ベムラーが吠えていた、俺の目の前で。
目の前のベムラーと俺の手には真っ赤な球が握れている以外おかしいところはない。
夜の街、俺の家の近くで、宇宙の平和を乱す悪魔のような怪獣。そう称されている宇宙怪獣、ベムラー。身長50メートルで体重2万5千トン……とはいえ目の前のベムラーは大人の男性くらいの大きさだ。これには訳がある。青色熱光線が得意技で、青色の球になって宇宙を飛行する怪獣だ。そんな凶悪な怪獣を目の前にして俺は……。
俺の住んでる海鳴市という、この街は名前に海が付くだけあって海が近く、そのくせ山もある。街の中心にはデカいビルが建っているという。なんともまあ贅沢な街だ。山に海と怪獣が暮らして良そうな自然、テレビでぶっ壊されているビル。しかし、それを壊す怪獣がいない。非常に残念だ。今度、円谷プロにでもロケ地として来てくれませんか。と手紙でも出してみるか。
それはともかく、実際は怪獣が現れて破壊されたら困るくらいに、この街にはなんでもあるから驚きだ。
翠屋って言う喫茶店の洋菓子は美味しいし、遠くには温泉旅館もある。犬がたくさん住んでいる豪邸と、猫がたくさん住んでいる豪邸があるとかないとか。そんなドラえもんのような街に俺は住んでいる。
晴れて四年生に進級した俺は塾から帰宅中だった。夜道は暗いが家はすぐ近く、槙原動物病院っていう場所を曲がったすぐそこに俺の家がある。
「ん?」
街頭の光に照らされた動物病院の看板が見えてくる。ここまではいつもと同じだが、看板のすぐ下に赤く光る何かを見つけた。気になって近くまで行ってみると変哲の無い『赤い球』だった。
初めて地球に来たウルトラマンが変身していたときの赤い球をものすごく小さくしたそれは、小学四年生の俺の片手に収まるくらいの大きさだ。あまりにも綺麗だったので手に取って撫でてみると、すべすべして気持ちい。『赤い球』は街頭の光に照らされてピカピカと光を反射させている。俺には何故か喜んでいるように見えた。
持って帰ろうと思いカバンの中に入れようとした時、誰かに呼ばれる感覚がした。
「だれだ」
あたりを見渡しても誰もいない。首を傾げ、『赤い球』を見る。
「願いだって?」
今度は確かに聞こえた。願い事はなんだ。ってはっきりと。
しかし、近くには誰もいない。
無機物な建物と、わずかな地面に生える雑草、それを照らす街頭。そして、俺こと、鹿島浩とこの『赤い球』。
これはもうこの『赤い球』が喋ったようにしか思えない。そうと知ったら怖いもの見たさで願い事を考える。
翠屋のケーキが食べたい。もしくは、今度のテストで百点をとりたい。新作のゲーム?
