第97管理外世界の赤い球   作:破壊光線

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 唐突なネタバレごめんなさい。


さらば ギマイラ

 地殻怪地底獣ティグリス

 ティグリスはエアロヴァイパーと同じウルトラマンガイアに登場した怪獣で、地球の地中に生息している。ビームや光弾などの武器は持たないが、二本の角と突進攻撃でどんな相手にも勇敢に立ち向かっていく怪獣だ。

 ギマイラによってシベリアンハスキーが変えられてしまった。その影響か大きさはハスキーと同じくらいで、テレビに登場した個体よりもだいぶ小さいティグリスになった。なってしまった。違う、俺がそうさせた。

 エアロヴァイパーも合流。ギマイラにドラゴリーと気が付けば俺の怪獣は四体に増えていた。圧倒的に有利な状況に口元が緩んだ。

 

「誤算だがまあいい、こっちの味方が増えたと思えばOKだ。ギマイラ、ティグリスを操って、総攻撃をかけるぞ」

 

 電撃から回復したすずかが立ち上がるものの、四対二。俺たちが圧倒的優位に立っている。

 エアロヴァイパーが飛び立った。ドラゴリーが腕を振って、ギマイラが吠える。ティグリスもそれに反応して吠え、そのまま走っていく。俺がティグリスが仲間になると確信したその瞬間、ギマイラが吹き飛ばされた。ティグリスによって。

 

「なんでだ。ギマイラは怪獣化した生物を自分の配下におけるはず」

 

 ギマイラはその能力で人間とタコを怪獣に変えて操っていた。人間の方は人の心が戻ってウルトラマンの味方になってしまったが。

 状況を飲み込めない俺に対し、ティグリスはアリサとすずかに振り返ると、犬のように吠えた。俺は怪獣と暮らしてきたから何が言いたいのかはなんとなくわかる。

 何をしている、今がチャンスじゃないか。と。

 

「ハスキー?」

 

 アリサがたずねると、ワンとティグリスが鳴いた。嬉しそうに尻尾を振る姿は犬だったからか。ティグリスは嬉しそうにアリサの元に戻ってくる。抱き合う二人の少女と一体の怪獣。どうして怪獣を拒絶したコイツが抱き合っているんだ?

 ギマイラが怪獣にするためにエネルギーを注入していた最中に、アリサによって止められてしまった。十分にエネルギーを注入できなかったため、心は犬のままだったのか。だが、こちらには二体の怪獣と一体の超獣がいる。ティグリスはそこまで強くない怪獣だ。まだ勝負はついていない。

 上空から鳴き声がすると、飛び立ったエアロヴァイパーが襲い掛かった。濃霧に覆われた今ならどこから攻撃が飛んでくるか分からない。この攻撃は当たる。

 

「危ない!」

 

 すずかがティグリスを庇うようにエアロヴァイパーの前に立ちふさがると、氷の剣で受け止めて弾き替えす。さらにティグリスが体当たりで援護し、エアロヴァイパーを後退させた。

 何故だ。何故この霧の中、正確に光弾をさばけるのか。俺はすずかを注視した。彼女はバリアジャケットを着ているが他に特別なことはない。強いてあげるなら目が赤いだけ。……赤い目? たしかすずかの瞳は青系だったはず。すずかが瞳を一度閉じると、虹彩が青色に戻っている。

 

「すずか。お前、もしかして人外か」

 

 俺の言葉にすずかはぎょっと目を見開いた。それで確信した、コイツは人間ではないと。ギマイラが俺に語り掛けたような気がした。

 ―――その通り、ヤツは人間ではない。吸血鬼だ。―――

 

「なるほどな、お前は吸血鬼だったのか。合点がいったよ。ギマイラの霧は人間の視界を奪う役目もある。バリアジャケットや魔法で視力を強化したとしても、空まで離れたエアロヴァイパーを捉えることはできない。だが、それが吸血鬼なら例外ではない。違うかい?」

 

 ギマイラは吸血怪獣の異名を持つ。同じ吸血と付く者同士、惹かれるがあったのだろう。それにしてもすずかが吸血鬼だとは、いいことを知った。

 

「なあ、俺は怪獣と暮らしてるから分かるが、人間の世界は生きにくくないか? その視力を含めて、君が本気を出すことはできない。精一杯生きることすら敵わない。周りに合わせて個性を殺すのは辛くないか?」

 

 人間は自分の都合の悪いもの、気に食わないものを見ると攻撃し、排除しようとする。俺は友達や親に怪獣好きという個性を殺された。すずかは吸血鬼、生まれた時からこの身分は呪いのようにまとわりついているはずだ。怪獣に生まれて来たゆえに殺されていく、コイツらのようにすずかもいずれそうなってしまうだろう。

