仕方ないので、アリサとすずかは二人でハスキーを抱きかかえて、光の道を進んでいった。

 霧の海を進んでいくと、すぐに小さな島が見えた。島といっても木や草などの植物も建物のような人工物も無い。ただの平地で、大きさはサッカーグラウンド二つ分くらいのものだった。二人と一匹がおりて探索を始める。

 

「何よこの島、何にもないじゃない」

「あの光はなんだったんだろうね」

 

 不満と疑問を口にしながら島を調べていくと、中心に黄色い突起物があった。大きさも形も色もバナナに近い。逆にそれしかこの島には無いので、アリサは引き抜こうと全身に力をこめた。押しても引いても引っ張てもビクともしない。すずかと協力しても変わらない。

 

「なんなのよコレ!」

 

 ガシッ、しびれを切らしてアリサが蹴とばした。

 これが原因か、島全体がぐらぐら揺れると、バナナのような突起物が地面に消えていく。アリサとすずかが上空に逃げると、ハスキーは地面に対して吠えている。

 土砂が舞い上がり、煙が噴き出して、怪物の鳴き声が上がると、地中から全身に棘の生えた黒色の怪獣が姿を現した。黒い棘、顔は青く、目はねじ曲がって悪人のようだ。お腹の部分は棘が生えてないが、代わりに灰色の甲殻で覆われていた。そして特徴的だったのが。

 

「あのバナナ! やっぱり怪獣の角だったんだわ」

 

 アリサの指摘のとおり、怪獣の鼻先に生えていた角。あれは島に生えていた突起物だった。すずかは怪獣の見た目から名前を思い出す。

 

「ええっと、ギマイラ。吸血怪獣ギマイラ!」

「ご名答」

 

 男の子の声がしたかと思うとギマイラの隣の空間が窓ガラスのように割れ、赤い世界の中から少年が現れた。

 

「……デスレムとグローザムか」

 

 少年は恨めしそうに二つのデバイスを見つめると『赤い球』を取り出した。デスローグ、グロッケン、『赤い球』。三つのアイテムが同時に強い光を放った。霧の中で赤く輝き、光の道を作ったのはこの『赤い球』だろう。

 

「あんたがヒロシっていうやつ?」

「そうだけど……君たち、だれ?」

 

 少年は浩であると認め、これで『赤い球』の所有者が確定した。正体がバレたのにもかかわらず、浩はギマイラの隣に立ち、棘の生えた球を撫でている。

 すずかは自分たちよりも幾分か大きい浩に怯えつつも一歩前に踏み出した。

 

「その球を渡してくれない?」

「い・や・だ。君たちにはこの球の素晴らしさが分からないのかい? 願うだけで何でも叶えてくれる。この球さえあればドラえもんなんて必要ない。新作のゲームも、高級なすしも、お金だって。そしてテレビに出てくる怪獣も。みんなみんな叶えてくれる! 君たちの願い事も叶えてやろうか」

 

 浩は悪霊にとりつかれたように笑った。

 霧に包まれた島の中、暴風と雷が強くなる。ここが相手の本拠地だと裏付ける。アリサが不気味な少年とギマイラに怯み、一歩下がるとハスキーと目が合った。

 大好きな犬のためにここで引くわけにはいかない。アリサは息を飲んで口を開いた。

 

「か、怪獣なんてくだらないものを願ってないでもっとマシなことに使いなさいよ」

 

 その一言、たった一言で浩の目つきが変わった。目の下にくまができ、『赤い球』が強く輝いた。

 

「ギマイラ、やれ」

 

 ただそれだけ言うと、ギマイラを仕向ける。太い腕を振り回し、黄色い角を光らせて吸血怪獣が迫ってくる。

 さらに、キーンと空気を切り裂くような音と共に、飛来する物体が一つ。その正体が分かったのか、浩が呟いた。

 

「エアロヴァイパー、何しに来たんだ」

 

 先程ハスキーを襲った怪獣が飛来、翼を広げてハスキーに襲い掛かった。ハスキーは無理に戦おうとせずに距離をとり、アリサたちの負担を減らそうと引き付けてくれた。それでもサッカーグラウンド二つ分の島ゆえ、大した距離は稼げていないが。

 浩にとってもエアロヴァイパーの乱入は想定外だったようで、眉間にしわを寄せているが、特に問題がないのか放置。

 

「いくよ、すずか」

「うん」

 

 二人の少女はギマイラと戦うべくデバイスを構え、エアロヴァイパーを撃退。火球と冷気の温度差コンボをぶつける。ギマイラは角からビームを放ち、複雑な軌道を描きながらアリサの火球を破壊した。それでもすずかの冷気までは止められず直撃する。しかし単体での威力は低いようで、たいして効いている様子はない。

 逆に口から長い舌を出して、拘束せんとばかりに襲い掛かった。木の根のような長い舌は、氷の剣で切られても次から次へと襲い掛かった。そして、ついにすずかを捉えた。

 ニヤリとギマイラの目が歪むと、舌から強い電流が流れた。悲鳴を上げ、苦しむすずか。がっしりと舌に巻かれて身動きが取れない。

 

「デスローグ!」

 

 苦しむ親友を助けるべく、アリサが扇を振り下ろした。数個の火球が同時にギマイラに突っ込んで、大爆発を起こす。

 不意の一撃に怯んで舌をひっこめ、すずかの拘束が解けた。しかし、すずかは電撃のダメージがよほどのものだったらしく、地面に倒れて、息を切らしていた。身体を起こしていることから正気は保っているようだが、回復するまではもう少し時間がかかるだろう。

 浩はチャンスだと踏んで、指を鳴らした。

 

「今だ、ドラゴリー」

 

 一瞬にしてアリサの後ろの空間が割れ、蛾超獣ドラゴリーが出現。自慢の怪力でアリサを羽交い絞めにする。

 アリサが必死に足をばたつかせるが、拘束は解けない。すずかは立ち上がれない。ギマイラは勝ったとばかりにゆっくりと近づいてくる。

 

「ギマイラはな、その鼻の上の角で生物を怪獣にできる能力があるんだ。それを使って、お前たちをデスレムとグローザムに戻してやる! 行け、ギマイラ」

 

 死刑宣告のような浩のセリフ。

 ギマイラの角が怪しく光りだした。あの角がアリサに突き刺されば最後、デスレムに変えられて、また親友のなのはと戦うことになる。それだけは避けたい。アリサはさっきよりも手足をバタつかせて暴れるが、ドラゴリーは怪獣を引き裂いたこともある。超獣の怪力の前には少女の抵抗など無力だった。

 

「い、いや。止めて! 助けて」

 

 アリサの髪にギマイラの角が触れる。突き刺そうと上体を起こし、角が振り下ろされた。その刹那。

 

「ハスキー!」

 

 シベリアンハスキーがアリサとギマイラの間に割って入る。怪獣の角はアリサじゃなくて、犬に突き刺さりそのままエネルギーが注入される。ハスキーはまばゆい光を放って、その姿が変わっていく。予想外の結果にドラゴリーの力が緩んだ。一瞬の隙をついて、アリサが抜け出した。

 

「デスローグ!」

 

 ドラゴリーと作業中のギマイラに火球が直撃、火花を放って二体を吹き飛ばした。

 しかし、後の祭り。ハスキーは耳が羽のようなものに変わり、頭から二本の角が生える。白と黒のふさふさした毛は、灰色の堅い甲殻になった。太い脚、太いツメ、口から延びる二本の牙。

 新しい怪獣を見て浩が叫んだ。

 

「地殻怪地底獣ティグリス」

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