色んな事を考えては止めてを繰り返す。何だろう、サンタクロースや親にプレゼントをねだるのとは違うこの感覚。初詣や七夕にする叶わない願いとは違う、根拠は無いが願えば確実に叶いそうなこの感じ。だったら願い事は一つ。
俺は歯をむき出しにしてニヤリと笑うと、欲望のままウルトラマンに変身するように『赤い球』を天にかざして言った。
「宇宙怪獣ベムラーを出せ、ベムラァアー」
願いが通じたのか、突如として『赤い球』が、体感100万ワットの輝きを放つと風が吹き荒れた。俺は思わず目を瞑る。光の暴力に耐えてから、おそるおそる瞳を開けた。
鱗のある茶色くて長細い身体、太くて短い脚。両手は小さく、太くて短い尻尾、頭から背中、尻尾にかけて緑色の棘が無数に生えている。そこにいたのは紛れもない。
「ベムラーだ」
ベムラーが吠えていた、俺の目の前で。
目の前のベムラーと俺の手には真っ赤な球が握れている以外おかしいところはない。
夜の街、俺の家の近くで、宇宙の平和を乱す悪魔のような怪獣。そう称されている宇宙怪獣、ベムラー。身長50メートルで体重2万5千トン……とはいえ目の前のベムラーは大人の男性くらいの大きさだ。これには訳がある。青色熱光線が得意技で、青色の球になって宇宙を飛行する怪獣だ。そんな凶悪な怪獣を目の前にして俺は……。
「やった、やった。怪獣だ! 本物のベムラーだ!」
滅茶苦茶、喜んだ。
そう、ベムラーだった。小さいとはいえ宇宙怪獣ベムラー。俺は『赤い球』に怪獣に会いたいと願った。映画のゴジラを観てからの願い事。6年越しという10年近い人生の中での念願がかなった。
50メートルの怪獣をこの街に放って、俺の家が破壊されたら困るので小さくした。ついでにそのままの性格だと登場した瞬間に俺が熱線で焼かれてしまうのは嫌なので、俺の言うことをある程度聞くようにしたつもりだ。
『赤い球』にした願い事は本当に叶った。ご丁寧に身長と体重、性格の変化も聞き入れたうえで。
どうして、ウルトラマンが欲しいって願わない理由? 怪獣の方が好きだからだ。ギリギリまで頑張ってないし。ウルトラマン外野。
「おまえ、スゲーな」
気分を良くした俺は手にした『赤い球』を撫でまわす。表面はツルツルしていて気持ちい。
「ベムラーの足の指って三本だっけ?」
怪獣に関しては誰にも負けないと思っていたけど、イメージだけで創るとなると不安になる。
指先を凝視する俺をベムラーは大人しく様子をうかがっていたが、俺の持っていた『赤い球』見ると何を思ったのか慌てて逃げだした。
「おい、待て! ベムラー、どこに行く」
どうして逃げたんだろう、青い球になりつつあるベムラーを目で追う。もう一度手にした『赤い球』を見て思う。
「こいつをウルトラマンだと勘違いした?」
確かに宇宙怪獣ベムラーはウルトラマンの第一話で青い球になって、赤い球に変身したウルトラマンから逃げて地球に来た。その後、ハヤタ隊員と合体したウルトラマンに倒されるのだが……。
謎に原作基準のベムラーを追った。
結局ベムラーを見失い、海鳴市の住宅をウロウロする俺。元凶となった『赤い球』をカバンの中にしまっているため、次にベムラーを見つけても逃げ出さないと思う。しかし、門限はとっくに過ぎているので、いくら塾に行ってたとはいえ、このまま帰ったら親に叱られるのは確定。いい加減帰らないといけないのだが、小さいとはいえベムラーを放っておいた方がいけないので一生懸命探す。
「ベムラー、ベムラー」
俺が好きなウルトラマンの怪獣とはいえ、キャラの名前を叫びながら街の中を歩き回るのは恥ずかしいもので、クラスメイトにバレればウルトラマン=ダサい。このクソみたいな公式により、新学期にして俺の小学校生活が終わる。
「ああああああ、何処にいるんだよ」
ウルトラマンはベムラーに手錠をかけていたが逃がした。これを聞いた時に俺はウルトラマンをバカにしたが、いざ、ベムラーを創って逃げられると光の巨人の苦労がよく分かる。バカにしていたことを謝りたい。
公園まで来て途方に暮れていると、俺の真上を何かが過ぎ去った。
「女の子!?」
私立聖祥大付属小学校らしき白い服を着た女の子が空を飛んでいた。お嬢様の通う進学校の女の子が空飛んでいる理由は分からないが、ベムラーがいるこの街だから多分大丈夫だろう。
ソイツは手に魔法少女のアニメにありそうな杖をゴツくしたような杖を持っている。アレでビームでも出すのだろうか。暗くてシルエットしか分からないが、髪は二つに結んでいると思う。色は多分白。よく見ればその子と一緒に飛行する黒い物体があった。
黒い物体、これからは黒スライムとでも名付ける。黒スライムはドラクエのスライムを黒くして触角を付けたような姿をしている。しかし見た感じ、凶暴さはドラクエのスライムとは比べ物にならないほどで、ベムラーといい勝負をすると思う。
「―――シュート!」
そんなのと戦う女の子って一体何者なんだろうか。杖から光弾を放つ女の子を見て、ベムスターと戦った海野さんを思い出した。
光弾が黒スライムに直撃し、煙が噴き出した。爆風で女の子のスカートがなびいて……パンツ見えた。ピンク!