 

「悪いことは言わない、俺の仲間になれ。グローザムにならなくてもいい、なんならアリサも一緒にどうだ? お前も外人というだけでいじめられたんじゃないか? もちろん、デスレムにもならなくていいぞ」

 

 アリサは衝撃で言葉を失い、すずかはバツが悪いのか顔を伏せている。怪獣たちは静かに待機していた。

 

「そうだよな友達なんかに言えるはずないよな、吸血鬼だなんて。でも安心しろよ。俺たちにとって種族なんかちっぽけなもんだ。一緒にくらそう、俺たちの楽園で」

 

 すずかは動かない。アリサは握りこぶしを作ると、大股ですずかの元へ歩き、胸倉をつかむとそのままビンタした。霧の中に乾いた音が響き渡ると、アリサが叫んだ。

 

「何バカなこと言ってのよ! 吸血鬼? 怪獣? 知ったこっちゃないわよ。怪獣になってもハスキーはハスキーのままだし、アンタが吸血鬼だろうと、何だろうと私となのはと、すずかが過ごした日々は変わらない。私はアンタを友達だと思ってる。アンタはどうなの!?」

「で、でも……私はずっと嘘をついてきたんだよ。友達なのに裏切ったんだよ。……それなのに友達でいてくれるの? 私吸血鬼だよ? 物語に出てくる悪い奴だよ」

 

 頬を赤くしながら目を潤ませる。アリサは泣き出しそうな友達を見下ろして、両手を腰に当てると胸を張った。

 

「バカ言ってんじゃないわ。私だってね、魔法を使えるから魔女よ! アンタと同じ物語に出てくる悪い魔女よ。……まだそんな年じゃないけど」

 

 なんで、こいつら仲良くなっているんだ。怪獣を受け入れ、吸血鬼の友人を受け入れ、なんで抱き合っているの。なんで俺の怪獣は迫害されて、こいつらは許されたのか。

 今朝見た授業中に怪獣を描いて笑われた夢を思い出す。算数で満点をとっても、どんなに運動ができても、俺がどれだけ努力しても受け入れられなかった怪獣。それなのに、それなのにこいつらはなぜ。

 

「どうして、吸血鬼が許されて怪獣が許されない。お前らが正義の味方だからか? マレフィセントやアースラ、魔女は悪じゃなかったのか?」

「アンタが迷惑かけているからでしょ! それに人を怪獣に変えるようなやつと一緒にいたくないわ」

 

 アリサに同意するようにティグリスが吠える。こいつもコイツだ。怪獣のくせして人間の味方しやがって。ガイアのときに地球のために戦っていたがその影響か。だけど、アリサは怪獣を、くだらないと拒絶したんだ。なのにどうしてティグリスは味方をするんだろう。……怪獣って何なんだろう。

 ギラス兄弟の竜巻がグルグルと渦を巻きながら舞っているし、辺りはギマイラの霧がかかっている。青空はエアロヴァイパーの作り出した積乱雲で覆われている。青い空も、青い海も何処にもない。この小さな島は灰色に包まれていた。

 右も左も見えない霧の中で、『赤い球』だけが光りを放っている。俺はモヤモヤした何かを抑えて、光に導かれるままに叫んだ。

 

「ギマイラ、エアロヴァイパー、ドラゴリー。行け!」

 

 それぞれが個性的な雄たけびを上げて突撃していく。アリサとすずかは武器に炎や氷をまとって迎え撃つ。霧をかき消す勢いで爆発が起こった。

 テレビの怪獣は着ぐるみを使っているから表情は基本的に変わらない。だけど、俺の作り出した怪獣は若干違う。作り手が俺だし、ドラゴリーに関しては一緒に生活してきた仲だ、なんとなくだが笑っている気がする。エアロヴァイパーもギマイラも、火花や衝撃の隙間から見える怪獣たちの顔はどこか嬉しそうだった。

 

 単純な力比べ、氷の剣と鋭いツメがぶつかり、火球と火球が相殺し合う。力でゴリ押し、特殊能力で巻き返し、互いをフォローし合って互角の戦いが繰り広げられていた。

 自分たちの力を誇示するように戦って、個性が最大限に生きるこの瞬間は、押しつぶされていた俺の怪獣好きが解放されているような気がした。あの炎に、光線に、爪に、尻尾に、角に、俺は恋していたのかもしれない。

 

 三対三の戦いは拮抗していたが、終わりが訪れる。その合図は桃色の光だった。ベムラーを倒したあの光がギマイラに直撃し、体勢が崩れたところにアリサとすずかの大技が叩き込まれて、決定打となりギマイラが崩れ落ちる。