黒スライムから街を守るためにパンツを見せて戦う少女。空飛んで光弾放って戦うだけでもバレたらダメなのに、その上パンツまで見せるなんて。それに対して俺はベムラーって叫びながら街を走るだけ。もっとあの子を見習わないと。
にしても『赤い球』といい、ベムラーといい、黒スライムといい、それと戦う少女といい、この街は本当に何でもあるな。
そんなどうでもいいことを考えていると、あの少女が光りを集めてから桃色のビーム。訂正、ピンク色のスペシウム光線を発射。黒スライムを爆破させていた。
パンチラの少女って本人の前で言ったら殺されるだろう。
決着を見届けてベムラー捜索に戻ろうとした時、あの少女の元に見慣れた青い球が飛んできた。
「ベムラー! おまえ、そこにいたのか!」
再開もつかの間、何を間違えたのかベムラーは青い球体のまま、熱線を吐いて少女を攻撃。原因は何だろう、スペシウム光線ピンク版を見てウルトラマンだと勘違いしたとか。勝ち目は……ないんじゃないかな。
俺はベムラーの新しい攻撃方法に感動を覚えつつも、少女VS宇宙怪獣という前代未聞の対決を見守ることにした。
ベムラーの熱線を見て少女はピンク色のバリアらしきものを張る。しかし、ベムラーの得意技を完全に防ぎきることはできなかったようで、徐々にヒビが入り割れてしまった。
バリアによって避ける準備を整えていたのか、熱線を回避。続いて手に持っていた厳つい杖を光らせてベムラーを拘束した。青い球体の姿を保てなくなったのか、普通の怪獣の姿になる。両足と胴体、尻尾。そして両手。これらを拘束して追撃に入るようだ。
ベムラーはバインドに驚いたが口をふさがれていなかったため、熱線を吐き少女の攻撃を妨害。隙をついてバインドを打ち破った。
「この少女もウルトラマンもなんでベムラーの小さい手を縛るんだろう、動きを奪うなら口一択なのに」
そんな俺のボヤキをかき消してベムラーが地面に着地。ウルトラマンガイアが着地したように土埃が舞い上がる。
少女は光弾を複数生み出すと、宇宙怪獣に向けて放つ。対して、熱線を器用に使い少女の光弾を打ち落としていく。最後の一発を消し、一息入れるベムラー。しかし、光弾は時間を稼ぐ囮だったようで、少女の杖には光の玉が出来ていた。
「スペシウム光線発射の合図ですね、コレは」
黒スライムを一撃で粉砕した少女の必殺技。スペシウム光線ピンク版(仮)はベムラーを捕らえて、そのまま大爆発した。案の定ベムラーが倒された。
少女は黒スライムとベムラーの二連戦に勝利を飾り喜んでいた。
俺は少女がベムラーを倒してしまった事実に呆然としていた。
敗因は、俺がベムラーなんて本当に生み出せるのかよ。という邪念が入ってしまい、ベムラーの強さを存分に反映できなかったことと、あの少女のスペシウム光線ピンク版の威力だ。
それでも黒スライムよりも善戦したベムラーと目の前で見たテレビ番組さながらの光景、そして戦うベムラーに大満足した俺は帰ることにした。
ポケットからスマホを取り出して時間を見る。
「時間は夜の九時か。うん、三分以上は経っているな。これはベムラーの勝ちってことで」
説教を覚悟しつつ家に帰る。次は何を生み出そうか……とりあえず、あの子に勝てる怪獣を創ろう。プリキュアの影響か女の子も強くなったな。
カバンの中の『赤い球』の表面が少し凸凹していたが、その時の俺は気づきもしなかった。