 

「ギマイラ!」

 

 爆発するギマイラ。元の能力やギマイラという怪獣を考えて、創り上げたのに、一瞬にしていなくなった。

 大好きな怪獣が倒されたはずなのに、一周回って俺は冷静だった。

 

「アリサちゃん、すずかちゃん。大丈夫?」

「なのはちゃん」

「なのは」

 

 なのはだ。アイツがまたしても俺の怪獣を倒しやがった。

 これで四対二、優位だった状況から一変して圧倒的に不利になってしまう。ギラス兄弟を呼んだら数的には互角になるが、それだと目的のジュエルシードの回収が失敗に終わってしまうかもしれない。なのはの相手はフェイトに任せていたはずだが……どうしたんだ。

 

「ヒロシ、大丈夫?」

 

 心配しているとフェイトが降りてきた。バリアジャケットが破れていたり、汚れていたりするが、本人は大丈夫そうで一安心。ジュエルシードとなのはの連戦はやっぱり無理だったか。しかし、キングジョーの姿は何処にもない、倒されたか。

 

「フェイト、キングジョーは?」

「機能停止中。ギマイラの霧が効きすぎたみたい」

 

 管理局の電子機器をどうにかすることに気をとられすぎたか。俺たちはカプセルで、なのは達はバリアジャケットがいくらか軽減できただろうが、キングジョーだけはもろ影響を受けてたか。あのロボットに関しては口がないからな。

 

「ヒロシくんが『赤い球』を持っているなんてビックリしたよ。でもそれは、世界が壊れちゃうほど危険なものだから……渡してもらえるかな」

 

 ソイツの瞳は何処までも真剣で、憎たらしいほどに優しかった。『赤い球』は無言で光を放っている。おそらく別の人の手に渡るのが嫌なんだろう。

 それにしても世界が壊れる、か。それはそれで面白いかもしれない。

 なのはが俺の『赤い球』を求めて近づいてくる。フェイトが武器を構えた。『赤い球』は俺の手元で光り輝いき、ガンガンと脳内に語り掛けてきた。早く奴らを倒せ。と。

 だが、ここで目的を忘れるわけにはいかない。俺たちはなのはを倒すためにここに来たわけではない、ジュエルシードの回収だ。

 

「フェイト、ジュエルシードはどうなった」

「うん、六つのうち四つ回収できたよ。二つは盗られちゃったけど」

 

 六つすべての行方が定まった。これ以上手に入れるには、なのは達を倒すしかない。しかしキングジョーが動けず、ギマイラが倒され、霧が無くなることを考えると、戦いを長引かせるとこちらが不利になる。

 

「撤収!」

 

 ギラス兄弟、エアロヴァイパー、ドラゴリーが同時に大技をばらまき、空を割ってバキシムが退路を作る。俺とフェイト、怪獣たちはなのは達が爆発に怯んでいる隙をついて逃げた。

 

 

 異次元に帰ってくると、メトロン星人が麦茶を用意して待っていた。リニスもアルフも無事で、俺たちはキングジョーを床に寝かせ、メトロンの用意したコップを一つずつ取っていく。怪獣たちの分までも用意してあり、四体とも嬉しそうに飲んでいた。

 皆が一息つく中、俺は麦茶を飲み干して部屋に戻り今日の事を考える。

 

 作戦だとエアロヴァイパーはこの戦いに参加しないはずだった。しかし、アリサとすずかと戦うときに奇襲して、一時は三対二で優位に立てた。でも、ドラゴリーとギマイラのコンビだってアリサを羽交い絞めにし、怪獣化であと一歩のところまで追いつめている。ハスキーとかいう犬さえいなければ、二対二でもどうにかなったと思う。

 思えばエアロヴァイパーは自分がXIGに倒される未来を見て、XIGを攻撃した怪獣だ。とすると、ハスキーがティグリスになって、俺たちの敵になることが分かって急遽かけつけてくれたのか。

 俺は怪獣たちが言うことを聞いてくれつつも自由にやってくれること自体は望んでいる。でもティグリスが俺たちの敵になるとは思わなかった。デスレムもグローザムもメトロンも、アイツらは俺の言うことを聞いているようで自由にやっている。アイツらが何を望んでいるのか俺には分からないが、今日のドラゴリーたちを見る限り、戦いが一番好きなのかな。

 ドラゴリーとは温泉行ったし、エアロヴァイパーとはタイムトラベルしたけど、ギマイラとは何もしていない、何もできなくなってしまった。

 

「アイツの好きなことはなんだったんだろう」

 

お盆の上には空のコップがたくさんと、誰も口を付けていないコップが一つだけ残されていた。


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